わんこと俺と委員長
今日も~、君は僕の犬~と同じ世界観の別の学園
「……ま、や!」
扉を開けるとわんこがいた。
まぁ、わんこというのは比喩であり、人間である。
彼の名は、三橋流。
この学園の生徒会書記を務めている。
昔からの仲であるが、美形と関わるとうちの学園は親衛隊が煩いため関わってこないようにいっていた。
流が俺――橘麻耶と一緒に居たいというから週に一度ふれあいタイムなどというものを設けていたはずだが、何故わんこが此処に居るのだ?
しかも、何で俺のかわいーわんこが泣きそうな顔で俺の名前を呼んでいるんだ?
一週間前のふれあいタイムは実家に呼びだされており、なしだったから二週間ぶりに会ったわけだが、何故目の下に隈が出来ている…?
最近親衛隊が生徒会がどうこう煩かったが、もしかしたら流も関わっていたのだろうか。
全く、気にしていなかった。何かあるなら流はいってくるはずだと思ったのだが…。
こんなに無理をしていたとは…。
「どうした、流」
「……ま…や!」
心配したように声をかければ、わんこに抱きつかれた。
いやー、可愛いよね、わんこ。
でもさ、此処、寮の廊下だってわかってる?
人居るよ、指さされてんだけど、俺。
「流、待てはできなかったの?」
「う………ご…め……な、さい」
「まぁいいや、そんなに隈作ってる理由もきっちり聞かなきゃね? 入りなよ」
「……っ!」
俺の言葉に目を輝かせて俺を見る流。
うん、滅茶苦茶かわいーよね、わんこ。
とりあえず、特待生なため一人部屋な部屋に俺は流を引きいれた。
そして俺は流から話を聞いた。
「へぇ?」
そして、流から聞いた話は俺が怒るのには十分だった。
何でも、二週間前にやってきた平凡な転入生に他の生徒会+風紀(委員長除く)は現をぬかしているのだという。
平凡は悪い子ではなく、自身を追いかけまわす生徒会に困っており、寧ろ無理やり生徒会室に連れこまれ、ノンケなのに愛をささやかれ一般生徒から同情を受けているらしい。
親衛隊も制裁しようとして「俺女の子が好きなんだぁあああ」と叫んだ転入生に、「男に告白とか気色悪いんだよぉおお」と叫んだ転入生に、もはや同情のまなざししか向けていないらしい。
が、生徒会(もちろん流除く)はバカだったようだ。
親衛隊が制裁する。俺達が傍にいなきゃ。俺たちに迫られて嫌がる奴がいるわけない。と、ずっと追い回し、転入生が困ってるからと止める一般生徒を親衛隊呼ばわりし退学に追い詰めようとしたらしい。
あと転入生バカの理事長(最近までいい叔父さんを演じていたのに、転入生に欲情しているという事をライバルの存在に暴露し現在転入生にドン引きされている)もそれに乗っかっていて色々大変らしい。
生徒会は仕事をしない。
転入生が「三橋君に押し付けちゃだめだ」と注意したらしたで、”流が転入生に何かを吹き込んだ”という妙な思考回路に行くらしい。
転入生は常に申し訳なさそうに流を見ているという。
とはいっても男に迫られるストレスい不眠症状態に陥った転入生(生徒会は親衛隊のせいであいつが寝れないといいはる)を責めるわけにもいかず、部外者に見せられないものもあるために黙々と仕事をこなしていたんだとか。
いや、全く知らなかった、興味なかったし。
「……で、委員長のアイツは?」
「……き、の、しご、とから、かえ、ってきた。
おこ、………た。つぶ、す、いった………し、おれ、……つか、れたし、さな………が、ま、や、よび、いけって」
「さなぎの奴俺を表舞台に出そうってのか。面倒だな
でもまぁ、俺の流が大変だったみたいだし、それも楽しそうだな」
「お、れ………や、るなら、ま、やと……さ、なと、がいい。
だか、ら………、が、んした」
生徒会達潰すなら俺とさなぎと一緒にしたかったと。
そういう事らしい。
俺と風紀委員長のさなぎと、わんこである流は昔から仲が良い。
ああ、ちなみに俺と流付き合ってます。
さなぎは他校の弟大好き(重度のブラコン)のため恋人は作る気なし。弟より可愛くなきゃ…と言い張ってる。
さなぎの弟――こむぎも平凡な顔立ちだけどな。中身が色々おかしいけど。
ヤンデレだし、恋人なのかそうでないのかわかんない犬(人間)飼ってるし。
「じゃあ、盛大にやろうか」
「……ん!」
俺が流の頭をなでながら言った言葉に、流は嬉しそうに頷くのだった。
その後、風紀室に向かえば、もはや魔王降臨とも言えそうな黒いオーラを発するさなぎが居た。
「……あのバカども、どうしてくれようか」
平凡よりの美形と称される顔が、歪に歪んでいた。
流は美形だけど、俺とさなぎは割と平凡顔だ。
見る人によっては美形と言えるらしいが、この学園美形率が高すぎるため、俺らは平凡に分類される。
さなぎってば、家の関係で学園あけてたからなぁ。
帰ってきて、風紀が色々と面倒なことになってれば怒るよな、そりゃあ。
生徒会と違って、風紀は抱きたい&抱かれたいランキングは関係ない。
腕っ節がものをいう世界だ。しかしまぁ、さなぎが平凡よりの顔だからって風紀にぐたぐた言われてた時点でこいつ切れかけてたしな…。
元々喧嘩っぽいのによく乱闘になんなかったよ、と思う。
まぁ、今回のでブッツリときちゃったらしいけど。
「さなぎ、今すぐ潰しに行く?」
「ああ。もう、隠れているのは終わりだ。俺も、お前も。お前だって、流が大変で怒ってんだろ?」
「ああ、もちろん」
「……!」
ああ、何か流が隣で嬉しそうな顔してる。
うん、可愛い。
というわけで、流と俺とさなぎで食堂へ直行した。
うん、生徒会と風紀は敬遠の仲って噂だったし、俺みたいに役持ちじゃない生徒と一緒にいるためか周りの視線が痛い。
しかも、流、俺にべったりだしね。可愛いからいいけど。
そして食堂で俺たちは生徒会と転入生を発見して話しかける。
「……おい、貴様ら」
「……か、ちょ、たち」
「うわ、バカばっか」
上から、さなぎ、流、俺の言葉である。
「み、三橋君!!」
そして、救世主が現れたとばかりに笑顔を浮かべる転入生。
うん、げっそりしてるね、本当。
生徒会+風紀に口説かれてたもんね。
「俺様のモノになれよ、なぁ?」といって顎を掴んでる会長。
「この子は私のものです!私の方が幸せにできます」と言い放って肩を抱く副会長。
「「えー。僕らのだよー」」にっこりと笑う双子。
「俺っちが気持ちよくしてあげるよー?」と気持ち悪い笑みを浮かべていたもう一人の書記。
「ふっ、俺の方が似合ってるに決まってるでしょう」とナルシ発言をする風紀の副。
「違う、俺たちのだ」と言い張る風紀委員達。
いやー、ないわーって感じ。
直で見るとガチでキモイ。
うん、転入生はよく耐えてると思う。
これは倒れても仕方ない気持ち悪さだ。
「あ? って、金沢じゃねぇか。それに、三橋に……誰だその平凡」
「私たちにバカですって?」
「「ねぇ、騙されてるんだよー?三橋は最低だよ?」」
「まったく…俺っちのだっていうのに」
いやいやいや、バカだろ。こいつら。周りを見ろ。親衛隊さえドン引きしてるじゃねぇか。
「委員長じゃないか。はっ、何しにきやがった」
「俺らは庶民のお前なんかを認めたわけではないんでな」
そしてこいつら風紀は確実に命知らずだろ。
そもそも偽名使ってるだけで、さなぎって完璧に庶民じゃねぇしなぁ。
ご愁傷様とでも言う風に呆れてしまう。
「うわ、生徒会も風紀も死ぬほどバカくね? いやもちろん、さなぎと流は例外だけど。
そもそも嫌がられてんのに気付いてないって、転入生大丈夫か?」
俺がそういって本心を口にしながら、転入生の方を見れば、転入生も周りも驚いたような表情を浮かべる。
まぁ、周りは同情してても生徒会が怖いし、転入生が迷惑かけられないからと言いだしたからこんな風に堂々と言い放ったりあまりしてなかったみたいだしな。
しかし、俺がこいつらを恐れる要素なんてねぇし?
「なっ、てめぇえ、俺様達をバカにしてただですむと思ってんのか!」
「ちょ、か、会長やめてください」
いきりたったように怒鳴る会長に向かって、転入生は困ったように止める。
「大丈夫さ、比佐、俺様がこんな奴らどうにかしてやる」
「そうです。私達の気を引きたいだけなのですから」
「え、ええっと……」
ああ、転入生哀れすぎる。
何こいつら、頭いかれてんの。寧ろ笑えてくるわ、これ。
というか、転入生の事好きなら転入生の言葉聞いてやれよ。
「俺が、お前らに近づきたい?」
はっ、俺をバカにしてんのか。こいつら。
「そうでしょう! 私たちを気を引きたいからと」
「委員長ってば、そんな奴と一緒に居るんて、やっぱり、あれだ、委員長には俺が相応しい」
バカだろ、こいつら。
おい、流石に気付けよ。
凄く困っている転入生と、もはや呆れて冷めた目しか向けてない周りに…。
いやー、こいつらが後継者候補の家とかマジないわー、って感じ。関わり持つ必要一切なしってか、価値なしって暴露してる感じだよね。
無能さがひしひしと漂っているというか。
そもそもこういう学園は家柄とか顔重視だけど、それは将来役に立つ。人脈を築いていれば、契約も取りやすくなる。
子供の口から親に伝わると考えないのかね。
「ちが、………! ま、や、おれ、の!
ま、や………かい、ちょ、たちなんか、に……ちか、ない!」
呆れて黙っていたら、勢いよく流に抱きつかれた。
そして、生徒会役員を睨みつける流。可愛いなーなんてこんな場面だけど和む。
「何何ー、三橋って趣味悪いの? こんな平凡さー」
おい、書記。平凡なのは転入生も一緒だろう。
「どうせ、親衛隊なのでしょう? 三橋は趣味悪いです」
そして、何で俺が流の親衛隊なんてものに入らなきゃいけないんだ。副会長。
「はっ、俺様達に近づきたいからって股でも開いたのか。ご苦労なこった」
どんな勘違いだ。大体俺はタチだ。ネコなのは流だ! と会長を呆れて見てしまう。
「はぁ? 別に俺ら会長達に媚売らなきゃいけない家柄じゃねぇし。なぁ、さなぎ?」
「ああ、そうだな」
俺の問いかけに、笑うさなぎ。
どうせ、表舞台に出て盛大に目立つなら思いっきり、暴露してやるべきだろう。
何だか、俺に抱きついたままの流はわくわくしたように俺とさなぎを見つめている。
流って、俺とさなぎが暴れるの見るの好きだもんな…。
うん、普通に可愛い。
「あぁあ?」
「何を言っているのです。金沢なんて名字聞いたことないです」
「俺たちの家に媚売る必要ない? 何さまだよ、委員長も平凡も…! 家ごと潰してやろうか?」
つか、そもそも、子供の喧嘩で家潰そうって時点で幼稚すぎる。
潰すのはまぁ、いいとして潰した後の後始末とかまで考えてやれよ、やるなら。
こいつら、本当浅はかだからな。そもそもお前らの権力じゃねぇし。
時期当主って言われてるけど、行動次第でそれがなくなるとか思わないのかね。
ま、俺たち告げ口する気満々だけど?
「ああ、自己紹介まだだったね。俺は橘麻耶。一応橘グループ当主候補入りしちゃってまーす」
とはいっても、有力候補は従兄の橘立花だけど。
うん、俺当主とか向いてないし、立花がやるべきだと思ってるから別に当主争いとかしてないけど。
将来は立花を支えながら適当に、家のお手伝いしようかなーと思ってるけどこう言った方が効果的だと思ったんだよな。
俺の言葉に一斉にざわめく面々に滑稽に思う。
俺別に偽名使ったりしてねぇってのに橘って名字は結構何処にでもあるし、目立たないようにしてたから橘グループ関係者だと思ってなかったらしい。
本当、バカらしくて笑える。
「なっ――」
「橘、ですって!?」
唖然としている顔が面白い。
まぁ、俺ん家の方が位上だしねー。敵を見てから喧嘩を売りましょう、って感じしかしない。
「さて、俺の自己紹介は終了、改めてさなぎも自己紹介したら?」
「そう、だな」
ああ、怒ってるな、さなぎ。
目が怖いよ、目が。
「金沢さなぎ、改め華院さなぎ(カインサナギ)だ。改めてよろしく?」
「華院……だと!?」
「えっ」
驚いたような声をあげ、信じられないかのようにさなぎを見る目の前の奴らに笑えてくる。
華院家とは、日本に古くから存在する世界有数の家である。
ぶっちゃけ、会長達じゃ歯がたたない。
さなぎはめんどくせぇって華院家だってばらしてなかったけどな。
こいつ、めんどくさがりだし。
「つーわけで、お前ら風紀と生徒会はいらねぇ。理事長もいらねぇ。
俺と麻耶の所は、お前らが子供なら、縁を切るといってある」
本当、さなぎは行動速いよなと思う。
さっさと実家に連絡して、会長達の家脅してるし。
「あんな子供がいる家は信用できない」だのいって、親子の縁切るか、契約切るかどっちがいいか迫るっていう。
「というわけで、おめでとう、会長達。めでたく一般人入りだよ?
流に大変な目合わせてたみたいだし、庶民入りざまーみろって感じしか俺にはしないけど」
「あ、あとお前のチームは、さっさと潰しにいってやるから」
「なっ――」
「潰す?」
「そ、俺は『black』の副総長で、さなぎは総長だからね」
やるなら、徹底的にって事でバラしてみました。
会長達、弱小暴走族なんだよね。数増やして粋がってた。
で、俺とさなぎが所属している所は会長の所よりぶっちゃけ強いし?
「そ、そんな――」
「俺様達が――」
「な――っ」
そうやって絶望にひれ伏す中で転入生はほっとしたように息を吐いている。
うん、よかったね、転入生。
そんな姿を見て、一般市民におとされたわけだから、ま、いいかという事でそのまま帰った。
帰り際に、「風紀入れ、麻耶」とさなぎに言われたので、頷いておいた。
さて、お疲れのわんことイチャイチャしますか。
end
橘麻耶
平凡顔。「今日も~」の立花の従兄。
普段はおとなしく猫かぶってた人。
華院さなぎ(カインサナギ)
「君は僕の~」のこむぎの兄。ブラコンだからたまに時弥と口喧嘩とかしてる。
平凡顔だけど、怒ったら容赦なし。
三橋流
そこそこの企業の社長の息子。麻耶大好き(恋愛)。さなぎの事も好き(友情)。
ちなみに『black』ってのが、元ヤン立花が昔所属していた場所にしようかなと思ってます。