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あいつのために俺ができること 3

 「木田様、おはようございます」

 「ああ、おはよう」

 にこにこと話しかけてきたのは生徒会長親衛隊のメンバーだった。

 俺にまで挨拶をする必要はないと思うんだが…、そんな事を考えながら挨拶を返す。

 それにしても、親衛隊にいい奴らが多くてよかった。

 俺のお願いをちゃんと聞いてくれて、本当によかった。

 ――これで、信吾が悲しまなくてすむ。

 ――これで、信吾が笑っててくれる。

 信吾のために俺が何かできるのが嬉しい。それは、事実で、確かな思い。

 ――だけど、同時に苦しい。

 苦しいなんて思いたくない。

 信吾が笑ってくれているなら、いいと、応援しようと決めたのは俺自身だ。

 「悟様、今度ティーパーティーでも開きましょう」

 にこにこと笑って、元気出してくださいとでもいうようにそう切り出すのは俺の親衛隊隊長の三森斎賀ミモリサイガ

 頼みこんだり色々しているうちに三森にはすっかり、俺の信吾への思いはバレてしまっていたらしい。

 …というか、何故か俺の親衛隊メンバーが最近増えてきてるらしい。

 何でだろうか。

 俺はこの学園では美形の分類に入ってる自覚はあるけど、最近何で親衛隊メンバーが増えてきているかは謎だ。

 そんな風に考えていたら、信吾と斉藤の会話が聞こえてくる。

 「杏」

 「信吾先輩、今日はどうしたんですか?」

 ああ、見ていたくない。

 此処に、居たくない。

 でも、信吾から離れたくない。

 信吾が斎藤を愛おしそうに見るたびに、信吾が斎藤の名を優しく呼ぶたびに、信吾が斎藤に向かって嬉しそうに笑いかけるたびに、

 嫌だ嫌だ嫌だと、俺の心が叫ぶ。

 苦しい、悲しい、妬ましい。

 そんなみにくい感情、いらないのに。

 「今日は、これもってきたんだ。杏が欲しがってただろ?」

 「あ、いいんですか?」

 わざわざ斎藤の欲しいものを調べて、斎藤のために手に入れてプレゼントする信吾。

 ―――やめて、やめて、嫌だ。

 心が叫ぶ。

 ―――俺の事、見てほしい。

 ――ずっと一緒にいたのは、俺の方だったのに。

 応援するって決めたのは俺。

 信吾が俺を親友としか思ってないのを知っているのは俺。

 わかってる、わかってるんだ、ちゃんと…。頭ではわかっているけれども、胸が痛む自分が嫌だ。

 「信吾先輩って優しいですね」

 そういって純粋そうに笑う斎藤。

 ――純粋そうな目が、声が、態度が、胸を苦しくさせる。

 信吾が好きになったのは、俺とは違う。

 純粋で、綺麗な少年。

 ――ああ、どうして、俺と正反対の人を信吾は好きになったのだろう。

 苦しい、苦しい―――せめて、斎藤みたいな純粋な奴を信吾が好きにならなければ、もう少し楽だっただろうか。

 「――信吾、俺ちょっとトイレいってくる」

 そういって、俺は信吾と斎藤から逃げた。

 ――恋愛感情がなくなってしまえば楽なのに、全然なくなってはくれない。

 寧ろ、日に日に思いが強くなってる気がする。

 苦しい、

 悲しい、

 そんな感情が俺自身に俺が信吾を好きだってわからせてくれる。

 トイレの個室にこもり、鍵を閉める。

 悲しかった。

 苦しかった。

 「―――信吾っ」

 名前を呼んだだけで、泣きそうになる。

 あふれ出した、苦しいって感情が一気に俺の心を支配する。

 「―――っ」

 頬を涙が通るのを理解して、何やっているんだろう、俺って本当にそれを思う。

 親友でいようと決めたのは俺なのに。

 応援するって決めたのは俺なのに。

 どうして、俺は泣いてしまうんだろう。

 ――素直に、信吾が幸せになるように応援してやりたいのに。

胸が苦しいんだ。

 信吾が、好きだった。

 ずっと、ずっと。

 俺は木田家の次男に生まれて、跡取り以外基本どうでもいいって思考の家では兄貴が何よりも優先された。

 ――俺は、兄貴に何かあった時の変わりでしかない。

 俺は、父さんが昔の恋人と犯した一夜の過ちで出来た子らしい。

 とはいっても、父さんも母さんも俺をちゃんと可愛がってはくれた。

 でも、周りはそうではない。

 昔から大人たちは俺にいっていた。

 ”愛人の子”だの、”身代り”だの。

 散々言われたら、両親や兄貴が俺を大切にしてくれてたとはいっても、気持ちが冷めていったのは当たり前だと思う。

 信吾は、幼少部の頃からの友人であった信吾とはそんな中から仲良かった。

 子供の頃から冷めていた俺は、当たり前のようになじめなくて、結構本ばかりよんでた。

 でも、信吾はそんな俺に話しかけてきて、そうして、仲良くなった。

 信吾とはそれからずっと一緒に育ってきた。

 信吾は明るくて、ヤンチャして喧嘩してたりしてて、出来ごころでセフレとか作ってた。

 信吾は、ちょっと危険だって周りに思われているけど、優しい奴だ。

 俺がなんかちょっかいかけられた時も、本気で怒ってくれた。

 手先が不器用で、ボタンが外れた時とか俺の所に持ってきて、

 勉強が苦手で、毎回俺に教えてとやってきて――。

 そういう思い出も全て俺にとっては大切な思い出。

 一番の親友の位置に付けたことが嬉しかった。

 自分が信吾にとって大切だって思われてるだけで嬉しかった。

 それなのに、俺自身を見てほしいなんて思ったのはいつからだろう?

 信吾がセフレを作りだした頃だって、苦しかった。

 信吾に触れられてる奴が妬ましくて、信吾に抱かれてる奴が羨ましくて、だけどそれもずっと我慢してた。

 セフレは信吾が遊びで作ってる存在だからって、我慢、できたんだ…。

 体は手に入っても、セフレの連中は信吾の心まで手にいれてはなかったから。

 ――なのに、斎藤は……、突然出てきて信吾の心を奪っていってしまった。

 ――どうして、どうして。

 俺がずっと望んでいたものを、斎藤は簡単に手に入れるのだろう。

 信吾のために、応援しようって、身守ろうって、親友でいようって――、そう思ってるけど、本当は――俺を見てほしい。

 妬ましくて、羨ましくて、斎藤に嫉妬してしまう。

 斎藤に優しくしたくなんてない。

 斎藤に笑いかける信吾なんて見たくない。

 ―――そんな事を言えば、信吾に俺は嫌われてしまうだろうか。

 「―――っ」

 涙が溢れる。

 どうしようもなく、溢れ出て、止まらない。

 「……しん、ご」

 名前を呼ぶだけで愛おしくて、嬉しくて、

 けれども、苦しくて悲しい。

 親衛隊の子達の気持ち、わかるんだ。

 俺だって、信吾の心を簡単に攫っていった斎藤が、妬ましくて、羨ましくて……、きっと憎いって思いだってあるから。

 恋愛は人を醜くさせる、と思う。

 だって、今の俺は、こんなにも醜い。

 ああ、こんな自分嫌だ。

 そんな事を思いながら、俺は大きく息を吐く。

 ―――こんな風に考えていても仕方がない。

 ……信吾が、斎藤の事を好きなのは事実なのだから。

 そうして、涙を拭って、トイレから出て俺は歩き出した。

 そんな俺の後ろ姿を――

 「木田、悟…?」

 不思議そうに見ていた奴がいた事を俺はもちろん知らなかった。



end


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