第五話 輝いた高校時代 後編
夏の大会が始まった。
これはゲンにとって最後の夏だったが、ゲンは今ケガをしている。
ゲンを出場させるには甲子園に出場しなければならない。
一回戦、運悪く強豪校とあたってしまった。
しかし、みんなゲンの言葉を胸に止めた。
初回に一点を取られるも、怒涛の攻撃。
12対1でコールド。
その後も順調に勝ち進み、決勝戦まで進んだ。
野球部はもうすでに名門校と呼ばれていた。
試合開始
両チームの力投。四回まで続いた。
五回、先頭バッターは西本だ。
その四球目。
カーン。
見事な当たりはレフトスタンドの中段へ。
ホームランで先に先制する。
西本は三試合連続ホームランとなる。
その後同点に追いつかれ、両者一歩も譲らない展開になる。
勝負がついたのは延長戦十三回の表だった。
四球やエラーなどで一死満塁のチャンス。
バッターは二年の佐藤。
一球目から強振。
二球目も高めに浮いた球を佐藤は強振した。
それが功を結んだ。
痛烈な当たりがライトの頭を襲った。
この二点タイムリーが決着をつけた。
その裏を抑え、ゲームセット。
ようやく、苦しみから全ての人たちが開放された。
試合が終わり、ベンチ裏に戻った。
するとそこには清々しい表情をしたゲンがいた。
「み、みんな…よくやってくれた…」
ゲンは部員一人一人に抱き付いた。
「これで…また皆と野球ができるんだ…」
大粒の涙を出すのをこらえながら祝福した。
このときゲンは野球ができないことの辛さを感じていた。
ゲンの高校は甲子園に行くことが決定した。
その後ゲンは時が経つにつれてケガが回復していき、甲子園へ着々とリハビリを続け、決勝後二週間で完治した。
しかし、そんな矢先でゲンに大きな悲劇が待っていた。
八月一日の朝
今日はいつもの朝練。基本的には全員来るはずだった。
しかし、なぜかエースの西本だけがいない。
西本は遅刻したのかと、十分ほど待った。
それでも来ない…。
しょうがないから練習を始めることにした。
そしてその二十分ほどたった。
突如、監督に電話がきた…。
監督は二度うなずいて、その後固まった。
真顔だった…。
監督はすぐに走り出して校舎へと走り出した。
嫌な予感がした…。
「あ…まさか…じゃ…じゃないよね…。」
午前の授業は三時間目まで行われた。
四時間目の最中にアナウンスがかかった。
「全校生徒の皆さんにお知らせします。現時点での授業を一時中断し、すぐに体育館に集まってください。繰り返します。現時点での授業を一時中断し、すぐに体育館に集まってください。」
突然アナウンスがかかった。
そして全員体育館に集まった。
校長先生がマイクを手に取り、涙目になりながら上にあがった。
「皆さんこんにちは。今日は皆さんに集まっていただいた理由があります。それは、皆さんに訃報をお伝えしなければなりません。六年四組の西本くんですが...今日朝の登校中にトラックに衝突し意識を失い、まもなく病院へ搬送されたあと、約三時間後に死亡が確認されました...。」
信じられない...。あの西本が...。
ゲンはそのことを聞いた瞬間に涙が出た。
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ゲンは西本とバッテリーを組んでいた。
西本とはいつも帰り、野球のことで話をしていた。
たとえ打ち込まれていても西本と話し合い、次の試合で勝てるようにと誓っていた。
雨の日も。
風が強い日も。
雪の日も。
太陽がまぶしい日も。
西本は大好きな野球をやり続けていた。
西本との最後の会話は、昨日の練習だった。
「今日はすごく球が走っていたよ。もうすぐ甲子園だし準備万端だね。」
「ありがとう、まだまだだけどもっと頑張るよ。」
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数日後、西本の追悼試合が福岡で行われた。
先発はいつも西本から愛され、西本の死を深く受け止めている上野だった。
上野は七回を二失点の好投。
打線も最終的に五得点。
ちなみにゲンは五打数三安打二打点だった。
五対二で勝利。
試合後、ナインは全員ベンチの前で黙祷を捧げ、エースを追悼した。
ゲンは記者の前でこう話した。
「西本のためにどうしても活躍したかった。西本は天国で僕を見守っているから、甲子園は西本のために絶対に優勝する。」
と言った。
そしてゲンが少年時代にずっと下積みだった時の背番号七十五は、学校の校長室の前に飾られることになった。
一週間後、甲子園が迫っていた日、ゲンは西本の机の中に何かがあるのを気が付いた。
ゲンは少し怖がりながら机の中に手を入れ、紙を手に取った。
そこには「源太へ」と名付けられた手紙があった。
パリパリ、パラ。
「源太へ
源太、本当にありがとう。お前が入院してからずっとお前に支えられているよ。だからお前も甲子園に行ってからもよろしくな。 7月26日 西本恭より」
ゲンは西本の知らなかった心の声に心を動かされた。
狙うはもちろんてっぺん。甲子園優勝だ。
八月四日
ついに甲子園へ出発する。
いままで栄冠を勝ち取ることができなかった先輩達、そして亡き西本の想いを背負い、甲子園へと出発する。
開会式は四日。
一回戦の相手も決まっていた。
八月六日。
今日は一回戦。
そして試合が始まった。
プレイボール。
先頭打者はゲンだった。
実は梨田監督は超攻撃型オーダーを組んでいた。
先頭バッターはゲンで思い切り打たせようという作戦だった。
そのゲン。
プレイボール直後の初球だ。
カーーーーーーーーーーーン。
思い切り振りにいった球はライトのスタンドへと一直線に伸びていった。
さすがにゲンは入らないだろうと思った。
しかし意外!
ライトはジャンプしてボールを取ろうとしてそのグラブにボールが弾き、そのままスタンドに入ってしまったという。
相手のライトは、ゲンのホームランを助けた形になってしまった。
ゲンは高校通算七十五号のメモリアルアーチがまさかの形になったのだ。
ゲンはその試合は五打数三安打一打点の猛打賞。
チームもゲンの活躍などによって、八対五で勝利。
ゲンは試合後の記者会見でこう話した。
「今日は西本を追悼する気持ちで試合に臨んだ。だから活躍できてよかった。自分より早く天国に逝ってしまった西本のためにも、甲子園で優勝したいと思う。」
そして二回戦。
相手は打線の破壊力が全国トップクラスの強豪校だった。
プレイボールがかかった。
先頭バッターのゲンは慎重打法で臨んだ。
ボールが三つ続いた。
そして相手がストライクをとりにいった四球目だった。
コーン。
思い切り振りにいったが、相手の球威に力負け。
ショートフライ。
結局ゲンは四打数一安打だった。
しかし打線は元気だった。
相手投手はコントロールが弱みであった。
四回 二死から五者連続四球からタイムリーと四球。
先発の上野は完封勝利。
強力打線を打ち取った。
しかし、甲子園は甘くはなかった。
勝つにつれ、試合日数の間隔が狭くなり、疲労も溜まりやすくなる。
ここからは体力との勝負だ。
三回戦。
愛知県代表の市立みよし中央高校。
県大会の準決勝で九点差を逆転した高校だった。
この日はゲンは四番を務めていた。
試合が始まった。
一回の裏。
早速ノーアウト満塁の大チャンスを迎えた。
ゲンは監督のサインを見た。
すると監督はスクイズのサインを出していた。
ゲンはサインミスだと思った。
ゲンは後で監督と話そうと決め、打席に立った。
そして監督のサイン通りスクイズをした。
すると、サードは後ろに守っていたので、思い切り前に出てきたが、間に合いそうになかった。
梨田監督の作戦は大成功だった。
その後打線に火が付き、大爆発。
初回に十点を取り大勝。
そして準々決勝。
その試合前、一年マネージャーが声をかけてきた。
「福浦先輩、誰かが呼んでますよ。」
「あーそうか、今行くから。」
行ってみたら、なんとそこには...柳田元監督がいた。
「あっ、柳田監督お久しぶりです。」
「おー久しぶりだなーゲン。」
「今日はなぜ来たのですか?」
「ちょっと言いたいことがあるんだが、いいかい?」
「はい。」
「相手の先発投手の名前を見てごらん。」
「は、はい...あっ!ま...まさか...森じゃないですか!柳田監督ありがとうございました。」
そして試合が始まった。
しかし今日は相手のクロスファイアーに苦戦。
六回まで三安打無得点だった。
それに負けじと上野も無失点に抑える。
試合が動いたのは七回だった。
四球や打撃妨害とボークで一死二三塁のチャンスを作った。
バッターはゲンだった。
しかしゲンは相手の癖を見抜いていた。
勝負をつけたのは初球だった。
カキ――――――――ン。
ボールは一直線にライトスタンドへ一直線。
ポールに当たってホームランだ。
ついにリードを取った。
そのままリードを保ち、結果的に三対一で勝利。
その勢いのまま準決勝へ。
そして準決勝は七対四で勝利。
決勝へ進むことになった。
ついに決勝の朝を迎えた。
ロッカールームで全員、ゲンが中心となって円陣を組んだ。
「いままで支えてきた家族、ずっと指導してもらった監督やコーチ、地元大分県の大分県民、そして天国にいる西本のためにも絶対に勝つぞーーーー!!!」
球場は満員御礼だった。
そんな中で試合が始まった。
一回の裏
先発の上野は緊張のあまり制球が乱れ、いきなり四球。
その後も四球が続き、無死満塁のピンチをいきなり招いた。
そして四番バッターにも四球を与え、早速先制を許してしまう。
慌ててゲンは上野のもとへ向かい、一声かけた。
しかし相手打者は上野がストライクを取ろうとした一球を見逃さなかった。
カキ――――――――――――ン。
太陽と共にスタンドへ。
いきなり五点差をつけられる。
その後は取ったり取られたりとシーソーゲームが続き、五対九のスコアとなった。
迎えた八回の表。
守備の乱れなどで二死三塁のチャンスを作る。
バッターは上野だった。
1-0の二球目だった。
カキ――――――――――ン。
打球はバックスクリーンに飛び込みスリーランホームランになった。
しかしながら最終回を迎えてしまった。
ここで点が入らなければ優勝ができなくなってしまう。
しかし先頭が三振。
次のバッターは岡田。
どうしても出塁がしたかった。
岡田は根性でフルカウントまでもっていった。
そして八球目。
コツン。
当たりそこないサードゴロだった。
しかし岡田は懸命に走った。
そしてヘッドスライディング。
審判は両腕を大きく広げた。
甲子園球場は大きな歓声が鳴り響いた。
しかしその後のバッターはライトフライ。
ツーアウト。
ここで終わってしまったら優勝がなくなってしまう。
バッターは田中だった。
田中は初球から打ちに行った。
カスン。
かすってしまったような当たりになってしまった。
ピッチャーが掴んで一塁に送球した。
ああ、終わった。
全てが終わった。
田中はうつむいた。
...しかしベンチから走れという声が聞こえる。
「うん?なんだ?」
田中は顔を上げた。
するとピッチャーは暴投をしていたことに気が付いた。
田中は急いで一塁を駆け抜けた。
やはり奇跡は起きた。
天国にいる西本が微笑んでくれたはず。
次は俺がお返しする番だな。
バッターボックスにゲンが入った。
今までの人生...
少年時代、チームは負けてばっかりで悔しかった。
中学時代、野球部に入部するも退部し、色々な事があって後悔をした。
そして高校三年の夏、相棒の西本が天国へ行った。
...その想いをここで晴らしてやる!
カキ――――――――――――――ン。
その白球は大歓声が待つレフトスタンドへと消えていった。
ベンチに帰ると、感激のあまり涙をこぼす人もいた。
やったぞ...遂にやったぞ!
そしてその後裏を抑え、甲子園を優勝したのであった。