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絶対服従

拾われて絶対服従な子目線

 目を瞑ると今でも、鮮明に思いだされる思い出がある。

 雪の降る寒い季節に、僕は親に捨てられて、駅に座りこんでいた。

 寒くて、寂しくて、どうしたらいいかわからなくて、震えていた僕。

 『お前、どうしたんだ?』

 そんな僕に優しい言葉をかけてくれたのが、あなたで。

 『行く所がない?

 なら俺の所くるか?』

 そうして、僕の事を拾ってくれたのは、あなた。

 

 ―――あの時、あなたに出会えた奇跡に感謝したい。


 



 「おい、リン

 「何ですか。帆獅ホシ様」

 僕をあの日拾ってくれた、帆獅様の呼びかけに僕は答える。

 あれから、10年。

 帆獅様も、僕も今はもう17歳。

 全寮制の男子校に通う二年生だ。

 帆獅様はかっこいい方だ。

 抱かれたいランキングでも一位だった。でも、生徒会入りは断ったけれども。

 僕も抱きたいランキングなんてものに入ってたけれど、帆獅様以外の下に付く気はないので、もちろん断った。

 「週末に親父が帰ってこいっていってたからお前も一緒帰れ」

 「もちろんです。僕は帆獅様がいく所になら、何処にでもついていきます」

 「そうか」

 「はい! 帆獅様が望むなら何だってします」

 満足げに笑った帆獅様に、僕も笑って頷く。

 帆獅様、帆獅様、僕を拾ってくれた大切な人。

 僕の唯一絶対は帆獅様で、帆獅様がいるから僕は今此処にいる。

 「鈴は俺のだもんな」

 「はい、僕は帆獅様のものです。体も心も」

 僕の言葉に、教室に残っていた面々の顔が歪む。

 「何で鈴ちゃん、あんな奴に…」

 「佐々原君…」

 それは、帆獅様への非難めいた言葉。

 周りから見ると僕は魔王(帆獅様)に嫌々つき従っている姫のように見えるらしい。

 僕は自ら望んで、帆獅様のそばにいるというのに、そんな事を言われても正直困る。

 「いい子だ、鈴。寮に帰るぞ。俺の鞄持て」

 「はい、喜んで」

 帆獅様が僕に鞄を持たせたり色々しているから、周りは帆獅様が冷酷な人に見えるらしい。

 確かに帆獅様ははっきりと自分に素直な方で、言葉を放つけれども本当は優しい人だ。

 例え、優しくなかったとしても僕は自分を拾ってくれた帆獅様を嫌うなんてそんなはずはない。

 そもそも、僕は帆獅様に命令をされるのは嫌いじゃないのだ。

 苛められるのが好きとかそんな嗜好なわけではない。

 ただ単に、帆獅様は僕の全てだから帆獅様が僕を頼ってくださり、信用してくれて、僕に命令を下さるのが嬉しいのだ。

 帆獅様の隣にいられるだけで、僕はどうしようもなく嬉しい。

 帆獅様が、僕の名を呼んで、僕を傍に置いてくれている。

 その事実だけで、僕はどうしようもない思いに駆られるのだ。

 「鈴、何ぼさっとしてんだ、行くぞ」

 「はい、帆獅様」

 帆獅様と共に廊下を歩けば、ちらちらと周りの視線が集まる。

 帆獅様は、かっこいい。

 自他認める、美形である。抱かれたいランキングなんていうランキングで、現生徒会長をぶっちぎっているその姿に惚れ惚れする。

 流石、僕の敬愛する帆獅様である。

 「帆獅様、今日の夕飯何がいいですか?」

 「…適当に肉食いたい」

 「わかりました」

 食堂が騒がしいからと嫌いな帆獅様のために、僕はいつも朝食、昼食、夕食を帆獅様のために作っている。

 料理をするのは楽しい。

 帆獅様のためにやるんだ、と思えば毎日やる気が出るものである。

 「そういえば、帆獅様、今度転入生が来るようですよ?」

 「転入生?」

 「はい、同じクラスの人達が噂してました。理事長の甥っこだとか、身長が二メートル以上だとか、可愛いとかかっこいいとか、色々噂が飛び交っているようです」

 廊下を帆獅様と共に歩きながら、会話を交わす。

 僕らの通う学園に転入生が来るというのは珍しい事だ。

 そもそも、転入のための試験が難しいのだから当たり前だろう。

 難関の問題を突破してやってくる転入生に皆興味津々なのだ。

 うちの学園は美形好きが多い。

 美形を崇拝する傾向にあるうちの学園だから、僕と帆獅様にも親衛隊はある。

 帆獅様の親衛隊には僕からきっちり話をつけておいたし、僕の親衛隊もいい子ばかりだから、僕らの親衛隊は穏健派だ。

 現生徒会の親衛隊なんて過激派で、生徒会に近づく人間全てを排除しにかかるような傾向にあるらしい。

 本当にこの学園の親衛隊は穏健派と過激派で色々違いすぎるのだ。

 僕らはともかく、親衛隊持ちは親衛隊を嫌っている傾向が強い。

 だからこそ、親衛隊には過激派が多い。

 僕らの所みたいな穏健派はあまりないのだ。

 「みてみねぇとわからねぇだろ。ま、俺は転入生なんて興味ねぇけどな」

 「そうですか。僕も興味ありません。帆獅様に害がなければどうでもいいです」

 「俺に害があるようだったらいつも通り俺の視界から消せよ?」

 「もちろんです」

 帆獅様の言葉に、僕は笑顔で頷いた。

 帆獅様に害をなし、帆獅様を不愉快にさせるような方なら即刻退場してもらう。

 だって、それはこの学園の絶対的な掟。

 この学園のトップは生徒会なんかじゃない。帆獅様だ。

 帆獅様の実家が一番の権力を持っているし、帆獅様はぶっちぎりのランキング一位。

 帆獅様は、支配者だ。この学園の。

 帆獅様は、絶対的な存在だ。僕にとっても、この学園にとっても。

 帆獅様は良くも悪くも人を引き付ける。

 そして、僕は、帆獅様に最も惹かれ、最も惹きつけられたそんな人間だ。





 *



 会話を交わした一週間後、帆獅様と僕の在籍する2-Sに転入生がやってきた。

 転入生で、しかもSクラス入りなんて有能な人材なのだろうか。

 有能ならば、帆獅様が実家を継ぎになられた後に会社運営をうまくいくようにスカウトするのだ。

 僕は、帆獅様の従者として、帆獅様の右腕として、帆獅様をずっと支えていきたいと思っている。

 役に立つような人種ならば、スカウトし、帆獅様に忠誠を誓わせたいのだ。

 とはいっても、一番の従者の座を、部下の座を、誰にも渡すつもりはないけれども。

 そう思っていた。

 だけれども、やってきたのは―――、

 「俺の名前は野中優ノナカユウだ!」

 そんな風に元気に笑う、ボサボサ頭の不潔な男だった。

 身だしなみが整ってない時点でまず、評価はマイナスだ。

 身だしなみは重要である。

 もし、取引先の従者が身だしなみがなっていなかったとしよう。それだけで相手は不愉快になるだろう。

 マイナス、5点。

 「うわ、きもっ」

 「何あの格好…」

 「仲良くなりたくない」

 クラスメイト達が不愉快そうに転入生を見やる。

 「優の悪口いってんじゃねーよ」

 「見た目で判断するなんて最低だ!そんな奴らと仲良くなりたくない」

 担任は、教師としてどうなのだろうかと思う節が多々ある。

 教師だというのに、気に入った生徒を味見していると噂で聞くし…。

 転入生は、常識がないようだ。

 見た目ではなく、身だしなみの事を言っている事がわからないのだろうか。

 僕らの通う学園は上流階級の子供たちが通う学園だ。

 そんな学園にいるのならば、身だしなみを整えるべきである。

 マイナス10点。

 もう、この時点で転入生は有能ではない。

 寧ろ、無能というのに近い気がする。まだ見て少ししか会ってないけどわかることがある。

 こいつは使えない。

 帆獅様のためにはならないだろう。

 という事だ。

 「…何あれ、きもっ」

 帆獅様は正直なお方だからか、怪訝そうな表情を浮かべて転入生を見ている。

 確かにあの身だしなみは不潔だ。あの髪なんて正直触りたくない。

 「なっ、誰だよ、今きもっなんていったの! そんな事いっちゃいけないんだぞ」

 大きな声を出し、周りに反発されているというのに協調性がない。

 マイナス10点。

 それに加えて、帆獅様に対する態度が悪い。

 マイナス、20点。

 此処でもう計マイナス45点だ。

 「きゃんきゃんうっせーぞ、猿」

 帆獅様が、不機嫌そうに転入生を見る。

 帆獅様は煩く喋る転入生を猿と命名しなさった。これから僕も転入生を猿と呼ぼう。

 帆獅様の言う事は僕にとっては絶対だ。

 クラスメイト達は帆獅様の不機嫌そうな声にびくっとなっている。

 帆獅様の冷たい声ぐらいで脅えるだなんて情けない人達だ。

 「なっ、猿だなんて、そんな事いっちゃいけないんだぞ!!」

 「おい、佐渡山だろうと、優をバカにすることは許さんぞ」

 たかが、猿と教師の分際で帆獅様に何と言う言動だろう。

 帆獅様のように素晴らしい方に向かって、そのような事を言うなど…。

 「…うっせぇ」

 「先生も、猿も帆獅様が煩いといっているのですから、黙ってくださいませ」

 僕は、不機嫌そうな帆獅様の声に、そういって担任と猿を見た。

 「なんだよ、お前。様付けするなんて親衛隊っていう奴か!!」

 「親衛隊? そのようなものと僕を一緒にしないでください。僕は帆獅様に忠誠を掲げているだけです」

 「けっ、佐渡山の犬が――!!」

 「帆獅様の犬ですか、それは光栄です。帆獅様に飼っていただけるなど、僕にとっては至福でしかありませんから」

 担任の言葉に、僕は笑ってそう答える。

 だって、帆獅様に飼ってもらえるという事は、犬になるという事は、帆獅様に可愛がって頂けるという事でしょう?

 帆獅様のそばにいて、帆獅様に可愛がってもらえるなんてなんていう至福だろう。

 僕は命を全うした後に、帆獅様が僕の頭をなでてくれて、「いい子だ」って笑ってくれるだけで幸せで仕方がない人間なのだ。

 「犬だなんておかしい!! 大体同級生に様付けなんておかしいだろう!!」

 キャンキャンと吠える猿に、思わず怪訝に顔をしかめてしまう。

 おかしい、だなんてどうして僕と帆獅様の関係をそんな風に出会ったばかりの猿に言われなければいけないのだろうか。

 隣を見れば、隣の席に座っている帆獅様の顔も不機嫌そうに歪んでいた。

 「あぁ? てめぇいは関係ねぇだろ。猿。

 あー、授業受ける気失せた。鈴」

 「はい。なんですか、帆獅様」

 「サボるぞ」

 「はい、わかりました。荷物はお持ちしますね。行きましょう」

 僕も猿の相手をするのはつかれそうなので、帆獅様がサボるといってくれて安心した。

 「なっ、何処いくんだよ!!」

 そして、喚いている猿を置いて、僕と帆獅様は教室を後にするのだった。

 煩い猿にいら立った帆獅様はその後寮室で休むといったので、僕と帆獅様は帆獅様の寮室に居る。

 帆獅様と僕は同室だ。

 帆獅様がその権力を行使してそうしたのだ。

 僕も知らない輩と同室になるよりは帆獅様のそばに居たい。

 だから、嬉しい。

 「あの猿、うぜぇよな」

 「はい。僕としても不愉快でした。

 僕と帆獅様の関係をおかしいなどと言われて、僕は悲しいです。

 それに親衛隊と同レベルにされてしまっては…。だって、僕は帆獅様を誰よりも思っている自信があります」

 真っすぐに帆獅様を見つめて言う。

 だって、これは真実だから。何もはずかしがる事はない。

 僕は、誰よりも帆獅様を思っている自信を持っている。

 「そうか。お前はずっと俺のモノだ」

 「はい、僕はずっと永遠に帆獅様のものです。帆獅様以上に僕の心を占める人なと居ません」

 「ああ、そんな存在を作る事は許さない」

 「帆獅様がそんな事を言わずとも僕は帆獅様以外の人間はどうでもいいと思っていますから、安心してください」

 僕は、そういって笑う。

 帆獅様は僕を、帆獅様のモノだという。

 何て光栄なことだろうと僕は思う。

 帆獅様はお気に入りを自分のものにしたがる。

 それが、どんな形であろうとも手元に置いておきたいと思う。

 僕は、帆獅様に気にいっていただけているのだ。

 その事実が僕の心を満たしてく。

 帆獅様、僕は帆獅様のお気に入りの地位を持っていて、帆獅様の従者として傍にいられる事が幸せなんです。

 帆獅様に他にどれだけお気に入りがいようともそれでも、僕をあなたのものだといってくださるだけで僕は嬉しさをかみしめてしまう。

 傍においてくださるだけで、僕の心は満たされていく。

 傍で帆獅様を見つめているだけで、僕の心は満たされていく。

 「鈴、俺はしばらく寝る」

 「わかりました。夕飯になったら起こしますね」

 ――そのまま眠りについて、あどけない寝顔を僕にさらしてくれる。

 それだけで、僕は幸せなんです。

 次の日になって、僕と帆獅様はクラスに向かいます。

 帆獅様は、頭脳明晰で、運動神経もよい方です。

 主席の座を獲得している帆獅様と、次席の座を獲得している僕には授業免除特権があります。

 ですから、帆獅様の気まぐれによって休むことはしばしばあります。

 帆獅様と一緒にサボりたいという願望から僕は勉強を頑張るのです。

 それに何だかんだいって帆獅様は僕に勉強を教えてくれます。

 優しい方なのです。

 教室の扉をあけると、生徒達が一斉にこちらを鋭い目で見ました。

 どういう事なのでしょう。帆獅様にそんな目を向けるなど――。

 「なんだ、佐渡山様と佐々原君か…」

 「アイツじゃないんだ、よかった」

 口々にクラスメイト達はそんな事をいっている。

 アイツ…? もしかして昨日のあの猿の事だろうか。

 あの猿は何か起こしたのだろうか…?

 「帆獅様、僕は少しクラスメイトに情報収集をしてきます」

 「ああ」

 帆獅様が頷いたのを確認して、僕はクラスメイトに近づく。

 「先ほど、帆獅様をどうして睨まれたのか、聞いてもいいですか?

 僕たちは昨日早退したので、何かあったのですか…?」

 そういって、まとまって三人で話していたクラスメートに話しかける。

 「り、鈴ちゃん…」

 「佐々原君に俺話しかけられてる!?」

 「えっと、何が起こったかだっけ…。あの、昨日佐渡山君と佐々原君がいなくなった後に食堂で転入生と生徒会が接触したんだ」

 「生徒会と接触、ですか?」

 生徒会は、抱かれたい、抱きたいランキングで構成されている。

 会長なんて帆獅様にランキングで負けたのが不服なのか、帆獅様にうざったいほどに絡むのだから身の程知らずのバカである。

 帆獅様ほど有能な人はいない。

 生徒会の親衛隊は過激であるというのに、接触するなんて転入生は制裁コースだろう。

 「それで――…」

 それからその子達が話してくれた話は実に呆れるものだった。

 会長が猿を気にいって、キスをかまして殴られた。

 副会長が猿にはなしかけて自分のモノ宣言をした。

 双子の書記が見わけてもらったことに気にいった。

 チャラ男の会計が「セフレは駄目」発言に気にいった。

 って、何てバカな人達なんだろうか。

 帆獅様に突っかかってきている時点でバカだバカだとは思ったが、こんなにバカだったとは…。

 それに加えて、猿は話を聞かなくて煩いらしい。

 親衛隊は最低と言い張り、色々面倒なことになっているようだ。

 「帆獅様、生徒会があの猿を気にいったようです」

 「へぇ、趣味わりぃな」

 クラスメートから話を聞き終えた後、僕は帆獅様に近づいて報告する。

 そうすれば、帆獅様は信じられないとでも言う風に言葉を放つ。

 「何でも情報によれば、あの猿を可愛いと思っているようです」

 「かわいい…? きもいの間違いだろう?なんだ、ギャグでいってんのか?」

 「いえ、本気でいってるらしいです。あの猿を可愛いといっているのですから、よほど趣味が悪いのでしょう」

 「本当に趣味わりぃな。鈴の方がよっぽど可愛い」

 「おほめいただいて嬉しいです。僕も生徒会の連中よりも、いえ、この世界の誰よりも帆獅様がかっこいいと思ってます」

 「生徒会の奴らより俺がかっこいいのは当たり前だろ。鈴もあの双子より断然可愛い。俺好み」

 堂々とした帆獅様の言動がかっこいい。

 「帆獅様の好みの顔に生まれた事をぜひ感謝したいものです。他の誰に言われるよりも帆獅様に言われるのが嬉しいです」

 「帆獅様、過激である生徒会親衛隊が荒れに荒れているようなのです」

 「ああ、そりゃあ、荒れるだろうな」

 「生徒会に関しては、親衛隊をセフレにし、ひどい扱いをしていたのですから、猿の言葉で「親衛隊を解散する」だの言いだしているらしいので、荒れても当然です」

 本当に生徒会も猿もバカなのではないだろうか。

 ちなみに聞いた所によるとうちのクラスの二名ほども猿に惚れたらしい。

 全員親衛隊持ちだなんて、猿はどうなっているのだろう?

 「へぇ? ま、生徒会がどうなろうとどうでもいい」

 「はい。僕もその意見に同意します。ただ、一度あった事がある人間や美形に絡む人種のようですので、帆獅様は絡まれる可能性がございます」

 「それはお前もだ、鈴」

 「それは言えているかもしれません。僕も抱きたいランキングなどという不愉快な物に入っていますからね。

 本当に僕は男だというのに…」

 「抱かれるのはいやか?」

 「そりゃあ、そうですよ。僕は男なんです。それに僕は身も心も帆獅様のものなのですから、誰かに与える気などないのですよ?」

 「俺には?」

 「帆獅様が望むというならば、僕の純潔ぐらい喜んであげます」

 帆獅様の言葉に、僕は間も置かずに答える。

 だって、帆獅様が望むなら何だって与えたい。

 帆獅様の望む事を僕は叶えてあげたい。

 それで、ずっと、帆獅様を見て居たい。

 「そうか」

 「はい。帆獅様に与えられるというなら何と言う本望でしょうか。僕は帆獅様が望む事はなんだって叶えてさしあげたいのです」

 そう、何だって。

 あの日、僕を帆獅様が拾ってくださったときからずっと僕の心も体も帆獅様のものだから。

 僕は帆獅様のためだけに生きてる。

 帆獅様のためになれるのは、何と言う本望だろう。

 笑った僕に、帆獅様も笑う。

 その笑顔をずっと、見ていきたい。

 楽しそう笑う表情も、不機嫌そうな表情も、色々な帆獅様の表情が、僕を嬉しくさせる。

 隣にいてころころと変わる帆獅様の表情を、ずっと見て居られることが嬉しい。

 「本当、鈴は可愛くていい子だ」

 「嬉しいですっ」

 帆獅様が、笑って僕の頭をなでてくれる。

 ああ。何て至福なんだろう。何て幸せなんだろう。

 そうして、幸せに浸っていたというのに――…。

 「あー!! お前ら昨日は何処いったんだよ!」

 何だか乱入者が現れた。

 振り向いた先に居るのは、昨日の猿。

 相変わらず不潔な外見をしていて、何だか後ろにはぞろぞろ生徒会がいる。

 生徒会の奴ら、ついてきたのか、教室まで…。何て言う猿についていくなんて無駄な時間を過ごし居るのだろう

 「てめぇに関係ねぇよ、猿」

 「煩いです。帆獅様が嫌がっているのですから、騒がないでください」

 帆獅様の不機嫌そうな声に、僕も続く。

 「てめぇ、俺様の優に向かって――!!」

 「ちょっと顔がいいからって…」

 「「ほんと、性格わるーみたいな」」

 「優ちゃんになんて事を」

 生徒会の奴らがなんか煩い。

 同じクラスの二人は帆獅様の怖さを知っているからか、何もいいはしないけれど。

 不良とスポーツ少年は、生徒会が帆獅様に喧嘩売ってるからか何とも言えない表情を浮かべているし。

 「は? ちょっと顔がいい? 俺はお前らの10倍はいい男だぜ?」

 「そうです。生徒会のあなたたちと帆獅様を比べる事事態間違っているのです。だって帆獅様はこの学園で、いえ、この世界で一番かっこいいんですから!!」

 全くもって僕は不愉快です。どうして生徒会……特に会長は自分が一番かっこいいなどと思っているのでしょう。

 そもそも俺様俺様と自身の事を呼んでいますが、それだけ偉いつもりなのでしょうか。

 僕にはよくわかりませんが、こんな生徒会のメンバーにも親衛隊はあります。

 一番規模がデカイのはもちろん、帆獅様の親衛隊ですけれども。

 「くっ、俺様が一番かっこいいに決まってる。俺様が一番に決まってる!!」

 「どの口がいっているのでしょうか。勉強面も運動面に関しては会長は帆獅様に劣っています。

 勉強に関しては僕よりも下でしょう? 万年三位の会長ですのに、どうして、一番などと言えるのでしょうか」

 本当に会長は帆獅様には勝てない。

 勉強も運動も、会長は帆獅様には勝てない。

 勉強に関しては、僕にさえ負けているのに、それでいて帆獅様をライバル視しているあたり何とも言い難い。

 「おい! 勉強とか運動よりもっと大事なことがあるだろう! 大体様付けなんておかしい。友達なら呼び捨てにすべきだ」

 「煩いですよ。猿。自分が一番だと会長が言い張ったので正論したまでです。

 それに僕と帆獅様は友達ではありません。そんな生半端な言葉で表せるほど浅い関係でもありません」

 僕は口出しをしてくる猿に苛々しながら、真っすぐに猿を見て言う。

 「僕は、帆獅様がいなければ生きていけません。僕にとって帆獅様は全てです。

 僕と帆獅様は友達なんて対等なものではありません。

 僕は、友愛、親愛、敬愛――ざまざまな全てが僕にとっての帆獅様なのです」

 全く、本当に僕と帆獅様の事知りもしないくせに言ったような口聞かないでほしい。

 僕と帆獅様の関係は、友達なんていう浅いものではない。

 ――帆獅様は、僕の全て。

 「なんだよ、それ、変だ! それに猿ってなんだよ!」

 「変だろうと構いません。これが、僕と帆獅様なのです。誰が何と言おうとも。

 僕が何故君を猿と呼ぶかなんて決まってます。帆獅様が君を猿だといったからです。

 帆獅様が言う事は絶対なのです。当たり前の事なのです。全部僕にとってはそうなるのです」

 帆獅様が、白といえば白で、黒といえば黒。

 本当は違ったとしても、僕とっては帆獅様の言う事が絶対なのだ。

 僕が笑って告げた言葉に、視界に入った帆獅様も笑っていた。

 「なんだよ、それおかしい!!」

 そういって、猿が僕に近づいたかと思うと、僕の手をいきなり握ってきた。

 「いっ――」

 「お前、何で様付けするんだよ! そんな風にするからこいつも孤独になるんだ」

 痛い痛い痛い、何て力が強いというか、力加減を知らないんだ。

 それだけの知能も持っていないのか、ああ、何てバカなんだ。

 「離して、ください!」

 「なんだよ、お前がこいつを孤独にするから悪いんだろ!!」

 そもそも何を言っているのだ、この猿は。

 帆獅様を孤独になんて僕はさせないし、帆獅様は孤独なんてしょうもないものにうじうじ悩むようなかっこ悪い方ではない

 会長達は孤独だとかわけのわかないことを猿にいったのだろうか。やっぱり、帆獅様の方が断然かっこいい。

 「鈴の手を離せ、猿」

 そんな帆獅様の低い声が聞こえたかと思うと、目の前の猿がぶっ飛んだ。

 どうやら、帆獅様が蹴り飛ばしたらしい。

 大きな音を立てて、教室の後ろにあるロッカーに体を激突させる、猿。

 流石、帆獅様。容赦ない蹴りです!!

 「てめぇ、優に何すん――」

 「鈴、行こう」

 「え、はい」

 帆獅様は、喚いている生徒会達の声など一切無視して、僕の手を握って、僕にいった。

 帆獅様、何処か怒ってる?

 どうしたんだろう…?

 僕はわからないまま帆獅様に腕を引かれて、教室を出る。

 そのまま、連れていかれたのは寮室。

 「帆獅様、どうかしたのですか…?」

 そんな疑問には帆獅様は答えてくれないまま、僕は帆獅様の手によってベッドに投げ出された。

 ぼすっと、ふかふかのベッドの上に僕の体は寝転がる。

 帆獅様は何もいわないまま、布団に投げ出された僕の腕を掴んで、先ほど猿に掴まれた部分を見た。

 うわ、跡が凄い残ってる。

 あの猿、どれだけ強い力で握ってたんだろう。

 未だにヒリヒリしている、それを見て、帆獅様はようやく口を開く。

 「鈴…」

 「はい…なんですか、帆獅様」

 「……俺のモノのくせに勝手に跡なんてつけられてんじゃねーよ」

 「え…?」

 「……俺以外に簡単にさわられてんじゃねーよ。お前は俺のモノなんだから、触っていいのも、跡をつけていいのも、俺だけだろ?」

 そうして、僕を真っすぐに見て笑う帆獅様はひどく妖艶な笑みを浮かべていた。

 ドキッとした。

 帆獅様が、こんな表情を浮かべて僕を見ているだなんて何とも言えない興奮が襲う。

 ギラついた目が、妖艶な笑みが、僕の目に映る。

 ぞくぞくした。

 ああ、何て目でこの人は僕を見ているんだろうって思った。

 「なぁ、俺になら、いいんだよな?ならいいか?」

 それは、きっと前にいってた、帆獅様になら――という発言の事をいっているのだろう。

 僕は、もちろん、

 「はい、喜んで」

 そうして頷いた。

 そうして、僕は帆獅様に全てを捧げる。

 「愛してます――、帆獅様……」

 最中に口にした言葉は紛れもない真実の言葉。

 そう、僕は帆獅様を愛してる。

 体も心も、僕の何もかも、帆獅様のもの。

 例え、一番じゃなかったとしてもいい。

 帆獅様が僕を必要としてくれて、帆獅様のそばにいるだけで、僕は満たされるから。




 ――今日も、僕はあなたに絶対服従。

(帆獅様の言う事は何でも真実なのです)



end



―佐渡山帆獅side―



 ベッドの腕で眠る、鈴を見ながら俺は携帯を取り出す。

 そして、実家に電話をかける。

 『お前がかけてくるなんて珍しいな』

 親父の声が、携帯から洩れる。

 「ああ、ちょっとむかつく奴がいてさ」

 あの猿も、あの生徒会も、本当、むかつく。

 雑魚のくせに俺に楯ついてくんじゃねぇよって感じしかしない。

 それに、あの猿は…、俺のモノに勝手に触れて、手形なんてものもつけたんだ。

 ああ、考えたらむかついてきた。

 鈴は自分の事を「俺のお気に入りの中の一人」って勘違いしてるみたいだけど、違う。

 鈴は、俺にとっての特別だ。

 俺に忠実で、俺が言った事は全て真実だと言い、俺のために何でもしようとする鈴が、俺は可愛くて可愛くて仕方ない。

 だって俺の下につこうって奴は結構いるけれど、鈴ほど真っすぐに俺のためだけを思って行動してるような可愛い奴はいない。

 周りがおかしいと思うほどに鈴は俺を愛してる。

 そして、俺は俺をそんな風に愛してる鈴が可愛くて可愛くて仕方がない。

 ――本当は、高校卒業してからのつもりだったのに、鈴に俺以外が跡なんてつけたのにむかついて結局やっちまったしなぁ…。

 『むかつく奴?』

 「ああ、俺の鈴に触りやがった奴がいるんだ。そんなの、俺と鈴の周りには要らない。排除しといてよ。鈴が眠ってる間にさ」

 鈴は俺のそばにいれるだけで幸せなんて、はっきり言うけれど、俺は手放す気なんて全くない。

 鈴は俺が拾った時から、俺のモノで、誰かに渡す気なんて全くない。

 『わかった。しかし、権力乱用しすぎんなよ』

 「はっ、バカいってんじゃねーよ、親父。権力ってのは使うためにあんだろ?」

 『…まぁ、そうとも言うが』

 俺の答えに親父は呆れたような声を漏らして、だけど頷いて電話を切る。

 あどけない寝顔を見せる鈴を可愛いと思う、愛しいと思う。




 ―――鈴は知らない。俺が鈴に特別を抱いている事を。

 (離れたいと縋ったって、鈴を手放さない自信があるほどに、俺は鈴にはまってる)




end



佐々原鈴ササハラリン

帆獅命。寧ろ帆獅以下の人間はどうでもいい。

帆獅がいったことは全て正しいという。

傍にいれるだけで幸せ。帆獅が自分の生きる意味と言い切る。

寧ろ、拾われてからずっと帆獅がいなきゃ生きていけないと思ってる子。

抱きたいランキングは実は二位と上位。可愛い外見。

帆獅にパシられてたりするからたまに「帆獅に苛められてる可愛い子」とか誤解されたりする。

一目みるだけだと魔王に嫌々仕えている姫に見えるらしい。

でも実際は自分から喜んで何でもする。


佐渡山帆獅サトヤマホシ

鈴を拾った本人。

普通に鞄持たせたり色々してる。自信満々。

普通に暴言も吐く。権力は使うためにあるらしい。

自分のために何でもしそうな鈴がなんだかんだで可愛くて可愛くて仕方がない。

抱かれたいランキングぶっちぎり一位の美形。

でも性格に問題アリだから生徒からすれば、「抱かれたいけど付き合いたくない存在」とされている。


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