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VIER ARME

作者: ¥堂 文景

思いつき掌編です。

気楽にご覧いただければと思います。

 大きなスリットの入った衣服を身に付けたまま横たわった彼女は、絶妙な肉付きで引き締まった身体をゆっくりと捩らせて、僕を隣に手招きしている。そのうっすらと汗ばんだ瑞々しい四肢は、暗闇に灯された蝋燭の光で妖艶さを増していた。

「ほら、そんなところにいないで、早く隣においでなさいな」

 甘い声色で紡ぎ出される言霊は、僕の耳を優しく撫でながら内耳の奥まで蕩けさせて、緊張で固くなっていた僕の全身を芯から解していく。

「さあ、早く……」

「あ、でも、その“腕”──」

 震えながら指を差してしまったのが運の尽きだった。

 少しだけ驚いたような表情を浮かべたあと、彼女は俯くことなく僕をまっすぐ睨みながら息を荒げていく。僕の人生もここまでか、と潔く双眸を固く閉じて成り行きに身を任せた。しかし、部屋に響いたのは断末魔の叫びではなく、哀哭する彼女の遠吠えのような泣き声だった。

「なんで、どうしてよお! いつもそうなんだからあ!」

 さっきまでの色香に包まれた空気は一変する。そして僕は、1メートル80センチの長身に『四本の腕』を持つ彼女から初めて人間味を感じていた。上体を起こした彼女は、持て余した腕をだらりと下ろし、心無い態度に傷ついて顔を真っ赤にして泣き喚いている。

「わ、悪かった。ごめん、なさい」

 何をどう言ってよいものか躊躇ったが、相手が人であろうとなかろうと言葉が通じる以上、まずは謝罪をするべきだと思い、開口一番に詫びを入れた。それでも泣き声のほうが大きく、彼女に届いているようには見えなかった。僕は居た堪れなくなって後ろ頭を掻き、その場に座り込んだ。

 しばらくして、枯れたように啜り泣きを続ける彼女が僕の方を見て口を開いた。だが、掠れた小さな声では何を言っているのか聞き取れず、もっと近くで聞こうと彼女に近付くと、彼女も同じだけ離れた。理由を訊ねるのも野暮だと思ってまた腰を下ろす。

 二人の溜め息が重なった。

 僕らはどちらともなく笑い出し、自分たちが置かれた状況すら滑稽であることを再認識して、さらに笑った。

お読みいただきありがとうございました。

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