君のことをずっと見ていた。 2
君に近づく事が出来た。
君が僕を視界にいれてくれた。
君が僕を好きだといってくれた。
君が僕を恋人にしてくれた。
僕は、どうしようもなく君のそばにいれる事が嬉しくて嬉しくてたまらない。
「は、隼人先輩、おはようございます」
付き合うようになって、名前呼びをするように言われた僕は生徒会室に入ってその姿を見て呼びかける。
名前呼びは何処かはずかしい。なれていないから未だにどもってしまう。
というか、は、隼人先輩の名前を呼べて付き合えているだなんて僕は嬉しくてたまらない。
信じられなくて、まるで夢のようだ。
生徒会室に居たのは隼人先輩と水野先輩と本川兄弟だけだった。
水野先輩が中田先輩たちに怒って、真面目に仕事をしてくれるようになって僕は安心している。
今日は、中田先輩と千賀先輩は来てないらしい。
「おはよう、比呂」
僕の名前を呼んで、優しく笑う隼人先輩にときめく。
隼人先輩の笑顔を見ているだけで、僕は嬉しくてたまらない。
隼人先輩の視界に入りたくて、ずっと追いつきたくて、それだけのために僕はずっと頑張ってきてた。
だから、嬉しい。
書記の席に腰掛けて、書記の仕事に手をつける。
仕事の合間もちらっと、会長席に座っている隼人先輩を見てしまう。
かっこいいなぁ、と思う。
どれだけ見てもきっと飽きない。
見ているだけで嬉しくなって、声を聞くだけで頬が緩む。
そんな存在、きっと隼人先輩だけだ。
書記の仕事をせっせとこなす。
本川兄弟は水野先輩が怖いのか真面目に仕事をこなしている。
水野先輩も優雅に紅茶を飲みながらも仕事をこなしている。
それにしても本当本川兄弟は水野先輩をあれから怖がっている。
僕が仕事を終わる頃には、一番多いはずの会長の仕事を隼人先輩はすっかり終えていて、本当凄いなと思う。
僕のより量が多いというのに、それをさらっとこなしてしまう隼人先輩は本当にかっこいい。
僕も、仕事を終わったから、そのプリントを重ねて、隼人先輩の前に持っていく。
「隼人先輩、僕も仕事終わりました」
「もう終わったのか、比呂は仕事がはやいな」
そういって、ほめてもらえて、それだけで嬉しくて頬が緩む。
「嬉しそう、だな」
「嬉しいですよ。隼人先輩にほめられただけで、僕はどうしようもなく嬉しいんです」
はずかしいけれど、自分の気持ちはちゃんと言いたいから真っすぐに隼人先輩の目を見て言う。
「そうか…」
「はい、他の誰からの言葉よりも隼人先輩からの言葉が一番うれしいです」
絶対自分の顔が赤くなっている自信がある。
だってこんな台詞言うのはずかしい。
でも真っすぐに、思いを伝えたいから僕は言うんだ。
「――…っ」
真っすぐに隼人先輩を見ていたら、隼人先輩がそっぽを向いた。
視界に映る耳は、赤い。
僕の言葉に照れているらしい。
傍にいれば、色々な隼人先輩の表情を知ることができる。
今まで知らなかった隼人先輩を見る事が出来る。
遠くからいつも見ていた隼人先輩は、てれたりなんか全然してなかったけれど、こんな風に僕の言葉で照れる隼人先輩を見ると新鮮な気分になる。
「はいはい、比呂君も、八王子君もいちゃつかないの。いちゃつくのは二人っきりでね?」
僕と隼人先輩を見ていた水野先輩が、笑ってそういう。
よく見れば本川兄弟も興味深そうに僕と隼人先輩を見ていた。
「…仕事終わったんだろ。比呂、俺の部屋来るか?」
「…はい!」
そうして、僕と隼人先輩は隼人先輩の寮室に向かう。
向かう途中に周りから、
「比呂ちゃんと隼人様だ…」
「相変わらずお似合い…」
「間宮様、可愛らしいです」
そんな声が響く。
”お似合い”と言われて嬉しかった。
隼人先輩のそばにいる事を周りが許してくれている事が嬉しかった。
思わずその事実に頬が緩む。
「あ、間宮様が笑ってる」
「八王子様の隣だと、比呂様よく笑うよね」
「可愛い……」
「比呂」
「何ですか、隼人先輩」
「そんな可愛い笑みを浮かべるな」
「へ?」
隼人先輩の言葉に、わけがわからなくて隼人先輩の方を見る。
「だから俺にだけ見せとけばいいだろ? 虫がよってくるからあんま、見せるな」
「安心してください。虫がよってきたとしても、僕は隼人先輩以外見ませんから」
「…そうか」
「はい。隼人先輩も悪い虫が寄ってきても、靡かないでくださいね?」
「当たり前だ。俺は比呂だけいれば十分だ」
「嬉しいです」
隼人先輩が凄く好きだ。ずっと追いかけてきた人がこうやって僕に笑いかけてくれる。
何て言う、幸せだろう。
その後、隼人先輩の部屋へにたどり着いた。
隼人先輩の部屋は生徒会長専用の部屋だけあって、広い。
生徒会特典なんていうものがあって、だからこそ、生徒会の部屋は広い。
隼人先輩の部屋のベッドは、真っ白な大きなベッドで、付き合い初めてから此処に泊ったこともある。
「コーヒーでものむか?」
「はい」
僕が頷けば、隼人先輩は台所へと向かった。
隼人先輩は料理もできるし、本当完璧だと思う。
僕の通う学園はお坊ちゃんが多いから料理が出来ない人も多いのに。
とはいえ、僕も隼人先輩に追いつきたかったから料理が出来るようになったのだけれども。
コーヒーを持ってきて、隼人先輩が手渡してくれる。
口に含めがかすかな苦みと香りが広がる。
隼人先輩の部屋にいれるだけで嬉しい。
こうして、隼人先輩の部屋にいれて、隼人先輩が僕を真っすぐに見据えてくれる。
それだけで、僕は幸せだ。
「そういえば隼人先輩、一つ授業でわからなかった事があるんですけど、教えてもらえませんか?」
「ああ、いいぞ。もちろん。比呂は本当努力家だな」
「努力家っていうか、僕は下心満載で頑張ってたんですよ?」
「下心満載?」
「はい。僕八年前から隼人先輩を見てたって、あの日いったでしょう?
隼人先輩はあの頃から、勉強も運動も一番だったでしょう?」
本当に、僕は隼人先輩の視界に映りたいってそれだけでやってきたのだ。
努力家なんて立派なものではない。
「隼人先輩の事、一目見て好きになったんです。きっと一目ぼれでした。
それで、近づきたかったんです。隼人先輩のそばに。
僕が運動も勉強も頑張ってたのも、周りに優しくしてたのも全部、生徒会入りしたかったから何です…。
僕、隼人先輩の目に映ってみたかった。視界にいれてほしかった。認識してほしかった。
だから、下心満載なんです」
はずかしいって思いがないわけではないけれど、それでも一度口にした止まらなかった。
だって、いつだって僕の心の中は隼人先輩の事で溢れてる。
隼人先輩の事なら幾らでも考えられるし、幾らでも言葉にできる。
それだけ、僕は隼人先輩の事を好きでたまらないんだと思う。
「お前って、本当…」
「どうしたんですか、顔押えて…」
「…はずかしい事さらっというよな。真っすぐに、俺の事好きだって目で見てきて、何だか、嬉しい」
「嬉しい、ですか?」
「ああ。俺もお前の事ずっと見てたから、比呂が俺の事そんな風に思ってたんだっておもうと、嬉しい」
そういって、隼人先輩は笑った。
「そうですか。僕も隼人先輩と一緒にいれるだけで、凄くうれしいです。隼人先輩と付き合えるだなんて夢みたいなんです。
隼人先輩の視界に入って、隼人先輩が僕を認識してくれる。それだけで満足だったから本当に、夢みたいで――…」
ずっと見ていて、手を伸ばしたくて、追いかけてきていた。
そんな隼人先輩が僕を好きだなんて本当に夢みたいだった。
「…俺も、比呂が俺を好きだっていって、こうやって付き合うの、夢みたいだって思った。
まさか、比呂が俺の事好きだったなんて全然気付いてなかったから」
「…これからも、ずっと隼人先輩を見ていきますよ。僕は。
できれば、ずっと恋人として、隣で…」
「ああ」
僕の願望に、隼人先輩は笑って、そして顔を近づけてくる。
付き合ってから何度もした、口づけを交わす。
――ずっと君の隣で、ずっと恋人として、君の事を見て居たい。
――だって僕は君をどうしようもなく好きで仕方がないのだ。
end