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エノクの楽園  作者: ⊃(烈)⊂
7/9

無垢な幼子


『おはようごさいます。朝のニュースです。…今日の深夜零時近く、墨耳鉢恩(メルボルン)郊外の駅が爆撃されました。犠牲者は二名でどちらも病院に搬送後、死亡が確認されました。防衛省は周辺の爆弾の破片から爆撃を行ったのはユーロ同盟国と断定しており、今後、墨耳鉢恩(メルボルン)だけでなくさらなる都市への爆撃があると見て警戒レベルを1から2へと引き上げました。これにより一部区域で検問が行われ…』


「ママどこいったんだろーねーアンデル。」

「私は存じあげません。」


昨日から父も母も帰っていない。


「む~、テレビもつまんないのばっかり!」


寂しさと暇を紛らわすためにつけたテレビも朝方のニュースばかりで面白いチャンネルはどこにもない。


無駄だと知りつつも間璃亜はチャンネルをコロコロと変える。地上波、BS、CS。もちろんこの家にBS、CS用アンテナはない、見ようとしても画面は真っ暗だ。

間璃亜は全部回し終わった後でようやく諦めたのか、テレビの電源を切って身をソファに投げ出した。


………………。


「ぬぅぅぅ~あぁぁぁ~!」


年頃の少女らしく、じっとしているのが苦手な間璃亜は寝転んでいたソファから飛び出して暴れ始める。


「い"だっ!」

「ん"ん"ん"~~!」


自分の玩具を踏んだことで足を痛めて悶え暴れる。しばらくして痛みが収まると、その玩具を恨みがましく睨み付けた。


………………………。


少しの沈黙の後、そそくさと自分で散らかした玩具を片付け始めた。片付けている間も睨み付けていたが、間璃亜らしくもなく何も言わずに黙々と片付けていた。




しばらくして綺麗になった部屋を眺めて、間璃亜は言った。


「…綺麗になったね、アンデル。」

「はい。ですが、何故私にご命令くださらなかったのですか?」


「…………あ。」




間璃亜は再び悶えていた。


「んむぅぅぅ~~あぁぁ~~!!」

「マスターまた部屋が荒れてしまいますよ。」


と、言われながらも部屋は一切荒れていない。間璃亜が絶妙に散らからない暴れ方をしているからだ。


「んぅぅぅう~~…んッ!」


すると突然起き上がって玄関へと向かい始めた。


「どこへ行かれるのですか?」

「暇!」

「そうですか、私は夜勤がありますので残ります。いってらっしゃいませ。」


午前中は無能力者層の方が賃金が安くなるため基本アンドロイドなどといったロボットは夜勤になる。例外もあるが、その例外は都市中心部だけだ。


「いってきます!」


間璃亜は暇を潰してくれる何かを探して当てもなく飛び出していった。


「♪♪♪~~」


老朽化しかけている舗装道路、大きく育ちすぎた街路樹、こけの生えた建物の壁…見慣れた景色の中を歩きながら間璃亜は一つの違和感を感じていた。


(だれもいない…?)


先日爆撃されたのだ。外を怖がって出てこない人がいるのも当然だろう。だが間璃亜はまだ8歳だ。毎日新聞を大っぴらに広げながらコーヒーを飲んでニュースを見ている大人とは違う。


すると聞き慣れた声が聞こえてきた。


「…ない?仕方ないだと?!死んだんだぞ!それを仕方ないですますのかこの野郎?!」

「止めて下さい!他の方もいらっしゃいます!」

「文句あるなら妻を生き返らせてみせろ!」


それを最後に誰も喋らなくなった。声のする方向に行くとそこには少し大きめの病院から出て行く父の姿があった。


「パパ!」


いつもはすぐに気付いてくれるのに今日は振り向いてくれない。


「パパ!パパ待って!」


去って行く父の背を必死に追いかける。しかし、差は少しずつしか縮まらない。


「パパ、パパ!!」


ようやく追いついて父の手を引いて止める。


「パ…」

「邪魔だ、離せ!!」


振り向いて来た父にかけられた言葉はそれだった。


「パパ…パ…パ。」


間璃亜は今にも泣きそうな顔をしている。我に返った父が慌てふためいているが、彼は母ではない。間璃亜のあやし方など知らない。


「…一人にしてくれ。」


そのまま父は去っていった。


「…パパ、は私の、こと…嫌いになったの…?」


間璃亜は大泣きした。病院に声が響く程、大泣きした。





「……あ、起きた。ねぇ、どうしてあんな所で泣いてたの?」

「…んぅ?」

「あ、いきなり質問しても分かんないか、反省反省。」


見知らぬ看護婦がそこに立っていた。


「おばさん、誰?」

「おばっ…まぁ、いいわ。あなた病院の前で大泣きしてたのよ。で、私があやし続けてたら突然ウトウトし始めて寝ちゃったってわけ。外で寝る訳にもいかないから職場のソファに寝て貰ってるって訳よ。」


どうやら、大泣きし疲れて突然爆睡したらしい。何とも間抜けというか、間璃亜らしいというか。


「で?親御さんはどこ?」

「…パパ」

「お父さんがいるのね?どこ?名前は?」

「私…パパに嫌われた。帰らない。」


その看護婦は駄々をこねながら涙目になっている間璃亜を見て、心底嫌そうな顔をしながら続けた。


「…嫌われたってねぇ…何?喧嘩でもしたの?」

「ううん。」

「そうなんだ。で?名前は?」

「名前?パパはパパだよ?」


突然何を言い出すんだと言わんばかりに間璃亜はキョトンとした顔つきになった。それを見て、看護婦はさらに辛酸をなめたような表情になる。


(はぁ…もう知らないわ。面倒くさい。)

「そう。じゃあ私仕事あるから。」


そう言って扉に手をかけた瞬間、看護婦は何か後ろに引っ張られる力を感じた。振り返ってみると、そこには何か訴えたそうに裾を摘まんでくる間璃亜の姿があった。


「…邪魔よ。離して。」


すると間璃亜はあまりにもすんなりと裾から手を離した。


静かに響くはずの扉のローラーの音が、その時だけ異様にうるさく聞こえていた。

サボってました。ごめんなさい。

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