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ホラー系

相互評価クラスタ「なれるぜ!出版作家隊」の最期

作者: 芍薬甘草

 

 僕はこの『小説家になれる』という小説投稿サイトにいる、しがない読み専読者の一人だ。その中でも不人気作品や新着から見どころのある作品を探し出す、いわゆるスコッパーと呼ばれる人種である。

 そして僕はスコップした作品を『兄ちゃん寝る』というサイトで紹介している。その結果作品のブクマが増えていく瞬間は、見ていて本当に面白い。

 そこから更にランキング上位を飾る作品があった時なんて最高だ。下手したら作者より僕の方が喜んでいるんじゃないかって思ってしまうくらい、小躍りしている時もある。


 今日はそんな僕がこのなれるで見た、最も恐ろしい物語を紹介しようと思う。

 ……と言っても実は、この物語は小説ではないんだけれど。




 まず初めに、僕はスコッパーだけど、別にランキングを見ないわけじゃない。むしろサイトを開くと最初にランキングを流し見てから、そこに載っている小説よりも優れた小説はないかと探し始めるのが日々の日課だ。

 その日は「シャーデンフロイデ嬢(10代、性別:女)」というペンネームの作家が書いた『さったん』という連載小説がランキングの一位になっていた。

 その作品はまだ5話までしか投稿されていないが、その内容を要約すると


 昔々、さったんという存在がいました。

 それは本当の名前ではなかったのですが、あまりにも恐ろしい存在で出会った人は皆ガクガクブルブルして「サ、タン……」てまともに喋る事もできなくなるから

 さったんって呼ばれているのでした。

 これは、おかしいなさったんの物語。


 というよくわからないギャグから始まる、なんでこんな糞つまらない作品がランキング一位になってるんだよって突っ込みたくなる馬鹿馬鹿しい作品だった。


 僕はその作品を読み終わると、何も考えずに左上の小説情報を開いていた。それはスコッパーとしての条件反射で、既に高評価の作品をうっかり兄ちゃん寝るに投稿しないよう、どんな作品でも読み終わると小説情報を見てしまう癖がある。

 そしてすぐに違和感に気付いた。


「あれ、これクラスタじゃね?」


 その作品は今日の0時過ぎに投稿したばかり。

 評価がおよそ800:800で計1600pt入っているのに、ブックマークは僅かに7つ。

 しかし感想7件、レビュー3件。


 この中で僕が最初に気になったのは、評価とブックマークの割合だ。

 一般的に、このなれるでは評価よりブックマークがつきやすい。短編小説に限ればブックマークより評価が多くなる場合も多いけれど、この作品はまだ始まったばかりの連載小説だ。この場合、評価800を5で割ると最低でも160人が評価していることになり、それでこのブクマの付き方は普通じゃない。

 ちなみに複垢ではなく相互評価クラスタだと思ったのは、このブックマークの少なさからだ。相互クラスタの場合、続きを読むつもりがないので評価だけしかいれていない事がある。複垢の場合はブックマークを入れない理由が見当たらないので、評価人数がブックマークを下回る事が少ない。


 とはいえ、ここですぐ不正認定をしてはいけない。何らかの企画参加作品ならばこういったポイントになる可能性もあるし……あるいはこのシャーデンフロイデ嬢という作家が既に何らかのヒット作を書いていた場合、既存のファンがお情けでポイント評価だけ入れただけという可能性もある。

 不正認定をする時には過去作品、お気に入りユーザー、俺ツエーゼヨネットの解析結果、更には感想やレビューを書いた人間とそいつらの過去作品や評価した作品にいたるまで、徹底的に調べてからだ。

 無実の作家を非難する輩は、不正小説家よりも遥かにタチが悪い。


 そして50分かけて調べ尽くした結果……


「真っ黒!! はいアウトォ!!」


 シャーデンフロイデ嬢は弁解の余地なんてどこにもない、相互クラスタメンバーの一人だった。

 彼女自身は小説を書くのがこれが初めてだったみたいだが、活動報告や評価・感想・レビューなどに手がかりを沢山残しているのですぐにわかった。

 しかも彼女が所属していると思われる団体はかなり規模が大きい。全容はまだ見えないが、軽く100人は越えているとみた。


 ヒャッハー!! お祭りの始まりだぜぇ!!

 僕は意気揚々と兄ちゃん寝るを開く。

 もちろん書き込む先はいつものスコップスレッドではなく、小説家になれる不正晒しスレッドだ。


 なれるスレ民の一員として、これを晒さないなんてありえない。

 そもそも僕がスコッパーなんて活動をはじめたのは、こういう奴らのせいで埋もれた作品に少しでも光を当てたいと思っての事だ。

 ……まあ今ではそんな崇高な志は関係なく、この作業が楽しくて続けてるんだけどさ。


 というわけで、爆弾投下。

 フハハハハハッ、さらばだシャーデンフロイデ嬢! お前が大量に評価やレビューしていた他の相互評価クラスタメンバー達と共に死ぬがよい!

 


 ――その日、兄ちゃん寝るは大いに沸いた。



 その後、彼女の所属する相互クラスタ団体『なれるぜ!出版作家隊』は白日の下に晒された。

 恐るべきことにその団体は、実に400人が所属する大所帯だった。しかもボスが大人数である事を上手く使って徹底的なポイントやレビュー、お気に入り登録相手まで管理をしていたために、今まで寝ラー達が誰もそれと気づかなかったのだ。

 さらに寝ラー達を驚かせたのは、そのボスの小説が書籍化が決まったばかりだったことだ。団体の中から書籍化した人間が現れて、メンバー達はお祭り騒ぎの最中だったらしい。――すぐに別の祭りが始まるとも知らずに。


 そんな巧妙な手口の『なれるぜ!出版作家隊』だったが、今回はシャーデンフロイデ嬢が暴走し、ボスに内緒で評価依頼に動いたために僕に気付かれる結果になった。彼女は相互クラスタメンバーの中でも精力的に感想やレビューを書いていたので、彼女に個人的に評価やレビューを頼まれたメンバー達はその頼みを断り切れなかったのだ。


 ちなみになれるスレ民の中にはシャーデンフロイデ嬢を知っている者もちらほらいた。

 何でも彼女は、そのレビューや感想が作品の一番面白くない部分(・・・・・・・・・)駄目な部分(・・・・・)を褒めちぎるという奇想天外さで新手の毒者に認定されていたのだという。

 ただし今回の騒ぎが起こるまでは、誰もが彼女の事をただの毒レビュー職人だとしか認識していなかったけれど。


 最終的には『なれるぜ!出版作家隊』からの反逆者が兄ちゃん寝るに降臨し、彼らの過去のグループチャットのスクショがなれる不正スレに大量に貼り付けられた。

 その画像を元になれる運営は彼らを垢BANし、当然ボスの書籍化の話もなくなった。

 こうして相互クラスタ団体『なれるぜ!出版作家隊』は、見るも無残な最期を遂げた。





 しかし、話はこれで、終わらない。





 僕はシャーデンフロイデ嬢の事が何故だかどうしても気になって、彼女が垢BANされる直前まで彼女が書いたレビューや感想を徹底的に調べていた。

 そして僕は気づいてしまった。



 彼女は『なれるぜ!出版作家隊』のメンバーのうち、誰よりも文章が上手かった。

 そして彼女の作品『さったん』は、わざと稚拙で面白くないように書かれていたのだ。



 『さったん』に比べて彼女の書いていたメンバー達への感想やレビューは本当に芸術的で、それこそ書籍化が決まっていたボスの小説なんて鼻で笑ってしまうほどに力があった。

 そしてその圧倒的な文章力をもって、その作品の絶対に褒めてはいけない直すべき部分を褒めていた。


 結末をぼやかした方がいいホラー作品には続きを読みたいですと書き。

 溜めの足りない恋愛小説には簡潔で素晴らしいねと書いていた。


 それだけではない。彼女が感想を書いた作品の中には普通に面白いものもいくつかあったが、その一番面白い部分を直した方が良いとすら書いている場合もある。


 それが引き起こすのはもちろん、メンバー達の成長の停止。

 彼女の文章力で褒め称えられたメンバー達は、いともたやすく舞い上がってしまった事だろう。事実、彼女への感想返信にはその浮かれ具合が見えている。こうなると10代女性というプロフィールも、グループチャット等で可愛がられるためのブラフだった可能性もある。


 時には別の読者によって、彼女の感想を否定する感想が書きこまれている場合もあったが――メンバー達にとってシャーデンフロイデ嬢こそが相互評価クラスタ仲間であり、それを非難する人間は毒者だった。

 シャーデンフロイデ嬢と一般読者の文章力の差もあって、まともな感想が作者の心に響かない仕組みができていた。


 更に、気づいた事がある。

 兄ちゃん寝るに貼られていた大量のスクショだが、一番古いものがシャーデンフロイデ嬢が加入した直後のものだった。

 それも、どう考えてもいつか晒すためにあらかじめ撮って置いたとしか思えないレベルで古いのだ。


 そもそも今回の騒動の原因も、元をただせばシャーデンフロイデ嬢の痛恨のミスが発端に……



 ……いや、違うだろう。

 彼女はミスなんて何もしていない。


 彼女は初めから『なれるぜ!出版作家隊』を潰すために動いていた。

 今回の反逆も計画的なものであり、一番団体にダメージが入るであろうボスの書籍化のタイミングまでひたすら待ち続けていたのだ。


 ――メンバー達の成長の芽を、ぷちぷちと丁寧に摘みとりながら。




 埋伏の毒、他人の不幸は蜜の味(シャーデンフロイデ)嬢。

 彼女はきっと名前を変えて、今もどこかの団体に潜んでいる。

 

 

※この物語はフィクションです。確固たる証拠もなしに、小説家を不正認定する行為はやめましょう。

 見つけた場合も誹謗中傷するのではなく、黙って運営さんに通報しましょう。


……え、どうすれば確固たる証拠になるのかって?

そうですねぇ、シャーデンフロイデ嬢の様に潜り込んでみるのはいかがですか?

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「賢者フィロフィーと気苦労の絶えない悪魔之書」

ひっそりゆっくり連載中(※ジャンルはハイファンタジーです)

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