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片羽では羽ばたけない。

 僕らは、二人で一人。

 だって、僕らは片羽では未熟な、羽を欠けた蝶のようだから。

 僕が、彼を助けるの。

 彼が、僕を助けるの。

 そして、僕と彼は一人前になる。

 中途半端で、互いが出来ることとできない事がきっちり分かれている僕らは、完璧になるために二人になった。

 僕らは二人で一つ。

 僕らは互いがいればそれでいい。

 僕は、彼と手を取り合って、そして一羽のはばたく蝶となる。

 僕と彼は違うけれど、手を取り合って、一つになるの。




 「転入生が来る」

 そう、会長が告げたのは放課後の生徒会室だった。

 「「えー、ほんと? 珍しいね?」」

 僕――山梨刹ヤマナシセツと彼――山梨烈ヤマナシレツは手を取り合って二人で同時に言葉を放つ。

 別に無理して合わせているわけではない。ただ、僕らは片方だけでは未熟だから、完璧になるために、二人で一つになる――…。

 これは、僕ら自身が望んだこと。

 「この時期に転入生ですか? 珍しいですね。いつですか?」

 「明日だ」

 「はい?」

 「何でも理事長の甥っこだそうだ。お前が迎えにいけ」

 副会長が、偉そうに笑う会長にそう命令される。

 会長は本当に偉そうである。

 「何でそんな突然――」

 「知るか、いいから行け」

 「かいちょ、……おうぼ…」

 副会長の文句に会長がばっさりと言い放った後に別の声が振ってきて、頭の上に重みを感じた。

 「会長って本当横暴だよね、ひーくん」

 「ん……」

 何故かべったりと僕にひっついているひーくん(同じ年の書記・本名比佐)。

 そんな中で、烈が目を細めて、僕の手を離したかと思うと、ひーくんに近づく。

 「ひーくん、何してんのかなー?(刹に何でべったり近づいてんのー?僕のお兄ちゃんにひっつきすぎだよー?)」

 「ん…、れ、つに、かんけ、ない(刹にひっついてても烈に関係ないじゃんか)」

 ひーくんと烈は仲良しだけど、たまに何故かにらみ合っているんだよなぁ。何でだろう?

 「わかりました…。仕方ないです。行きます」

 副会長はそういって渋々頷く。

 その眼光が鋭く光ったのを僕は見逃さなかった。

 きっと、押し付けられたことにめんどくさいと思っているのだろう。

 「転入生どんな子だろうねー。ひーくん、烈」

 「ん…」

 「うちに転入してくるなんて滅多にいないから興味あるよねー」

 にこにこと笑って、烈も僕の言葉に頷いてくれる。

 でも何で烈のひーくんを見る目はなんか鋭いんだろう?

 それにしても本当にどんな転入生が来るんだろう?




 


 「「副会長どうしたのー??」」

 次の日、転入生を迎えにいって、その後、にこにこと笑っている副会長を見てびっくりした。

 というより、普段こんな笑顔を浮かべる事はないから何だか少し不気味だった。

 僕と烈はソファに並んで腰かけて会計の仕事をしていたんだけど、二人して思わず副会長の笑顔にびっくりちゃった。

 とはいっても、笑ってるのみて気持ち悪いなんていう非常識でもないから問いかけたんだけどね。

 「どうしたって何がですか?」

 「笑顔だ、笑顔。なんだその気持ち悪いほどにゆるみきった顔は。お前、どうした?」

 わー、会長はっきり言いすぎ。

 怪訝そうな顔をして副会長を見やる会長を見て思う。

 「それがですね、転入生を気にいったのです」

 にこにこと笑う、副会長にへぇと思う。

 副会長って潔癖っぽい所あるし、親衛隊とかも嫌っててあんまり人を寄せ付けたがらない感じなのに気にいったんだって正直に驚いた。

 「副会長が気にいるって珍しいねー。どんな子なの?」

 「確かに気になるねー」

 烈の言葉に僕もそういう。

 「ん…めず……らし」

 昼休みに副会長が気に入った子が気になったから、皆で食堂に行くことになった。

 僕はぎゅっと烈と手を繋いだまま、歩く。

 「刹様と烈様、今日も仲良しだなぁ」

 「キャーー、会長!!」

 「副会長様ぁあ」

 「書記様!!」

 騒がれるのにもすっかり僕らはなれている。

 それにしても、烈と仲良しって言われるのは嬉しい。

 烈は僕の大事な半身。僕の唯一の片割れ。そして、僕の片羽。

 「転入生どんな子なんだろうねぇ、烈」

 「だねぇ、刹」

 にこにこと笑って僕らは歩く。

 「きゃあああーー」

 食堂に入ってからの男とは思えない叫び声。

 すっかり慣れてしまったけれど、よくあんな声出せるなぁと思う。

 でもこの学園の環境も外と比較したら何だか面白いから、僕も烈も楽しんでいるけれど。

 「光!!」

 副会長が突然嬉しそうに声をあげたかた思うとスタスタと歩いていってしまう。

 何を考えているんだろう…? 転入生を危険にさらしたいのかな、副会長って。

 僕にはどうでもいいけど、副会長のお気に入りらしい生徒がどうなろうとも。

 そんな事を思いながら僕達は副会長の後をついていく。

 「幸太!!」

 「光、会いたかったですよ」

 副会長はそういって、一人の生徒に近づき顔を緩める。

 「「毛玉? うわ、不潔ー…」」

 「……きた、な…ぃ」

 そういったのは、僕たち双子とひーくんだった。

 もちろん、本人に聞こえないようにいったんだけどね。

 あ、でもあまりの外見に顔しかめちゃった。

 だって、転入生の外見って不潔なんだもん。

 瓶底眼鏡かけてるし、明らか鬘とも言える汚いの被ってんだよ?

 変装するにしてももっとやりようがあるだろうし、何よりも汚い。

 「はっ、こんなのをきにいったって言うのかよ。趣味わりぃな」

 会長はばっさりと本人に言い放つ。

 本当に会長って本人の前でもそんな言うよなぁと思う。

 「何を言うのです!! 光は凄く可愛いのですよ」

 「ねー、烈。副会長目イっちゃったの?」

 「さぁ? でも正気に見えないよねー。あんなのが可愛いって」

 「どう、か…ん」

 小声で話してるんだけど、また僕に何かひっついてきたひーくんには聞こえてたみたいで、ひーくんは頷きながらそういった。

 「人を見た目で判断するなんて最低だ!」

 あ、何か転入生が叫んでる。

 ちなみに僕らは後ろでボソボソ喋ってるんだけどね。本人に不潔とか言うのもちょっとひどいかなーって思って。

 「見た目っていうか、身だしなみだよねー…」

 「だねー、刹。てか、何あのわかりきった変装…。かなり謎なんだけど」

 「だよねー。というか、会長に殴られるんじゃない? あんな口聞いたら」

 そんな会話を後ろで顔を寄せ合って、手を繋いで話していたのだが、

 「ふっ、俺にそんな口を聞くなんてお前気にいった」

 会長は予想外の事をいった。

 そして、ブチュッと毛玉にキスをかわした。

 しかも、

 「――っ」

 ディープキスである。

 内心えぇええ? である。

 初対面でディープキスかましちゃうんだ!? って本気でびっくりした。

 「…初対面でベロチュー?」

 「凄いよねぇ、烈…。会長って何か色々行動が予想外で面白いけど、何か転入生哀れに思えてきたかもー」

 「だよね、刹。好きな人とかならともかくそうじゃないのにキスされるとか何か嫌だよねー」

 「うん、嫌だなぁ。僕誰かに無理やりキスされたらショックでひきこもっちゃう」

 「だよねぇ。僕も嫌だなぁ」

 ちなみに僕と烈は、経験がないわけじゃないけど好奇心で経験しただけで、キスは好きな人とがいいなーって取ってある。

 そんな取ってあるファーストキスを誰かに奪われるとか絶対嫌だよね!

 「な、何すんだよ!!」

 転入生がそう叫んだかと思うと、バキッという打撃音が響く。

 それと同時にぶっ飛んだ、会長…。

 「会長ぶちのめしちゃったよ。転入生ある意味勇者」

 「だねぇ…。親衛隊黙ってないだろうしねぇ。まぁ俺らにはどうでもいいけどねー」

 「だよねー」

 何て、後ろでこそこそ話していれば、

 「なぁ、お前らは名前何て言うんだよ!」

 ブッ飛ばした会長そっちのけで転入生に話しかけられた。

 転入生、会長放置…? いいのかな、それ。

 「僕らはー」

 「山梨烈と」

 「山梨刹だよ」

 「「よろしくー」」

 なんだろう、この子っては思ってるけど自己紹介をする。

 「……お、れなか、た…ひ、さ」

 「刹に烈に比佐だな!

 俺は光だ。よろしく!」

 おお、いきなり呼び捨てかぁ…。これは親衛隊荒れるかもなぁ。

 でもまぁ、転入生が親衛隊に制裁されようとも別にどうでもいいけれど。

 「「うん、よろしくねぇ」」

 「ん……」

 周りが、僕らがあいさつしたからって騒いでるのがわかる。

 後で僕らの親衛隊にお話しにいこー。会長達の親衛隊が制裁しててもどうでもいいけど、僕らの親衛隊が制裁って何か気分悪いしねー。

 「お前ら、無理して二人一緒ってしなくていいんだぞ!!」

 突然、手を繋いで笑った僕らに転入生はそういってきた。

 って、えぇえ? 突然何を言ってるんだろう、この子。と正直思った。

 「無理ってー。何かなー、烈」

 「さぁ、僕にはわかんない?」

 「だよねー」

 「「ってことで、転入生無理してるってなぁに?」」

 よく意味がわからなくて問いかける。

 「お前が刹で、お前が烈だろ!」

 何だか一人一人指さしてそんな事を言い出した転入生。

 正直に言うと僕と烈は転入生が何をしたいのか理解できない。ぶっちゃけ、よくわからない。

 ひーくんなんて何こいつとでも言うようになんか転入生を見ている。

 「確かに僕が刹で」

 「僕が烈だけど」

 「「それがどうしたの?」」

 「だから、それやめろ! 無理してるんだろ! お前らは別々なんだから!」

 「「えーっと?」」

 内心、えー、何この子である。

 僕ら正直よくわからない。この転入生が何を言いたいのか。

 後なんで副会長や転入生と一緒にご飯食べに来てた二人に睨まれてんの、僕ら。

 あ、でも転入生に連れられた一人は何だかめんどくさそうに転入生を見てるけど。

 「ねぇ、烈、無理ってなぁに?」

 「さぁ、僕にはわかんない」

 「だよねー」

 「「ってことで転入生僕ら無理なんてしてないけど?」」

 そもそも僕と烈が別人な事ぐらい当たり前だし?

 僕らは二人で居たいから一緒に居るだけだしね。

 隣に居るひーくんなんて、冷めた目で転入生見てるし。ひーくん、そんな目で見ちゃだめだよ!

 「何でそんな事言うんだよ! 正直に言えよ! 前の学校の奴らも――」

 「お前ら光がいってんのに何でうなづかねぇんだよ」

 あ、ブッ飛ばされた会長が復活してる。

 でも何で僕ら睨まれてるの? 正直意味不明っていうかねぇ?

 それに会長って暴走族のトップなんてのもしてるらしいんだよ?

 そんな人に睨まれるとか僕怖い。

 一応僕も烈も護身術習ってるけどさ。会長には勝てないだろうし。

 というか、何で僕ら睨まれてるの?

 隣の烈もびくっとなってたけど、僕らはぎゅっと手を繋いで、心を平穏に保つ。

 ―――大丈夫、僕らは二人なら何だってできるから。

 「「もー、何で会長そんなに怒ってるの?

 僕ら実際わけわかんないんだもん」」

 無理なんてしていない。寧ろ二人一緒じゃなきゃ、僕らはできないこと沢山ある。

 能力的なものもあるけど、二人でやるってだけで僕らのやる気が違うのだ。

 烈がいるなら、僕の片割れが一緒に居てくれるなら、僕は頑張れる。

それは、きっと烈も一緒。

 「だから、無理すんなって!! お前らは別人なんだ。見わけてほしかったんだろ?」

 「えー、僕らが別人なんてさ」

 「なんていうかー?」

 「「当たり前じゃん?」」

 そもそも見わけてほしいならこんなそっくりな外見しないし。

 僕ら一緒がいいから髪も同じ色だしね。

 そもそも僕らの好み結構一緒だから、被るし。

 それに僕らは確かにそっくりだけど、仲良い人は見わけてくれるしねぇ。

 ひー君なんて一回も間違ったことないよ?

 あとお母さんとお父さんとお兄ちゃんと妹も!

 親衛隊の子達も結構高確率で僕らの事見わけてくれるしね!!

 僕らって違うもんねーって二人で手を取り合って笑い合っていたら、何か割り込んできた。

 「お前ら、だからやめろ」

 えー、何でこの子僕と烈の手離させるの?何で僕たちの間に割り込んでくるの?

困っちゃったなーって思ってたら、

 「…はな、せ。せ、つ、いや、がって、…る」

 「嫌がってるからやめれば、毬藻」

 ひー君と、転入生をさっきからめんどくさそうに見ていた眼鏡をかけた平凡な子がそういった。

 ひー君が、冷たい目で転入生を見据えて、僕らの手を掴んでいる転入生の手をべりっと離す。

 「何すんだよ!!」

 「…せ、つ。れ、つ。…こ、い、うるさ。い…こ?」

 「あ、どっかいくなら俺も一緒いっていいか? こいつの傍いたくねーんだ」

 おぉ、平凡君はっきりいうね。名前知らないけど、何か清々しい笑顔だと思った。

 で、僕らは転入生とか色々いってる会長とか、何か怖いしさっさと食堂を後にした。

 「「ねぇねぇ、君名前なんていうのー?」」

 一緒に食堂を後にした平凡君に僕らは問いかける。

 とはいっても、本人に平凡なんて言わないよ?

 だって失礼じゃん。

 廊下を四人で歩いてたら、平凡君に罵声が飛んでるけど…、親衛隊にやっちゃだめーっていっとこう。

 だって転入生から助けてくれたし。

 「俺は、篠原早紀シノハラサキ

 「そっかー」

 「じゃあさー。」

 「「サッキーってよんでいい?」」

 「いいけど…」

 「「サッキー、さっきはありがとうねー。あの子に困ってたんだ、僕ら」」

 そういって、お礼をいってにっこりと笑う。

 「どういたしまして。……ま、あのクソ毬藻のおかげで接点持てたからよかったけど」

 ボソッとサッキーが、何かいって何故か烈を見ている。

 どうしたんだろう、サッキーってば。

 「……れ、ねら、ってる?」

 「そうだっていったら?」

 「……せ、つ、ちが、なら、い」

 なんかひー君とサッキーがボソボソ話してるんだけど、どうしたんだろ?

 「それにしてもさ、烈」

 「んー?」

 「あの転入生煩いよねー。僕ら無理なんてしてないのに」

 「そうだよねー。僕ら一緒のがいいもんね!」

 「うん、僕烈だーいすき」

 「うん、俺も刹だーいすき」

 「「これからも、一緒だよ」」

 二人で手を取り合って、ニコニコと笑い合う。

 そんな僕らを見て、

 「一番の敵は双子兄か」

 「……れ、つ…よく、せ、つに、お、ちかづ…と、じゃ、まする」

 そんな事を二人が言ってた事を知らない。



end


山梨刹ヤマナシセツ

そっくりな双子兄。でも烈とはちょっと違います。語尾を伸ばした可愛い子。弟より鈍感です。

弟がいれば結構色々頑張れます。ブラコン。


山梨烈ヤマナシレツ

そっくりな双子の弟。刹より微妙に黒いです。鈍感ではないので、色々気付きます。でも根本的な所は刹と似てます。そっくりです。

お兄ちゃん大好きなので、不用意に近づく(恋愛感情ある)には邪魔します。



比佐ヒサ

書記です。わんこです。ちなみに双子兄の刹に恋愛感情あります。

なので、よく烈とにらみ合ってます。でも烈とは普通にお友達です。

転入生はうざいので嫌いです。



篠原早紀シノハラサキ

巻き込まれた平凡非凡の毒舌君。

転入生うざーけど、前々から弟の烈を狙っていたので接点持てて喜んでます。

でもとりあえず転入生うざいから潰すかとたくらみ中。



転入生

同じような学園にいたので、「前の学校は」とよく口にする。


残りの生徒会

多分王道に惚れてそのまま堕落していきます。


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