第二十話 好リード
開幕戦は惜しくも敗北してしまったアストロズ。
開幕二戦目もマルドナードがスタメンマスクを被ることになった。
先発投手はカイケル。
アストロズの投手陣を支える投手の一人である。
試合が始まった。
序盤三回までは両チーム無得点のままだった。
しかし四回の裏にカイケルが連打を浴び、無死一塁二塁のピンチを迎えてしまう。
ここで奇跡が起きた。
バッターはクリス・デービス。
カイケルの投じた三球目だった。
「バキ――ン」
バットが折れたような音がした。
その打球は三塁前に…
ブレグマンが三塁ベースを踏んで二塁に送球した。
そしてアルトゥーベが素早く一塁に送球。
ファーストグリエルが捕ってアウト。
なんとなんとトリプルプレーが実現してしまった。
素早い連係から見事に一瞬でスリーアウトを取った。
ベンチに戻った選手たちだったが、今かなり疲れている様子だ。
ゲン「グリエルさん、ナイスプレーです!」
グリエル「ああ、ありがとう。本当に疲れたよ、昨日の試合は。」
みんな町にいるナマケモノのように疲れている様子だった。
昨日の試合は、四時間近く続いた。
メジャーでもこれだけ試合が長いことはそれほどない。
何しろ、昨日の試合終了が22:00で、今日の試合開始が12:17分だったからである。
それでもゲンは打席に入るバッターを大声を出して鼓舞していた。
誰よりもやる気は出ていた。
その後も両者無得点が続いた。
この試合はまさに貧打戦になった。
八回が終わって両者無得点。
共に二安打ずつだった。
カイケルとマナイアの投げ合いだった。
昨日はサヨナラ負け…そんなことはさせない!
九回の表。
先頭のホワイトのところで代打ゲンが送られた。
「よーし、見てろよ。日本の皆。」
ゲンは眉にしわを寄せ、集中力を高めた。
ピッチャーはマナイアのまま。
虎の如く…打つ。
初球だった。
「カコ――――――――――――――ン。」
高く上がった打球は、レフトへグ―ンと伸びている。
間違いない…
ゲンはバットを投げ捨てた。そして両手を挙げた。
「さぁ、ご覧あれ。」
ボールはリッキー・ヘンダーソン・フィールドのレフトの一番上の席に当たって跳ね返った。
なんて素晴らしいんだ、ゲン!
アストロズの中継席でも実況者が大暴れだった。
アストロズの今季初勝利に向けてまずはゲンが一つ前進させた。
その後ブレグマンにも一発が出て、さらに突き放したアストロズは4-1で勝利した。
ゲンは初勝利に貢献した。
翌日も試合があった。
球場に来た時、ヒンチ監督に声をかけられた。
「ゲン、昨日は素晴らしい活躍だった。今日はお前をスタメンに使おうと思っている。頑張ってくれたまえ。」
スタメンが発表された。
ゲンは七番でスタメン入りした。
先発は、オープン戦でバッテリーを組んで好投したモートンだ。
試合が始まった。
初回の攻撃。
アストロズは先発のファイアーズに対し、フォアボール狙いで作戦を組んだ。
先頭のスプリンガーは七球目でフォアボール。
ここから怒涛の攻撃が始まる。
ブレグマンがツーベースを放ち、スプリンガーがホームイン。
アルトゥーベは甘く入ったボールをバックスクリーンへツーランホームラン。
コレアは倒れてしまったが、グリエル、ゴンザレスがフォアボール。
チャンスの場面でゲンの打席が回ってきた。
ここで一本出れば相手に更にダメージを与えられる。
今日はマルドナードさんのバットを借りてきた。
そしてバッターボックスに入る。
初球から打つか…それとも粘って打つか…
でもみんな粘ってからうっている…
ゲンは悩んだあげく、積極的に打つことを決めた。
他人と意見を合わせたくないのかもしれない…
「見てろよ、皆。天国にいる西本も… 今日だけは打たせてもらう!」
ゲンは打席の前で吠えた。
いつもはとても温厚な性格なゲンだが、ここにきて、まるで虎になっている。
初球だった。
「カコ――――――――ン。」
腰の回転をきかせた素晴らしいスイングだ。
振り切ったそのボールはレフトへぐんぐん伸びている。
虎の如く…
しかしその打球は惜しくもフェンス直撃だった。
直撃後、ピスコッティ―がクッションボールを処理できず、二塁ランナー、一塁ランナーまで帰ってきた。
ゲンは三塁まで到達した。
ゲンのメジャー初三塁打である。
アストロズは初回、四点を先制した。
アストロズの先発はモートン。
打線の大量援護とゲンのリードに恵まれた。
初回は三者三振、二回も二つ三振を奪うなど、好調な滑り出しだった、
その後もモートンも好投を続けることになる。
三回はランナー一人出すも、ピンダーをダブルプレー。
四回、五回も無失点に抑える好投で勝利投手の権利を持つ。
打線は五回、ゴンザレスのソロホームランで追加点。
直後のゲンの打席はフォアボールだった。
モートンは六回、七回も無失点に抑え、先発投手としての責任をしっかりと果たした。
ベンチでゲンとハグを交わした。
その後アストロズはプレスリー、オスナと継投し、勝利を挙げた。
ゲンは投打でアストロズの勝利に貢献した。
明後日からのブルージェイズ戦ではスタメンなのか…
期待で溢れている。