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世界が壊れた、そのあとは

世界が壊れたの続き

 千里、千里、千里―――。

 僕の大切な人。僕の愛してる人。

 消えないで。

 そう願ったからこそ、僕はきっと此処にいる。

 真っ白な空間の中で、僕と千里だけが存在してる。

 ねぇ、千里。

 僕は、千里が居るだけで、生きていけるんだよ?

 ずっと昔から見てた。

 ずっと、ずっと昔から。

 気がつけば目で追っていた。

 気がつけばいつも探してた。

 いつの間にか他が考えられないぐらい、千里にはまってたんだ。

 『――俺と付き合え』

 そんな千里に告白された時、凄く嬉しかった。

 夢かと思った。

 でも、頬をつねっても千里は僕の前で笑ってた。

 それからずっと幸せなの。

 ずっとずっと。千里が傍に居るんだ。

 真っ白な空間の中で、僕と千里は笑い合う。

 「ねぇ、千里大好きだよ」

 そういえば、千里は笑ってくれる。大好きだよ、千里。

 ずっと、ずっと大好きなんだよ。

 だからね、聞こえないの。

 『奏君――』

 他の声なんて。

 だからね、嘘なんだもん。

 『別れてくれ』

 そんな事千里がいったなんて。

 千里、千里、千里――。

 千里の顔だけ見れて、

 千里の声が聞ける。

 それだけで、僕は生きていける。

 寧ろ、それがなければ僕は欲張りだから、生きていけないの。

 「ねぇ、千里ずっと一緒だよ」

 「ああ」

 真っ白な空間の中で、僕の言葉に、千里が笑った。








 *(里見千里side)



 俺は一人で屋上に居た。

 青い空を見ながら、俺は先日の事を考える。

 由利が転校してきて、惚れて、恋人を振って、そしてアピールして必死だった。

 そんな中で、

 「里見てめぇえ!」

 「奏君が倒れちゃったじゃない!!」

 何だか大多数の生徒達に俺は責められた。

 谷口奏…は、俺が二年間付き合っていた恋人だった。

 平凡だけど何処か愛嬌がある奴で、俺から告白してずっと付き合っていた。

 でも、由利が、「お前の事怖くない。家柄でもみない。友達だ」ってそんな風に言ってくれて――…。

 由利に惚れた。

 でも、由利にも怒られてしまった。

 由利がぶつかって、そのまま由利の顔を見て倒れてしまったらしい奏を見たらしい。

 それで、由利に言われた。

 『アイツ、ふらふらだったぞ。それに、すげぇ、顔色悪かったし…。ずっと付き合ってたのにひどいふり方したら、駄目だろ?』

 そんな風に。

 でも奏は、アイツは俺の顔や家柄を見ないでくれるのは由利だけで――…。

 そこまで考えてはっとなる。

 本当に、奏は、俺の顔や家柄しか見てなかった?

 『千里、今日、昼ごはん一緒に食べようよ』

 『千里、バレンタインのチョコ、友達と一緒に作ったんだ』

 『千里、大好き』

 目をつむったら、沢山の奏が、頭に浮かんでくる。

 そこに、一度でも媚びた目はあったか? 媚びた声はあったか?

 Fクラスの奴らも、奏と別れた時何か言いたそうに俺の事見てた。

 最近じゃ、由利にべったりで話してなんていない。

 奏は、Fクラスの連中とも仲良くしていた。

 それに乗り込んできた連中は全員一般クラスの奴ら。俺に文句をいって、奏のために奴らは怒ってた。

 奏は、家柄や顔しか見てなかった?

 ………俺は、何を奏に言った?

 そもそも俺から告白したのに、俺は――…。

 はっとなる。

 溢れてくるのは、自分は何を奏にいって、奏にどんな態度をした? という、後悔だった。

 本当に由利だけが、俺を見ててくれた…?

 ……違う。

 奏だって、Fクラスの奴らだって俺をそんな目で見ない奴は居た。

 俺は何で、由利だけが俺を見ててくれてるって思ってた…?

 そんなわけないのに。

 他の奴らだって、俺を媚びた目で見てなかったのに。

 それに気付いて、ああ、と思う。

 由利に惹かれた連中も、俺も由利を光だと思った。

 だけど、眩しすぎる光は、今まで温かいと思っていた光まで消え失せさせてしまう。

 由利って光が強すぎて、俺は周りを見れてなかったのかもしれない…。

 胸糞悪い感情が、心を支配する。

 ――…奏は、泣いてた。

 俺が振った時、泣いてた。

 俺の言葉を、否定して。

 ……でも、俺はそれを聞かなかった。

 由利だけが、俺をわかってくれるなんて本気で思ってしまった。

 ……そんなわけ、ないのに。

 俺は、何を言った?何をした?

 一気に胸を襲ってくるそういう、感情――…。








 *(会長親衛隊隊長side)


 奏君が目を覚まさない。

 保健室のベッドの上で、幸せそうな寝顔で、ずっと眠ったまま。

 ああ、転入生がいなければ、奏君はきっとこんなことにならなかったのに!!

 里見様も里見様で、転入生に惚れたとかで奏君を振って…、何を考えてたんだ。

 乗り込んだ後も、此処にはやってこない。

 悔しいけど、里見様が奏君には必要なのに…。

 それなのに、どうして――…。奏君のそばに来ないの。

 奏君の寝顔を見据えながら、椅子に腰かけて僕はギリッと唇をかむ。

 奏君は、僕の大事な友人だ。

 奏君は美形崇拝のこの学校で平凡顔だけど、何だか癒される感があって、皆に好かれている。

 僕も奏君の事は友達として好きだ。

 里見様の事で幸せそうに微笑む奏君を見ているのが、僕も、他の連中も好きだった。

 恋している奏君を見ていると何だか自然と頬が緩むのだ。

 里見様が好きだって語って、いつだって優しい表情を浮かべていた。

 誰がどう見ても、奏君は里見様の事を心から思ってた。

 そんなの、奏君の友達は皆知ってる。

 それなのに、里見様は――、

 奏君の思いを否定した。

 誰よりも知っていたはずなのに。

 それなのに――……転入生に惚れたなんて戯言を言って奏君を振ったのだ。

 僕は会長様の親衛隊隊長だし、転入生が会長様に気にいられているというだけで怨むべき存在だ。

 それなのに、奏君が転入生が来て傷ついてしまった。

 …わかってるさ。本当は転入生が悪いわけではないと。

 惚れたのは会長様や里見様だとわかってる。

 でも、逆恨みだろうと何だろうと、転入生がいなければ学園はこんなにあれなかったし、奏君はこんな風にならなかった。

 奏君は、きっと里見様が来ないと目を覚まさない。

 きっと、僕らの声なんて奏君には届いていない。

 ――里見様には、僕らの殴りこみの効果がなかったのだろうか。

 あれだけ、責め立てたのに。

 何も感じてないとでもいうのか。

 奏君は、里見様が本当に好きなのに。

 別に人の恋愛にそんなに首を突っ込むのは間違ってるとは思うけど、理不尽な理由で奏君を振った事が許せない。

 奏君、目を覚まして。

 僕らは奏君に笑っててほしいんだ。

 だって、大切な友達だから。

 そんな事を思いながらじっと奏君の寝顔を見据えている中で、保健室の扉が開く。

 ―――そして、そこにいたのは……。





 *(谷口奏side)



 「千里、千里――…」

 真っ白な空間の中で、ずっと僕は千里の名を呼び続ける。

 千里が居る。

 そして、僕が居る。

 それだけで、僕はどうしようもないほど幸せだ。

 『――奏君』

 何かが聞こえた気がするけれど、そんなのに耳は傾けない。

 千里が居ればいい。

 千里が声をかけてくれればいい。

 ねぇ、千里。

 大好きだよ。ずっと一緒にいようよ。

 何度も何度もそれだけを告げて、千里のそばに居たい。

 それだけで、僕は幸せ。

 「奏」

 白い空間の中で、千里が僕の名を呼ぶ。

 「千里」

 白い空間の中で、僕は千里の名を呼び返す。

 『――奏!!』

 幸せな空間の中に、一つの声が響き渡った。

 『奏…』

 声が聞こえてくる。

 真っ白な空間の中にいる、千里とは別の声。

 「奏、どうした?」

 「ううん、何でもない」

 違う、違う。

 優しく笑っている千里は、目の前に居る。

 ―――はっ、どうせ俺の顔と家柄しか見てなかった癖に

 頭をよぎる言葉なんて、嘘だ。

 違う、チガウ。

 千里は――……。

 『奏…目を覚ませ』

 『里見様のせいで、奏君が――、どの面さげて此処に…』

 聞きたくない。

 何も聞きたくない。

 千里が居ればいい。

 千里が、僕の名を呼んで、笑いかけてくれてればそれでいい。

 「千里、千里――……」

 千里は、僕のそばにいる。千里は、僕に笑いかけてくれている。

 「奏」

 『奏――……!!』

 目の前に居る千里とは、別の声が響いてる。

 どうして、そんなにその声は必死なの?

 『ごめん、奏』

 どうして、聞こえてくる声は必死なの?

 どうして、僕に謝っているの?

 どうして、何で、ドウシテ――?

 「奏、どうかしたか?」

 真っ白な空間の中で、千里が微笑みかける。

 だけど、僕の関心は、何処からか聞こえてくる声に向かってる。

 『俺が、悪かった。奏……』

 ねぇ、どうしてそんな風に僕に必死に言葉を放つの?

 『奏は、一度も……俺をそういう目で見てなかったのに…ごめん

 俺がバカだった、ごめん――…』

 「奏?」

 悲痛そうな声に頭が行く。

 目の前の千里の声が頭に入ってこない。

 ―――これは、誰の声…?

 『―――バカでごめん、奏。

 俺は……』

 頭にすーっと響いてくる、声。

 『奏が、好きだ』

 響く声に、僕は固まってしまう。

 誰の声?

 いや、これは、僕の聞きなれていた――……。

 『自分勝手で、ごめん、奏…。

 目を覚ましてくれ、奏』

 目を覚ます?

 僕はずっと、ここで生きてるのに。

 千里と二人で――…。

 『色々言われて、考えて…、思ったんだ。奏が、いなきゃ嫌だって…。

 幾らでも謝る。許してくれるなら、もう一度、俺と付き合ってくれ』

 もう一度?

 ――別れてくれ

 脳裏に、そんな千里の声が思い出された。

 『奏、奏……』

 ああ、呼んでる。僕を呼ぶ声がする。

 『………奏』

 悲痛ような声が響く。自分が悪かったって後悔したような声。

 これは、誰の声――?

 『………奏、目を、開けてくれ』

 ―――これは、僕の大好きな、千里の声だ。

 それを感じた瞬間、真っ白な空間が、その中にいた千里が、一瞬にしてパリンッと砕け散った。

 砕け散って、消え失せた後に広がるのは、闇。

 暗い、暗い空間。

 ”別れてくれ”

 そうだ、僕は――……千里に、振られたんだ。

 転入生が来て、千里は、その子に惚れて…、僕は……、

 『奏――……っ!!』

 ああ、千里が呼んでる。

 僕を捨てたはずの千里が、僕の名を必死に呼んでる。

 ―――…千里が、僕を必要としてくれてる。

 そして、僕は、千里の声に導かれるままに、目を開ける。

 「……ち、さ、と…?」

 「奏!!」

 「奏君っ!!」

 うっすらと目を開けて、真っ先に飛び込んできたのは千里の顔で。

 その後耳に入ってきたのは、千里と親衛隊隊長をやってるお友達の広君の声だった。

 「ぼ、僕先生呼んでくる!」

 広君が去っていくのを、感じながらも、僕の視界はようやく定まっていく。

 「……ち、さと」

 千里が、居る。

 僕のそばに居る。

 心配そうに、僕の事を覗き込んでいる。

 「…奏」

 「千里だ、千里が、いる」

 千里が僕のそばに居る。

 それだけで僕はどうしようもなく幸福で、横になったまま、千里へと手を伸ばす。

 伸ばした手を、千里がぎゅっと掴む。

 「奏、ごめん…」

 千里は、僕を見て、後悔したような声をその口から絞りだす。

 「ごめん、奏……」

 「…何が、ごめんなの?」

 「俺、奏に…ひどいこと、いった。

 顔だけしか見てないなんて、違ったのに…」

 「うん、いいよ、そんなの。千里が、傍に居てくれるなら、そんなの、別にいいの。

 ねぇ、千里……」

 重い体を起こして下を向く千里に僕は不安そうに呼びかける。

 「眠ってる間に、千里の、声が聞こえたの…。

 僕……、また、千里の、傍に居て、いいの…?」

 聞こえてきた声は、夢じゃないよね?

 また、いていいの?

 僕が、傍にいても、いいの?

 そんな気持ちに、僕は問いかける。

 「……ああ。奏が、許してくれるなら、また傍にいてくれ」

 「千里っ――…」

 千里の言葉に、僕は思いっきり千里に抱きついた。

 目からは、嬉しくて涙が出てくるのがわかる。

 千里が、また僕を拾ってくれた。

 一度捨てたのに、僕の事を冷たく見てたのに。

 今、千里は僕を昔みたいに優しい目で見据えてくれている。

 ああ、千里が居る。

 千里が、傍に居ていいっていってくれている。

 「奏…」

 千里が僕の名を呼んで、抱きしめてくれる。

 千里のぬくもりが、いつもの香水の香りが、千里の声が、僕の心を満たしてくれる。

 「…千里、大好き」

 思わず、口からそんな言葉が漏れた。

 僕の言葉に益々千里は、僕の事をぎゅっと抱きしめてくれる。

 ねぇ、千里。

 僕の世界は、千里が居ないだけで壊れてしまう。

 それだけ、僕は千里が大好きで、千里を必要としてるんだ。

 千里が、僕を捨てて壊れてしまった世界は、千里が僕に笑いかけてくれるだけで形をなすの。

 声、ぬくもり、仕草、目、香り――……。

 千里の全てが、僕の心を満たしてくれる。

 千里のそばに居るだけで、幸せっていう感情が僕の心をいっぱいにしてくれる。

 「――…もう、捨てないで。ずっと僕を傍に置いて」

 「……ああ」

 僕は、君が居ないと生きていけない。

 千里は、僕の世界。

 千里は、僕の大切な人。

 僕は、千里を傍に感じられるだけで、幸せなんだ。





end



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