無関心 5
「おい、貴様ら――」
いつも通り総輔と並んで、歩いて、のんびりとしていたら何だか声をかけられた。
振り向いた先にいたのは、
「……えーっと、どちらさん?」
「って、貴様らまた忘れてるのか!!」
「あ、その口調、痛い子?」
痛い子だった。
「き、貴様…い、痛い子ではなく名前を覚えろ!! 俺様は生徒会長なんだぞ!!」
痛い子は相変わらず痛いなーと思いながら俺は総輔の手をぎゅっと握ったまま痛い子を見る。
本当に自分を「俺様」って呼んで、相手を「貴様」って言うなんて、痛い子凄いよな。
というか、こんな痛い人間を現す言葉は痛い子以外にない。
「だって、名前なんて覚えられないしなぁ」
「だよなぁ…」
「くっ、貴様らはもっと周りに興味を持て!!」
「だって、興味ないもんはないしなぁ、綾人」
「うん。だよなぁ。
ところで、痛い子何しに来たの?」
俺と総輔の会話に何だか頭を抱えている痛い子に向かって俺は問いかけた。
「くっ…本当に貴様らは…」
何だかブツブツといっている痛い子を見て、本当に痛い子って痛い子だよなぁと思った。
一人でブツブツいって自分の世界に入り込んでいるだなんて痛い子以外何でもない。
「なぁ、痛い子。自分の世界に入るのはいいけど、俺らに何の用?」
俺がそう言いながら、痛い子を見れば、痛い子ははっとなったように俺らを見る。
「貴様ら、俺様が他の役員をリコールしたのは知っているな?」
「リコール?」
「役員? 何それ?」
「くっ、貴様らは…!! とりあえず、俺様はリコールしたのだ。他の使いものにならん生徒会役員を!! というか何故貴様らはそんな事も知らないのだ」
痛い子がそう言って、俺達を睨んでくる。
痛い子に睨まれても特に何とも思わないけれど、痛い子は結局何で俺らの所にきたんだろうか?
生徒会がリコールされたとかぶっちゃけ俺には関係ないし。
俺にはそんな事より食堂の新作のミルフィーユの方が大事だ。
「それで、どうしたんだ、痛い子」
「くっ、痛い子痛い子と…。とりあえず、だな。生徒会役員を新たに補充しなきゃで、ランキング入りじゃなきゃだめだから、貴様らを誘いに来たのだ」
総輔の言葉に痛い子はそういって、俺達を見る。
「ランキング?」
「…生徒会入りにランキングって関係あるっけ」
「って、貴様ら、何でそんな常識を知らないんだ! 昔からこの学園に居るのだろう? どうなっているんだ、貴様らは」
「おー、痛い子もつっこむ人なのか」
「くっ、貴様らがつっこみどころ満載なのが悪いのだ。学園の常識ぐらい普通に知っていろよ!」
おぉ、痛い子が凄く必死な形相をしている。
楸と似たようなものなのかもしれない。
それにしても俺らと仲良くなる人ってつっこむ人多いんだよなぁ。何でだろう?
「くっ、とりあえず、うちの学園には抱きたい・抱かれたいランキングがあり、貴様らはそれで上位入りをしている」
「へぇー」
「まぁ、どうでもいいよな」
「…貴様ら自身の事であろう!!
とりあえず、ランキング上位者が生徒会役員になる仕組みになっていてだな…
俺様は貴様らを生徒会に誘う事にしたのだ」
痛い子は、ふんっとふんぞり返ってそういった。
「俺らに生徒会に入ってほしいって?」
「生徒会ってめんどくさそうだから却下」
「うん。総輔が言ってるし、俺も却下。
というか、生徒会って入りたい人いっぱいいるもんじゃないの?
じゃあ、痛い子はそういう人誘えば?」
総輔は風紀にも誘われているけど、断ってたもんね。めんどくさいからって。
俺もめんどくさい事嫌いだし、やる気はしない。
楸が前に生徒会は人気だっていってたのを思い出しながら放った俺の言葉に痛い子は言う。
「その、だな、俺様は貴様らがいると、楽しそうだと思ったのだ」
「おー。痛い子がデレたよ、総輔!」
「図体でかい男がデレても可愛くないだろ。綾人は可愛いけど」
「お、俺様はデレてなどいない」
明らかにデレてるのに、デレてないなんていってそっぽ向くなんて痛い子はツンデレなのか?
「ふぅん。で、何で俺達がいると楽しそうだと思ったんだ?」
「俺様は、大企業の跡取りだ」
「へぇ? そうなんだー」
「って、何故知らないのだ!? 俺様の事を知らないなどと…」
俺が初めて知ったとでも言うように開いたら不服そうにそう言われた。
「本当痛い子だよな、お前。自意識過剰半端ねぇ…」
「くっ…貴様らと話していると話が進まない! とりあえず、だな。
俺様を同等の態度で見てくれる奴がいなかったのだ。だから、光が来た時、俺様に堂々と意見をしてくれて嬉しくて…」
痛い子、寂しい子でもあったのか、と思いながら俺は問いかける。
「光って誰だっけ?」
「貴様らは!! この前もいったであろう。転入生だ、転入生」
叫んだかといえば、言いにくそうに横を向いていたい子は告げる。
「だからだな、その、俺様は俺様を特別と見ない、貴様らと一緒に居るのが、そのだな、楽しいのだ!」
「おー、痛い子がデレた。超デレた」
「そうだな、綾人。可愛くないけどな。痛い子、顔赤いな」
痛い子、何でこんなに俺らにデレてるんだろう?
もっと意中の子とかにデレちゃえばいいのに。
それにしても、本当自分を特別扱いしない奴がいないって、凄い自意識過剰。
此処までのナルシスト初めてみた。
本当、痛い。
それでいて、友達いなかったのか…。それは寂しすぎる。
俺とか総輔でも親友居るのに。
「痛い子、生徒会には入らないけど、友達なってあげようか?」
「くっ、何でそんな上から目線なのだ!」
「え、だって痛い子って友達居なくて寂しいんでしょう? 痛い子痛くて面白いから友達なってもいいよ? なぁ、総輔」
「まぁ…いいかな」
「くっ…」
「ほら、対等に話す人欲しいなら、友達なってくれぐらい言おうよ」
何だか屈辱に歪む痛い子の顔を見てたら苛めたくなって思わずそんな言葉を放つ。
「くっ、お、俺様と友達になれ! これでいいだろ!!」
おお、言った。
屈辱に満ちながらも、顔をゆがませて痛い子は言った。
そんなに友達居ないのか…。ああ、何て寂しい痛い子。
結局俺と総輔はその後、痛い子とメアドを交換した。
もちろん名前は覚えていないから、登録名は『痛い子』だ。
end