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エノクの楽園  作者: ⊃(烈)⊂
5/9

『おままごと』と冷凍ピラフ


「……?」


初めてみるアルミ製の機械人形に抱いた感想は一重に『よく分からない物』だった。


「事前にお父様から情報は貰っておりますが、貴方様は私のマスター登録者、間璃亜様に間違いごさいませんね?」


オレンジ色のモノアイを向けて、間璃亜の呆け顔を気にすることもなく、ぶっきらぼうにそう告げる。


少しして、モノアイの隣のレンズから真一文字にレーザーが照射され、間璃亜の体を下から上へと流れていく。


「……血液データ参照…確認。返答がごさいませんでしたので誠に失礼ながら独自の判断で血液型を調べさせて頂きました。」


「すごーい!何これ?!鉄?!鉄人形だー!」


ここで初めて間璃亜がそれらしい感想を述べる。


「パパ、パパ!これが新しい家族?」

「そうだよ。」

「やった~!」


娘の喜ぶ様子を見た両親はホッとした表情で溜息をつく。


「宜しくね!え~と…」

「γ-Rb-4592:e.αです。」

「え、え~と…がんま、あーるびー…無理!もっと簡単な物!」

「アンデルです。」

「よろしく!アンデル!」

「はい。よろしくお願いします、マスター。」


間璃亜の7歳の誕生日は、両親の心配とは裏腹に成功で終わりを迎えるのであった。






ロボットと人間の奇妙な生活が始まった誕生日から一ヶ月近くたった。


既にアンデルは生活にも慣れ、家のコンセントの一角にはその媒体の割には小さく、だが比べれば通常のそれより遥かに大きい充電器が備え付けられていた。そしてそれは、今もそのアルミの塊へと繋がっている。


両親は相も変わらず仕事だ。


「ねぇねぇアンデル。」

「何でしょうか。」


「そうやって見てるだけで楽しい?」


両親とあまり多くの時間を過ごせなかったからなのか、それとも学校での境遇のせいなのか間璃亜はおままごとが昔から好きだった。

それを今、アンデルはじっと、何もせずただじっと眺めている。


「マスターが行っている、『おままごと』について学習しています。」

「そういうことじゃなくて、楽しいかってこと。」

「『楽しい』を価値のある学習、及びマスターのための行動と定義するならば、私は今、『楽しい』を享受しています。」


意味合いで言えば、アンデルは全く以て見当違いの返答をしていたが、それを理解できるだけの知識を間璃亜はまだ持ち合わせていなかった。


「よく分からないけど…楽しいならよろしい!」

「でも…」

「何でしょうか。」

「一緒におままごと、しよ!」


そう言って、間璃亜はアンデルの冷えたアルミの手を引く。少女の華奢な腕ではアンデルのマニピュレーターを動かす事すら難しく、危うく転ぶといったところでアンデルが間璃亜を支えた。


「『おままごと』に関する学習、93%終了。…分かりました。マスター。実行に移ります。」


すると、アンデルはいつも発している声とは別の声を出した。間璃亜の年齢に合わせたのか、女の子特有の妙に耳をつんざく甲高い声を出している。


「じゃあ、アンデルはお店の人役ね!」

「いらっしゃいませ!」

「ちょっと、まだだよ、アンデル。私がお店に来てから言うの!」


「そういうものなのですか。」


アンデルが声を戻して質問する。


「そういうものなの!」


一人と一体は、『おままごと』を再開した。


…間璃亜がアンデルと遊んでしばらくたったその頃、既に夕日は沈み、星がきらめき始めていた。時計を見れば、短針は既に8時を回っている。


「あ、そうだ。ご飯。」


思い出したのか、間璃亜はテーブルに置いてある紙切れを見た。


『冷凍庫の中に冷凍食品のピラフが入っているので一人分用意して食べておいて下さい』


紙切れにはそう書いてある。


間璃亜はガサゴソと冷凍庫の中を探り始め、中から袋の四分の一ほど残ったピラフをだした。そして直ぐさま袋の裏をみる。


「…一人分…5分40秒…。」


背丈が足りない為、台座を持ってこようとすると、キッチンに台座を持ったアンデルが立っていた。


「どうぞお使い下さい、マスター。」

「ありがと、アンデル!」


そして棚から皿を一つ取り出し、危なっかしくも慣れた手つきでそこに凍ったピラフを袋がからになるまで入れた後、ラップをかけ、レンジにいれて5分40秒待った。


「頂きます。」


家に親のいないその間、間璃亜は一人になる。昼飯も晩飯も間璃亜一人になる。せいぜい夜遅くに帰る母親との会話や、たまに買ってくる土産が唯一の家族の時間。


その晩飯のテーブルに一人だけ座る少女のその言葉は、部屋に響いて、間璃亜を悲しくさせる。


俯きながら湯気の上がるピラフをスプーンにとり、口へと寄せ、頬張ろうとしたところで手が止まる。


間璃亜の感情を機械が感じ取れたのかそれとも判断したのか定かではないが、


「どうぞお召し上がりください。」


何故かアンデルが返答した。


「…ぷっ、あははは!」

「何かおかしな点があったのですか?」

「だって、アンデルが作った訳じゃないのに…あはははは!」


「でも、うん…そうだね。じゃあ、いただきます!」


今度は俯かなかった。





「ただいま~、間璃亜~。」

「あ!お母さん!」


母親が帰ってくると、間璃亜は彼女の胸に飛び込むように抱きつく。


「お母さんお母さん!今日ね、アンデルとおままごとしたの!アンデル凄いんだよ!本当のお店屋さんみたいなの!」

「そうなの!凄いね~!」

「うん!」


母に抱きつく間璃亜はその日の面白かった事を報告する。アンデルと一緒に遊んだこと、アンデルと家の家事をやったこと、アンデルと勉強したこと。


「じゃあ、今日はご褒美で今度間璃亜の好きなもの買ってあげる!」

「本当?!やった~!」


母親は間璃亜の手を取り、リビングへと向かっていく。


「ありがとう、アンデル。」

「いえ、マスターの為ですから。」


アンデルはちょうど1週間後、仕事に出ることが決まっていた。内容は帝国有数のネットショップ企業の営業の末端、クレーム対応だ。他にはビル清掃などがある。


これでようやく家族は貧困から抜け出し、家族の時間は増え、安定した生活が手に入る。母親も、そしてここにはいない父親もそう考えていた。


間違ってはいない。何一つ。

誰もが言うだろう、正確で、正しい判断だと。


だが、いつも平穏を壊すのは想定されていないイレギュラー(悲劇)だ。


書いていて自分の厨二加減の気持ち悪さに吐き気がしますね。

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