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覚えてますかと聞くのが怖かった。

「きゃーっ」

「由一様ぁあ」

「かっこいい――!!」

 視線の先に彼――富市由一トミイチユイチが居る。

 金に染められた髪は彼によく似合ってる。

 整った顔立ちをした彼は、僕たち親衛隊の方をみて、ゆるい笑みを浮かべて、手を振った。

 「ほら、絵留も声出しなよ」

 「え、えっと…僕は…その」

 由一君の親衛隊隊長で僕のお友達の麻が、ぽーっと由一君を見据えている僕に声をかける。

 この学園に戻ってきて、早2ヶ月。親衛隊に入ったものの、僕ははずかしさに皆みたいに声をあげたりできないでいる。

 ――それに由一君が、僕の事を覚えているかわからないのが、怖いんだ。

 僕は、初等部の頃この学園に通っていた。初等部三年目の時に、僕は家の都合でこの学園から離れた。

 そして、高二の春に、この学園に戻ってきたのだ。

 そして、僕は今生徒会会計を務めている由一君と、友達だった。

 僕は由一君が好きだった。子供の頃の、初恋…。

 戻ってきて、一目見て由一君がわかった。

 戻ってきて、一目見て昔の好きだった気持ちが戻ってきた。

 会って由一君が僕の事覚えていないのが、怖い。

 僕は名字だって親が再婚して(初等部の頃は片親だった)変わってる。

 ”誰?”

 何て、由一君に言われたらどうしよう。

 そんな怖さに震える僕は、由一君に未だに話しかけることも出来なくて、転入してきて二カ月…親衛隊一員として由一君の姿を見ることしかできない。

 由一君に会いたい、話したい。

 でも、怖い。

 それを思うと近づけなくて、矛盾した思いで僕の心はいっぱいだった。

 そんな風に、会いたいけど怖いと脅えてる中で、転入生がやってきた。

 その子はボサボサな髪に眼鏡をかけている、見た目と中身があっていない、活発な子だった。

 ――そのこは由一君以外の生徒会メンバーを惚れさせてしまったらしい。

 学年が違うから僕は会った事はないけれど、麻いわく、煩くてKYで汚いらしい…。

 「絵留は会わなくていいからね! 接触したら駄目だよ、危険だから!」

 何て注意されてしまった。

 でも転入生の事よりも心配なことがあった。

 何でも会長達は転入生に構って仕事をしなくなってしまったらしく、由一君一人でやっているというのだ…。

 一人で仕事なんて…由一君は大丈夫なのだろうか。

 気が気じゃなかった。

 転入生が転入して来てから、由一君の姿を見ない。

 仕事して倒れたりしないんだろうか?

 体調はいいんだろうか?

 凄く、凄く心配だった。

 心配なら会いにいったら、って麻に言われたけど、やっぱり躊躇われてしまった。

 そしたら麻がなんか「…あの、ヘタレが…、さっさと…」と何かブツブツいってたけど、何をいっているかよくわからなかった

 由一君を心配しながら過ごしている中で、

 「――っ」

 僕は廊下で転入生とぶつかった。

 「なんだよ、お前!!」

 「え、えっとごめんね。前見てなくて…」

 「お前親衛隊って奴だろ! わざとぶつかったんだろ!!」

 …あれ、これどうしたらいいんだろう?

 本当に前見てなかっただけなんだけど。

 何で僕転入生とか由一君以外の生徒会の方々とかに睨まれているんだろうか。

 何だか、睨まれているのが、怖い。

 周りの人間が僕を睨みつけているのが、何だか恐ろしい。

 こんな風に敵意を向けられることがあまりないからこそ、恐ろしい。

 「え、えっと…」

 「何で、何もいわないんだよ、最低だ!!」

 そんな言葉と共に、顔に衝撃が走る。

 殴られた――、そう理解した時には体が傾いていた。

 衝撃に体を強く打って、倒れ込んでしまう。

 「――っ」

 「やっぱり、親衛隊は最低だ!!」

 響く声に、頭がガンガンする。

 頭が朦朧とする中で、

 「――絵留!!」

 聞こえるはずがないのに、由一君の声が聞こえてきた気がした。

 ――そうして、僕は、意識を失った。





 *





 「……る」

 ぼんやりとした意識の中で、懐かしい声が響く。

 「…絵留」

 ああ、誰かが僕の名を呼んでる。

 懐かしいけど、誰の声だろう。

 声に導かれるままに、僕は目を開ける。

 そして、真っ先に視界に入ってきたのは――…、

 「ゆ、いち……くん?」

 僕の思い人である由一君の心配そうな顔だった。

 「絵留…!!」

 「え、えっと…?」

 目の前で僕の名を呼ぶ由一君に、何だか理解が追いつかない。

 これは夢…?

 由一君が、こんな近くに居て、由一君が、僕の名を呼んでいるなんて、……本当にこれは現実?

 夢のように思えてしまう。だって、由一君がこんな風に僕の名を呼んでいるだなんて信じられない。

 「大丈夫か? あの猿に殴られたの覚えてるか?」

 「え、えっと…由一君…、僕の事、気付いて、たの…?」

 由一君はベッドに起き上った僕の言葉に、一瞬驚いたような顔をする。

 そうして、言った。

 「気付いてたの、って絵留が、入学してきた時から、わかってたよ。

 絵留、この学園去る時にいってたよね、”絶対帰ってくる”って。

 だから、毎回転入とか外部入学の人、俺チェックしてたんだー。というか、絵留こそ、俺の事忘れてたかと思った…」

 「え? ぼ、僕は由一君の事忘れたことないよ…?」

 由一君の言葉に、僕は驚いて言葉を放つ。

 「そっかー。絵留ってば、俺に話しかけもせずに俺の親衛隊入ってるから俺忘れてるのかなってちょっと不安だったんだよね」

 「ぼ、僕も…。名字変わってたし、由一君、僕の事覚えてないんじゃないかって思って…それで、話しかけられなくて…」

 由一君が、笑って僕を見ているのを見ながら僕は言葉を放つ。

 こうして由一君と話しているのも、正直夢のように思える。

 由一君と二人で、こうして話せるなんて…。

 戻ってきて由一君を見て、ずっと焦がれてた。由一君と会話を交わす事を。

 由一君が、僕を覚えてくれていたらいいのにって願ってた。

 「忘れるわけないじゃんか、絵留。俺ずっと、絵留の事、忘れたことなかったよ?絵留が帰ってくるの、ずっと、楽しみにしてた」

 「……うん、僕も忘れたことなかったよ。由一君に、会えるの、ずっとね、楽しみにしてたんだ」

 由一君の言葉に、笑みが零れる。

 由一君が、僕の事を覚えてくれていたっていうだけで、どうしようもなく僕は嬉しくてたまらない。

 「……かわっ」

 「由一君、どうしたの?」

 何だか、僕から顔をそらして呟いている由一君が不思議で思わず問いかける。

 「な、何でもないよー。それより、絵留、頬大丈夫…? 痛くない?」

 「うん…大丈夫だよ」

 殴られた所はヒリヒリと痛むけれど、それで由一君と話す機会が出来たから嫌な気持ちもなくなっていく。

 だって、由一君が、目の前に居るんだ。

 僕を見て、声をかけてくれているんだ。

 …本当に、それだけで嬉しくてたまらない。

 「そっか…。でも、もう安心していいからねー? あの猿を追い出す準備はしっかりできてるし、生徒会の奴らのリコールの準備もできてるから。もうあの猿が絵留に構う事ないからね?」

 「リコール…?」

 「うん、アイツら仕事しないしね。他の親衛隊にも大分飽きられてたみたいだし、だからリコールする予定なんだ」

 さらっとそんな事をいって、「あの猿どうしてくれようかー」何て言っている由一君は何だか少し怒っているようだった。

 その後は、しばらく保健室の中で由一君と話をして、あとメアドや電話番号も交換した。

 「絵留、俺ちょっとやらなきゃいけないことあるから、ここで大人しくしててね?何かあったら困るし、帰るときは誰かよんでね?」

 「うん…、あ、あの、由一君…」

 「ん、なぁに?」

 「こ、これからさ。ご飯とか由一君誘ったり、いっぱい、メールしてもいいかな…? ぼ、僕由一君ともっと話したいんだ」

 「もちろん、絵留なら大歓迎ー。いつでも誘って、いっぱいメールして。俺も絵留といっぱい話したいから!

 じゃあ、そろそろいかなきゃ、またね、絵留」

 「うん、またね、由一君」

 由一君の返答に僕は嬉しくなって、頷く。

 そうして、去っていく由一君の後ろ姿を見ながら、明日ご飯誘ってみようかなと考えを巡らせるのであった。




end


―由一親衛隊隊長麻side。風紀室にて―



 絵留が転入生に殴られたという事で、僕は風紀室に呼ばれていた。

 ちなみに、あのヘタレ……由一は殴られた絵留を抱えていっちゃったらしい。

 ヘタレのくせに、と何だか面白くなる。

 まぁ、絵留が殴られたのは、本当に転入生にむかつくし、心配だけど…。

 「俺は悪くない!! あの親衛隊の奴がぶつかってきたのが悪いんだ」

 喚く転入生に、何だか苛立ってくる。

 そもそもだ。由一と僕は悪友だ。アイツ見てて面白いから親衛隊に入ったんだが、そしたら隊長に任命されて、まぁ、それで仲良くなって今では友人だ。

 「絵留がわざとぶつかるわけないし、転入生妄言もいい加減にしない?」

 思わずそんな言葉を放ってしまう。

 だって、絵留いい子だし。由一の初恋相手だし。絵留って由一の事大好きなだけだし。

 そうそう、由一って親衛隊に好きな子居るって昔からいってたし、セフレ集団なんて噂されてるけど、全然そんな事ないしね。

 そもそも初等部から此処通ってる人多いのもあって、見た目が可愛い絵留の事覚えてる親衛隊の子多いしねー。

 由一の奴が、絵留が初恋だから帰ってくんの待ってる何ていってて、一途な由一の事応援してる子の方が多いし。

 寧ろ、皆して絵留が帰ってくんの楽しみにしてたし。あ、ちなみに僕は面白そうだから楽しみにしてたんだけど。

 絵留が学園にやって来た時、皆して興奮したし。僕なんて進んで話しかけて親友の位置ゲットしたし。

 絵留は絵留で、由一に覚えられてなかったらどうしようって何だか親衛隊に入ってきて話しかけられてないし、由一の奴も覚えられてなかったら…とか久しぶりだから…とかいって話しかけられないヘタレだし。

 寧ろ親衛隊内の僕みたいに面白いこと好きな奴らは賭けしてたしね。ちなみに僕は、「絵留ががんばって由一に話しかけて再会を果たすに1000円」かけてたんだけど、外れた。

 まさか、転入生が絵留を殴るとか思わなかったし。

 面白いからってのもあって、絵留に由一が会いたがってんの言わないように親衛隊に伝達してたんだよね。

 親衛隊には「ヘタレだと絵留にふられちゃうかもしれないから、もっとかっこよく印象づけるべき」とか適当にいって。

 本当由一の奴面白かった。僕が絵留と親友で一緒に居るのが羨ましいのか色々いってたし。

 「妄言ってなんだよ!! 本当なのに。やっぱり親衛隊なんて最低だ」

 うわー、何こいつ気持ち悪いんですけどーって感じ。

 あと、由一以外の生徒会の奴らすげぇ睨んで来てて超ウザイ。

 風紀の連中もすっかりこいつら話つうじねぇって感じでうんざりしてるし。

 「最低って何で? 僕ら別にあんたに制裁なんてしてないんだけど。大体絵留はわざとじゃなくてたまたまぶつかっただけだよ。絵留優しいからんなことしないし」

 「そうだな、由一に聞いてる限りそんな性格じゃないだろ」

 僕の言葉に続けるように言葉を言い放ったのは、風紀委員長の早紀だ。ちなみにこいつも友人の一人だ。

 僕と早紀は、絵留の事結構由一から聞いてたし、僕は実際接してみてんな性格じゃないって知ってるしね。

 「なんだよ、お前由一の知り合いか!! 由一はひどいんだぞ! いつも書類と向き合ってて仕事が遅いし、こいつらは仕事してるのに!」

 って、おいってつっこみたくなるよね、本当に。

 生徒会や転入生以外はポカーンというか、もはや呆れた目浮かべてるんだけど。それに気付かないってこいつら、バカなんだろうかと思う。

 だって、由一しか仕事してないの僕ら知ってるし?

 寧ろ親衛隊まで呆れて人数減ってるってのにこいつら何で気付いてないんだろう…。

 「…仕事してねぇのはてめぇらだろうが。何嘘ほざいてんだ」

 隣に座っている早紀が、目の前で喚いている転入生と得意気な顔をしている生徒会を見る。

 「何でそんな事言うんだよ! こいつらは仕事してる!」

 「転入生。そいつらがいつ仕事してるわけ? 僕、由一がご飯食べる暇もないからって生徒会室に食事届けにいってたけどそいつら一回もいなかったけど」

 「俺が書類とりにいった時も由一だけだったし、由一が会長や副会長の仕事までやってたな」

 僕、早紀の言葉である。

 なんか生徒会は、僕が「そいつら」なんていって様付けとかしてないのに驚いている。

 僕面白い事好きな由一の悪友ってだけだし、別に生徒会崇拝とかしてないしねぇ…。

 そもそも親衛隊が全部同じと思ってるのがおかしいんだけど。

 外部生で他校には親衛隊ないから面白がって入った子もいるし、恋愛感情の人もいれば、純粋な尊敬もあるし、後は何処か親衛隊に入った方が隊内で友達出来るしとかそういうのとか。

 親衛隊に好きな子がいるからって入ってる子もいるし。もちろん、そう言う子は崇拝対象に興味ないし。

 「貴様ら、俺様達が嘘をついているとでもいうのか」

 「当たり前でしょ。てか、実際してないのにしてるっていってるのが謎すぎるんだけど」

 「当たり前だろ。お前らバカか」

 第一、由一ってば、うざいからってリコールさせようと生徒会室に監視カメラ仕込んだらしいし。

 うん、それで生徒会室で奴らが何をしてるか上映するっていってた。

 そもそも、既に生徒達こいつらが仕事してないの知っているし、転入生にうんざりしてるし…。

 絵留が殴られたからって由一怒ってるしなーなんて暢気に思う。

 目の前の生徒会が自分がリコールされる可能性について考えてないのが面白い。

 実際に関わるのは勘弁だし、かなり面倒だけど傍観するだけならこいつらの茶番面白いんだけどな。そう、現実じゃなくて小説とかならきっともっと楽しいと思う。

 「何でそんな事いうんだ、最低だ!! こいつらが嘘つくはずない!!」

 「へー、まぁ、そいつらが嘘つきかどうかはぶっちゃけどうでもいいんだけど。無抵抗な生徒殴りつけたんだから、反省しなよ」

 「あれは、アイツが悪いんだ!!」

 駄目だ、こいつ話通じない。

 ちなみに早紀以外にも風紀委員居るけど関わりたくないのか、何だかめんどくさそうに転入生+生徒会を見てる。

 その冷めた目に気付いてないあたり生徒会バカだ。

 その後はまぁ、話通じないしとりあえず帰ってもらって由一を風紀室に呼んだ。

 反省してないみたいだよ、って教えたら由一凄い冷たい声出してたんだよね。

愛だよね、絵留の事大好きって感じで外見チャラいし遊んでる風なのになんか本当面白い。

 他人の恋愛って見てて面白いしなぁ。

 「後継者候補からはもちろん、外れてもらわなきゃね。後は転入生は退学に追いやって、精神的に壊してやってーってのは当たり前だよねー」

 由一はにっこりと、冷めた目を浮かべながら恐ろしい事を言い放つ。

 絵留に中々話しかけられなかったヘタレな癖に行動力あるもんね、由一って。

 相当怒ってるみたいだから、僕と早紀もお手伝いしてさっさと害虫駆除をするとしようか。




―――そして、害虫駆除が終わるのは二日後の事である。


end



絵留

初等部の頃に一旦別の所にいってて、帰ってきました。

普通に外見は可愛い子です。由一が大好き。


由一

生徒会会計。見た目チャラい。

親衛隊に絵留が好きって昔から言ってる。中々会いにいけないヘタレだけど、行動力はあるし、怒ったら怖い。



由一の親衛隊隊長。面白い事大好き。由一の悪友。絵留の事は普通にお友達と思ってる。別に崇拝の気持ちとかはない。



早紀

風紀委員長。由一と麻の友人。こいつも面白いこと結構好き。麻と二人で由一をからかったりよくしてた。




転入生+生徒会。

生徒会は空気でした。この話。

転入生はアンチのウザイ子です。


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