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そうして、君を愛した。

「世界は俺に優しかった」「そうして、君を捨てた」の菖蒲さんside

 高校三年生のある日、あたしは可愛い美少年に出会った。

 あたしがよくいるカフェでバイトをしはじめた金髪の美しい少年。

 だけど、何処か、哀が感じられるようなそんなものを持っていた。

 見ていて、何だかそれがわかって、興味を持った。

 十代だろうに、学生ではないらしく、風の噂で学園を退学になったというのを聞いた。どうしてだろうと不思議に思っていた。

 その子の名前は壱といった。

 興味を持ったから、わざわざきっかけを作りに行った。

 どんどん仲良くなって、会話を交わすようになって、壱が何処か人と距離を置いているのに気付いた。

 時折見せる何かを怖がっているような表情が、どこか、気になった。

 ――どんどん、気になった。

 壱は、何でそんな表情しているんだろうって。

 知りたいと思った。

 この弱弱しくも精一杯生きようとしている壱っていう男の事を。

 しばらく仲良くなった後、あたしは壱に告白された。

 不安そうな声だったけれど、真っすぐな思いが伝わってくる。

 壱はそのあと、あたしに昔の事を話した。

 高校時代に色々間違ってしまって、友達や家族を失ったんだって。

 後悔したように、壱は言葉を放ってたんだ。

 そんな壱を見て、あたしは傍に居てあげたいと思った。

 一緒にいてあげたいと思った。

 間違った事をさせないであげたいと思った。

 笑顔でいてほしいと思った。

 家族に捨てられて、友人がいなくなって、間違ったらどうしようと脅えてる子のそばにいてあげようと思った。

 これは、同情からなんかじゃなかった。

 そこに芽生えたのは、きっと愛しいっていう気持だった。

 傍にいて、間違わせない。

 そう、決めた。

 間違った事を後悔して、前に進もうとしてるこの子を、精一杯愛してあげて、支えてあげようと思った。

 一緒の大学に通うようになって、両親にも紹介して、そうしてあたしたちは同棲するようになってて、そんな中で高校時代の壱の知り合いにあったけれど…、バカらしいとあたしは思った。

 だって、何年も前の事で壱の事を最低だって決めつけるなんて。

 あたしは壱からしか当時の事は聞いていないけれど、壱も学園の連中も悪い所はあったと思うし。

 高校時代の知り合いにあったからか、壱は前にもまして頑張ろうって思ったみたい。

 今度から間違えないように、そして見返してやろうって思ってるみたい。

 『――菖蒲さんの、隣に胸をはってたっていたいんだ』

 そんな風に力強い目であたしを見据えていた壱を、愛しいと思った。

 大丈夫、もう壱の事を間違わせない。あたしがずっと傍にいて、壱を見ててあげるから。

 大学を卒業して、あたしは父さんの会社を継いだ。

 女社長として、立派に頑張るつもりだ。

 壱はあたしより一つ年下だからあと一年は大学に通わなきゃで、「菖蒲さんと同じ年だったらよかったのに」としょんぽりしていた壱は可愛かった。

 大学を卒業したら、壱と結婚する。

 もう、母さんと父さんにも話は通してある。

 それに何より、一生懸命な壱の事をあたしの両親は気にいっていた。

 過去に間違ったから、今度はもう間違えないように。

 それを思って、一生懸命なのだ。壱は。

 また間違えたらどうしようという不安を取り除いてあげるのが、あたしの役目。

 壱が大学を卒業するまでの間に、色々と人脈を作っておこうと思った。

 壱が、あたしの夫として傍にいる中で昔の事で傷つかないように。

 あたしは、あの壱と学生時代に関わりを持ってた奴らの両親ともきちんと話をした。

 俺様、だのふざけたことをいっていたアイツらとは全然違ってできた人で驚いたのを覚えてる。

 まだ大学生だった壱をあたしの婚約者として紹介して、アイツらの親にまで壱はしっかり気にいられてしまった。

 ――壱は元々人に好かれる子なのだ。

 あの学園で間違ってしまって、色んな事が重なって、冷静になれなくて―――、間違っただけ。

 壱はこんなにも輝いてる。壱はこんなにも人に好かれてる。

 学園が大変になったのを全て壱のせいにして、最低なんていった奴らは何を見ているんだろうと正直思った。

 ――壱に元々惚れてたというのに、壱の光にあてられて惹かれていたというのに…。

 過去よりも、今が大事だから、大丈夫。

 壱を受け入れてくれる人は沢山居る。

 それを、もっと教えてあげたいと思った。

 後から、あれは、壱を嫌ってた連中の親だよっていったら壱は驚いていた。

 『もしね、壱があいつらとまた会う事になても……、あの人達は壱を気にいってくれてる。

 だからね、何も心配しなくていいの。

 壱は家の仕事も手伝ってくれてて、有能だし、アイツらの親にも気にいられた』

 壱はあたしの仕事も手伝ってくれているし、元から頭はよいから有能だ。

 それに加えて、アイツらの親にあわせたらこうやって気にいられる。

 だから、心配しなくていいと思う。

 アイツらも、親が気にいっている人間に暴言を吐くなんてきっとできないから。

 幾ら、昔に何があろうとも、壱の”今”をちゃんと見てくれた人はきっと壱を助けてくれる。

 それから、壱が大学を卒業してから、結婚したの。壱と。

 結婚式にはもちろん、壱を気にいったあいつらの親もよんだわ。

 壱は、凄いと思う。

 周りに自然と好かれてる。周りを自然と引き寄せている。

 あたしの持ってないものを壱は持ってる。

 きっと学園に通ってた時は、本当に間違ってしまっただけんだろうって、ずっと一緒にいたからこそ思う。

 「結婚おめでとう、壱君」

 「おめでとう、宝竜寺さん」

 周りが祝いの言葉をくれる中で、あたしと壱は隣に並んで、笑った。

 結婚してから、会社を継ぐことになったアイツらや、会社の跡取りの弟としてのアイツらにあたしと壱はあったわ。

 もちろん、何かいってきたけれども、周りが壱を庇ってくれる。

 「何て事を言うんだ、壱君に!」

 「宝竜寺さんに失礼なことを言うな」

 「昔はどうだろうとも、宝竜寺君はそんな子じゃない」

 そんな風に庇ってもらった壱は、泣きそうな顔をしてたの。

 きっと、嬉しくて何だと思う。

 高校時代、責められる中で守ってくれる人は誰もいなかった。

 皆、俺を捨てたって。

 そんな風に壱は泣きそうな顔をしていたから、自分を庇ってくれる人がいっぱいいる事実が嬉しいんだと思う。

 あたしはそんな壱に寄りそって、壱の頭を優しく撫でる。

 「よかったわね、壱」

 「…うん」

 泣きそうに、だけれども嬉しそうに笑う壱を見て、胸が温かくなった。

 大丈夫、壱は愛されてる。

 間違いだって起こしたっていいの。

 ちょっと間違ったぐらいじゃ、壱を好いている人は離れていったりしないから。

 大きな間違いをしたって、あたしは壱から離れていかない。

 壱が、間違えそうになったら、あたしが壱を正してあげる。

 ――間違える事を恐れて、だけれども一生懸命前に進もうとしている壱を、あたしは愛しいと思う。




end


菖蒲さんは個人的に書いてて好きです。

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