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送信先を見ると、如月チトセと表示されている。そういえば、昨晩、
彼女と連絡先の交換をしていたんだった。
「おっはよ〜(笑顔)昨日は楽しかったね(笑)昨日の出来事は、片桐君にとって、相当ショッキングで、エキサイティングだったんじゃないかな(星)私と出会えてよかったね(ハート)遅刻するなよぉ。じゃあ学校で(バイバイ)」
何がエキサイティングで、出会えて良かっただよ、と僕は苛立った。メッセージと共に、連絡先も削除してやりたかったが、もちろん出来ない相談だ。今は耐えるしかない。彼女の言う条件に従い、例のカンニング動画を処分してもらうまでは——。
だが、同時に満更でもない気持ちになっていることに気づいた。女の子から、携帯に連絡がきたという事が、理由の正体だと思う。
僕は、その想いを振り払うように首を振ると、早々と家をでた。
学校に到着し教室に入ると、チトセが友達との会話を終え、僕に声をかけた。
「おはようございます。片桐君」
彼女は、とても上機嫌な様子で、笑顔を浮かべている。
「あぁ、おはよう」
「あれ、テンション低いっすね。体調悪いんですか?」
「いつもこんなテンションだよ。僕からすれば、朝からハシャげる人の気が知れないな」
「ふーん、そうなんだ。まぁ、いいや。今日の放課後、石倉イオリちゃんの親友宅に行くので、そのつもりにしといてください」
チトセはそう言い残すと、友人の元に戻って行った。これみよがしに友人の女子が声を上げる。
「あれ、チトセって片桐君と仲良かったっけ?」
「うん。昨日ね。やっと仲良くなれた」
「そうなんだ。あ、もしかして、もう付き合ってたり?」
「あははは。無い無い。彼とはそういうのじゃないから」
二人の会話に反応した僕が、視線を向けると、ちょうどチトセと目が合った。なぜか気恥ずかしい気持ちになり、慌てて視線をそらした。
授業が終わり、教室を出ようとすると、チトセが颯爽と歩み寄ってきた。
「さあ、行きましょうか」
「あのさ……。一応、念押しに訊くけど、本当に行くのか?」
「当たり前です。朝、言いましたよね」
「それはそうだけど、昨日の今日で僕も頭が混乱してて。少し頭を整理
する時間が欲しいんだ」
僕がそう言うと、彼女は即座に首を横に振った。
「善は急げって言うでしょ。それに、イオリちゃんの魂を、一刻も早く浄化させてあげなきゃいけません。先延ばしには出来ない」
返す言葉もなく、僕はチトセと共に学校を出た。親友宅の住所は、石倉イオリから教えてもらった、とチトセはバスに乗り込み僕に語った。
「言い忘れてましたが、幽体離脱は今後、一切使用しないでください」
バスには乗客が数人乗っていたが、彼女は意にも介さず暴露しだした。
「……なぜだ?て言うか声落としてくれないかな」
僕が慌てて車内を見渡すと、乗客の中年男性が、怪訝な顔でこちらを見ている。
「戻れなくなるからです」
「戻れないって、何に?」
「あなたの身体にですよ」
彼女が言うには、無自覚に幽体離脱を繰り返していると、身体と魂を繋いでいる鎖が、やがて切れてしまうらしい。鎖が一度切れてしまうと、二度と繋ぎ直すことは出来ない。
それは——要するに〝死ぬ〟と同義になる。
「いい機会じゃないですか。ズルをして見せかけの成績を稼いでも、社会に出た時、後悔するのはあなた自身です」
「耳が痛いな」
そう言いながら、僕は車窓から流れる景色に目を移した。
反対車線を、車がひっきりなしに通り過ぎ、自転車に乗った子供達が何かを叫びながら元気よく自転車を漕いでいる。
僕はふと、疑問に思ったことを口にした。
「なんで如月さんは、その……除霊活動なんかやってるの?」