平凡なのは見た目だけ!
「一色、転入生の面倒を頼む」
そんな風に担任に言われたのは高等部にあがって1ヶ月が経とうとした5月の事だった。
目の前の何処のホストかって外見をした担任―――多賀谷(先生からはタガヤン呼ばわりされている見た目に反してわりと良い先生だ)はいった。
「こんな時期にですが、タガヤン」
「ああ。編入試験満点で、うちのクラスにはいる事になっててな。
ほらうちって他と違うだろだから一色に頼もうと思ってな」
タガヤンはそういって俺、一色恵哉をみた。
タガヤンのいう事も理解できるなんせ、この学園は幼稚園からある男子校。
全寮制で、外からみたら異常な場所だからだ。
ホモとバイがやたらと溢れていて、親衛隊なんていうものも人気者にはできる。
一部には王道学園と呼ばれている場所だ
俺は家柄、成績などで決まる1-Sの学級委員長。
だから、こうやって頼まれている。
「わかりました」
俺は、タガヤンの言葉にそういって頷いた。
さて、本当に転入生が来ることは急である。
面倒を見るのはいいとして…、食堂とかも特殊だからそういうのも教えるべきだろう。
となると…、あいつにその日の昼は食堂でとると話しておかなければ。
職員室を後にしながら、俺はそんなことを考えた。
*
「俺は仲野健人だ。よろしく!」
そういったのは、タガヤンに教室に連れてこられた転入生だった。
見た瞬間びっくりした。
周りの生徒達も怪訝そうに転入生を見ている。
ボサボサの髪に、今時あるかっていう瓶底眼鏡。
見た目重視のこの学園であの外見はヤバいと思う。
というか、あの恰好もう少しどうにかできないのかと聞きたい。
美形好きな連中は怪訝そうに「オタクとか最悪ー」「あの顔のした絶対不細工か平凡だよ」「かっこいい子がよかった」だのいっている。
でもその後周りはあわてて、俺を見る。
「あ、もちろん、平凡でも一色様は別だよ?」
「恵哉君はかっこいいもん」
「平凡でも一色様は特別だから!」
必死にそんなことを言う子達は、女の子に見間違うぐらい可愛い。
そう、俺の顔は平凡。でもいろいろあってこんな状態。
てか、皆いい人。ちょっと外見差別するだけだし。
「そんなに慌てなくていいよ。皆が俺の事そんな風に思ってないの知ってるし」
苦笑してそう答える。
というか、クラスの連中の大半が見た目で転入生への興味失せたのか転入生見てないという。
「なんだよ。外見で判断するなんて最低じゃんか!」
おいー、転入生。ムカつくのはわかるけど、仲良くする気ないのか。
周りの生徒達の大半が一気に不機嫌になったぞ。
「…いっ」
あ、タガヤンに転入生がはたかれた。
「いてぇ何すんだよ!」
「確かにこいつらは外見重視だが、中身次第で仲良くしてくれる。そんな言い方したら友達できねーぞ」
タガヤンはいい担任である。
「それと教師には敬語をつかえ」
「…わかったいや、わかりました」
転入生は敬語が苦手らしい。
タガヤンに言われてあわてて直している。
周りが不穏な空気だ。タガヤンは教師としても恋愛対象としても人気だ。
タガヤンに迷惑かけてんじゃねぇよとでもいう視線がクラスメイトに向けられている。
「それと、お前は――、一色」
「はい」
「あいつの隣だ。あとあいつは学級委員長だから面倒見てもらえ」
名前を呼ばれて返事を返したら周りがざわめいた。
転入生がそれに不満そうな表情を浮かべて何か言おうとしたけど、俺はその前に手をぱんっと叩いた。
注目を集めて、周りにいう。
「転入生の面倒を見るのは学級委員長の仕事だから、騒がないの。
あとまぁ、面倒起こさないでくれ。俺の責任になるから」
それだけ言えば、このクラスでの問題は割と事足りる。
「そうだよね…。一色君に迷惑かけるのはちょっとねぇ…」
「恵哉に面倒かけたらあいつも切れるだろうしなぁ…」
「一色様の責任になるのは嫌だもんね」
「うん。恵哉様は学級委員長だもんね」
自惚れてるわけじゃないけど、学園内で俺は平凡だろうと慕われているというか、有名な方だと思う。
中学で外部入学してから色々とやらかしたせいもあって、様付けもされるし、注目されているのかよく視線を向けられる。
まぁもちろん、友人とかもいるけどあんまり人付き合い深くしない方だから基本君付け、様付けで呼び捨ての人は割と少ない。
「うん、よろしい」
にっこりと笑って告げれば、周りが騒ぎ出した。
成績が落ちない限り、Sクラスは中学からの持ち上がりだし、中学一年で学級委員押し付けられてからずっとやってる。
だから、クラスの連中とは特に仲良いと思う。
そんな風に場を収めていたら、
「なんかすごいな一色って!!」
キラキラした目で転入生である仲野に見られた。
「別にすごくないけど?」
何だか子供みたいだなと思いながらも返答する。
「一色の下の名前ってなんていうんだ! 呼んでいいか? 俺の事も健人って呼べよ!」
「うん、まぁいいけど」
別に名前の呼び方なんてどうでもいいから適当にうなづく。
なんか落ち着きのない子だなと思いながらも話していたら、
「転入生っておもしれーな」
何か声が聞こえた。
振り向いた先にいるのは、サッカー部エース・北沢。
北沢が転入生に話しかけた事により一気に周りが不穏になった。
おい、北沢。親衛隊の影響考えろ。お前の親衛隊過激派だろと思いながら、ちょっとイラッときた。
「そうか? お前名前なんていうんだ!」
「…北沢、親衛隊の影響考えろ」
転入生と俺が口を開く。
それに真っ先に反応したのは何故か転入生だった。
「親衛隊って、あれだろ。近づく奴の邪魔するような! 雅樹が親衛隊のせいで大変だって――――」
わめきだして、一気に周りの空気が悪くなる。
俺は慌てて転入生にいった。
「健人。親衛隊全体を否定するな。そんなに敵を作りたいのか」
「でもっ」
「親衛隊には過激派と穏健派がいるのは理解しているか?」
そう聞いたらえ、なにそれとでもいう表情をされた。
雅樹ってやつちゃんと説明しろよ。
あれというか、雅樹ってもしかしてFクラスの一匹狼かまさか。
あそこの親衛隊は過激派だもんな。一匹狼の態度がひどいせいで余計に。
「はー、まずな。健人。
お前がいった近づくやつを許さないとか、制裁するのは過激派と呼ばれる分類な?
まぁ、中には崇拝対象を犯したいとか思ってる危ないやつとか、あの人はほかのものになっちゃだめとか思ってるやつもいるんだけどな
過激派って危ないやつもいるが大体は崇拝対象の対応の酷さにも原因がある」
「対応の酷さ?」
ちなみに説明中北沢は黙っている。
うん。北沢の親衛隊過激派だもんね。だからか変な顔して俺の話を聞いてる。
「親衛隊は守るための意味も持っている。この学園ちょっと他と違うだろ?
だから強姦を防ぐために守るってのもあるんだ。
なんだかんだでこれは過激派にも穏健派にも言えるけど、親衛隊は対象の貞操を守っている。
そして親衛隊は普通公認性でな?作っていいといわれたから作るんだ。中には非公認もいるけど、それは例外。
で、せっかく許可して作ったりしててもな。
この学園の親衛隊もちって親衛隊嫌いが多いんだ」
一つ一つ説明していく。
「そこにいる北沢と、あとお前がいってた雅樹……一匹狼の親衛隊も過激派だな。
二人とも親衛隊嫌いだから。でも嫌ってるだけなら…まぁ、よくはないけどまだマシ」
「マシって?」
「中には親衛隊を利用しておきながら嫌ってるやつもいるからな?
特に生徒会の連中は親衛隊が好意を持ってて断れないのわかってるから、セフレにしたりして利用するだけしてるわけだ」
「え?」
「親衛隊の子には下心満載で押し倒したいとか、顔目当てとかもいるけどな?純粋に恋心とか尊敬持ってるやつもいる。
そういう子達は、見てほしいから、好きになってもらいたいからとか思いながらも手伝うんだ。
いう事聞いてるうちに見てくれるんじゃないかって。健気だろ?」
俺は親衛隊は、別に嫌いではない。
確かに押し倒したい、とか終始思ってる危ないやつとかいるけど純粋に思ってるやつもいる事知ってる。
「そういう親衛隊が特に過激派に走るんだ。自分が尽くしてるのに見てくれなく て、嫌われてるのに簡単に近づく存在が居たら嫉妬するだろ? だからまず生徒会の親衛隊は過激だ」
「え、じゃあ依織も最低なのか!」
「……あの親衛隊もちの名前は人前であまりだすな。あと批判もしない方がいい。
副会長はうーん、そうだな。結構利用してるしセフレはいるよ。
まぁ、セフレとかも結局本人の自由だから人がどうこういう必要はないだろ。
親衛隊は好きだから抱かれるだけでうれしいって思ってる子も結構いるから。
むしろ今の現状でセフレなくしたら暴動起きるしな」
利用されるだけ利用されている。
でもそれでもきっと親衛隊の子達からすれば抱かれるってことは嬉しい事だと思う。
まぁ、尊敬の念な子は別として恋愛感情な子はね。
ご褒美なしだったらさすがに切れると思うよ、親衛隊も。
それに今まであった体のつながりまでなくなったら、ねぇ?
つかナチュラルに副会長呼び捨てとかまさか気に入られたの。
うわー、めんどくさい。
いや、委員長だし、面倒みるけどね。
でも面倒だよ。
「で、こういう過激派以外なのは穏健派って呼ばれてて。数少ないんだけど、対象がきっちりと交流持ってるところが主かな」
「………」
「だからまぁ、親衛隊全部を否定するな。中にはヤバいやつもいるがちゃんといい子もいるからな?」
「…わかった!」
俺の言葉に転入生はうなづく。
うん。うるさいし、ちょっと先走るようだけど悪い子ではないらしい。
というか、誰かが説明しなきゃこれ大変な事になってた気が。うわー、一匹狼何教えてんのって感じ。
「で、北沢。お前の親衛隊過激派だろ。あんまり近づくなよ。健人に苛めうけてほしいのか?」
次に北沢に視線を向けて問いかければはっとなったように俺にいった。
「それは…、一色にだって言えるだろ。ファンがいるし」
「俺は委員長の仕事なの。そもそも俺にはファンが居ようとも問題はない。
一言委員の仕事だし迷惑かけんなって言っておけば問題ない。
それでも何か起こす奴はシメるだけだ」
クラスメイト達みたいに、俺の事慕ってくれてる人がいるのは自覚してる
鈍感じゃないし。様付けされてるのに気付かないとかありえないだろ。
「俺は対処方法あるからまだいい。でもお前、過激派の親衛隊に対する対処方法とかねぇだろ?
ただ嫌悪するだけじゃ何もおさまらないからな」
そもそも中一のときは押し付けられたけど、中二からは委員長をぜひやってくれと言われている。
なぜかというと、まぁ、俺は喧嘩が出来る方だ。
それでいて迷惑かけたやつはムカつくわけで、いい加減な問題児はとりあえずシメたりして、あとクラスメイト何かあるのは嫌だからいろいろと助けたりして――。
まぁ、そうやって信頼されて、悪い気はしないから委員長をやっている。
慕ってくれてるから迷惑かけないでくれって頼みこめばクラスの大体は問題起こさない。
起こした奴は実力行使。
それで事は足りる。
でも北沢は喧嘩とか見るからにできなさそう。スポーツはしてるけど、何だか殴ったらすぐ倒れそう。
高等部からの外部生で親衛隊嫌い。
というか、ノンケだから好意向けられるのが嫌らしい。
こいつはまだクラスメイトになって一か月ちょっとだし、俺の事も詳しく知らないんだろう。
何故か慕われている平凡ってぐらいしか。
「……でも、俺」
「健人と仲良くしたいなら俺もついていってやるから親衛隊と話しあってこい」
「え」
「一人だと不安だろうから、ついていってやるって言ってんだよ」
驚いたようにこちらを見る北沢。
まさかそんな事言われると思ってなかったらしい。
まぁ、委員長でクラスをよくする立場にいなければこんなこと言わない。
学級委員長だから問題起こるのは嫌なのだ。俺は。
「じゃあ、頼む」
「うん。それでいい。話しあい終わってからちゃんと友達だから苛めないでくれって頼めよ
それだけで完璧になくなるとは言えないけど、そこまで過激じゃなくなるはずだから」
素直に頷いてくれたことに満足気に俺は頷く。
「で、健人。こいつが親衛隊と話しあった後に仲良くしてやれよ?
そうするのがお前のためだから」
「わかった!」
返事が良いのはいいんだけど、声デカイ。何で健人ってこんな声デカイんだろうか。
「で、健人。しばらくは学園案内とか面倒を見るし、今日は食堂に一緒に昼食と夕食いくけど、俺普段他の人と食べてるんだ。
今日の昼と夜はそいつ呼ぶけどいいか? 明日からはそいつと二人で食べるから友達作り頑張ってくれ」
「え、何でだよ。恵哉の友達なんだろ。明日からも一緒に食おうぜ!」
「いや、友達じゃないけど」
「何だよ。それ。あ、さっきいってたファンとかか!?」
「いや、彼氏」
そう告げたら何か健人が固まった。
「か、かかか彼氏!?」
「うん。此処がホモとバイが多いって知ってるだろ?
俺バイだから。
あいつも美形だから本当は一緒に食事しない方がいいんだろうけど…、あいつ俺と一緒じゃないと暴れて周りにやつあたりするから…。
でも安心していいよ。あいつのファンはちゃんと制御できるから下手に制裁には走らないから」
基本、俺は食事は彼氏と食べる。
弁当作ったり、食堂だったり、購買だったりはランダムだ。夕飯はほぼ俺の手作り。
クラス違うから食事は絶対一緒がいいってあいつは言ってるから、一緒じゃないとちょっと暴れるんだよね。本当に。
「それでアイツ二人っきりじゃないと基本嫌がるんだ。今日は健人が転入生でなれないからっていうので特例で。
だから明日からは誰か友達作って食べてくれよ?」
「そうか。恋人同士だもんな! びっくりしたけど、わかった!」
ノンケなのに健人、順応はやすぎね?
そう思ったのは仕方ないと思う。なんかすぐ流されて食われて立派なネコになりそう。
俺も中等部からの外部生で、若干びっくりしてしばらくなれなかったのに。
中二の秋にあいつに告白されて立派にバイになっちゃったけど。
「あ、でも俺雅樹に一緒に食べようって言われてるんだ」
「…一匹狼君とは現状で食べる事はお勧めしないよ。というか、人嫌いで有名な彼に何処であったの?」
Fクラスの一匹狼は、初等部からこの学園に通ってる割と有名な美形だ。
人嫌いと噂されているのだが…。
あ、ちなみに恋人もFクラス。あいつ頭悪いから。
「同室なんだ」
「うん。じゃあ一匹狼君には俺から親衛隊と話すように言ってみるね。
あそこの親衛隊は過激派というか、一匹狼君が親衛隊嫌って扱い酷いせいでちょっと…近づいたらリンチ、強姦されても文句言えないからな」
「えー、何それ、こわっ! というか、一匹狼ってなんだよ!」
一々健人って!をつけてしか喋れないのかなと思う音量だ。
同室者なら部屋での関わりは仕方ないとして、掛け合っておかなきゃ確実に親衛隊の被害だろうし。
「一匹狼君の所は、そこの北沢の所より酷い。
一匹狼君が嫌ってるからってちょっと殴ったりしてたから…。
ほら、好きな人に殴られるって健人も嫌だろ?
あと一匹狼はそいつのあだ名的な通称な」
「そんな事してたのか! やめさせなきゃ!」
「うん。注意はいいけど、殴られ犯されないようにね。下半身ゆるいらしいから。
あと話すなら寮室以外では駄目だからね。あと煩いから声おさえてくれ」
一匹狼君はFクラスでもちょっと一目置かれてる。ちょっと浮いているというか。そんな感じ。
親衛隊が嫌いだからって殴ったりしてるし、でもそのへんで気にいった自分のファンいたら食ってるらしいし。
下半身緩々な奴って俺あんま好きじゃないけどね。あいつが浮気したら即別れるって言ってあるし。
「お、おかっ」
「初なのはわかったけど、そのくらいで顔真っ赤にしてたらすぐ食われるよ。抵抗する油断持ってなきゃ。
この学園には誰でもいいからって襲うバカも居るから。
とりあえず、一匹狼の親衛隊は自分が近づけない存在に簡単に近づく存在が健人みたいな外見してたらすぐ制裁するからね。
本当に一匹狼君と食事はやめようね?」
犯される、発言に顔を真っ赤にした健人。
そんな無防備じゃすぐ食われちゃうよ?本当にすぐにネコにでもなりそうだ。
「で、一匹狼君と一緒に食べるって待ち合わせか何か?」
「あー…。迎えに来るって言ってた?」
「……連絡先は?」
「……知らない」
どうしようとでも言う風に、健人は俺を見た。
連絡先ぐらい聞いておけよと思いながらも俺は仕方がないと告げる。
「うん。わかった。じゃあ俺の彼氏もFクラスだからちょっと頼みこむ」
あいつも俺の頼みなら断らないし、何て思いながらもさっさと電話をかけた。
『……恵哉』
「灯。ちょっと頼みごとあるんだけどいい?」
電話をかけて、俺の名を嬉しそうによんだ灯に早速用件を伝えた。
周りの生徒達とか、健人は「彼氏とどんな会話をしているか気になる」とでも言う風に静かだ。
俺と灯ってある意味有名だしね。
『頼み?』
「うん。灯のクラスに一匹狼君って居るだろ?
今日来たうちのクラスへの転入生が一匹狼君と食事の約束してたらしくて…。
でも親衛隊が煩いだろうから、転入生と一緒に食べないようにしてくれっていっといてくんない?
あとは仲良くしたいなら親衛隊をどうにかしてからにしてといっといて。俺の名前出していいから」
『わかった』
「うん。ありがと。じゃ、灯。昼食は食堂待ち合わせな」
『ああ』
返事を聞いて、そのまま電話を切る。
灯なら一匹狼君にちゃんと説明してくれるだろうし、これでひとまずの問題なしかな。
うん、とりあえずこれでオッケーかな。
何て安心して、俺は満足気に笑った。
後からそれを後悔するんだけれども。
ええ、それはもう副会長の名前を健人が呼び捨てにしたのを一匹狼君の対応とかで忘れてしまった自分を怒りたい。
*
昼休みになった。
灯とは食堂で待ち合わせだから、俺は健人を連れて食堂に向かう。
有名とはいっても俺は外見が平凡だから、名前は知ってるけど見た目知らないって人も結構いる。
そりゃ、有名だろうと誰にでも知られてるなんて生徒会みたいに自意識過剰でもないし?
「恵哉!! 恵哉の彼氏ってどんな奴なんだ!」
「声でかいから、抑えて」
好奇心が高いのか声をあげる健人に思わず口を開く。
いや、本当うっさい。
大声に迷惑そうに同じように食堂に向かってる人達が眉をひそめてる。
この学園、金持ちの息子ばかりでマナーは皆出来てるものなのだ。
健人はなんか、見るからに出来てないけど。
公共の場で大声出すのやめろと言いたい。
「う、ご、ごめん」
「ま、わかればいいけど、注意しても声あげすぎ。
で、彼氏だっけ? そうだね、不良だよ。かっこいいけど。アイツ頭悪いしFクラスだしな」
「そうなのか!」
「うん。一々反応でかすぎ。声おさえてって何度言えばわかるの」
「う、ご、ごめん」
「謝ってもなおせなきゃ意味ないからな?」
健人は…、悪い奴ではないっぽいけど色々となんだろう子供?
俺長男で、下に3人いるんだけど、健人って弟みたいな感じな気分。
うっさすぎてちょっと苛々するけど。
そんなこんな話しているうちに食堂に到着する。
俺は平凡だし、健人は毬藻って感じだから周りから視線はない。
いや、俺を慕ってる子は嬉しそうにこっちみて騒いでるけど。
灯と一緒に入ったら凄い騒がしいけどね。
俺って何処にでもまぎれる顔だから。
友人に「動かなきゃ平凡」とか言われたし。
さっさと席を探して、二人で腰掛け、注文の仕方を健人に教える。
「オムライス食う!」
「うん。何食べてもいいけど、本当煩いから声小さくして」
目をきらきらと輝かせる姿は何て言うか本当小学生みたいだった。
何でこんなきらきらしてるんだ。オムライスぐらいで。
後何故に風紀と生徒会しかもてないブラックカードなの。健人って。
おかしいよね。確実に。
あ、ちなみに俺は特待生なんで、ブラックカードより一つランクが下のカードです。
聞いたら理事長が叔父で渡されたと…、身内贔屓してんじゃねぇよって思ったのはきっと俺だけじゃないはず。
俺は無難なA定食を注文。
灯はまだ来ない。喧嘩でも売られて遅れてるのかもしれない。
昼食が届くまで、健人とただ会話を交わしていた。
ただ何度言っても結局でかくなる声はどうにかならないの?と思う。正直言って。
うん。クラスメイトだから面倒見るけど、うっさいし俺委員じゃなきゃ交流持たなかったな。
何てちょっと冷たい事を思いながらも、健人の言葉に相槌を打つ。
そうしていれば、
「きゃああああああ」
「会長様抱いてぇえええ」
「可愛い」
「かっこいいいい」
一気に周りが煩くなった。
どうやら生徒会が来たらしい。まぁ、関係ないかと思っていたんだけど…。
「健人!!」
何で副会長さんが、健人の名を呼んでこっちきてんの。
「依織!」
そして副会長の名をナチュラルによんだ健人。
俺が思わずばしっと頭をはたいたのは仕方ないと思う。
「健人…苛められたいのか!」
あーそういえば副会長の名をよんでたじゃん、健人は。
一匹狼君の対応してすっかり頭から消えてた。
「あ、そうだった…」
「そうだったじゃない!」
周りは副会長の名を呼んだ健人に、ざわめいている。
生徒会はあんなんでも生徒たちの憧れだから周りからの誹謗や睨みが酷い。
「君、何健人を叩いてるんですか」
ギロリっと近づいてきた副会長に睨まれた。
全然怖くねえよ。
「生徒会の皆様は健人に苛めをうけてほしいのでしょうか?
このような場で見た目が整ってるとは言い難い健人に近づくという事はそういう事ですよね?」
ため息交じりにそう言い放つ。
周りがシンッと静まり返っており、生徒会の面々は表情を歪めた。
「そんなの僕が守る」
「副会長、生徒会の親衛隊がどれだけいるか理解してますか?数で来られたら守れないに決まってるでしょう。
第一、生徒会の親衛隊は躾がなってないんですから、健人と仲良くしたいなら躾てからにしてください」
馬鹿な副会長に思わず呆れたようにそう言いきった。
だってさ、躾をしてない親衛隊が居るのに守れるって思ってる時点で滑稽。
「なっ…君、平凡の癖にっ!」
「貴様、面白いな…」
副会長、会長の台詞だ。
副会長は、まあ通常通りだからいいとして会長、面白いって何だ。
お前になんか気にいられたくねぇよと思いながら俺は冷めた目を二人に向ける。
ちなみに双子と無口書記とチャラ男書記は何も喋ってない。
面白そうにこちらを見てる。
「平凡って、恵哉の事馬鹿に――」
「はい。健人ストップ。転入したばっかで突っかかるのはやめよう。確かに正論だけど」
「君もそれ言えるんじゃないー? 制裁受けちゃうよー?」
下半身が緩すぎる馬鹿なチャラ男は俺に向かって面白そうに笑っている。
つか、女相手だろうと男相手だろうとセフレ作ってる時点で何か…、うわーって俺は思う。
「ご心配いただかなくても結構です。俺は一色恵哉ですから。親衛隊の対処の仕様はあります」
一色恵哉。
その名前に、周りが一瞬固まったのを理解する。
やっぱり、入学してすぐの現状では名前ばかり有名らしい。
「え、君が一色恵哉なのー?」
「「わー。本当に平凡なんだね」」
「……たし、かに、対処できる」
上から下半身書記、双子、無口書記である。
健人はわけのわからないって顔をして俺をみてる。
「え、恵哉ってそんな有名なのかよ!」
「まあ、中学時代から色々やらかしてたし?」
実際、俺は中学時代かなりやらかしていた。
何て言うか、顔良い連中とも仲良くしてたら親衛隊うっさかったし。
それで色々対処しているうちに有名になったり。
「最初斎藤灯とガチで喧嘩してて風紀困らせてたんだよねー確か」
チャラ男にそういって笑われた。
「「それなのに今カップルなんだから一色恵哉って面白いよねー」」
双子は楽しそうに俺を見ている。
健人だけは「え、彼氏と喧嘩してたのか!?」と驚いた声をあげているけどさ。
まぁ、この学園に通ってる大多数は俺と灯の馴れ初め知ってるし。
灯の奴喧嘩大好きだし、俺も暴れるの大好きだし…。
学園では平凡だから目立たないって感じだったのに、夜の街で灯に出会ってから色々あった。
初対面でほぼ互角にやりあったせいで探されて、同じ学校だって知られて喧嘩売られて…。
出会う度に喧嘩売られて、やりあってたから風紀にかなりお世話になった。
その後灯以外の親衛隊持ちにもあって…、灯の所はともかく後の親衛隊は面倒だった。
つか灯の所は例外。あそこ不良ばっか。いや、ちわわ系男子も居るけど。
隊長、副隊長、幹部全員不良。何故かというとあそこのトップは喧嘩で決まる。
ちわわたちは下っ端にしかなれない。
灯が制裁嫌ってたから制裁したら隊長にぶん殴られる。
喧嘩の強さに憧れたって奴が多いから灯の親衛隊の連中は俺にも普通に態度はいい。
あと俺は平凡だし親衛隊はないから俺のファンも灯の親衛隊に入ってるらしい。
「で、俺と灯の事はどうでもいいんで、あんたら生徒会はさっさと役員席にいってください。健人は俺のクラスの生徒ですから、委員長として面倒な事になるのは困るんです」
俺はきっぱりと彼らを見て告げた。
何だか会長が俺を見てニヤニヤしているのが気持ち悪い。
親衛隊食いまくってるバ会長が俺をそんな目で見るな。
「お前本当おもしれぇなぁ。斎藤やめて俺のものになんねぇか?」
「お断りします」
あほな戯言を言い始めた会長をばっさりと切る。
大体灯だから、俺は男と付き合おうと思ったんだ。会長ごときが俺の灯の代りになるわけねーだろ。
そんな風に思いながらめんどくせーなとため息をつく。
そんな中で、食堂がざわめいた。
そちらを振り向けば―――、
「――……恵哉、何で、生徒会いんの」
俺の彼氏でもある斎藤灯が真っすぐにこちらに向かってきた。
恵哉は銀髪に髪を染めている。似合ってるから全然いいと思う。
平凡顔の俺と違って、顔立ちは整っているし、ランキング上位者だから生徒会に入れたんだよな。
まぁ、面倒だしって断ってたけど。
「健人――転入生をお気に召したらしくてね。めんどくさい」
「…ふぅん?」
あ、なんか灯が不機嫌そうな顔して健人を見てる。
灯は結構嫉妬深い。多分健人に嫉妬してるんだろう。
「お前が、恵哉の恋人なのか!」
そして、健人。声でかいのどうにかしてくれ。
「恵哉、なにこれ」
「転入生」
「これなんて人にいっちゃいけないぞ!」
つか健人少し黙ってほしい。
灯が不機嫌な顔してるし。
ただでさえ昼食が二人っきりじゃなくて機嫌悪いのに。
「恵哉、これ煩いから嫌い」
「そうか…。まあ、今日だけだから我慢しろよ?」
生徒会も健人も無視して俺の隣に座り、灯は俺にだけ話しかける。
俺もあんまり特定の人とずっと一緒にいるとかしないけど、灯は俺以上にそうだ。
あんまり他人に興味ないらしい
「何でそんな――」
「はいはい。健人は黙って。灯が不機嫌になるだろ」
そういったらショック受けた顔された。
うん。クラス一緒だから面倒見てるだけだから普通に健人より彼氏の灯の機嫌を優先させるの当たり前じゃない?
健人って煩いし、うちのクラスへの転入生じゃなきゃ放置してたし。
「よお、斎藤。そいつくれねぇか?」
「あぁ?」
「会長、黙ってください。凄く不愉快です」
まだ戯言を言っている会長に、灯と俺は同時に口を開く。
あー、灯がまた不機嫌になってるし。
「俺様の方が――」
「灯」
会長が何か言ってるけど、とりあえず無視。
俺は灯の名を呼んで、そのまま俺より背の高い灯のネクタイを引っ張る。
そして、口をふさいだ。
「今夜、俺の部屋に泊っていいから機嫌なおせ。俺の事好きにしていーぞ?」
そういって、ニヤリッと笑ってやる。
そうすれば灯の目が、ギラついた。
欲情でもしたのかねぇ…。でも襲うのは学校終わってからにしてくれ。
俺真面目に授業受けてるんだ。
「きゃああああ」
「一色様と斎藤様ラブラブ」
「あの斎藤灯にあんなこと出来るなんてすげぇ…」
なんか周りが騒いでるけど、とりあえず無視。どうでもいい。
あと健人は何を真っ赤にして口をパクパクしてるんだ。
まぁ、そのおかげで会長の興味がそっちにいって助かったけど。
この学園に珍しいぐらいの純情だから、興味持ってんだろ。
健人っていつか必ずぱくって生徒会の人達に食われそう。
「で、生徒会の皆様。健人の事気にいってんのはどうでもいいんだけど、関わるならしっかり親衛隊と話してください。
出来ないなら、あなた方の秘密ばらさせていただきます」
こいつら全然この場からのけようとしないから、そう言ってみた。
秘密は知り合いの情報屋に調べてもらったら出てきた。
「あ? 秘密って――」
「会長様は小学五年生の時に今川睦――」
「ちょっと待て!!」
「はい。これをばらされたくなかったら失せてください」
情報って凄い武器だと思う。
あの俺様会長が凄い青ざめてる。
他の連中にも似たようにやった。まぁ、副会長にそうやった時点で、他の人達はさっさとずらかったんだけどな。
その後は俺と灯と健人で食事した。
灯は全然健人とは喋らないで、俺にばっか話かけてた。
俺も灯の話の方が優先だから健人の声には適当に返事を返すだけだった。
まぁ、その後、一応周りに俺に迷惑かけるなと言って健人に手を出さないようにいっといた。
昼食で俺と灯があまりにも健人を無視して二人の世界を作っていた事に同情して健人に友人が出来るのは別の話だ。
end
一色恵哉。
学級委員長。喧嘩は学園でもトップクラス。
灯と付き合ってる。
ファンは結構居る。クラスメイトとかには割と優しいけど、一番の優先は灯だから灯が居る時は他の人の話はあんま聞かない。
情報屋と知り合いで仲良し。
斎藤灯。
Fクラス。見るからに不良。喧嘩は恵哉同様学園でもトップクラス。
恵哉以外に基本興味ない。一応友人は居るから一匹狼ではない。
恵哉の事が大好き。
親衛隊持ち
健人
転入生。声でかい。アンチではないけど、煩い。
灯の親衛隊。
不良多い。喧嘩が強い奴が隊長や幹部になれる。
制裁した奴はぶん殴られる。ちわわは下っ端にしかいない。
恵哉のファンも入ってて、「恵哉と灯の喧嘩の強さに憧れる不良」と「灯と恵哉にキャーキャーいうちわわ」達が恵哉と灯の仲を見守っている。
恵哉も有名で割と人気者だから誰も灯と付き合っている事に文句はない。
寧ろ灯は恵哉が居ないと凄い暴れて隊長(舎弟的存在)達が殴られるため別れないようにと二人の仲をさく奴はとりあえずシメる。
生徒会。
会長→興味もったらすぐ手を出す節操無し。
副会長→自意識過剰なナルシスト美人。
チャラ男→遊び人。面白ければよしな愉快犯。
双子→悪戯大好き。会計と仲良い(同類的な意味で。よく一緒に人をかきまわしてる)
わんこ→無口。警戒心強いけど、なついたらべったり。