第十六話 絶対に負けられない戦い 後編
日本シリーズ第四戦。
ここまで二勝一敗と楽天が日本シリーズを有利に進めていた。
原巨人も今年は中軸がしっかりと働き、クライマックスシリーズを勝ち抜いてきた。
ということは、巨人に勢いをつけられると危険度が高い。
楽天は第四戦を美馬、第五戦に安樂を登板させることにした。
日本シリーズ第四戦。
東京ドームには多くのファンが駆け寄った。
原監督率いる巨人は先発を畠に託した。
試合が始まった。
先発の美馬は初回、立岡に四球を許すも後続の打者を抑え、無失点で立ち上がった。
対する巨人の畠もゲンにヒットを許すも、ウィーラーを空振り三振に抑えた。
試合が大きく動き始めたのは三回。
田中、今江、島内がヒットで満塁のチャンスを作る。
するとベテランの藤田が併殺の危機を冒しながら、二球目の失投をフルスイングした。
「カコ――――――――――――――ン。」
気持ちのいい音とともに打球はライトスタンドを襲っていく。
藤田は完全に確信した。
その打球はライトスタンドの看板に直撃した。
イーグルスは三回、藤田の満塁弾で四点を先制した。
レギュラーシーズンたったの1本塁打だった守備職人が日本シリーズの大舞台で大仕事をした。
看板に直撃したので、藤田は賞金100万円を獲得した。
続くルーキーのゲンもレフトスタンドへホームランを放ち、二者連続。
ルーキーで初、日本シリーズでホームランの偉業を成し遂げた。
しかし、五回に巨人の大反撃が始まる。
先頭の田中俊にフォアボール、続く小林もフォアボールで無死一二塁。
ピッチャーの畠が送りバントを決め、二三塁。
ここで立岡が犠牲フライを放ち、一点を返す。
さらに陽が右中間へ二点タイムリーツーベースで二点差。
岡本もタイムリーを放ち、一点差。
ここでもう一押ししたかったジャイアンツだが、阿部がピッチャーゴロに倒れる。
その後緊迫した展開が続き、九回を迎えた。
楽天は代役守護神ハーマンをマウンドに送った。
先頭は阿部。
ハーマンは阿部を内角中心に攻めて、最後は外角のストレートで三振を取った。
長野は二球目の甘いボールを打ち損じてサードフライ。
そして次のバッターは亀井だった。
亀井には高めの球を中心に攻めたが、四球目でアウトローで見逃し三振を取り、ゲームセット。
楽天が五対四で巨人に勝利した。
日本シリーズ第四戦で勝利し、日本一に王手をかけた。
明日勝利すると、敵地東京ドームでの胴上げとなる。
そしてあくる日の第五戦。
楽天の日本一がかかった試合の先発を五年目の安樂に託した。
今日はイーグルスの選手一人一人が全力を尽くした。
大事な試合が始まった。
巨人の先発は菅野。
イーグルス打線は初回に菅野を捉えた。
島内がヒット、藤田の送りバントがヒットになり、一二塁のチャンス。
ここで、ゲンがライト前へヒット。
そして島内が爆走で一気にホームに帰ってきた。
藤田は三塁でアウトにされたが、菅野から貴重な先制点をもぎ取った。
今日の試合はこれまでかつてない投手戦だった。
安樂は巨人打線を沈黙。
七回無失点というこれ以上ない結果を残した。
菅野は初回の失点以降は安定したピッチングでイーグルス打線を抑えてきた。
そして八回のマウンドにハーマンが出てきた。
「あれっ?おかしいな?」
本来ハーマンは松井の代役の守護神として最終回に登場するつもりだった。
「則本さん...カーショーさん…岸さん…美馬さんもベンチに入っていない…。」
ゲンは佐藤義則投手コーチに聞いた。
ゲン「コーチ、九回は誰を投げさせるのですか?」
すると佐藤コーチは手に持っていたボールをゲンに渡した。
佐藤コーチ「ゲン、九回はお前に託す。一生分の想い、全部ぶつけてこい!」
ゲン「ほぉ…ほ…本当ですか!?」
佐藤コーチ「頑張ってこい!!」
ゲン「はい!」
ウグイス嬢「イーグルス、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー、ハーマンに代わりまして、福浦。ピッチャー福浦。背番号2。」
このアナウンスが東京ドームの雰囲気を大きく変えた。
東京ドーム全体はざわめきから歓声に変わった。
大きな歓声に迎えられながらゲンはマウンドへ走り出した。
その姿はまるで六年前の日本シリーズ第七戦の田中将大に似ていた。
あの姿を思いだす…
そして九回の裏が始まった。
一点差の場面でバッターが登板することはなかなか珍しい。
先頭バッターは田中俊。
初球は113キロのストレートで見逃し。
二球目は八十二キロのカーブで先頭の田中俊をセカンドゴロに打ち取った。
次のバッターは小林。
ゲンは呼吸を整えなおした。
小林は初球を打ってファーストゴロに倒れた。
そして最後のバッターはピッチャーに変わって、中井が代打に告げられた。
日本一まであと一人。
初球は外角へ外れてボール。
二球目は真ん中でストライク。
勝負がついたのは三球目だった。
「カコ――――――――――ン。」
レフトへ伸びていく当たりだった。
しかしレフト正面でキャッチした。
試合終了。
楽天が六年ぶり二度目の日本一に輝いた。
マウンドでゲンはもみくちゃになった。
そしてその後監督の胴上げが七回行われた。
ビールかけがあったが、ゲンは未成年だったので参加できなかった。
試合後、柳田監督はゲンに近寄った。
柳田監督「ゲン、本当に今年はありがとう。」
ゲン「いえいえ、柳田監督のおかげです。」
柳田監督「来年もお前を中心に使っていくからな。」
ゲン「はい、よろしくお願いします!」
ゲンはホテルへ戻った。
すると気付いたら携帯に留守電が送られていた。
ゲンは恐る恐る音声を再生した。
?「福浦さん、二週間後の水曜日にアメリカテキサス州ヒューストンのミニッツメイド・パーク前に来てください。」