命を惜しまぬ涙
ジークはエルドラとオーケアノスの境にある洞窟を目指していた。それは伝説の大蛇、ヨルムンガンドに会うためである。それは将門が大蛇の母親の加護で無敵の身体になったと聞き、その加護を解くきっかけがあるのではないかと思ったからであった。
ジークが乗った馬がヨルムンガンドの棲家に近づくにつれ暴れ出す…ジークは覚悟を決めて洞窟に入った。ジークが洞窟の一番奥に行くとそこは広くなっていて泉があった。ジークは泉に向かって叫んだ。「ヨルムンガンドよ、いたら返事をしてくれ!」すると泉から陸に上がった大蛇は泉の約半分の水と一緒にジークの前に姿を現した。ジークは水が引くまで我慢してずっと待っていた。
「人間よ。我に何か用か?」ヨルムンガンドが問う。「大蛇の加護を解くにはどうすれば良いか知らぬか?」ジークは単刀直入に訊いた。
するとヨルムンガンドは「それは何のためだ」と訊き返した。「自分には友がいる。その男のためにどうしても力になりたい。」「本当にそうか?お前は自分と父親の恨みを晴らしたいのでは無いのか?」ジークはドキッとした。
心のどこかにロークへの恨みがあったのか…
それをヨルムンガンドに言い当てられてしまった…ジークは落胆の色を見せた。
ヨルムンガンドはそれを見て、「お前、我に嘘をついたな。ではさらばだ!」と泉の方へ向かおうとした。「待ってくれ!」ジークが叫ぶ。「まだ何か用か?」「確かに俺は恨みを持って闘っていたかもしれない。父の恨みを誤解して今の友人達を苦しめた。だがその友人は俺の命を奪わず、自分の国や守るべき者に使えと許してくれたのだ。
今しか、その友のために恩を返すべき時はないのだ。」ヨルムンガンドはジークの目をジッと見つめた。「お前の剣を私によこせ。話はそれからだ。」迷いもせずにジークは自分の銘刀バルムンクをヨルムンガンドに渡した。ヨルムンガンドは舌を巻いてその剣を口に飲み込んだかと思うと、
舌を使ってジークを思いきり切りつけた。
ジークは目を閉じたまま涙を流した。
バルムンクはジークの頭の数センチ上で止まる…
「何故、涙するのだ。お前は友の為に命すら惜しくはないのでは無いか?未練は無い筈だろう。」
「俺には妻がいる…俺自身にこの世の未練は全くない…自分の信念を貫き、友の為に死ぬのは構わないが…残された妻が不憫だと思うと…すまぬ!」ヨルムンガンドはジークの目をまた見つめた…「お前の目に偽りはない。我はお前を信じる。大蛇の加護は恐らく大蛇の毒を身体中に塗られているのであろう。今、我の体内に入ったこの剣は柄以外は全部に大蛇の毒が塗られている。
毒を以って毒を制するがよい。一度きりだが刃は加護を受けた身体に必ずや通る。」そう言うとヨルムンガンドは泉に帰って行った…ジークは無言でヨルムンガンドに感謝した。そして馬を飛ばしてエルドラ城に帰った…
「純…待っててくれ…」




