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世界が壊れた。

王道がきて振られた子の話。

 「別れてくれ」

 何で、そんな事を言うの。何で、何で…?

 去っていく後ろ姿に僕は縋った。

 捨てないで、と僕は君がいなきゃ生きていけない、って縋った。

 抱きしめてほしかった。嘘だよと笑って欲しかった。

 「はっ、どうせ俺の顔と家柄しか見てなかった癖に」

 だけど向けられたのは冷たい目で、どこまでも冷たい声。

 彼の視線が、声が、僕を壊してく。

 ガラガラと、何かが崩れ落ちていったのを実感した。

 知ってた。君が僕を見なくなったことぐらい。

 何よりも僕を優先してくれていた、君。

 親衛隊にも、僕のために頭を下げた君。

 ねぇ、ずっと一緒だと笑ったのはうそだった?

 君が変わったのは、一人の転入生が来てかただった。

 可愛らしい顔立ちをした、一人の転入生。

 性格は悪くない、皆の人気者になった転入生。

 君とか、生徒会とかと仲良くなって親衛隊からうとまれている転入生。

 ――君が、彼を好きになったことぐらい、知ってた。

 一週間前から、途絶えたメール。

 連絡をしても、断られるお誘い。

 ―――そして、皆から向けられる同情のまなざし。

 それでも、信じたかった。縋りたかった。

 今までの二年が、あったから。

 君と一緒に居た二年間があったから。

 告白してくれたのは君だ。僕も好きだからそれを了承した。

 顔と家柄しか見ていない?

 どうしてそんな事を言うの?

 僕は、君が君であるなら顔も家柄も何も関係しなかったのに。

 なんデ、なんデ、ナンで。

 去って行った彼に、僕は地面に座り込んでないた。

 好きだ好きだ、好きだ――。君の事が、好きだ。

 何で、何で、何で―――!!

 君の声も、

 考えことをする時の癖も、

 喧嘩をしている君も、

 笑いかけてくれるその笑みも、

 甘いものが好きな所も、

 夜に中々寝付けないからって僕がいれば寝れるっていってくれるところも、

 僕の好きなものをわざわざ調べてくれるところも、

 全部、全部、ゼンブ、好きなのに!

 好きだよ、好きだよ、好きダヨ、すキダヨ、スキダヨ。

 ねぇ、顔と家柄しか見てないなんて誰がいったの? 誰がそんな事いったの?

 どうして、僕をそんな言葉で捨てるの?

 僕を好きだったいったのはうそなの? 二年間が嘘だったの?

 ずっと一緒にいようっていってくれたのはうそだったの?

 ねぇ、なんでなんで、なんで――――――。

 自分の中で、何かが崩れてく。

 自分の中で、何かが―――。

 他の人なんて考えられないほどに僕をはまらせたのは、好きにならせたのは、君でしょう?

 それから、どうやって寮室に帰ったのかわからない。

 泣きはらした僕を見て、同室者が驚いた顔をして、「どうした?」と問いかけたがそんなのに返答する余裕なんて僕にはなかった。

 ―――寮室の中には、君との思い出で溢れてる。

 ベッドに横になれば、君の香水のにおいが広がる。

 よく泊りにくるから、君の私物が部屋にある。

 飾られる写真立ての中にあるのは、僕と君の写真。

 僕は、僕は、ボクは、ボクは―――――、

 千里、千里、千里――――、

 冷たい千里の、目、

 千里の、冷たい、声。

 「あ。あぁあ……」

 捨てた、千里が僕を。

 捨てられた、僕が千里に。

 そして、僕の世界は壊れた。

 そして、僕の世界は色をなくした。



 ―――僕には、千里が必要だ。


 料理を食べても味がしない。おいしくない。

 ご飯が喉を通らない。

 息が苦しい。

 何もかも、色あせてしまった。

 楽しかったことにも、何も感じない。

 好きだったものにも、何も感じない。

 ああ、一言言うならば、千里が、欲しい。

 千里が。

 千里が。

 千里が、足らない。

 「―――」

 声が、耳を通り過ぎていく。

 気がつけば、時間が経っている。

 何も感じない、

 何も感じたくない

 心配そうに顔をのぞく顔に、声に、何も反応を示せない。

 千里が、居ない。

 千里が、足らない。

 声が、姿が、全てが、足らない。

 廊下をフラフラと歩く。

 トイレにいく、といって席を立った僕。

 千里、千里――――、狂ったのはきっと君が甘い蜜のようだから。

 僕は君を求めてる。僕は君を欲してる。

 ドンッ、

 千里の事を考えて歩いていれば、何かにぶつかった。

 「ごめん、大丈夫か?」

 声がする。

 金髪が、大きな目が、視界に映る。

 ああ、ああああああ、あああああああ、

 これは、これは、これは……転入生だ。

 それを自覚した瞬間、僕は―――

 「あああああぁああぁああぁあぁぁぁぁああああああああああああああぁぁああ!!」

 悲鳴を上げていた。

 そして、体がバタリッと傾いていく。

 声がする。

 誰かの声。

 僕の求める千里の声が、聞こえない。

 ああ、ずっと、千里の声だけ聞けて、千里の姿だけ、目に移せればいい。

 ああ、千里。

 僕は千里を思いながら意識を失った。












―姫川由利(転入生)side―



 「あああああぁああぁああぁあぁぁぁぁああああああああああああああぁぁああ!!」

 廊下を走っていたら、前を見ていなくて、人にぶつかった。

 平凡よりのどちらかといえば可愛いと言える、小柄な生徒。

 それが、俺の顔を見た瞬間叫んだ。

 そして、バタリッと倒れてしまった。

 え、と思った。

 俺はわけがわからなかった。

 廊下にいた生徒達が、教室にいた生徒達が彼に駆け寄る。

 「ソウ!?」

 「奏君!? ちょっと、転入生奏君に何したのよ!?」

 叫ぶ中には見知った顔がいる。

 俺が生徒会の連中と仲良くするからと制裁なんていうものをしてきた、生徒会親衛隊の隊長だった。

 「お、俺は何も……! そいつが、俺を見て倒れたんだ!」

 実際、その通りだったから俺はそう叫んだ。

 そうして、ざわめきだす、周り。

 「ああ、奏君…倒れるほど、いやだったんだ」

 「会ってくれるなよ!! ああ、最近ただでさえやつれてるってのに!」

 「里見の奴……!!」

 「それより、谷口を運ぶことが先だろ!」

 「くそっ、里見さん呼んでこい! 俺殴る!」

 「怖いけど、俺も!」

 里見…?

 倒れたそいつを罵倒する奴らが口にする「里見」という名前。

 「なぁ、里見って千里の事か?」

 転入してきて仲良くなったFクラスの頭である里見千里サトミセンリの名を口にすれば、一斉に睨まれた。

 なんだ…? こいつら全員千里の親衛隊って奴か?

 いや、でも、こいつら、さっき――、「殴る」とかいっていたよな。

 ……どういう事?

 「あんたのせいよ! 奏君がこんななってんのも!!

 会長様に近づくだけでも気に食わないっていうのに!!」

 「お前が、いなきゃよかったのに!!」

 「いなきゃ――、谷口は、里見さんのそばで笑っていられたのに!!」

 「何で転入してきたんだよ!!」

 向けられるのは、敵意に満ちたまなざし。

 向けられるのは、敵意に満ちた言葉。

 俺のせい?

 わからない。

 俺はいつも正しい事をしてた。生徒会の奴ら達は親衛隊のせいで友人が出来ないっていった。

 だから、親衛隊はない方がいいといった。

 穏健派と過激派があろうとも、親衛隊なんてものがあるのがおかしいと思ったから。

 そういえば、会長の親衛隊はやけに突っかかってきていた。

 ……それは、俺がアイツと仲良いせいだけではない?

 だって、今現に、先ほど運ばれていった倒れた奴の事で怒ってる。

 「どうした」

 「何があった?」

 そうして、そんな中やってくるのは生徒会や風紀の奴ら。

 その場が、シンと静まり返る。

 「「あー、会長の親衛隊隊長がいるじゃん?」」

 「何ー、由利ちゃんの事苛めたの?」

 「…由利に何かをするなんてっ」

 「ちょっとまて、何があったか聞いてからだろう」

 双子(書記)、孝太(会計)と裕(風紀副委員長)、あと知らない会った事がない男がいた。

 「風紀委員長! さっき奏が倒れたんです!!」

 「こいつに会って、バタリッと!!」

 「委員長、里見さん、何処ですか!! ちょっと全員で殴りにいってきます!」

 「皆でやれば怖くない、だよね! うん、停学覚悟でいってきます!」

 周りの生徒たちが一気にそんなセリフを言い放つ。

 「…風紀の前でその発言はよさないか?」

 どうやら俺があった事がなかった、風紀委員長らしい。

 俺と生徒会とか副風紀はというと、生徒達の言葉にわけがわからなかった。

 「でも、里見さんがそいつに惚れたからって奏の事振るから!!」

 「顔と家柄だけとかわけわかんない事いいだすし! 谷口ってそんな奴じゃねぇのに!」

 「お前がいなきゃよかったのに! 転入生が現れなきゃよかったのに!!」

 さっき倒れた奴と、千里が付き合っていた?

 俺が現れたから、別れた?

 そんなこと、知らなかった。

 「奏には里見君がいなきゃだめなのに!!」

 「ああああ、もう、風紀なんか知らない、全軍突撃!!」

 「うん、いこう!!」

 「里見をぶん殴る」

 「って、お前らちょっとま――」

 目の前で次々と足を進める生徒達を必死に止めようとする風紀委員長がいるが、彼らは止まらない。

 俺のせい?

 俺は、それを思ってわけのわからない、グチャグチャな感情で胸をいっぱいにするのだった。



―姫川由利sideend―






―谷口奏side―



 「奏」

 ああ、千里千里千里、僕の名を呼ぶ、千里。

 真っ白な空間の中に僕と千里がいる。

 ねぇ、千里。言った事なかったけど、僕は初等部の時から千里の事好きだったんだよ?

 だから、告白された時、凄く嬉しかった。

 『―――で、奏は目を覚まさないんだよ!』

 『おきろ!!』

 「奏」

 千里の声以外聞こえない。

 他は何もいらない。

 他のものは要らない。

 そう思えるほどに僕は千里が好きになった。

 付き合って益々、千里が好きになった。

 『おい、奏!!』

 『奏君、目を覚まして…』

 聞こえない、聞こえない。

 何も聞こえない。

 僕はずっと、此処にいる。

 この真っ白な世界で、千里とずっと一緒に居る。

 ああ、千里、千里、千里―――、

 千里の居ない日常なんて、いらない。





end

谷口奏タニグチソウ

平凡顔だけど、普通に可愛がられてる小柄な子。

千里大好き。初等部の頃から好きだった。

ずっと欲しかったものが二年間手に入っていて、手放したら壊れるほど千里に依存してる。



里見千里サトミセンリ

何故か転入生に会って、自分をわかってくれるのはこいつだけだという思考に至る。

奏を振るFクラストップ。



姫川由利ヒメカワユリ

転入生。性格は別に悪くない。

顔は美少女顔。


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