全ては我が子の為に
「「「おはようございます。」」」
返事はない。
「先日を以て、お前らの情報教育カリキュラムは修了した。」
「お前達の顧客もカリキュラム中に決まった。」
講師は一方的に言い放ち続ける。
「これからは売却のフェイズに移行してもらう。」
売却とはつまり、雇い主に自分達を雇って貰うということであり、半分卒業みたいなものだ。感情のモジュールなど元より存在しないため、感動もへったくれもないが。
「お客様の為にしっかり奉仕しろ。以上、終わりだ。」
言い終わると業者のロボット達が入ってくる。AI搭載アンドロイドがロボットに運ばれるというのも何とも奇妙な話だが。
座席もとい、電力供給機のコードが根元から抜かれ、アンドロイドとしては久しぶりの少しずつ、本当に少しずつ内蔵バッテリーから電気が抜けていくのを感じていた。もっとも、それは一瞬だけの出来事でそれ以降、AI達は自分の意志で電源を切った。
しばらくして部屋がスッキリする。
「…はぁ。」
このやる気のない非常勤講師…と言えるかも怪しい男は、寂しそうに部屋を眺めて溜息をついた。
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「ねぇねぇ!」
「ん~?」
「今年の誕生日プレゼントは何っ?」
満面の笑みを浮かべる小さな少女は無邪気に母に尋ねる。
「え~とね~…内緒かな♪」
「え~教えてよ~。」
何一つおかしくはない幸せな光景。
「まだかな~誕生日っ!」
「あと3日でしょ。もうちょっとだから、ね?」
「は~い。」
ただ彼女らの服がボロボロである一点を除けば。
…今、この世の中において人の生活のランクは主に五層に分類される。上から支配者層。これは文字通り各国の支配者、つまり将軍、大臣、大企業の社長などに割り当てられるランクで、生活に困らないのは勿論のこと、様々な場所でVIP待遇を受けられる超富裕層だ。
二番目三番目は順に国防層、経済層になる。この二つには大した経済格差はなく、ただ軍所属の国家公務員もしくは軍人か、国の主要企業やその下請け会社に所属する者に割り振られる。
また、一般にこれらを社会層と呼称し、人工のほとんどはこれに割り振られる。
四番目に困窮層。彼等はこれと言った企業などに所属することは無く、売春婦などの肉体労働で日々暮らしており、経済的、家庭的または何らかの理由で自らが働かざるを得なくなった者たちを指す。
最後に貧困、難民層だ。彼等に関しては言わずもがな、孤児、難民、スラム街の人たちなどその身分を証明出来ない、言わばならず者達を指す。
そして、これらの人々は無能力層と呼ばれていた。
「ただいま~」
「「お帰りなさ~い。」」
今の時代において働き方は拡大の一途を辿ってきた。しかし、金の稼ぎ方に関してはむしろ縮小の一途だった。
「良い子にしてたか~間璃亜?」
「うん!してたよ!」
母親が口を挟む。
「良い子何だったらトイレの水もちゃんと流してほしいな~」
「うぐっ…」
「間璃亜?」
「…は~い。」
戦闘用AIロボット、救助用AIロボット、作業用AIロボット。そして、商業用AIロボット。
時代は変わった。今現在、支配者層、無能力層を除いてほとんどの人がこれを購入し、仕事をさせ、生活費を稼いでいた。
人は働くことを辞めたのだ。
「ご飯出来るよ~。」
端の欠けた皿が並び始める。
「もやし、もやし、もやしもやしもやし…もやし…。」
「もやしばっかり!」
「も~、文句言わない。」
傍目に見ればお世辞にも良いとは言えない外観だが、その周りには香しい匂いが漂っている。
「「「頂きま~す。」」」
この家族は困窮層だ。父親はAIロボット用のバッテリーの製造や修理をし、母親は地元の小さな塾の講師をやっている。そして、この間璃亜という彼等の子供の三人家族で、この古いアパートに住んでいる。
「あの子、喜ぶかしら。」
「喜ぶさ。だって、家族が増えるんだろ?」
古いと言っても水道、ガス、トイレは完備されており、雨風も難なく防げる。もっと酷い環境を知ってる父母にとっては天国にも等しかった。
「でも…私達の為にあの子を利用するのよ?」
「…それでも、このままの生活を続けるよりかは、ずっとあの子の為になる。」
だが、それでは変わらない。将来子供が巣立つとき、中等教育を受け切らせてあげられるかどうかも怪しい彼女ではまともな職にはつけない。
(我が子の為…そうよね。)
母親は自分に言い聞かせる。
「…そう、ね。」
だが、それはそれまで立派な『人』だった彼等の矜恃を捨てることになる。
矜恃を捨て、誇りをすて、人を捨て。そして国にただ労働力と金を提供するだけのただの家畜。それが現代人。
「おかわり~!」
「はいはい。」
再び薫る料理の香り。香ばしく漂うそれはしかし、両親と子供の間に明らかな温度差を創っていた。
ここが悪いとかここ直せとか言っていただけるとありがたいです。