あいつのために俺ができること 5
前半信吾、終わり泉side
「信吾先輩、どうかしましたか?」
今日も俺はいつも通り、杏と一緒に居た。
杏の傍にはいつも生徒会の奴らとかが居るし、奴らも杏の事を好きだから、俺も杏をとられないように傍にいなきゃと思って一緒に居る。
杏は本が読むのが好きで、よく図書室に居て、俺もそれで今図書室に居るのだ。
「あー…悟の奴本当、どうしたんだろうと思って」
杏を苛めた親衛隊の奴らと仲良くしていて、今まで親衛隊と関わりがなかったのに関わっている。
親友で、幼なじみで、悟の事何でも知っているんだと思ってた。
だけど、今は全然、悟の事がわからない。
悟を周りと一緒に責めてしまったのは、一昨日。
それから悟の事がわからないし、何だか会う気にならなくて教室にも行っていなかった。
わからない。
何で、悟が親衛隊と仲良くし始めたのかも。
生徒会の奴らは、杏の気を惹くための作戦だの騒いでたけれど、それは違う気がするし…。
それでも、杏を苛めた親衛隊と仲良くしているからいい気分はしない。
「悟先輩、の事ですか」
「そうだ。何考えてるかわかんねーんだ」
この学園で悟とずっと一緒に育ってきた。
いつも一緒に居た。
何でもわかってるつもりだったのに、さっぱりわからない。
「……親衛隊に絡まれた時、悟先輩、僕を助けてくれたんだ」
ああ、そういえばそんな事言ってたなぁと思いだしながら、杏を見て頷く。
「そんな人が、何で親衛隊と仲良くしてるのか僕は不思議で…。優しい人だと思うんだけど」
杏は純粋で、誰にでも優しい。
悟も優しい奴だとは思うけれど、誰にでも優しいっていう感じではない。
椅子に腰かけて、心配そうに眉を顰める杏を見ながら、思う。
これだけ、杏が心配しているっていうのに、悟はどうしているんだろう。
親衛隊は自己中な奴が多いのに。どうして、こんなに優しい杏じゃなくて、親衛隊と仲良くしているんだろう?
思えば、杏の事を悟は下の名前では呼んでいないわけで…。とはいってもアイツはあんまり人の事名前呼びしないけれど。
――最近杏から親衛隊が減っているのにも、何か企んでいるんじゃないかって、正直思うし…。
悟がもしそれに関係してるというなら、話をつけなければ…、俺は杏を守りたいから。
でも親衛隊と結託するような奴でもないし…。結局悟がよくわからない。
――なんにせよ、話をしなければならない。
*
杏と別れた俺は、まず悟の寮室に向かった。
だけど、悟は部屋には居なかった。
何処かに出かけているのかもしれない。そう思った俺は、スマホを取り出して、電話をかける。
プルルルルプルルルルルという音が耳に響くだけで、結局悟は電話に出なかった。
…寝てるのだろうか?
早めにあって話をして、悟がわからないなんていうモヤモヤとした気持ちを無くしてしまいたいと思った。
だから、俺は悟は探すことにした。
悟がいきそうな場所って何処だろうと考えてみても、正直わからなかった。
悟はいつも結構俺のそばにいて、連絡だっていつもすぐとって、こんな風に探すことはあんまりなかった。
悟がいくとしたら静かな所かもしれない。
図書室とかどっかか?
人ごみは嫌いだから、人が多い所には居ないだろうし…。
そもそも電話に出ないのが、もしかしたら気まずいからかもしれないわけで、本当探さなきゃと思った。
そうして、俺は歩き出す。
図書室にまず、顔を出す。
だけれども、そこに悟は居なかった。
大人しそうな男が数名居るだけだ。
本当に、悟は何処にいるんだろう?
色々な場所を歩いて、探していない所は後何処だろうと考えてみる。
もしかしたら、屋上にでもいるかもしれない。
そう思って、俺は足を進める。
――屋上への階段を上り、屋上の扉を開ければ、フェンスに背をもたれかけて眠っている悟がいた。
「さと―――」
「誰だ?」
足を踏み入れて、悟の名前を呼ぼうとした時、別の名が響いた。
よく見れば、悟には誰かのブレザーがかけられている。
「前園…泉!?」
視線を横にずらした先にいた、その存在に俺は驚いて声をあげた。
何で、こいつが此処にいる…?
前園泉はこの学園では有名な男だ。手も速いし、よく喧嘩もしている。
実際中等部の頃に俺も手がはやい方だから一回やりあった事もある。
どうして、悟が、こいつと一緒にいる…? たまたまあっただけか?
「あ? 越前信吾じゃねぇか」
俺の名前を呼んだかと思うと、前園泉はその鋭い目を細めた。
その冷たい目に、何処か敵意が感じられて、思わず体が竦む。
どうして、俺に、こいつはこんなに敵意に満ちた目を向けるんだ…?
「…何で、前園泉が、悟と居る?」
「何でって、まぁ、普通に話す仲だから?
で、お前は何しに来たわけ?」
「…悟を探しに来たんだ。話をしようと思って」
「へぇ?」
俺の言葉に、前園泉は面白そうに口元を上げた。
「……話ねぇ? 何の話?」
俺を見てくるその目はひどく冷たい。
ぞくりっと背筋が冷たくなる。
「お前には、関係ないだろ?」
「あるさ。だって、俺はこいつに興味持ってんだ」
挑発するような笑みを浮かべて、前園泉は、眠っている悟の方を見た。
悟に、興味を持っている…?
「……」
「答えねぇの?
じゃあ、俺があててやろうか。
――前に、木田悟を責めてた事じゃねぇの?」
何でこいつがその事を知っている?
悟がそんな事まで話すほど、こいつの事を信用しているというのか?
今まで、人とあまり関わってこなかった悟が、こいつを信用してる――?
何だか、何とも言えない気持ちが俺の心を支配する。
「やっぱりか。親友の事も信じられねぇやつが何を話そうっていうんだ?」
「何って、杏と親衛隊の事決まってるだろっ」
何だか、バカにしたような視線にいら立って、思わずそんな言葉を放つ。
「ふぅん。
やっぱ、何もわかってないな。
むかつくから、お前と話させねぇよ」
「は?」
益々鋭く細められた目に、冷たい声。
俺が、悟の事全然わかっていない?
そのまま、わけのわからないうちに俺は腕をつかまれて、屋上から追い出される。
もちろん、抵抗はしたけれど、結局押し切られてしまった。
そして、バタンッとしめられる屋上の扉。
何が何だかわからない。
俺が、悟の事わかっていない?
じゃあ、何でアイツは悟の事わかったように口にしているんだ?
わからない。
ずっと、一緒に居たはずなのに、悟の事がわからない。
モヤモヤとした気持ちが、俺の心を埋め尽くしていく。
わからない、ワカラナイ、ワカラナイ―――。
悟の事が、さっぱり、わからない。
アイツが何をしたいのかも、アイツが何を考えているのかも――。
*(前園泉side)
越前信吾を追い出した後、木田悟の寝顔を見ながら、俺は思う。
――本当、越前信吾に、木田悟はもったいないと思う。
あの日から、俺は偶然を装って何度も木田悟に話しかけていた。
俺に一度本音を見せていたからか、どうするつもりか聞いた俺に、答えてくれた。
『――信吾に、好きだなんて言えない。でも親衛隊と仲良くなってる状況で信吾たちの近くにいたら、信吾にいやな思いさせると思う』
『理由もなく俺が親衛隊と一緒に居る奴じゃないって信吾は知ってるから。いい理由が思いつくまで、信吾から離れる』
『信吾のそばに居られないのはいやだけど、親衛隊と話さずに制裁をやめさせる事はできないし。俺が傍に居ないことより、斎藤が制裁にあうほうがきっと信吾はいやだろうから』
そんな、強がったように木田悟は笑った。
木田悟の気持ちにさえも気付いていない越前信吾に呆れた。
だって、こいつは、こんなにも越前信吾を思ってるのに。
表情を見れば、何となくわかるというのに。
会って間もない、俺でも。
「あー、やっぱ、欲しいなぁ」
木田悟の寝顔を見つめて、思わず願望が口から洩れた。
――木田悟が欲しいから、俺も本腰いれて行動に出るか。
そう思って、俺は笑った。
end