気まぐれな猫と飼い主 4
「秋川昌、ちょっとついてきて」
栄司さんのいる学園に入学して、生徒会補佐になって、一週間がたったある日。
俺はそうして呼びだされた。
多分、栄司さんの親衛隊かな? と思いながら俺はついていく。
制裁って、たまにリンチとか強姦あるらしいけど、俺これでも不良やってたし、思いっきりぶちのめしちゃう。そんな事になったら。
それにしても親衛隊って栄司さん大好きーって集団だよね。俺と一緒。
そんな事を思いながら、ついていった先は、人気のない裏庭だった。
「ぱっと出てきて龍院堂栄司様の恋人なんてっ」
「僕なんて三年以上もあの方を思ってたのにっ」
「あんたを認めない!!」
何人かの親衛隊メンバーが俺を囲んでそんな事を口々に言う。
折角可愛い顔してるのに、嫉妬で何だか怖い顔をしている親衛隊の子達。
「んー、認めてもらわなきゃ、困っちゃうなぁ…。
俺あなた達と仲良くしたいなーって思ってるんだー」
「は?」
「仲良くしたい?」
「うん。だって、俺と一緒で栄司さん大好きな人達でしょ? 俺栄司さん大好き。寧ろ栄司さんさえいれば他に何もいらない。
俺の絶対は栄司さん。栄司さんのそばにいるだけで、すっごく幸せ。
栄司さんが望むなら、俺はなんだってする。栄司さんは、俺の全てだから」
本当に、栄司さんは俺の全てなんだ。
家族も友達も、大事といえば大事だけど、俺の唯一絶対は栄司さんだけだ。
他の人間と縁が切れてもきっと俺は生きていける。
でも、俺の世界は栄司さんがいなきゃ色をなくす。
俺の特別は栄司さんだけ。俺が求めるのは栄司さんだけ。
笑っていった、俺の言葉に、親衛隊の人達が呆気にとられたような表情を一瞬浮かべた。
そうして、はっとしたように表情を作って、彼らはまた言う。
「あ、あんたが龍院堂様を大好きだろうと僕らには関係ない!!」
「僕らだって、龍院堂様が好きなのに!!」
「龍院堂様は、誰のモノにもならないって思ってたのに、何で!!」
栄司さんが大好きだから、この人たちは俺に嫉妬してる。
それがわかるから、憎むとか、そういう感情はわかない。
「栄司さんが、俺のモノなんじゃないよ? 俺が栄司さんのモノになった。それだけだよ。
嫉妬してるっていうなら、俺に思いっきりぶつけていいよ。リンチとか強姦とかそんなのは勘弁だけど、思いっきり言葉をぶつける、ってだけなら幾らでも矢って構わないよ。
それだけ、俺の存在が納得できないぐらい、栄司さんの事好きなんでしょ?」
栄司さんの恋人なんだって認めてもらいたい。
他でもない、栄司さんを大好きだっていう親衛隊の人達に。
そして、仲良くなりたい。
だって、栄司さんについて思いっきり語れるお友達が出来るって事になるし、仲良くしていた方が色々と都合がいい。
まさか、そんな事を言われると思わなかったのか、歪む顔。
そんな中で、リーダー格の一人が、口を開く。
「…これで、リンチとか強姦するっていったらどうするつもりなんだよ」
「え、思いっきりぶちのめすよ? 俺これでも喧嘩強いからね。
栄司さんが中学から此処入って、寂しくて夜に喧嘩してたからね。一応元ヤンだし」
にこにこと笑いながらそんな事を言う俺である。
ちなみに俺って結構夜の街じゃ有名らしいよー?
いくつかの暴走族とかあと、その辺の不良とか有名所と仲良くしてたし、追いかけられてたしね、結構。
俺、野良猫らしいよ、通称。
気まぐれに自由気ままに出没したりするからなんだって。
ま、俺の居場所は栄司さんだけだしね!
「ねぇ、あなたたちは栄司さんの何処が好き?」
驚いたような顔で固まっている人達ににこにこしながら問いかける。
そうして、また何を言い出すんだ、という目でこっちを見てくる親衛隊の人達に向かって口を開く。
「俺はねー。栄司さんの好きな所いっぱいあるんだよ。
栄司さんのね、性格も好きだな。容赦ないし、他人に興味ないのに、俺の事可愛がってくれて、本当かっこいいよねー。
いつも堂々としてて、俺入学式で栄司さんに見惚れちゃってたもん。
制服姿の栄司さんも本当かっこいい。何着ても似合うって本当に栄司さんってかっこいいよねー。私服ももちろんかっこいいんだよ。
一緒に洋服買いに行ったりするとき、たまに俺が栄司さんの服選んで、栄司さんが俺の服選ぶってするんだけど。そのファッションセンスもいいよねー。
俺に似合うの選んでくれるんだ。
あとね、栄司さんの声好きかなぁ。あの声でささやかれるともう、ときめいちゃうんだ、俺。
色気たっぷりで、美声だよね、本当。俺耳元でささやかれると毎回ドキドキしちゃうんだよねー」
にこにこと笑って、栄司さんについて一気に語り出せば、親衛隊の子達が固まっているのがわかる。
そんな彼らに俺は続ける。
「喧嘩してる栄司さんもね、滅茶苦茶かっこいいんだよ。
もう、強くて、喧嘩してる時の眼見ると胸がしびれるっていうか、もうね、ほれなおしちゃうよ。
俺ね、栄司さん以上にかっこいい男の人っていないと思うんだ。
運動もできるし頭もいいし、顔もかっこいいし、栄司さんって本当完璧だよね。
でもそれだけじゃないんだよ。一つ一つの仕草は本当かっこよくて、俺釘付けになっちゃうんだ。栄司さんが傍にいると。
どんな事してても様になってて、もう、ずっとずっと昔から栄司さんの事大好きなんだ。
あと、中学生の頃に――」
「わ、わかったから! あんたがどんだけ龍院堂様が好きかわかったから!!」
「ちょ、な、何そのマシンガントーク!!」
「ど、どんだけ語るの!?」
これからが本番なのに! 途中で中断されてしまった。
うーん。俺つい栄司さんについて語っちゃう事あるんだけど、呆れられちゃうんだよね、聞いた人に。
そして必ず言われるのが”どんだけ好きなの?”とか”どんだけ惚れてんの?”なんだよね。
しかも呆れ顔で言われるんだよねー。
でも、栄司さんって超かっこいいんだよ?
俺幾らでも栄司さんについてなら語れるよ。
「まだまだ語り足りないのに……」
「え、ま、まだ語れるの?」
「さ、流石に僕もそんなに語れない」
「ま、負けた」
呆れたような、悔しそうな表情を浮かべる親衛隊の子達。
「ね、俺ね、親衛隊の事聞いて、大好きな栄司さんについて語れるお友達出来るんだって嬉しかったんだ。
だからさ、ね。お友達になりたいなー。親衛隊の皆さんと」
にこにこと笑いかければ、またもや呆れた顔をする親衛隊の子達。
そうして、次の瞬間、彼らは笑った。
「…し、仕方ないなぁ。そんなに言うならお、お友達なってやってもいいよ」
「……うん、なんか負けた気がする」
「あんた、本当に龍院堂様の事、好きなんだな…」
そんなこんなで、俺は呆れながらだけど親衛隊の子数名とお友達になったのだった。
end