プロローグ
これは二万五千字程で完結させます。
––––ずっと忘れない、ある祭りの日の記憶。
人々が大いに羽を伸ばして語り合う中、僕は一人の女性に釘付けになっていた。
視線の先の彼女は、火を吹き上げる組み木の傍で、楽しそうに踊っている。
光ってる……。
光を浴びて鮮やかに輝く茶髪、煌めく赤眼、そして何より輝いて見えたのは、僕にはない花のような笑顔だった。
火ではなくて、彼女自身が光っているように見えたんだ。
その太陽のような光は、凍えていた僕の心を瞬時に溶かし、火までつけた。
一目惚れだった。
凍りついたような、絶対零度の人生を送っている僕に訪れた、ささやかな雪解け。
止まっていた心臓が急激に動き出し、激しく鼓動を打つ。
こんなの、初めてだ。……この想いを、伝えてみたい。
だけど、今日を逃せば永久にチャンスはこない。
止めどなく血液を送り出す僕の中枢が身体に指令を出す。身体はその命令に忠実に動いた。気付けば彼女は声が届きそうな距離に。僕に気づいた彼女が、にこりと微笑んでくれた気がした。
燃え盛る炎。
熱が伝わってくる。後は、口に貼られた、躊躇いという膜を吹き飛ばすだけ。
それは意外と簡単だった。
僕の胸にある感情を、火に近づけるだけ。
外の炎と内なる炎に引火し、僕の口は爆発した。
「僕も一緒に連れて行ってくれませんか!」
当たって砕けろ。思い切って話しかけてみた。ダメで元々だったし、断られたって仕方がないと思っていた。
彼女が振り向く。その顔に笑顔はない。
さて、どんな仕打ちが来るのか……。僕は目を綴り、ギリギリと歯を食いしばっていた。
あれ?何もこない。
薄目を開けてみると、踊るのを止めていた彼女と目が合う。そして、彼女はにこりと笑って一言。
「いいよ?」
「––––え?」
それは予想外の返事だった。
パチパチと控えめに弾ける火花の傍で、パチパチと眼を瞬かせた僕。
それを見てからからと可笑しそうに笑った君。
「あ、でも一つだけ条件」
「……なんでしょうか」
それがたとえどんな厳しいものでも、僕は命を懸けて達成するだろう。それほどに、灯された火は激しい。
その時は、さぁこい!と身構えていた僕だったが、
「私、帳簿の使い方がわからないから、あなたが帳簿付けて?」
「え?それだけ、ですか?」
肩透かしを食らった。
「うん、そうだよ?」
終始ぽかんとしていた僕と笑顔の君。
こんな風に、最初は呑気な彼女に翻弄されていた僕。
これが僕とエリーの馴れ初めだった。
そして、今でも僕がエリーに翻弄され続けているのは、変わっていない––––。
読んで下さりありがとうございます。
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