表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピリチュアル少女  作者: 綾瀬まひろ
5/24

「本当か?」

 僕が顔を上げると、少女はまたも、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

「はい。ただし条件が一つ」

「……条件?」

 いぶかしげに聞き直すと、彼女はお腹をさすりだした。

「ここじゃ何だし、ファミレスかどっか行きましょうよ。私、お腹すいちゃった」

「いや……ファミレスってお前——」

 言いかけた僕の言葉を塞ぐように、少女は指を突き出した。

「お前、じゃなくて、私の名前は如月チトセ」

 僕と如月は、駅前にあるファミレスに入った。

 席に座り、注文を取りに来たウエイトレスに、如月はハンバーグ定食を注文した。

「片桐君は注文しないの?」

 彼女は上目遣いで僕を見る。

「そんなお腹空いてない。って何で、僕の名前知ってるんだ?」

「え?同じクラスなんだから、知ってるに決まってるじゃん」

 如月の返答に、僕は単純に驚いた。如月チトセなんて生徒、同じクラスに居ただろうか。そんな疑問を持った僕だったが、数秒も経たずに思い直した。

 そもそも、同じクラスの生徒を、僕は半数も把握していなかったからだ。如月のことを知らなかったとしても、何ら不思議ではない。

「私のこと知らなかったんだぁー。ちょっとショック」

「そ、そんなことない……」

 両手で顔を覆い、泣くそぶりを見せた彼女を見て、僕は焦った。

「くふふふふっ。嘘ぴょーん。今、私が泣いたと思ってビビった?大丈夫だよ。気にしてないし」

 如月のしたり顔を見て、僕は内心ムカムカしてきた。

「帰る」

 そう言って、席を立つと如月が、すかさず携帯を取り出した。

「さて、じゃあツイポッポーとマイマイチューブに動画を投下して——」

 彼女の脅し文句は、僕を静止させるに十分な威力を持っていた。

「わかった。わかったから止めてくれ」

 僕が座り直すと、彼女は「素直でよろしい」とニコニコしながら言った。

「それで、君の条件ってのを知りたいんだけど」

「まぁまぁ、急いては事を仕損ずるとも言いますし。まずは腹ごしらえしましょ」

 如月の言葉に、僕は半ば観念ていねんして、ウエイトレスにピザを注文した。そして、学校からレストランに来る間、ずっと気になっていたことを質問した。

「ひとつだけ答えてくれ。あの担任は、如月さんとグルなのか?」

「グル?」

 彼女は、キョトンとした表情を返す。

「先生がテスト中、いきなり消えた。あれは、君が先生と口裏合わせして、僕をはめる作戦だったんだろ」

「あー。あれはねぇ。正確には、先生の〝ドッペルゲンガー〟さんです」

「ドッペル……なんだって?」

 僕の返答に、彼女はオーバーリアクションで、首を縦に振った。

「ドッペルゲンガーってのは、いわば本人の分身です。厳密げんみつには霊魂なんすけど。片桐君のお察し通り、カンニングの証拠を撮る為に、先生のドッペルゲンガーを借りて、一芝居打ってもらったわけです」

 半信半疑な僕の態度を、知ってか知らずか、彼女は得意そうに話を続ける。

「因みにドッペルってドイツ語ね。英語だとダブル、つまり二重や生き写しって意味。かの文豪ぶんごう、龍之介さんもドッペルゲンガーを題材にした短編小説を残してるんだよ。どう、片桐君。少しは、頭よくなったんじゃない?」

 彼女のドヤ顏に、何故かストレスが溜まった僕は、貧乏ゆすりを始めた。そこへ注文した料理が届き、香ばしい匂いを辺りに放つ。

「いっただっきまーす」

 如月はハンバーグを綺麗に切り分け、一口ごとに「美味しー。美味の極み!」と叫んだ。

 僕も釣られるように、ピザをほうばった。

 ふと、視線を感じ顏をあげると、彼女が箸を止め、じっと僕を見つめていた。

「なんだよ?」

「いや、ピザ美味しくないのかなと思って」

「美味いよ。なぜ?」

「だって片桐君、すっごい不味そうに食べてるから」

 なんだ、そんなことか。僕はピザを皿に戻し、コップの水を飲んだ。

「よく、言われるよ。不味そうにご飯食べるねって」

「損してるねぇー。美味しいものを食べてる時はさ、もっとなんていうのかな?笑顔を作って、美味しいーって口にしないと」

 如月はテーブルを叩いて、熱弁を説きだした。

「そんなの、君にとやかく言われる筋合いはないと思うけど。それより僕はとっとと、君の条件とやらをうかがって帰りたいんだが」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ