王者様の唯一の男 3
元親衛隊隊長目線
僕には、敬愛している人がいた。
北帝幸臣様。
失脚されて、Fクラス落ちしてしまった前生徒会長だ。
僕は、後悔してる、ずっと。
幸臣様を信じられなかったことに。
転入生が来て、生徒会の皆様が転入生に惚れて、そして学園は大いに荒れた。
そんな中で、幸臣様が仕事もせずにセフレを作って遊んでいるという噂が出回った。
それをいっていたのが、他の生徒会の皆様だった。
それに幸臣様は、否定しなかった。
何もいわないで、教室にもあまり来なくなった。
だから、僕は信じてしまった。
北帝幸臣様親衛隊隊長として、一番幸臣様を信じなければいけなかったのに。
親衛隊を解散してしまった。
そして、幸臣様はリコールされて、Fクラスに、あの無法地帯クラスに落ちてしまった。
……何とも言えない気分で、僕は新しく生徒会長になった転入生を見ていたものである。
それから、しばらくして、また生徒会はリコールされた。
何でも理事会の審査が定期的に生徒会や風紀は行われていたらしいのだ。
その結果、現生徒会が仕事を放棄していて、幸臣様の無罪が広まった。
役職を失った生徒会や風紀の皆様は、Eクラスまで落ちた。
幸臣様の行ってしまわれた、Fクラスの手前のクラスだった。
どうして、幸臣様を貶めたのにEクラスにとどまっているのだ、と憤ったものだけど、幸臣様を信じられなかった僕が言っていい言葉じゃきっとないんだろう。
EクラスはFクラスほどではないけれど、劣等成績を持つ生徒が集められる素行が悪いクラスだ。
転入生が退学して、クラス落ちした元生徒会の皆様方は反省もせずに逃げる事は許されないという事で学園からさる事もせずに肩身の狭い思いを送っている。
うちの学園は、S~Eまでが一般クラスであり、Fクラスは隔離された無法地帯なのだ。
幸臣様が無罪だと知った僕は、厳選に理事会や教師によって選ばれた新生徒会の皆様に幸臣様をSクラスに戻すように頼みこんだ。
それから、一週間後、僕は生徒会室に呼び出された。
生徒会室に入ると、現会長の在原楓様と副会長の南幸輔様が居た。
「来たか、そこに座るといい」
「はい」
「北帝の事だが…、直接Fクラスまで一度いって、その後もちょっとある奴に連絡を頼んで説得してみたんだが…、Fクラスに残るといっている」
「え?」
幸臣様が、Fクラスに残る…?
どうしてだろう、その真意がわからない。
疑いたくないけど、そんな事いって本当は在原様がFクラスにいってないんじゃないかとさえ、思ってしまう。だってFクラスは危険な場所なのだ。本当に。
「…信じられないのも無理はない。俺も最初信じられなかった。お前たちのように北帝が戻ってくるのを望んでいる奴がいるから、何度かいってみたが、やっぱりFクラスがいいらしいのだ」
その目は真剣で、嘘だとは思えなかった。
「でも、どうして…」
Fクラスより、Sクラスの方が安全で、絶対にいいと言えるのに。
どうして、隔離されているクラスでいいなんて…。
わからない、と思っている僕に南様が口を開く。
「それが、僕も信じられないんだけど、Fクラスに北帝は恋人がいるんだって」
「え!? 幸臣、様に恋人!?」
驚いた。
幸臣様に恋人がいるなんて、そんな事全然知らない。
もしかして、不良クラスで見た目がいい幸臣様が無理やり……正直そうとしか思えない。
「ゆ、幸臣様が不良と付き合っているなんて嘘です! あんなに真面目な方なのに。
絶対無理やりです。幸臣様は美しいですから、きっと…。ああ、僕が信じなかったから…」
「いや、ちょっとまて小野。それは違うぞ」
「でも、在原様、あの人が…」
「……信じられないなら、Fクラスにみにいくか? 俺がみた限り無理やりなんかには全然見えなかったが」
僕の言葉に向かい側に座る在原様は、苦笑を洩らして言った。それにとっさに困ってしまう。だってFクラスは本当に危険なのだ。
「え、Fクラスにいくなんて…」
「あー、心配するな。さっき北帝に連絡してもらってる奴居るといっただろう?
そいつが、そのFクラスの連中に異常になじんでる一般クラスの生徒でな。
一番最初にFクラスにいった時、俺も北帝の所まで案内してもらったんだ。そいつに頼めば連れてってくれるはずだ。
心配なら、俺も行く」
「あ、僕も行きたい」
戸惑った僕に、在原様がいって、南様も言う。
Fクラスになじんでる、一般生徒…?
そんな人いるのだろうか、と疑ってしまうけれども、在原様は人を騙すような人でもないし、きっといるのだろう。
「……じゃあ、その人に頼んでもらえますか? 僕、目で見ないと信じられないんです
それに…、謝りたいんです」
会えるなら、謝りたいと思ってた。
信じられなくてごめんなさい。
親衛隊なのに解散して、裏切ってしまってごめんなさい。
そう、言いたかった。
でもFクラスになんていけるわけないからってずっと思ってた。でも、行けるなら、僕は…。
そう思って、そのFクラスになじんでる子を呼んでもらったわけだけど、
「新会長様、何の用ですかー」
何て笑いながらやってきたその子はどこからどう見ても平凡な子だった。
こんな子が、Fクラスになじんでいる?
正直、信じられない。
『鈴木一雅』って、確か数日前に生徒会室に放送で呼ばれてた子…?
「呼びだして悪かったな。小田が北帝の恋人がFクラスにいるのが信じられないらしくてな」
「小田って、あー、会長様の元親衛隊隊長さんか。
じゃ、連れてけばいいのか。Fクラスに」
「ああ。ついでに俺と幸輔も行く」
「おー、副会長様はFクラス初行きですねー。ま、安心してください。新会長様達には手出させないようにしますんで」
にっこりと、その子は笑う。
正直この子がFクラスになじんでる事は信じられないけれど、その子に案内してもらう事になった。
「一雅、また連れてきたのか」
「一般クラスの奴連れてきすぎだろ、鈴木さん…」
「てかあの子かわいーんだけど」
Fクラスの領域にやってきた。
ああ、何か不良ばっかりだ。しかも舐めまわすように見られてびくっとなってしまう。
在原様や南様も表情を硬くしているのにその中を平然と通っていけるなんて何だか凄い。
「俺に半殺しにされたくなかったら、小田君脅えさせるのやめよーね」
にっこりと、鈴木君が笑って、周りに告げる。
そうすれば、
「え、嫌だ。一雅君容赦ねーもん」
「そもそも鈴木怒らせたら川上も切れるだろ」
「……一雅と紫苑か。何て恐ろしいコンビ」
「いや、下手したら面白がって冬季さんまで…」
「うえ、怖すぎね、それ」
驚くことに周りはそんな言葉をささやいている。
鈴木君は恐れられているらしい。こんな不良の中の不良とも言える連中に…。見た目からじゃ全然想像できない。だけどこの不良たちの中でも発言力はあるらしい。
「小田君安心してねー?
変なこと言う奴は俺がシメとくから」
「え、う、うん」
「あはは、脅えてかわいー。立派な受けだよね、小田君って。かっこいい攻にせめられちゃえばいいのに」
こんな中でにこにこと笑って、どんどん進んでいくなんて本当凄い…。
屋上への階段を上っていく鈴木君の後をついていく。
一切、生徒達に絡まれなかった。寧ろ、Fクラスの生徒達は鈴木君に挨拶を交わしていた。
本当に、在原様がいっていたようにこのクラスにこの子はどれだけなじんでいるのだろうと、驚く。
だってFクラスは、一般クラスの恐れられている不良でさえ足を踏み入れることを躊躇われる場所だ。
そんな場所に鈴木君がなじんでいるなんて、実際に見なければ絶対信じなかった。
屋上への扉をあける。
そうして、広がっているのは、青い空。その中を白い雲が流れている。天気は晴天。そんな中で、青空の下に存在する二つの人影が居た。
その人影の一つが――、
「幸臣様!!」
僕の敬愛していた生徒会長の北帝幸臣様だった。
「小田…?」
「ん? ゆき、知り合い?」
何で僕が此処にいるのかわからないという様子で、こちらを見ている幸臣様。
その隣には、鈴木君と同じぐらい平凡な顔立ちをした一人の制服を少し着崩している生徒がいた。
その生徒は、幸臣様を”ゆき”と呼んで柔らかく笑った。
それに対し、幸臣様は僕が見たこともないような何処までも優しい表情で答える。
「俺の元親衛隊隊長」
その何処までも優しい表情に驚いていれば、僕の隣に居る鈴木君が口を開いた。
「会長様、冬季、一昨日ぶりー。今日は会長様の親衛隊隊長の小田君と新会長様と副会長様連れてきたよー」
「一雅、お前なぁ…最近一般クラスの奴連れてきすぎだろ」
「いやー、皆冬季×会長様の平凡×男前の素晴らしいカップルに興味津々なんだよ!」
目の前で鈴木君が平凡な生徒と会話を始めている。
「一雅、お前みたいな腐った目で見る奴なんてそうはいねぇだろ」
「本当、鈴木って何いってるかわからない」
「ふっ、会長様はそのままでいいのですよ! 腐った知識に一切染まらず不思議そうな顔してる会長様萌える。ギャップ萌えって感じで超素晴らしいと思います」
「え、って、こ、恋人!?」
ある生徒、幸臣様、鈴木君の会話に、一瞬フリーズしていた僕は驚いて叫んだ。
そうすれば、一斉にこちらに視線が向く。
Fクラスに恋人が居るとは聞いてたけど、不良で無理やりと思った。
でも…、相手はこんな平凡そうな子だし、それに幸臣様は何処までも優しい表情をしていた。
正直、理解がついていけない。ついでに鈴木君が何いってるか全然理解できない。
「はじめまして、ゆきの元親衛隊隊長さん。俺は、ゆきの幼なじみ兼恋人の南城冬季」
にっこりと、その生徒――南城君が笑った。
「ゆ、幸臣様の幼なじみで、恋人、ですか?」
そんな存在がいるなんて聞いたことなかった。だから繰り返してしまう。
「うん、そ。で、新生徒会もさ、元親衛隊長も何しに来たわけ?ゆきを連れまわすためなんていったらFクラス使って荒らすよ?」
僕を見て、次に後ろに居る在原様と南様を見て、南城君が言う。
笑っているのにその目は何処か、冷たくて、思わず体がびくついた。
「冬季ってば、小田君怖がってんじゃん? 殺気ただ漏れっていうかさー」
「そりゃ、当たり前だろ。折角ゆきと寮でも教室でも一緒にいれるってのに連れ戻されるとかたまったもんじゃねぇよ」
「溺愛攻ごちそうさまです。それにしても本当萌える。あ、あと小田君は不良と会長様が付き合ってるの信じられなくて見たかったみたい。後ろの若干震えてる副会長様は多分好奇心でかな?」
鈴木君は、鋭い目に脅えもせずに声をかけずらい雰囲気を出している南城君に躊躇いもせず話しかけていた。
…凄い、と正直思ってならなかった。
南城君も鈴木君も見た目は何処にでもいそうな子なのに、何だか器が違う。
そんな風に思ってしまう。
「あ、あの、ゆ、幸臣様!!」
南城君の目が何だか怖いんだけど、謝りたくて僕は口を開く。
僕の声に反応して幸臣様がこちらに視線を向ける。
「その、あの時…、信じなくてすみませんでした…。僕は幸臣様の親衛隊隊長だったのに…、信じなくて…、解散してしまって、すみません、でした――…」
そういって、思わず下を見てしまう。
もう一度会えるなら、謝りたいと思っていた
思わずうつむいてしまった僕の耳に響くのは怒りとかそんな声じゃなかった。
「頭を上げろ。俺は感謝こそしているが、怒ってはいない」
驚いて幸臣様を見上げれば、幸臣様は口元を緩めて笑っていた。
「俺は、冬季と同じクラスがよかった。だから、自分からクラス落ちしたいって思って、反論も何もしなかったんだ。
寧ろ、俺を此処に落としてくれたことに感謝してる」
そういって、不敵に笑う姿は何処までも堂々としていた。
このクラスにいれる事が嬉しいと、その目が告げている。
脅されてるんじゃないか、無理やりなんじゃないかって心配していたのがばかばかしくなる。
在原様がいってた事は本当だったんだ…。
後ろに居る、南様は面白そうに幸臣様と南城君を見据えていた。
「本当に、ゆきを落としてくれたありがとう。俺二年連続ゆきが居ないとか流石にストレスで大暴れするところだった」
「あー、冬季。ってそういえば会長様を拉致しようかなとかいってたもんね」
何だか鈴木君と南城君が危ない会話をしている気がするけど、とりあえず幸臣様が幸せそうで安心した。
僕はじっと、幸臣様を見る。
「幸臣様…親衛隊は解散してしまいましたが、僕はいつまでも幸臣様を応援しています。
南城君…、幸臣様の事よろしくお願いします」
「ん? 頼まれなくてもやるよ。ゆきは俺のお嫁さんになるんだもんな」
「え? お、お嫁さん?」
「うん。何? 俺が女役と思った? ないない、んなことになったら屈辱で死ねる」
え、それって………女役が南城君じゃないって事は…。
その、ゆ、幸臣様が……。
「って、ええええええええ。幸臣様が、下何ですか!?」
そうして、その場で僕は思わずそんな大声をあげてしまうのであった。
end
オマケ 冬季side
「ゆき、かわいー」
寝顔をじーっと見つめながら、俺は幸せな気持ちに浸る。
ああ、ゆきの寝顔可愛い。肌には俺がつけた赤いキスマークが光っていて、何だか嬉しくなる。
一般クラスの奴らはゆきの事タチとして見てたらしいけど、ゆきって本当、もう可愛いの。
ゆきのさらさらの黒髪をなでる。
「……ん」
ゆきから漏れる小さな声に、ますます俺は頬が緩むのを感じた。
ゆきと同じ部屋ってだけで、幸せすぎるっ。
瞳を開けた、ゆきは眠たそうに目をこする。
その仕草からして、もう俺からすればかわいーと思って仕方がない。
「ゆき、おはよう」
そういって、声をかければ、ゆきも笑ってくれる。
「冬季、おはよう」
「今日、授業どうする?」
Fクラスは教師なんて来ないし、無法地帯というのに相応しい。
結構ゆきは真面目だから学園に行くけど、特にやることもないし、寮室にこもっていても誰も文句は言わない。
「…行く」
「ゆきは、真面目だねぇ」
制服に着替えて、ゆきと一緒に教室へと向かう。
「あ、冬季さんちーっす」
「今日も仲良いですねー」
まず、入学してすぐに大暴れしたから俺に手を出そうって奴はいないし、こうしてのんびりとゆきといれるからどうしようもなく幸せだ。
入学した当初はゆきと同じクラスになれないって理由で俺滅茶苦茶荒れてたからな。
ゆきがいなくて詰まらなくて、苛々して、俺が平凡顔だからって絡んでくる連中がうざくて……、滅茶苦茶暴れたなぁ、俺と昔を思い出して懐かしく思う。
「…冬季、どうかしたのか」
「んー、入学した時が懐かしいなぁって思っただけ」
「入学か…」
「うん、俺、Fクラス入学決まってゆきと同じクラスなれないし中々会えないってしって、すげぇ、寂しかった」
「………」
周りには無表情に見えるかもしれないけど、何処となく、照れてるのがわかって、頬が緩む。
「……俺も、冬季いないの嫌だった」
そんな風にいって照れているゆきが可愛くて仕方がない。
可愛くて仕方のないゆきの手を取れば、ゆきも握り返してくれる。
―――教室で膝枕でもしてもらおうかな。
そうしたら少し照れたゆきが見れて、すげぇ、可愛いし。
そんな事を思いながらも俺は笑うのだった。
―隊長達が帰った後の、冬季と幸臣会話のみ―
「それにしてもあのチビ根性あるな。ゆきに会いにFクラスまでくるとか」
「…小田はいい奴だから。
それよりさ、冬季」
「ん、何?」
「………俺、他の奴のお嫁さんになんてなりたくないから捨てないでくれよ?」
「ゆき、かわいー。もちろん、俺がゆきを捨てるとかありえない。寧ろ俺からゆきを奪う奴は殺す」
「俺も冬季以外嫌だ。俺冬季がいなきゃ、いきてらんない」
「うん、俺も。ゆきって本当超可愛い」
end
南
副会長。
小田君
幸臣親衛隊元隊長。可愛い子。