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目当ては彼ではなく、君です。

 「なぁなぁ、お前名前なんていうんだよ」

 最近、俺の通う学園には、知り合いの腐女子が言う所の『王道』が居る。

 髪は金色に染められていて、確かに可愛らしい顔立ちをしていた。確かに女に間違えるほどの外見を持っている。

 その男は今日も学園のいいお男達を侍らせている。

 俺も、きっと周りからみたらその取り巻きの一人に見えるのだろう。

 ――でも生憎俺の目当ては『王道』ではない。

 俺の目当ては、

 「なぁ、達哉もそう思うだろ」

 「…ああ」

 めんどくさそうに『王道』を見ている、『王道』の双子の弟だ。

 『王道』の事は正直、確かに元気で明るいし真っすぐだろうけれど、それだけにしか見えない。

 周りの連中は『王道』に惚れているけれど、その気持ちはさっぱり理解できない。

 『王道』の弟である坂本達哉サカモトタツヤに興味がある、なんていったら知り合いの腐女子に「非王道なのね!!ぜひ詳細を」って息を荒くして言われた。

 「なぁなぁ、和希!!」

 坂本達哉の事を見ていたら何だか『王道』に腕を掴まれた。

 ちなみに俺は、王道学園でいう所の『爽やか君』的ポジションらしいよ? 実際バスケ部エースだし。バスケめっちゃ楽しいから好きだしな。

 まぁ、俺は王道学園でいう『爽やか君』と違って自他認める性格の悪さだけど。最もその性格の悪さを知っているのは親しい人間たちだけだけど。

 「何だ?」

 「今度、バスケの試合あるんだよな。応援しにいっていいか!?」

 「別にいいよ」

 「本当か! 達哉、お前も行こうぜ!」

 「え」

 力哉の言葉に、達哉君はそういって俺の方をちらりと見てくる。

 他の連中は達哉君の事敵視しているから、それで俺もそう思われているようなのだ。

 他の連中なんて「力哉だけでいいのに、何で弟だからって――」っていう態度だからな。大人げないよね、確実に。

 そもそも普通好きな相手の家族には優しくするものだと思う。俺だったら家族にひどい態度するやつに愛をささやかれても正直ふざけんなってなる。力哉の場合は馬鹿だから達哉君がどういう態度されようがわかっていないようだけど。

 「いいよ、達哉君もおいで」

 寧ろ、達哉君に活躍見ててもらえれば嬉しいから俺は笑ってそう言うのだ。

 『王道』と一緒に転校してきた、達哉君が気になって俺は傍にいて、だから別に力哉には『ただのクラスメイト』という感情しか湧いていない。

 俺の言葉に驚いたように、だけど、力哉と一緒にいなきゃなのが面倒なのか、表情を歪めた達哉君を見て可愛いと思う。

 生徒会とかは力哉を可愛いっていうけど、俺には達哉君の方が可愛く見える。

 真っすぐな子より、何処か捻くれてる子の方が俺は好きだ。

 「そうか、なら達哉と応援にいくから、頑張れよ!」

 「うん」

 さて、達哉君も見ててくれるらしいし、頑張らなきゃ。


 そしてバスケの試合の当日はすぐにやってきた。


 「雪野!!パス」

 先輩からの声に、俺はボールを受け取る。

 バスケをするのは、楽しい。

 ドリブルをして、敵を抜いていき、ゴールに向かう。

 パスッと投げたボールが、ゴールに入っていく感覚が俺は好きだ。

 体を動かすのが好きだ。思いっきりバスケをするのが好きだ。

 一生懸命ボールを追いかけて、精一杯のプレイをする。

 結局試合には勝った。気持ちのよい汗を流して、すっきりしてる。

 ああ、やっぱり、バスケをするのは好きだと試合のたびに思う。

 「かっこよかったぞ!和希!!」

 力哉がそういいながら近づいてくる。

 後ろにはぞろぞろと生徒会達や達哉君がいる。

 正直力哉よりも、達哉君にどう思われたかが気になる。

 だって、力哉の事は正直どうでもいいから。

 周りの連中は俺の事睨んでくるけれども、俺にとってみればどうでもいい存在でしかないのだ。

 それで睨まれるのは、何かむかつく。

 でも、達哉君に近づきたいと思うから力哉のそばにわざわざいるのだ。

 力哉は達哉君を連れまわすから。

 それにしても、他の連中はバカなのかね。

 力哉に達哉君が無理やりついていっているって目がどうなっているのか正直に知りたい。

 親衛隊の連中も、力哉が付きまとってるとかいって制裁してるらしいけど…。

 なんつーの、本当にバカらしいと思う。

 明らかに力哉が愛をささやかれている方だしなー。

 力哉は真っすぐだけど、それでもただ単に単純なだけだし。正直俺たちの光だだの、天使のようにやさしいだの言っているほかの連中の頭は正気を疑う。

 親衛隊にも色々居るのに親衛隊を全員駄目だっていってんのがバカらしい。

 会長達に親衛隊なんてあるのおかしいからなくすべきだの、Fクラスの隔離はおかしいから無くすべきだのいってるらしいけど…。

 ぶっちゃけ、なくなったら困るのはこっちだと思う。

 そんな力哉の我儘で親衛隊や隔離がなくなってみろ。

 そしたら、親衛隊の規制がなくなったからと親衛隊持ちが襲われるかもしれない。

 Fクラスと一緒になったら、殴られたり色々するかもしれない。

 ああ、それに比べて達哉君って何て可愛いんだろう。

 めんどくさそうに力哉を見ている顔も、甘いものが好きなのか食べて頬を緩ませてる顔も、何か、すげぇ、可愛い。

 ああ、欲しいなぁ。

 そういえば俺の親衛隊は穏健派だし、ちゃんと話つけてあるから何もないけれど他の奴らの親衛隊は達哉君を害そうと必死だ。

 俺の親衛隊には手を出さないように、そして力哉の巻き添えくらってる達哉君を守ってと頼んでいる。力哉はどうでもいいから達哉君をといっておいた。

 『…はぁ、弟君を気にいっているんですね。あんなに転入生と仲良さそうなのに…、何かあってもいいんですか?』

 と呆れたように親衛隊隊長に言われたが、

 『力哉?どうでもいい。そもそも俺の親衛隊動かさなくても取り巻き誰かが守るだろ』

 そういって笑ってやった。

 だって、達哉君の方が気になるし、力哉はどうでもいいし、第一取り巻きの誰かが守るだろうから俺が守る必要性は一切ない。

 試合からしばらくたった日、俺は中庭で達哉君を見つけた。

 一人で歩いている達哉君。

 一人でいたら親衛隊とかに絡まれて危ないんじゃないか、って、そんな風に思って俺は達哉君に近づく。

 何より一対一でゆっくり喋りたかった。

 いつも、力哉がいる中で喋ってるだけだったし、正直力哉って声でかくて煩いから、ゆっくり話せないのだ。

 「達哉君」

 「…雪野? 何だ、力哉なら居ないぞ?」

 「知ってる」

 可愛いなぁ、俺が力哉を好きと思って冷たい目を浮かべてる達哉君が可愛い。

 力哉のそばにいるからって力哉が好きだと思いこんでる達哉君が可愛い。

 俺は力哉じゃなくて達哉君と話したいのに、それを理解していない達哉君が可愛い。

 「俺ね、達哉君とお話してみたかったんだ、ゆっくり」

 力哉がいないとしってもにこにこと達哉君を見ていた俺に怪訝そうな表情を浮かべた達哉君。

 そんな達哉君に俺は笑って言った。

 ゆっくり達哉君と話したいってのは真実だった。

 達哉君の色々な表情が知りたい。寧ろ、力哉にくっついてなくても達哉君に会えるというならば、力哉と一緒に居ない。

 「俺と…?」

 「うん。だから、時間があるならお話しない?」

 そして、俺と達哉君はベンチに並んで座る。

 今は春で、花々が咲き誇っていて、中庭の風景は見ていて気持ちいい。

 「それで、話って?」

 「んー? 何でもいいよ? 達哉君と話してみたいだけだから」

 「……力哉に近づくなとかそういうのじゃないのか?」

 俺の言葉に、隣に座る達哉君が驚いたようにこちらを見てくる。

 その驚いたような目が何だか可愛いくて、思わず口が緩む。

 「誰かにそんな事言われたの?」

 「ああ。雪野以外の奴にはしっかり釘さされた。優しいからって、だの知るかボケとしか…」

 「ははは。会長達何かわけわかんない思考してるもんな。明らかに達哉君連れまわされてんのに付きまとってるって」

 本当、全然付きまとってねーのにな。

 しかも今「知るかボケ」っていったし。あー、暴言吐いてるの何か可愛い。やっぱ達哉君可愛くてほしいなと改めて感じる。

 「雪野って、他の取り巻きとちげぇな…」

 俺の言葉に何処か驚いたように達哉君がそういう。

 「そりゃ、違うよ。だって俺別に力哉に恋愛感情なんてねーもん」

 「力哉の事、好きじゃない…?」

 「あはは、驚いた顔してるな。でも本当だよ? 俺他に気になる子いるもん」

 いきなり達哉君が気になるなんていったら駄目かななんて思って、俺は誤解を解くように笑った。

 だって、達哉君に俺が力哉の事好きだなんて勘違いされたままっていやだしな。

 力哉にどう思われようとどうでもいいけど、達哉君に勘違いされるのは困る。

 「へぇ…。あ、だから雪野は俺を睨まなかったのか」

 「そりゃあ、睨まないよ」

 達哉君みたいなかわいー子、睨むわけないじゃんって気分になってくる。

 「達哉君は、いつも甘いもの食べてるけど、好きなの?」

 「え、ああ」

 「じゃあ、今度一緒にパフェ食べにいかない? 俺もそういうの好きだし。おいしいお店知ってるんだ」

 きっと、あのお店のパフェ食べたら達哉君は可愛く笑うんだろうなぁなんて思って、俺は微笑む。

 そんな風にかわいく笑う達哉君の事、俺は見たい。

 「おいしいパフェの店…?」

 「うん、一緒いかない? おごるよ?」

 「え、いやいや、いってもいいけど自分で払うから」

 別に達哉君の可愛い笑顔が見れるならお金払うぐらいどうでもいい(寧ろ小遣い余ってるぐらい)と思ってるんだけど達哉君はそんなの悪いとでも言う風に言葉を放つ。

 必死になってお金は自分で払うといっている達哉君に、何だか笑みが零れる。

 「じゃあ、今度の休みの日、いこっか?」

 「ああ…って、確かに力哉の奴が来週出かけるっていってたから俺も雪野も誘われる気が…」

 頷いたかと思うと、めんどくさそうな顔をして達哉君はそう言った。

 そういえば、力哉の奴そんな事いってたっけ。何だか凄く楽しそうに生徒会の奴らと計画してたっけ。

 俺は別にいくともいってないのに、勝手にメンバーに加えられてた気が…。達哉君居るならいいかなっておもってたけど、二人で出かける方が断然嬉しい。

 「じゃあさ、達哉君、断っちゃおうか」

 「断る…?」

 「そう、達哉君は俺と二人で出掛けるのいや?」

 「いや、別にいやじゃないけど…、力哉の事断れるのか? アイツしつこいぞ?」

 達哉君はうんざりしたように言う。普段連れまわされているから、どれだけしつこいかわかるんだろう。

 まぁ、確かに結構しつこいよな。力哉って。

 達哉君は断るの面倒なのか、断れないのか、連れまわされてるんだよな、結構。

 「大丈夫、俺ならどうにかできるから。なんなら仮病とか使ってもいいし、アイツバカだから騙されそうだろ?」

 にっこりと隣に座る達哉君に笑いかける。

 「ぷ…、雪野って力哉の取り巻きかと思ったけど、本当全然違うっぽいな」

 力哉を「バカ」っていったからか、達哉君がそういって笑う。

 また新しい表情が見れて、俺は嬉しくなった。

 ああ、何て可愛いんだろう。達哉君って。

 「俺にとって力哉は『ただのクラスメイト』なんだから、取り巻きなんて言わないでほしいかなぁ」

 「へぇ、そうなんだ?」

 「うん。とりあえずさ、力哉には二人で断って、今週は出かけるって事でいい?」

 達哉君に語っていることは紛れもない本心だ。力哉の事は別に『友達』とさえ、俺は思っていないのだ。

 あっちは俺を『親友』とでも思ってそうだが、一方通行である。俺は力哉がどうなろうと知ったことではない。

 「…いいけど、俺断れる自信ないかも」

 「デートするからって言えば?」

 「へ? デ、デート?」

 「二人で出掛けるならデートだろ?」

 「そうか…? じゃあ、そういって断れたら断る」

 「うん。あ、連絡先聞いていい?」

 「ああ」

 スマホをポケットから取り出していった言葉に、達哉君は頷く。

 よし、これで連絡先手に入る!

 実は俺、力哉の連絡先も知らないんだけどな。興味ないから聞いてないし、別に知りたいとも思わないし。力哉に聞かれたときは軽く流している。だって電話かかってくるとめんどくさいし。

 「じゃあ、達哉君、俺授業行くから、またな」

 「ああ」

 「とりあえず、断れそうなら連絡して。俺は絶対断るから」

 「…ああ」

 にっこりと笑って放った言葉に達哉君は頷いた。

 ああ、楽しみだな。

 週末に達哉君と出かけられるなんて。

 これは、絶対に断らなきゃ。俺はそう思いながら笑うのだ。




 ――『王道』?興味ありません。

 ――俺が興味があるのは『王道』ではなく『王道』の弟です。



end


雪野和希ユキノカズキ

ポジションは王道でいう爽やか君だけど、寧ろ王道には興味ない。

真っすぐな子より捻くれてる子の方が好き。

さらっとひどい事を内心思ってる。

バスケ大好き。体動かすの大好き。


『王道』=達哉に近づくための便利な存在で、ただのクラスメート


坂本達哉サカモトタツヤ

『王道』の弟。何だか色々取り巻きに言われてうんざり。

兄の事は嫌いというよりめんどくさい。

会長達にお前らの目は節穴かといってやりたい。

甘い物好き。



力哉

『王道』。真っすぐ。和希の事親友と言い張るけど、『ただのクラスメート』で、『どうでもいい存在』と思われているという悲しい事情(笑)



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