親衛隊隊長=愛玩動物 3
「……あ、あなたは、親衛隊の」
「ふ、副会長、さん?」
のんびりとあゆちゃんと歩いていたら、副会長さんに遭遇した。
どうしよう、あの日以来初めてあった。
何だが、少し怖いよ。
本当に、どうしよう?
怖くなってぎゅっとあゆちゃんの制服の裾をつかむ。
そうすれば、あゆちゃんはにっこりと笑って、副会長さんに向かいあった。
「副会長様、何の御用ですか? 幸ちゃんを困らせるようなら許しませんよ?」
「…君は会長の親衛隊の副隊長だったかな? 別に危害を加える気はないよ」
副会長さんは、困ったように告げる。
「本当ですか? この前クソ毬藻の取り巻きとかして幸ちゃんを攻めてたのは何処の誰ですか?
会計様なんて可愛い幸ちゃんを殴ろうとしてましたし、会計様達が生徒会役員としての自覚を取り戻さずにリコールされていましたら、生徒会会長親衛隊メンバー全勢力をもって、報復してあげたというのに」
…あ、あゆちゃんが黒いよ。
たまにあゆちゃんはブラックになっちゃうんだ。
僕には凄く優しいんだけど、たまに他の人にあゆちゃん怒っちゃうんだよね。
「あゆちゃん。怒んないで?」
あゆちゃんの制服の裾をぎゅっとつかんで、振り向いたあゆちゃんにそういえば、
「もー、幸可愛いーっ。もう、超可愛い」
思いっきり頭をなでられた。
「さて、副会長様、それで幸ちゃんに何の用ですか?」
「い、いや、あ、謝ろうと思ってね。会長に、色々聞いたから」
「竜一君に?」
「はい。そうだ。
会長は君の事を凄く庇っていたよ、そして私たちは仕事をしてなかった事も含めて怒られてしまって。
…君に謝りに行こうとしていたんだが、会長はどうも私と君を会わせたくないようでね」
副会長さんは、竜一君に色々聞いてわざわざ謝りに来てくれたようだ。
「当たり前でしょう、副会長様。可愛い可愛い幸ちゃんに危害を加えようとしたバカを俺や竜一様が許すはずもないでしょう?
俺も怒ってるんです。正直幸ちゃんに汚い言葉を教えようとした副会長様は幸ちゃんにとって悪影響です」
「……君は君で、親衛隊だというのに、随分はっきりいうね」
「当たり前でしょう? 俺は幸ちゃんの幼なじみですから。この子は俺にとって弟みたいなもんです。本当に可愛くて仕方のない弟。それに悪影響なら近づけません」
あゆちゃんはそう言いながら副会長さんの方をじっと見つめた。
あゆちゃんがお兄ちゃんかぁ。確かに僕にとってそんな感じだな。
僕が何かあるとあゆちゃんいつも僕の事守ってくれて、本当頼りになるお兄ちゃんだ。
「……そうか。とりあえず、会長の親衛隊隊長。この前はすまなかった」
「………ぼ、僕に謝るのはいいので、竜一君が大変にならないように、仕事放棄やめてくださいね?」
怖い、けど、それだけ言っておこうと思って口を開く。
本当に竜一君は大変だったんだから、副会長さん達には反省してもらわないと駄目だよね。
「ああ、もう私は会長に迷惑をかける気はないよ。生徒会役員だというのに、仕事サボっていた私が悪いわけだし」
「それはよかったです!」
「幸ちゃん嬉しそうだね?」
「だって、これで竜一君辛そうにしないんでしょ? 僕、竜一君は笑ってる方が断然いいと思う」
にこにこと笑って、そんな事を言えば、副会長さんがどこか驚いたような顔をして、言った。
「会長は…、そんなに笑うかい?」
「副会長様。竜一様は友達とかの前じゃ結構笑いますよ? 副会長様達が竜一様にとって友人ではないから見た事がないだけでしょう?」
そうである。
竜一君は結構笑う。
親衛隊の子達とも仲良しだし、お友達と一緒に居る時も、僕と一緒に居る時も笑ってくれる。
でも竜一君は仲良しな人達の前じゃないと、結構笑わないらしい、と竜一君と同じクラスのあゆちゃんに聞いた。
「というか、副会長さん達お友達欲しいなら親衛隊の子と仲良くしたらどうですか?」
副会長さんは転入生君が友達になってくれるといって嬉しくて、偽りの笑顔に気付いてくれてうれしくて転入生君が好きだったらしい。
それをあゆちゃんから聞いていたから、僕がそういったら、怪訝そうな顔をされた。
どうしたんだろう?
「………会長の所の親衛隊はどうか、知らないが。私の所の親衛隊は生憎私の顔しか見てないんでね」
…何いってるんだろうと、僕思いました。
何でそんな風に思いこんでるんだろうって、僕は不思議で副会長さんに言う。
「副会長さん、確かにこの学校はランキングとかで決まってますけど、顔だけしか見てない人間も確かにいるかもしれないんですけど……、顔だけしか見てないんっていうなら、皆あんな一生懸命なりません」
僕は、副会長さんの親衛隊に入ってる子とも交流はある。
副会長さんの親衛隊は過激派と穏便派に分かれているらしく、確かに転入生君に嫌がらせをしていたりしていたらしいけれども、全部が全部、そういう子ってわけでもない。
「僕、副会長さんの親衛隊に友達います。でも、その子達は別に副会長さんの顔だけ見てるわけじゃないですよ?
とはいっても、僕が仲良くしてるのは副会長の親衛隊の穏便派の皆ですけど。
会議室に行くと、いつもお菓子くれますし、優しい人ばっかなんですよ。
それに、会議室でいつも皆副会長さんの事語ってます」
僕は色々な親衛隊の人間とお友達だったりする。
書記さんの親衛隊隊長とはクラスメイトだし、いつもお菓子くれるし、勉強教えてくれたりするような頼れる委員長さんだ。
「だから、一回お話してみればどうですか?
そもそも副会長さんの親衛隊隊長が転入生君に怒ってたのって、『僕たちには笑顔も見せてくれないのに、何で…』みたいな感じなんだと思います」
実際に、親衛隊の知り合いがそう言ってた。
――副会長様の事お慕いしているのにって、悔しそうに。
僕はどうする事も出来なくてとりあえず元気出してほしくて、必死に慰めるしかできなかったけど。
僕ら竜一君の親衛隊は普通に竜一君と仲良しだし、全然そういうのはないけど、他の親衛隊って色々大変なんだろうな、と僕は思う。
「そうですよ。副会長様。あんなクソ毬藻を追いかける暇あったら、親衛隊に構ってあげてください」
「あ、あゆちゃん。クソなんていっちゃだめだよ?」
「うん。確かに俺が悪かったね。幸ちゃんの前で汚い言葉使ってごめんねー? 教育に悪いよね」
いや、あゆちゃんそういう事じゃないよ。教育に悪いって僕は子供でもないよー?
あゆちゃんは副会長の方を向いてまた口を開いた。
「それと、俺から一個副会長様に頼みたいのは、一回、まり……転入生と話してください。
幸ちゃんが前絡まれたんですよ。
”無理やり仕事させるなんて最低だ!”とかいう意味不明な事言われて」
「……それは、すまなかった。しかし、或と話すのは……」
「副会長様って転入生の事追い回すほど好きだったんですよねぇ? それならこのくらい出来ないとか言わないですよね?」
「いや、しかし……私は、或と離れて見て…なんというか…」
「ああ、もしかして学園内の副会長様の評判聞いたとか、転入生を冷静に見たら幻滅したとかですか? 自業自得なんですから、そんな気持ち悪い顔されても困ります」
…あれ、あゆちゃん、もしかして副会長さんの事嫌いなのかな。
さっきから、結構厳しい事言ってる気が…。
「あゆちゃん、副会長さんにそんな態度駄目だよ?」
「幸ちゃんは優しいね? でもね、俺も竜一様も、副会長様達生徒会が幸ちゃんに手を出そうとした事許せないんだよね」
にっこりと笑いながらそういうあゆちゃん。
どうやら、前に僕が囲まれていた事を怒ってくれているらしい。
「あのね、あゆちゃん、僕は別に気にしてないから怒らないで?」
「……仕方ないですね。可愛い幸ちゃんに免じて許してあげます
まぁ、一人で行きたくないなら、書記様や会計様達も連れていかけてはどうでしょう?」
「…あ、ああ。頑張ります」
副会長さんはそんな苦笑いを浮かべて、仕事があるからと去っていった。
うん、ちゃんと仕事してくれているのはいい事だよね。
「あゆちゃん。副会長さん達仕事してくれるようになってよかったね!」
「うん。そうだね。幸ちゃん」
あゆちゃんは僕の言葉にうなずいてくれた。
*
「副会長に会った?」
その日、夕食の時間に竜一君に副会長さんに会った事を告げれば、怪訝そうな顔をされた。
ちなみに今日は僕と竜一君だけでご飯を食べる日なんだけどね。
「…何もされなかったか?」
心配そうに僕を見つめる、竜一君。本当に竜一君は優しい人だなぁと僕は思う。
「うん、大丈夫だよ。あゆちゃんも一緒にいたし、副会長さん謝ってくれたから」
「そうか」
「うん。それにしても僕副会長さんが仕事ちゃんとしてるんだなって安心したんだ。
これで、竜一君も苦労しないよね」
そういって、笑いかけたら、竜一君は僕の頭をなでてくれた。
本当にどうして、皆僕の頭をなでるんだろう。
「幸は可愛いなぁ」
「んー、僕より他の子の方が可愛いと思うよ?」
なでられながら、本心から言葉を放つ。
そうすれば、竜一君は優しく笑って、そのまま、告げる。
「いや、幸が一番可愛い」
何だか、笑顔でそんな事を断言されて、何だか恥ずかしくなる。
竜一君は、ランキングでも一位だし、生徒会長やってるし、学園内で最も人気のある人だ。
そんな人にやさしい顔でそんな事を言われたもんだから、顔が赤くなるのを感じた。
可愛い、可愛いって何故か皆僕にいってくるからなれてはきていたけど、”一番可愛い”とかそんな事竜一君にいわれて何だか恥ずかしかった。
「照れてんの、幸」
「だ、だってりゅ、竜一君かっこいいし、そんな事言われたら恥ずかしいよぉ…」
はずかしくてたまらなくて、竜一君を見上げるように上を向いたら、何故か、竜一君は顔をそむけた。
「どうしたの…?」
「……やべぇな。かわいすぎる」
ボソッと竜一君が言った言葉は僕には聞こえなくて、どうしたんだろうと、思わず首をかしげてしまった。
「あー、何でもねぇ。
そうだ、幸。この前姉貴においしいケーキ屋紹介してもらったけど、一緒いかねぇか?」
「本当? 行きたい!」
「そこのチョコケーキはかなりうまいらしいぞ」
「わー、ますます楽しみだなぁ。チョコケーキ美味しいよねぇ」
僕は甘い物が大好きだ。何だか甘い物食べるの幸せな気持ちになれるというか…。
「じゃ、今週の外出許可もらっておくな」
うちの学園は全寮制だけど、許可をもらえばちゃんと外にいけるんだ。
平日は流石にそんなに許可もらえないんだけど、週末ならちゃんと遊びに行くとか外出届を出せば遊びにいけるんだ。
だから、僕と竜一君はたまに甘い物を食べに町に行くんだぁ。
「チョコケーキも楽しみだけど、竜一君とのお出かけも久しぶりだから凄く楽しみだなぁ」
そういって笑って、楽しみで仕方のない僕は
「………本当、可愛いなぁ」
なんて、竜一君が呟いているのに全然気付いていなかった。
end
→オマケあり
―親衛隊会議という名の幸について語る会in会議室(竜一side)
「では、これより、幸ちゃんを見守る会の会議を始めます」
そういったのは、俺の親衛隊副隊長の歩だった。
俺の隊の親衛隊会議は、ほとんど、幸を見守るための会議みたいなものだ。
というか、俺も普通にそれに参加してる時点で副会長あたりが知ったらどう思うだろうなんて思った。
「今日は、幸ちゃんを襲おうとした不届き物が居たから風紀に即効付きだしたんですが……。竜一様」
「…何だ?」
「早く幸ちゃんに告白しませんか? 竜一様が恋人なら誰も幸ちゃんを襲おうとか絶対しないですし」
歩にそういわれて、鋭い瞳を向けられる。
……その場にいる親衛隊メンバーが一斉にこっちを見ている。
そして、彼らは口々に言う。
「そうですよ! 歩先輩の言うとおりです」
「竜一様が幸先輩に惚れてもう一年でしょう?」
「僕ら、竜一様の事、応援してるんですから!!」
「寧ろ、可愛い隊長に似合うのは竜一様しかいませんから」
「でも、幸に恋愛感情ねぇだろう?」
俺がそう告げれば、歩は言った。
「それはそうですけど。幸ちゃん鈍いですから絶対気付きません。
此処はいっそ告白をして幸ちゃんを意識させるべきです」
そんな事を言われても、今まで自分から告白とか俺は正直したこともない。
幸に出会う前は普通にセフレがいたけど(実は今のセフレの噂はそれが元だったり)、恋人とかいなかったわけだし。
でもまぁ、確かに歩の言うとおりだ。
「…そうだな。タイミングがあれば、してみる」
「それでこそ、男です。竜一様。俺は竜一様になら、可愛い幸ちゃんの恋人として認められると思うんで」
「ああ」
「竜一様、ファイトですー」
「僕ら応援してますねー」
「隊長とくっついてくださいねー」
…こんなに応援してくれてる奴らが居るだけで、俺幸せもんだよな。
とりあえず、そういう告白するタイミングがあったら、してみよう。
……流石に緊張するし、すぐはできないだろうけど。
その後は、のんびりと親衛隊の奴らと幸の護衛(一人にすると危ないと判断してるので、幸は大抵誰かと一緒に居る)とか、幸の可愛さについて語ったりした。
それにしても……、幸はかわいすぎる。
週末のお出掛が楽しみだ。
end