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技法としての異世界テンプレ。

 多いですよね、異世界テンプレ。

 ランキングは言うに及ばず、新着で検索しても、多いこと多いこと。


 ただ今回は、なるべく好き嫌いからは離れて……異世界テンプレの長所、短所はなんだろうということを考えてみました。

 これから異世界ものを書こうという人へ、少しは参考になるといいなと思います。


 ちなみにこのエッセイでいう「異世界テンプレ」は、最強もの、ハーレムもの、悪役令嬢もの等々、「転生もの」全般を指します。戦国時代への転生とか、異性への転生とかも、広義では含んでます。


 まず初めに私の立場を書いておくと、「もっと自分の作品を読まれたい気持ちはあるけど、今でもそこそこ読まれてるし、テンプレ書かなきゃってほどでもないかなー」ぐらいの作者です。


 今の連載は異世界ものでさえなく、現代舞台の日常コメディー(ただし百合……ガールズラブ要素特盛)。

 現時点で200話目前、文字数で30万文字(文庫本3冊分くらいか)を、ほぼ女の子同士のキスシーンで埋めてるという……マニアックな道を突き進み続けてる作者です。


 自分では異世界テンプレ書いてません。

 だからこそ、ライバルの強みを考えようという趣旨で書いてると、そう捉えて頂ければ。

 

 それはさておき。

 異世界テンプレを技法の一つとして考えると、「主人公≒読者」を追求した、読者自身を主人公になりきらせる、そこに特化した技法といえます。


 なぜ、転生が必要なのか。


 以前、どなたかのエッセイで(ごめんなさい、作者忘れました)、「転生ものは、テレビゲームの感覚に似ている」という趣旨の考察がありました。

 まさにそれです。

 転生という要素を入れることで、読者を、より深く主人公に一体化させる。

 主人公を、「別の世界で産まれた、別の誰か」でなく、「読者と同じように生きてきた日本人」にすることで、主人公と読者を融合させる。

 ゲームのキャラクターを操作する感覚に近いです。


 感情移入よりもっと深く、「主人公は、あなたですよ」と実感させるための技法。

 そう考えると、異世界テンプレ……その根幹であろう「転生」というのは、ものすごく優れた手法です。


 ここで、異世界テンプレ書こうという方へ。

 上記のことを考えると、人称は一人称一択だと思います。

 三人称にしたら、主人公を転生者にする意味がありません。


 テンプレ否定派には、三人称絶対主義みたいな人もいるけど……主人公の視点と読者の視点を一体化するには、当然、一人称が向いてます。転生と一人称は、基本的にセット。

 「三人称で転生ものを面白くする!」っていうのは、かなり技術がないと難しいかと。


 人気の作品でも、主人公が魔物だったり無機物だったり、果てはダンジョンだったりしますが、これも転生要素があってこそでしょうね。

 普通、人間以外に感情移入は難しいです。

 それを可能にするのも、「元は、読者と同じ人間です」という転生要素です。


 ランキング上位を見ても、意外に、転生前や転生の経緯をじっくり書く作品は少ない印象です。

 この理由を考えると、「転生した主人公」=「読者あなた」である事実だけが必要なのであり、どう転生したか自体は重要ではないのでしょう。


 転生前をたっぷり描写してしまうと、かえって主人公と読者の乖離かいりが大きくなってしまう危険がある。

 それに、読者としても、「はよ冒険させろ」という気分になる。


 ゲームで、キャラクターメイキングを不必要に複雑にしてしまうのと似てると、そう思います。

 こう考えれば、「転生するまで」は1話にまとめてしまうか、いっそ一行でも良いでしょう。

 長々と描写しない方がいい。


 次に、主人公について。

 テンプレの主人公は、普通主役にならないような、「ちょっとゲスい」のも多く見かけます。

 これも、「読者≒主人公」とすれば、聖人君子なヒーローより、読者目線に近い主人公を設定してるわけで、正解なのでしょう。


 テンプレ作品における良い主人公とは、大多数の読者と目線が近い、感覚を共有できる、等身大の主人公。「等身大」と「無個性」は全くの別物であり、作者が、どこまで読者の視点を想像できるかに鍵が有ると思います。

 転生要素が有れば、肉体的には人間でなくても許されるのが、創作物として可能性を感じる、面白い部分ですね。私は人外萌えねぇのでやらんけど。


 また、主人公の言動にはすごく気を遣う必要があります。

 読者に「俺だったらこんな行動しない」と思わせては、テンプレとしてダメだと思うのですよ。

 欲望のままに行動させてるように見えても……大多数の読者が支持する言動であるかを、常に考える。

 テンプレで人気を取れる作者というのは、このバランス感覚が優れた人なのではないでしょうか。

 もしくは愛されタイプの天然。


 「主人公の活躍の理由が、前世の知識か、神様からもらったチート能力ばかり」というのを揶揄やゆする人もいますが、これは仕方ないだろうと思います。


 その2つ以外に主人公が活躍できる理由があるとしたら……「元々の才能」「仲間たちとの絆」「強い意志」などいくつかあるけど、どれも転生とは相性が悪いし。

 特異な才能、特別強い意志を、初めから持ってる主人公は、「主人公≒読者」と思わせにくい。

 仲間や家族との絆は、転生ものでなくても書ける。

 むしろ地球に絆置いてきてるわけだし、説得力出しにくいし。


 異世界テンプレとは何か、を理解するには、小説の歴史より、テレビゲームの歴史の中で位置づけた方が分かり易いのかもしれません。


 日本にファンタジーを根付かせたのは、なんといってもゲーム「ドラゴンク○スト」が最大の功労者で間違いないでしょう。ドラクエはまさに、「プレイヤー=主人公」となって冒険を追体験するゲームですが、異世界テンプレは、その後継者にあたるのではないでしょうか。


 一方でゲーム業界では、後発の「ファイナルファン○ジー」を中心に、ドラクエとは違う形……映像と物語性を重視した、映画やアニメに近い形を目指していきました。

 あくまで主人公は、プレイヤーから独立した1個の人格、キャラクターであり、その活躍を追いかける、という、映像作品の手法です。


 ゲームは映像作品だから、FF型が主流になったのは当然の帰結と思います。

 でも今、日本のゲーム業界元気ないですよね。SFC、PSの時代……テレビゲーム黄金期を知る身としては、本当にそう思う。

 話を戻すと、ゲームの映像の進化に伴い、ドラクエ型「主人公=自分」という形がゲームから消えていく中で、「自分自身が冒険したい」という欲求への受け皿として産まれたのが、オンラインRPGと、そして異世界テンプレだと思うのです。


 こうしてみると、映像作品ではできない、小説ならではの、「読者と主人公をひとつにする」技法として、異世界テンプレはすごく完成されていると思います。

 「異世界テンプレなんて小説じゃない」なんていう否定派の人は、むしろ「小説とは何か」とか「小説の優れた部分は何か」とかへの考察が足りてない……そんな風にさえ思います。


 さて。

 長くなったので駆け足でまとめますが、ここからがある意味本題。


 そこまで分かっていながら、なぜ私自身はテンプレ書かないか。

 私はどこまでいってもガールズラブの書き手であって、「読者≒主人公」にしたくないんですね。


 私の作品は、えっちな描写も多く、基本的には男性向けです。

 男性読者を女の子になりきらせるのは、私の理想のガールズラブではない。

 「女の子同士がイチャイチャするのを、外から見守る」、ごち○さとか、昨今の萌えアニメを視聴している感覚にしたいのです。


 なので基本は三人称。

 今は、「地の文で感情を語らない」写実主義的というか、ハードボイルド小説の手法を、ガールズラブにも使えるのでないか、と試行錯誤中です。


 あくまで、読者と主人公を別の人格として切り離すスタイル。

 異世界テンプレの逆を行く技法……我が理想のガールズラブには、こちらの方が適してると思うのですよ。

 自分自身には、萌えられない。女の子同士に、萌えたいのです。


 もう一つ、これは読者にとっては、そして大半の書き手にも関係ないことですが。

 私の考える、異世界テンプレの弱点を挙げておきます。

 書籍化、プロ……それを初めから目指してるという人は、頭の片隅に入れといて損は無い。


 それは、「映像化に向かない」ということです。

 壮大過ぎて映像にしにくいとかでなく、映像として面白いものになりにくい、ということです。

 つまりアニメ化しない。


 アニメや映画では、ビジュアルのインパクトってすごく大切。

 1カットだけで、その作品のイメージが伝わるような、個性的な世界観。

 それを、異世界テンプレは表現しにくいと思うのですよ。


 テンプレは、世界観としてはありきたりなゲーム的異世界を使うからこそ、分かり易い。読みやすい。

 「皆がイメージしやすい、ありふれた異世界」はテンプレ小説としては強みになるけど、映像にすると、没個性な、普通の絵でしかなくなる。

 映像にするなら、小説としては多少説明が増えても、個性的なものの方が向いてます。


 また、転生というのは小説だから有効な技法であって、映像にすると、主人公と視聴者は否応なく切り離されるわけですね。

 転生者の主人公は、小説なら「読者自身の受け皿」だけど、映像だと「変わった過去を持ったキャラクター」でしかない。この違い、ものすごく重要です。

 転生という設定は、映像ではあまり意味を成さないと思うのですよ。


 異世界テンプレは、読者を主人公と一体化させることに特化した、小説ならではの技法。

 主人公が読者の斜め上の行動を取る……というのも、映像だと面白いけど、異世界テンプレで表現する場合、読者が主人公と分離してしまわないか気を遣う必要がある分、難易度が上がる。


 異世界テンプレに求められる面白さと、アニメなど映像作品に求められる面白さは、かなり離れている。

 異世界テンプレでプロになりたい人は、対策を考えないといけないと思いますよ。

 だって、アニメ化とかしないと、小説だけで食っていくなんて無理だし。


 さて、想像以上に長くなったので、そろそろ終わりにしますが。


 「小説家になろう」登録当初、私は、異世界テンプレが嫌いでした。

 しかしこうしてみると、小説の技法としては優れたものだと分かります。

 「流行は移ろうものだから、テンプレもいつかは衰退する」と期待してる非テンプレ書きの皆さま……ある意味仲間にこんなこと言うのは残酷だけど、廃れないと思いますね。


 「主人公に、なりたい」というのは、極めて当然の欲求であり、異世界テンプレは他のどの小説より、その点に優れた技法です。

 人間以外の、従来の小説なら主人公に据えるなんて想像も出来なかった、ダンジョン等にもなれる……。

 すごく、面白い可能性を秘めているジャンルだと、今は思います。


 でも、私は書かない。ガールズラブの素晴らしさには及びませんから!

 ガールズラブ万歳!!(台無し)

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ガールズラブへの愛があふれていました。。。 ガールズラブ万歳 ! [一言] 転生って最近難しくなってきていると思います。 数が多すぎていて、その分読者の目が厳しくなってきているというか…
[良い点] 転生物=一人称。かなり当てはまると思います。読者の主人公への共感、同一視が出来るからでしょうね。でも私は三人称の異世界転生物(しかもTS百合に加え前世から既に強者)で週間総合一位までは取れ…
[良い点] 読者の共感を生むための仕掛けが、 「等身大の主人公」 「主人公の力がリアルではいけない」 と教えていただけたこと。 そのままの自分を認めて欲しい。 認められるためには活躍しないと…
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