in 図書館 3
「林川君、久しぶり」
「あ、ああ。久しぶり」
昨日までテストだったからって、東雲も俺も図書室に来ていなかった。
メールで東雲がテスト勉強するから来ないっていってたんだ。
東雲って真面目なんだよな。
そう言う所も好きなんだよなぁ。
真面目な東雲からすればあんな不真面目な転入生受け付けられないんだろうな。
「テスト難しかったね」
「う、うん。特に数学が駄目だった」
「だよね。僕文系教科は得意だけど、理数系少し苦手なんだよね」
「お、俺は数学と科学が苦手かな。国語とか英語とか、あと暗記系は得意だけど…」
「そっかぁ。数学何処ができなかった? 一緒に復習する?」
にっこりと笑ってそういう東雲。
とりあえず、俺こんな幸せでいいんだろうか。
東雲とこんな風に笑い合えるだなんて幸せと言わずに何と呼ぶんだ、何ていう気分になる。
こくこくと緊張しながらも頷く。
好きな奴のそばにいるからか、いまだに俺は挙動不審だ。
緊張して、今も心臓がバクバクいってる。
「此処が――」
「うん、そこは――」
そして向かい合うように図書室の椅子に座って、二人で勉強をする。
東雲が考え込んだり、わかったからって嬉しそうに笑ったり。
そういうのを見るだけで、どうしようもなく胸が温かくなる。
ああ、好きだなって思うとどうしようもなく緊張する。
そうやって、幸せな時間を過ごす。
だけど、
「和沙!!」
何で、あの転入生は一々邪魔するんだ?
つか、生徒会何してるんだ、本当に。
久しぶりで図書室に鍵かけるの忘れてたから勢いよく入ってくる転入生。
東雲がびくっと体を震わせたのが視界に映る。
全く、東雲を怖がらせてんじゃねーよ。
折角幸せだったのにどうしてこう邪魔するんだ。
「あー、お前!! 俺と和沙の邪魔した奴じゃん! なんだよ、和沙を苛めてたのか!」
「は?」
誰が苛めるか。
俺は好きな子に愛情の裏返しで意地悪なんてする性格じゃないし、寧ろ好きな子には優しくしたいし。
東雲が震えてるじゃんか。しかも勝手に名前呼びって本当に転入生何なんだろう。
「俺が東雲を苛めるわけねーだろ。つか、此処は図書室。だから静かにしろ」
「なんだよ、その言い方!!」
「そもそも、転入生、お前生徒会の奴らはどうした?」
せっかく、兄貴の名を有効活用して生徒会の連中に来ないようにしろっていってんのにさ。
何で、アイツらこいつをちゃんと見とかないわけ?
好きなら首輪でもつけとけっつーの。
はぁ、とため息を吐きながら俺は転入生の方を見る。
「皆和沙に会いにくんの邪魔するからまいてきたんだ!
俺と和沙は親友なのに…」
「…え、えっと僕と君いつ親友になったの?」
困惑顔で、戸惑ったようにそう口にする東雲。
…とりあえず可愛い。
うん、生徒会の奴らは転入生が可愛く見えるらしいけど、絶対東雲のが可愛いと思う。
「何でそんな意地悪言うんだよ! あ、こいつに脅されてそんな事いってんのか、最低だ!!」
「いや、あのさ、図書室来るの、やめてほしいんだ。
僕煩いの嫌だから…」
「何でそんな事言うんだよ!!」
いやー、何この宇宙人。
どうしてこんな宇宙人が存在してるんだろう、と正直理解できない。
東雲の手は幽かに震えてる。
転入生が怖いんだろう。実際話きかねぇもんな、こいつ。
「おい、転入生、東雲が困ってるだろ。さっさと出ていけ。邪魔だ」
「邪魔って何だよ!!」
「邪魔なもんは邪魔。お前が居ても公害にしかなんねーから」
「公害って!!」
「いいから出てけ」
俺はうんざりしながら転入生の腕を掴んで(本当は触りたくもないけど)、廊下に放りだす。
煩くなんかいってる転入生なんて気にしてたらやってられない。
内側から鍵をかけて、ドアを閉めていれば、しばらくドアを叩いて喚いていたが、その後去っていった。
本当にアイツ公害だよな、色々と。
「…東雲大丈夫か?」
「うん…。ありがとう、林川君」
にっこりとほほ笑む東雲。
その笑顔に、胸が高鳴る。
あー、そういえば東雲の事転入生は名前呼びなんだよな…。
……俺も名前呼びしたい。
いったら嫌がられるかな?
ちょっと不安に思いながらも、俺の方を見上げている東雲に言葉を放つ。
「……なぁ、東雲」
「どうしたの、林川君」
にこにこと笑っている東雲。
そもそもこうやって東雲が俺に笑いかけている事事態が奇跡なのだ。
名前で呼びたいなんて口にしていいのだろうか…、と思いながらも願望に勝てずに口を開く。
「…そ、そのさ」
「うん?」
「転入生、東雲の事、名前で呼んでるじゃん? 俺も…、その、東雲の事、か、和沙って、呼んでいいか?」
顔を見れない。だって嫌がられたらどうしよう、って思うから。
でもそんな俺にかけられた声は優しかった。
「名前呼び?いいよ。僕も孝君って呼んでもいいかな?」
「も、もちろん!!」
し、東雲が俺の名前呼んでくれるって! 俺も名前呼んでいいって!!
……やべぇ、嬉しすぎてどうにでもなりそう。
「じゃあ、孝君、テストの見直しの続きしよっか」
「あ、ああ」
そうして和沙と呼べる幸せと、孝君と呼ばれる幸せに浸っていた俺である。
にこやかに笑う和沙を見据えて、俺は嬉しくてたまらなくて笑みを零すのであった。
end
―オマケin親衛隊会議室。東雲和沙の親衛隊長とある隊員の会話。会話のみ―
「隊長、隊長!! 姫にまた転入生が突撃しました!」
「本当? すぐに姫を避難させなきゃ」
「あ、でも大丈夫ですよ、隊長。例の彼がさっさと追い返したみたいですから」
「番犬君は強いねぇ…。ま、それなら安心かな?」
「あの図書委員きっと自分が番犬って呼ばれてる事わかってないんですよね」
「そりゃ、そうでしょう。あんまり周りに興味ないみたいだしね」
「それにしてもあの人って東雲様の事好きですよね」
「そうだね。和沙様は気付いてないみたいだけど」
「東雲様、鈍感で可愛いですよね」
「和沙様って鈍いもの」
「そうですね。番犬君さっさと東雲様に告白すればいいのに」
「そうだねぇ。和沙様も番犬君の事嫌いじゃないみたいだしね」
「あ、そういえば番犬君が東雲様を名前呼びしだしてました!」
「へぇ、少しは進展したみたいだね。とりあえず、僕らは見守っておこうか」
「はい! 転入生をあしらう手腕は見事ですし、僕番犬君の応援します~」
―――孝は知らない。穏健派で恋愛感情より友情や憧れで占められている東雲の親衛隊に『番犬』なんて呼ばれて応援されている事を。