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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【声劇台本】マシンと罪人

作者: 白縫

所要時間:10分~20分


人数:♂2





"ジョン"♂20歳


"マーカス"♂40歳





ジョンⅯ:戦争というものは、残酷だ。


ジョンⅯ:終わった後に残るのは、硝煙の匂いと血の香り。


ジョンⅯ:そして、憎悪と絶望。


ジョンⅯ:戦争は時に人の命だけではなく、残された者の生きる目的すらも奪っていく。


ジョンⅯ:これはある男からの受け売りだが、戦争は治療法の無い厄介な病だと思う。





某国、深い森の奥で



マーカス:......取材?


ジョン:ええ。おっと失礼、自己紹介が遅れました!フリーライターの、ジョン・ストライドと申します。


マーカス:マーカスだ。フリーライターねえ...なんだ?ずっと森に一人で住んでいる男がいるって話題にでもなったか?


ジョン:この森に鹿の狩猟に来るっていう方々から話を聞きまして...!


ジョン:元軍人の男が一人で森に住んでいて、滅多に出てこないと...


マーカス:(溜息)あいつら軍人上がりってこともばらしたのか......誰にも言うなとあれほど...


マーカス:うむ...いいだろう、丁度退屈していたんだ。狭い家でよければ入ってくれ。


ジョン:本当ですか...!ありがたい!





ジョンM:彼も僕も、その病にかかった患者の一人である。





マーカス:コーヒーでいいかな?


ジョン:ええ。


マーカス:ブラックは飲めるかい?


ジョン:大丈夫です...!


 マーカス、ソファーにゆったりと腰を掛ける。


マーカス:ふぅ...


ジョン:......


 五秒ほどの沈黙。


マーカス:......ここ、どう思う?


ジョン:どう思う...?


マーカス:美しい所だと思わないか...鳥が囀り、草木の間を風が通り抜けてくる...自然豊かで、穏やかでいられる場所。


マーカス:...だが時折、銃声も聞こえてくる。


ジョン:......


マーカス:こんな場所にいる時でさえ!私は絶対に、あの戦争を忘れてはならない!!


ジョン:あ、あの...


マーカス:あぁ......すまない、人と話すのは久しぶりで...


ジョン:いえ、いいんです!寧ろ僕は、あなたが経験してきた事をもっと知りたい。


ジョン:教えてください...!





ジョンⅯ:こうして、彼への取材が始まった。


ジョンⅯ:最初は日常生活のことから聞いた。





ジョン:ここではどうやって暮らしているんです?


マーカス:一週間に一度街まで買い出しに行くんだ。その時以外はよっぽどの事がない限り街には出ない。


ジョン:狩りはしないんですか?この森は鹿の狩猟区域、狩りをすれば生活もより楽になるんじゃ...


マーカス:狩りは...好きじゃないんだ、こんな辺境に来てまで生き物を殺したくはない。


ジョン:戦後、退役軍人には安定した仕事や居場所が支給されたはずですが。


マーカス:......あぁ、あれは断った。


ジョン:断った...


マーカス:先ほども言ったが私は、自然豊かで、尚且つ戦時中の記憶を自分に忘れさせないような、そんな場所を探していたんだ。


マーカス:そして、やっとこの場所を見つけた。ここほど今の自分に適している場所はないよ。





ジョンⅯ:彼の考え方は退役軍人の中では異質なものであった。当時、戦争の事は忘れたい、平和に余生を過ごしたいという人間がほとんどだった為、僕は驚きを隠せなかった。





ジョン:人を殺すという行為に、当時どんな感情を抱いていましたか?


マーカス:......無だ。


マーカス:何もなかった。罪悪感も、怒りも、悲しみも。


ジョン:な...何もなかった...?


マーカス:そう、何もだ...当時同胞の中には、殺人を楽しむ者、愛国心に動かされ殺す者もいた。


マーカス:ただ私はその時、無感情で職務を全うする、ただの殺人マシーンだったよ。


ジョン:殺人マシーン...ですか。


ジョン:本当に...罪悪感も何も...?


マーカス:そう...何もだよ。一生かけても償いきれない。


ジョン:......なる...ほど。





ジョンⅯ:彼は、壁に飾ってある写真達を指差し言った。





マーカス:見てくれ、ここにある写真は全て十年前の戦時中に撮られたものだ。


マーカス:これが、私。何も無かった頃の......私だ。





ジョンⅯ:そこにあったのは、目の前にいる”マーカス”という一人の男ではなく、無表情の、ただの殺人マシーンの姿であった。





ジョン:これが......本当に?


マーカス:面影もないだろう?ほかの連中もそうだ。当時は食べた物もほぼ戻してしまって、精神状態も安定していなかった。


マーカス:ボロボロだったよ...


ジョン:この写真......っ!





ジョンⅯ:数々の写真の中に、一つだけ自分の記憶を見つけた。





マーカス:あぁ、それは。


マーカス:きっと生涯その作戦を忘れることはない...作戦名は...


ジョン:(被せ気味で)カロク村一掃作戦。





ジョンⅯ:忘れるはずがない。あの惨劇を。平和な日常に、突然轟いた「カロク村一掃作戦!開始」という呼び声。





マーカス:......やはり、あの時の。


ジョン:気づいていたんですか。


マーカス:疑惑が、今確信になった。この作戦は極秘で、公にされていない。知っているとすればあの場にいた人間だけだ。


ジョン:ぼ...俺だって...あなたを尋ねた時はまだ確信じゃなかった...!


マーカス:......私を、殺しに来たんだな。


ジョン:ずっと...!!ずっと探していたんだ!!お前だけは絶対に殺してやると、目の前で家族を殺されたあの日に誓った...!


ジョン:俺は親に隠れているように言われて...家族が死んでいくのをっ!!目の前で見ることしかできなかった...!


マーカス:生き残りがいたのか......


マーカス:殺せ...それで君が満足なら。


ジョン:満足なら...だと...?当たり前だ、十歳の頃からずっとお前等を殺す為だけに生きてきたんだぞ...!


 カバンから銃を取り出し、銃口がマーカスに向けられる


マーカス:私以外の...あの場に居た兵士はもう死んだ。作戦直後、基地で集団自決。


ジョン:......


マーカス:作戦を実行した人間は誰一人、あの悲劇を望んでいなかった。


ジョン:や...めろ...


マーカス:あの時に私も死んでいれば、君が復讐に囚われ苦しむことも無かったのに。


ジョン:やめろ!!!


マーカス:謝っても許されないのは分かっているが言わせてくれ、本当にっすまなかった...!!


ジョン:っ!やめろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!!





 その森にまた、銃声が響いた





ジョン:はぁっ、はぁっ...!次は、外さないっ!


マーカス:......私は、戦争は治療法のない厄介な病だと思うんだ。


ジョン:はぁっ!...なに...?


マーカス:集団自決をした同胞も、あの村に居た君の家族も村人も、私も君も。


マーカス:全員、この戦争という病の患者だ。だが治療法はない。


ジョン:だったら何だっていうんだ。


マーカス:......治療法は無くても、”終わらせ方”なら君が一つ知ってるはずだ。


ジョン:......





ジョンⅯ:間違いなく、自分はその”終わらせ方”を知っていた。





マーカス:その震えた手に宿った罪悪感を捨て去れ。


ジョン:ぁ...あ...あぁ!


マーカス:もうすぐ狩りの時間だ...銃声が鳴り始める。


ジョン:まさか、俺が来ることをわかっててここを選んだのか...!


マーカス:あの時、隠れていた子供を...君を見つけた時、残っていた人間としての本能が君を見ないふりしてしまったらしい...私が生きている限り、いつか来るだろうとは思っていた。


ジョン:そんな、あんたのような人間に...引き金なんて...引けない...


マーカス:君が決めた事だろう、終わらせるんだ...!


ジョン:...!!


マーカス:私と君に罹ったこの憎い病に!!悲劇に!!終止符を打て!!


ジョン:うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!





ジョンⅯ:その森にまた、銃声が轟いた。


ジョンⅯ:その後、俺は警察に出頭し、死体の場所、経緯を説明した。


ジョンⅯ:後日、ニュースの一面には「平和に暮らしていた退役軍人を殺した非情な罪人」と書かれていた。


ジョンⅯ:あの悲劇は誰にも明かさず、自分は罪人となり懲役15年。刑務所でこの文を書いている。


ジョンⅯ:いつか、自分が死んだあと誰かがこれを読んで、こんな時代があったんだという事を知ってくれればいい。


ジョンⅯ:戦争という非情な病が、いつか無くなることを、切に願う。


ジョンⅯ:「著:ジョン・ストライド」













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