夫婦
僕はクーファ先生のご指導の元、何度も何度も弓に矢をつがえる。左手の人差し指は擦り切れ、血が滲み弓の弦を引く右肩の感覚はすでに無い。
的には的中する。しかし全力を込めると、若干命中率は悪くなる。一番問題なのは将門は僕が矢をつがえて弓を構えてから矢を放ち、額に命中するまで待っていてはくれない。逆にその瞬間、僕の方が防御できずに身体はガラ空きになるだろう。
絶望に暮れていたその時、木の影からヒョコッと可愛い女の子が顔を出した。
「テラ!どうしたの?こんなところまで。」テラが毎日疲れて帰る僕を見かねて見に来てくれたのだった。「どうや?純、頑張ってるか?」「ああ、でも動いてない的だからどうしようもないよ。」「それやけどな、純、ウチに考えがあるんや!」テラは変化の術で僕達が初めて会った時のように馬に変身した。
「純、ウチに乗りながら的を射るんや!それが出来たら動いてる相手も射ることが出来るようになるんと違うか?」「そうか!流鏑馬か!」
流鏑馬とは、疾走する馬上から的に鏑矢を射る、日本の伝統的な騎射の技術・稽古・儀式のことを言うものである。
「でもテラ…僕を背中に乗せて何度も繰り返し走るんだよ…何度も何度も…そんな苦しい事を…」
「純!何言うてんねん!ウチはあんたの何や!
苦しい時、辛い時、痛みを分け合うのが夫婦と違うんか?あんたの力になれてウチが辛いと思うか?ウチが何もせんとあんたが疲れて帰って来る方がホンマに辛いわ!なぁ力にならせて!」
僕はその言葉にテラを抱きしめた。そしてテラの気持ちを受け止めて彼女に心からの口づけをした。
「ありがとう。ありがとう。テラ!」
僕は溢れる涙を止めることが出来なかった。




