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エノクの楽園  作者: ⊃(烈)⊂
8/9

安置所


閉まった扉を見つめて間璃亜は何か迷ったように首を上下に動かし、扉と足下を交互に見続けていた。


耐えきれなくなって動かしていた首を横にも動かしてそれを見つける。


「あっ…これ…!」


そこには間璃亜の好きな玩具かあった。間璃亜は目の色を変え、その玩具に飛び込んでいく。そしてすぐさま遊び始めた。


「これを、こうして…」


間璃亜は歳に合わず、おままごとが好きだった。それは親が帰ってこないせいというのもあるが、間璃亜は淋しがりだというのも関係するだろう。間璃亜は誰かが傍にいないと泣いてしまうレベルの重度の寂しがりだ。


だから少し気を紛らわすために玩具に名前をつけ、役割を持たせ、自分の傍に置くことで自分が一人でないように錯覚したいらしい。間璃亜の場合それがちょうどおままごとという形で現れた。


もちろん、本人に自覚は全くないだろうが。


「…あ!アンデル!手伝っ…て…」


ここは病院だ、アンデルはいない。いつも間璃亜の隣にいてくれるアンデルは、ここにはいない。


「…………」


下に向いた目線で目の前の玩具を見回すと、それらをまとめて片付けてしまった。そして、間璃亜は興味の失せたような表情でソファに座り、珍しく自分から絵本を読んでいた。


しかし、それにも興味が失せて間璃亜はソファを降りる。そして、看護婦が閉じたきり閉じられたままの戸へと向かった。


(………。)


不必要に忍びながら左右をキョロキョロと見舞わしてから、病院内を歩き回る。


老人、看護師、医師、子供、車椅子、点滴、カルテ…。間璃亜が今まで見たことも無かった景色。その物珍しさに目を回しながら、院内の看護師たちの目を無意識にくぐり抜けながら1階からじゅんぐりに見て回った。


「すごい…」


間璃亜は思わず感嘆の声を上げていた。何が凄いかはわかっていない。ただ、こんなにも沢山の人が色んな表情で存在していることにある種の類似性を感じていた。


「おっきなおままごとだぁ…!」


先程感じていた寂寥感はもはやどこかにふっとんだらしい。まるで夢で見るような等身大サイズで起こっているおままごとに改めて目をキラキラと輝かせていた。


―――――――ガラガラ…


備え付けの甘いローラー特有のがたつきの音。本来ならば要手術患者を急いで運んでいるのだろうが、今回は少し違っていた。


大きな白地の布を被った、人間と思わしきシルエット。運ぶ医者達の物々しい表情。


ゆっくりと運ぶその喪に服すような姿はまるで()()を運んでいるようだった。


「………?」


間璃亜はその様子を気にもせず、ただ純粋な好奇心と疑問だけで付いていく。


(ママの匂い…?)


間璃亜は気付かれないようについていった。





「……あの~、良かったんスカ?あんなホントかウソかも分からないような個人的な検死結果報告して。あれで『違いました』何てことになったら目も当てられませんよ。」


「大丈夫、100%合ってるから。」

「大丈夫って……」


「それに、こんな辺鄙な所の病院なんて本土の奴らはめもくれないでしょうし、これぐらいは不正の範疇にすらならないわよ。」

「はいはい、分かりましたよ。でも何かあったら僕は知りませんよ~。」


看護婦は小声で呟く


「…保守派か…男ならザックリいきなさいよザックリ。」

「保守派で悪かったですねぇ!」


白衣をだらしなく着た瘦身の男が手の甲を振って見せながら言ってくる。どうやら聞こえていたらしい。


(その上地獄耳、と…)


「さて、と…私はあの子の様子を見に行くか…」





白一色の担架はそのままゆっくりと奥に進み続ける。

二つの大きな2棟の建物の間を通る、ガラス張りの渡り廊下を通り過ぎたあたりで間璃亜は奇妙な違和感に襲われた。


「全然人がいない…?」


そのまま担架は進み続け、ある角のところで曲がり、そこで消えた。そしてそこには、一つしまりかけていた扉があった。

間璃亜がその部屋に行こうと歩き始めると部屋の中から一人、白衣とマスクをつけた男が出てきた。


「……?どうしてこんな所にいるんだい、お嬢ちゃん?迷子かな?」


男がそう尋ねてきた。間璃亜は少し考え、あの母らしき匂いを思い出した。


「えーとね?あのガラガラ?からママみたいな匂いがするの!」


その瞬間、間璃亜の肩にかけていた男の手が少しビクッと震えた。


「え~と…それは…」

「おい!戻るぞ!何やってんだ?…ん?その子は?」

「あ、この…子は…」


同僚らしき人が男の振るまいを訝しんでいると間璃亜が答えた。


「私『まりあ』っていうの!」

「お~そうかそうか。ここはホントは入っちゃいけないところなんでからな?早く出るんだぞ」

「は~い!」


そう言って、白衣の人達は男を連れて帰っていった。


「…ちょっと、大丈夫なんですか?子供置いてけぼりで…」

「バカ、このまま連れて帰ったら俺達がみすみす子供がここに入るのを認めちまうじゃねぇか。そしたらまた上司に面倒な説教聞かされるんだぜ?…俺はやだね。」


小声でそう言いながら。


しかし、間璃亜の好奇心は留まることを知らないようで白衣の人達が会話をしている最中に滑るように部屋の中へと潜り込んでしまった。


「あれ?さっきの子供は?」

「はぁ?…あれっ、いねぇ。どこいったんだ…?」


部屋の中はまるで季節はずれの冬が来ているように寒かった。薄着だった間璃亜はその寒さに身震いしながら担架の元へと進んでいく。


「……ッ!……ッ!」


だが、少々身長が足りないようで、背伸びをしても、ジャンプをしても担架上をハッキリと見ることは出来なかった。

仕方が無いので台を持ってきてそれに乗る。そして担架の上を見ると、全身真っ白な布で覆われた人影らしきシルエットが見えた。


「…?あれ?なんでママのハンカチがここに?」


どうやら匂いはハンカチから漂っていたらしい。間璃亜はそれを不思議がりながら手に取り、そして、顔の部分らしきところにかけられた白い布をペラリとめくった。


「………黒?茶色?…なにこれ?」


最早そこに母親としての面影は皆無だった。焼け爛れた肌、筋肉が縮まり、だらしなく開け放たれている口、焦げて今にもボロボロと崩れ落ちてしまいそうな髪。その全てが間璃亜の記憶にはなく、それ故に最初に訪れる感情は無理解しかなかった。


そのとき


―――――――バァン!


扉が勢いよく開けはなたれ、その音に間璃亜は少し驚いた。しかし、入ってきたのはダラダラと汗をながし、荒く息をしているあの看護婦だった。


その姿に間璃亜は少し安心すると間髪いれずに質問をした。


「ねぇ、これってなに?」


看護婦にとって間璃亜の無邪気な姿は、皮肉にもあの日帰らぬ人となった同僚にそっくりだった。


はい、サボってました。はい

すいません許して下さいなんでもしますから!

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