表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノクの楽園  作者: ⊃(烈)⊂
3/9

抱える悩みは軽く、重く


「…夢、ですか?」

「はい。夢で。」


エンジニアの男とそれらしい白衣を着た医者のような女がそのAIロボットを質問している。


「主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた。

主は地の上に人を造ったのを悔いて、心を痛め、

『わたしが創造した人を地のおもてからぬぐい去ろう。人も獣も、這うものも、空の鳥までも。わたしは、これらを造ったことを悔いる』と言われた。『創世記 第六章』 」


女は素早くカルテらしき紙にメモをし、ペンの頭を自分の額に当てながら何か考え始める。男はパソコンからプログラムを見直し、これまた顔を歪ませる位に悩んでいた。


「…それは、本当に夢…なのか?」

「はい。私が稼働時間外で電源を切っております最中、先程の声のようなものが聞こえてきたのあでます。」


女は額からペンを外し、これまた素早く『一部言語文法に問題あり』とカルテに書かれていた。


「困るなぁ、こんな納期の時期にこんな問題起こすなんて。」


エンジニアの男は大きな溜息を吐きながら、震えた手で電話を握り、上司に問題を報告しようとして――やめた。


「どうしたんですか?早く電話をして下さい。」


男の憂鬱など意にも介さない様子の医者のような女はカルテにカリカリと何かを書きながら尋ねる。


「なぁ、顧客の一人に困窮層の奴がいたよな?」


「は?だから早く電話をしろと…」


女は見当違いの返答に苛立ちを見せるも極めて冷静な、そのポーカーフェイスと言うべき顔を崩すことはなかった。


「そいつ用のロボットとこっちのロボットをすり替えてくれ。」

「…正気ですか?」


ただでさえ冷えているそのポーカーフェイスをさらに冷え込ませて女は尋ねる。


「すり替えりゃあこっちの仕事は減るし、上司のうるさい説教も聞かなくて済む。多少の問題はあるかも知れねぇが相手は困窮層だ。ロボットが買えるだけで万々歳だろうよ。」


女はここ一番の大きな溜息をつく。


「なぁ~頼むよ。すり替えてくれよ~、な?」


「…なんで私があなたなんかの悪巧みに加担しなきゃならないんですか。」

「やりたきゃ勝手に独りでやって下さい。じゃ、私はこれで。」


そそくさとカルテをしまい、冷静な彼女にしては珍しく荒くその場を去った。


「ちぇっ、これじゃ残業じゃねぇか。この薄情者が。」


女が去ったその場所には、パソコンを開いた男がただ黙々とキーボードを叩く音だけが響いていた。



~~~~~~~~~~~~



「んぅ……」


少女の一日の始めはまず、『んぅ』から始まる。

二つ目に『ママおはよう』。

三つ目は目を擦りながらの『パパは?』。これがこの少女のルーティン。


だが、その日だけは違っていた。


「…ッ!誕生日誕生日誕生日ぃ!!」


布団から飛び跳ねるように起き、全速力でドタドタと母の元に駆け寄る。


「も~、まずは『おはよう』でしょ!あとドタドタしない!」

「も~誕生日だから良いじゃん!」


母の心配などお構いなしに少女…間璃亜は年相応にはしゃぐ。


「今日も学校でしょ!早く準備する!」

「はぁ~い。」


渋々といった様子で準備し始める我が子を尻目に母親は忙しく洗濯物を外に干している。だか、その母親をして、ソワソワと落ち着かない様子が続いていた。


(本当にロボットなんて買えるのかしら)


悩むと言うには今更過ぎる悩みをかかえながら母親は学校へと向かう間璃亜を見送った。


「…!いってきますは?!」

「いってきま~す。」





私は学校がキライ。


「うわきた!よくそんな汚い服で来られるな?新しい服は?ないの?あっ、そっか。お前んちお金ねぇもんな!」

「ギャハハハハハハハハ!」

「ヒハハハハハハハハハ!」

「アハハハハハハハハッ!」


私は学校がキライ。


「どうせ他の奴らもあれだろ?『れっとうしゅ』?ってやつだろ?」

「ギャハハハハハハハハ!」

「ヒハハハハハハハハハ!」

「アハハハハハハハハッ!」


私は学校がキライ。


「生きる『カチ』?なんてないんだろ?じゃ学校来んなよ。」

「ギャハハハハハハハハ!」

「ヒハハハハハハハハハ!」

「アハハハハハハハハッ!」


なんでそんな風に言われなくちゃならないんだろう。

なんで言い返せないんだろう。

なんで先生は何も言わないんだろう。

なんでパパとママは居ないんだろう。

なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。

なんで誰も助けてくれないんだろう。


学校なんて無ければ良いのに。


「ほら、その辺にしとけよ。」


「またお前かよ。この優等生。」


そう思うといつもこの男の子が助けてくれた。


「はいはい止めます止めます~『ぼっちゃま』」

「死ね。」


あの子が『死ね』と言えば皆私を虐めるのをやめる。私にとってはそれが、弱い物いじめをする悪いやつらを倒してくれるヒーローみたいに見えた。


あの子は私の憧れ。あの子は私のヒーロー。


「はい座って~ホームルームするぞ~。」


でも今日は少しだけ頑張ってみようと思う。だって今日は私の誕生日だもん。


間璃亜の座った窓際の席から見える幅の広い道路から、大きな荷台を背負ったトラックが通り過ぎた。


ここ直せとか言っていただけるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ