2話 運という名の安全地帯。
2、3日に1話更新できればいいなと書き進めてます。投稿時間は前作同様の12時です。
なるべく開けないよう投稿します。
よろしくお願いしますm(_ _)m
馬車に揺られ辿り着いたのは、大きめのテントの前。
「ここは?」
「俺らの拠点だ。魔物もこない安全圏なんだぜ。」
「へーそんな場所があるんだ。」
そうでもなければ、この人達が無事にここまで辿り着けるわけないか。
僕がここにいる理由は、助けてくれたお礼とご飯をくれると言ったからだ。この世界に来て間もなく、いきなり飢え死にとか御免である。
―カチ、カチ。
「ん、火がつかんな。ちょっと待っててくれな。」
「火ぐらいなら着けましょうか?」
「魔術師さんだったな。招待しといてあれだが頼んでもいいかな?」
「はい。火は覚えましたので。」
『ドキドキ。ソワソワ。』
僕が手を前に出し火に魔法を使おうとしたら、ドキドキ、ソワソワと声が聞こえた。
「アイさんどうかした?」
『いえ、お手伝いしたかっただけです。不要であれば、この行く末を見守ります。』
「そっか。前回もアイさんに手伝って貰ったもんね。火を起こす手伝いをお願いしてもいい?」
『喜んで!では……マジックコントロール、パワーセーブ、キープエリア。』
なんか火をつけるだけで、こんなに補助してくれるなんて。やっぱりアイさんにお願いして正解だったね。
「ファイヤーショット。」
―ボォ、キラ、パリ、ジュゥ……。
小さな光が手から飛び出したと思ったら、小さく光り目の前の空間にヒビが入った音がする。そこには薪など何も無い。ただの何かの焦げ跡だけだった。
「ん?」
「はっはっは。強い兄ちゃんでも出来ない事はあるんだな。」
「すいません、薪を……。」
「こんなのそこらに落ちてるから何も問題ない。」
結局全てお任せする事になった。火も起こせないって今後が心配だ。
「さっきのは一体どう言う事なんだろう。」
『説明しますか?』
「アイさん分かるの?」
『はい。』
独り言の様に呟いた事にアイさんが反応してくれる。さっきの事象はどうしてああなったか。
『まず私が補助したのは、魔力の調整と通り道の狭くしました。』
「ん?何か言ってたやつか。」
『念の為に攻撃範囲が広がらない様に、エリア結界を施しました。』
「結界?あ、なんか割れた音していたよ。」
『そうです。結界も砕きかける威力に薪は一瞬で灰に……。』
「ん?威力高すぎたの?それだけ?」
『……はい。』
なんだ。些細な理由じゃないか。威力を抑えればいいだけなら、今後はなんとかなりそうだ。少し言葉に詰まったアイさんが気になるけど。
そして商人さんに火の付け方を教わり火をつける。火打石を一セット砕いたのも笑って許してくれた。
「ん。いい感じだ。食べてみてくれ。」
「ありがとうございます。」
ほかほか湯気の出たスープを貰った。バイザーを上げ口にスプーンを運ぶ。
「美味しい。」
野菜が大きめにカットされたものが入っているだけではあるが、少し塩っぽいのも僕は好きな味である。僕が食べているのをまじまじと見る商人さん。
「どうかしましたか?」
「ん?いや、顔が出るんだなって。不思議な兜も世の中にはあるんだな。」
「これは兜ではなく、フルフェイスって言うヘルメットですよ。」
「へぇ〜」
そんなずっと見られると気まずい。何か別の話題を振ろう。
「お2人は何で魔物に追われてたんですか?」
「俺らはあの先の森に入ってたんだ。そこで素材を回収しているとこに、運悪く出会っちまってな。」
「あの先の森?」
商人さんの話では村からも町からも遠く、誰も立ち寄らない場所。昔は海沿いから年に一度だけ大型商会が素材集めをしていたらしい。
しかし強い魔物が出るようになり、何年も前に大型討伐も廃止になったらしい。何年も放置されている素材が豊富な森。商人達の間では一攫千金を目指す人がここに来る事がある。
ただ運が悪ければ、魔物に追われ帰ってこない人もいる。
「おじさん達はその運悪く襲われたと。」
「まぁそうだが。そのおじさんって言うのは……俺らはまだ19歳だぞ。」
「あ、そうなんだ。ごめんなさい。えっと……。」
「あぁ。そう言えば自己紹介がまだだったな。」
思い出したかの様に手を打つおじ……商人さん。
「俺は【リバートップ】出身の商人で、アマンって言うんだ。」
「同じく【リバートップ】出身のゾンだ。」
「アマ◯ン?」
「アマンとゾンだ。」
何処かで聞いたことある名前につい口に出してしまった。この人達きっと大物になるな……なんて何処かで思った。
「僕は忍って言います。えーっと、旅人です。」
「旅人?冒険者か、まぁこんな所冒険者でもなきゃ来ないよな。」
冒険者?あのゲームでもあるあれか?
『冒険者とは街のギルドにて、登録をしている傭兵の様なものです。』
「ふーん。じゃ、僕はまだ登録してないから旅人で良いのかな?」
耳に聞こえてきたアイさんの言葉に返答する。
「ん?シノブは冒険者登録してないのか?」
「してませんね。街にも行ったことないですし。」
「そうか、どっかの村から来たばっかなんだな。それだけ強ければ、ギルドも引っ張りだこだろうよ。」
「縛られるなら、このまま旅人で良いんだけど。」
「それじゃ今の世の中食ってけないだろう?」
そうなのか。確かに今現在、ご飯を奢ってもらった身。この先冒険者って言うのにならなきゃ厳しいのか。
「冒険者って言っても、ガチガチに縛られる訳じゃない。依頼や素材売ってるだけの奴もいるはずだ。特殊な要請があれば動く必要があるってだけなはずだ。」
「アマンさん詳しいですね。」
「知り合いに冒険者もいるからな。そいつから聞いた話だから、これ以上の話はギルドで聞いてくれ。」
「そうですね。街に行ったら聞いてみます。」
街に行くのも一つの選択肢だよな。今はそれよりも森がきになるんだけど。街から遠いいと言っていたし、ここから街に向かったらしばらく森には行けなくなるな。
誰も寄り付かない土地……次またここにこれるか分からないと思った僕は、明日に向かってみようと思う。
「森なんですが、ここから真っ直ぐ歩けば着きますかね?」
「1人で行くのか?危ないからやめたほうがいい。」
「あの森はそんなに危険なの?」
「あぁ。シノブが強いのは分かるが、それでも1人で行く様なところじゃない。」
「それに見た所、何も持ってないしな。魔物は倒せても寝泊まりはどおするんだ?」
言われてみれば僕は今手ぶらだ。
「アイさん。あの森って危ないかな?」
『魔物の強さとしては、忍様の敵ではありません。』
「「アイさん?」」
「あー僕の相談役です。」
「「ん??」」
アイさんに聞いてみたら、あそこに生息する魔物は皆んなさっきの魔物くらいの強さ。僕なら問題もないと教えてもらう。
「戦い方の練習にもなるし、何よりせっかくなら冒険したい。」
「それなら一つ提案があるんだが。」
注意をしてきた商人さん達も無理に止めるつもりは無いらしい。それならとある提案をしてくる。
「俺らは素材の運搬や食事などのやり方や機材を提供する。」
「ふむふむ。」
「その代わりに魔物から守って欲しい。」
野菜のスープをすすりながら考える。
サバイバル経験はそもそもない僕。料理は少しはやってきたが、包丁もなければ鍋もない。これはこの世界を学ぶチャンスなのでは?
「どう思うアイさん?」
『お2人を護衛しながらでも問題は無いかと。私は忍様のガイドをするだけですので。向かう先は忍様が決める事です。』
アイさんに相談してみたけど、いく先は僕が決める事。アイさんはただガイドをするだけって言われた。大丈夫って言われたし、行ってみるか。
「それならお願いしようかな。1人より楽しそうだ。」
「はは!こっちこそ。願っても叶ったりだ。」
「魔物は頼むぜシノブ。料理は腕を振るうからよ。」
「よろしく。」
そうと決まれば今日は早めに休もうかな。明日は長くなりそうだし。
『忍様。こちらに近づく敵影を確認しました。』
「え?敵影?」
僕が急に立ち上がると2人が何々?と立ち上がる。
「真っ暗で何も見え無いけど……。」
『忍様。バイザー下げて頂けますか?クリアアイズ、イーグルアイ。』
言われるがままに下げる。さっきまで見えなかったのに、今は昼間かって言うくらい綺麗に見える。あれは……。
「猪かな。」
「そんなここは安全地帯ではないのか?」
「まさか食事の匂いに誘われて?」
2人が慌てているが、僕は答えを知っている。ここは安全地帯でもなんでも無い。ただの見晴らしのいい草原である。でも何か僕の知らない術や道具を使っている可能性だってあるかもしれない。一応聞いてみようか。
「何でここが安全地帯何ですか?」
「2日何もなかったからだ。」
「……何か魔道具や魔法で結界を張ったりは?」
「魔道具なんて高級品は無い!」
「魔法もからっきしだから商人をやっている!」
2人で胸を張って言うことでは無い。
「今まで運だけで乗り切ってきたんだね。よく生きてこれたね。」
「昔っから運はいい方だ。それも神の思し召しって奴だ。」
「何かあっても結局生きている。」
『忍様と出会った事が、この人達の最大の運ですね。』
「ふはっ。違いないね。」
2人の常識は後回しとして。今はあの猪を何とかしよう。
「そう言えば、こちらに向かって来るのは猪と言っていたかな?」
「そう見えたけど。そう?」
『魔物ではありますが、猪で間違いは無いです。』
「猪だって。」
「「なら捕獲しよう!猪は美味い!」」
2人がハモる。美味いのか……。
「アイさん!あいつを捕獲したい。」
『了解しました。ではそのまま両手で受け止めて下さい。マッスルレインフォース、ダイヤモンドアーマー。』
「よし来た!」
前回もさっきも思ったが、アイさんは何を唱えたんだ?技名?気合いを入れる為だろうか?マッスルは筋肉で、レインフォース……はいいとして。ダイヤモンドアーマーとか明らか、硬そうだな。勢いで受け止める事になったが、できる気がするから良いか。
―ダダン!ダダン!
「ひぃぃ!来ますよシノブ!どうするんですか!?」
「どうって受け止めますよ?」
「そうか、受け止めるか……。」
「「無理だろ!?」」
僕に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる猪。それにしてもでかいな……それにあの牙危なく無いか?
―ガシ!ズン!
「アイさんが言ったんだ。出来ない事はないよ。」
「「嘘だぁ〜!?」」
大きな牙があったから、今回のこれは掴みやすかった。
「さてとこの後どうしようかな。手は塞がっているから、足でいいか。てい!」
―ズバン!バキン!!
勢いで折れてしまった牙だけ手に残り、猪は見上げる距離まで飛び上がっていた。いや、蹴り上がっていたか。
そして重力による自動落下。
―ドスゥゥン
動かない猪に声の出ない2人の商人とアイさん。
「これ倒せたのかな?」
「う、動かないけどどうなんだろうな。」
「死んだフリとかしてる?」
「2人とも僕の後ろに隠れなくても。」
「何を言うか。ここが世界で一番の安全地帯だ!」
「そんな。大袈裟な。」
どうなったかアイさんに聞くと、生体反応はせず無事に倒せたと教えてくれた。
「生体反応もなく、無事倒せましたよ。」
「そ、そうか。」
「どうなるかと思ったぜ。魔導師のシノブが魔物を受け止めようとするんだもんな。」
無事倒せた事を知らせると安堵の息を吐く商人。
「さて、寝る前に一仕事するかな。」
「解体するぞ。シノブも覚えとけよ。」
「はい!」
明日にご飯に猪が追加されることになる。
楽しみである。
アイさん『(忍様の筋力を見誤りました。次は少しセーブをしなければ……。)』
忍「アイさんどうかしましたか?」
アイさん『いえ、予定通りです。』
忍「ん?この下り前にもやったな。」
アイさん『気のせいです。』




