私の天才だけど欠陥してるお兄様。
女の子目線です。
諸事情で王道学園に行きます。
そして王道展開も繰り広げられてます。
アンチ王道君です。
「全く、馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたけれども、これほど愚かだのは滑稽ものですわ!」
「そう言ってやるなよ、麗菜」
私―――神宮麗菜は従兄であり神宮家の分家の息子である稲森政一を連れてある学園に来ていた。 私立神森学園――、初等部から連なる良家の御子息の通う全寮制の男子校である。
扇子を片手に呆れたように声を上げる私に、返事を返す政一は私の婚約者でもある。
一応親の決めた婚約者なのだが、私には不満はない。
政一は私に釣り合うほどのいい男であるとは知っているし、嫌いではない。
そもそも神宮家は世界的に有名な家系で、家を誇りに思っている私は家のためになる結婚をしたかった。
政一なら馬鹿な行いはしないだろうし、一緒にやっていける自信があるから問題ない。あと政一の他にも護衛の人間も数人、私達に張り付いているの。
今回、私がこの場に顔を出したのは理事長代理である、分家の男の不始末をどうにかするためだったりする。
もう一つ用事はあるけれども…。
「全く、銀河お兄様は…! あんなのが兄だなんて恥ずかしい限りですわ!」
「はは、そんな事いって銀河が巻き込まれてるって知って心配して寝れなかったくせに」
「…そ、それは銀河お兄様があまりにも不甲斐ないから、家の心配をしてたんですわ!」
「家の心配なら、『銀河お兄様に手を出すなんて、潰しますわ!』なんて言わないだろ?」
「誰に聞いたんですの! 銀河お兄様の心配なんてしていませんわ!!」
「はいはい」
からかうように笑われて、何だかむっとなりましたわ。
そう私の兄である銀河お兄様が、学園での騒動に巻き込まれているらしいのだ。
本当に銀河お兄様が何か起こして家に迷惑がかかるかもって思っただけなんですから!
銀河お兄様がなめられてむかついてるとかじゃないんですから!
私と政一は、学園の中に入っていきます。
警備の者にはしっかり私が神宮家のものだと知らしめましたら通してくれましたわ。
「銀河お兄様に会うのも久しぶりですわね」
「嬉しそうな顔してんな、麗菜」
「な、ち、違いますわ! これは愚かな方々をどん底に落とす事を考えてにやけていただけで…」
「本当、素直じゃないもんな。そんな所も好きだけど」
「何を言っているんですの!! 今回の目的をお忘れではないですわよね? そんな戯言を言う暇があったらさっさと馬鹿を排除しますわよ!」
「顔赤いぞ?」
「もう、いい加減にしてくださいませ! 怒りますわよ、政一!!」
顔が赤いのは、怒っているからですわ。
ええ、断じて照れてるからではありませんわ!!
先を進む私と、それを笑って追いかける政一を護衛の人達がほほえましそうに見ていたけど、微笑ましい事などありませんわ!
私は女でありますし、護衛もついているため、周りの一般生徒達が騒いでおりましたわ。
此処は全寮制の男子校ですから、女性が珍しいのでしょう。でも政一が居るから他に男はいりませんわ。
良家の方には愛人が多い方もいらっしゃいますが、私はそんなの面倒ですもの。
私達が向かう先は、食堂ですわ。
丁度、この時間は生徒達は昼食でして不肖のお兄様と愚かな方々はそこに居るらしいのですわ。
理事長には後で行けばいいですわよね。お兄様の方に先に行きますわ。
「銀河にはやく会いたいだけだろ、麗菜」
食堂に向かう最中にそういって政一に笑われたけど、断じて違いますわ。
「私は不肖のお兄様が愚かなままだと報告されてるので見にいくだけですわ」
食堂の扉を開ければ、一瞬、その場が静まり返りましたわ。
そして次の瞬間、私の事を色々喋っています。
そもそも部外者が来ることも珍しいようなので、彼らからすれば驚く事でしょう。
さて、銀河お兄様の元へ向かいましょう。
「あー、何で女が此処に居るんだよ!」
銀河お兄様はどこかしらと視線をさまよわせていれば、煩い声が聞こえてきました。
この私に向かって、『お前』扱いとはいい度胸です。
そもそも女性に向かって初対面で『お前』などと呼ぶとは何て言う礼儀知らずが居るものでしょうか。
あのような生徒がこの学園に居るのがまず不愉快ですわ。
この学園は良家の子息達のための学園であるというのに、マナーがなっておりません。
思わず眉をひそめて声のした方を見れば、幾人かの人達がおりました。
声をあげたのは、もっさりとした黒髪に瓶底眼鏡をかけた方でしたわ。
まだ礼儀がなっているのならば許しますが、マナーのなっていない男性は嫌いなんですの。
もっさり君の周りに居る美形方は確か資料で見た生徒会で、顔だけが取り柄な方々ですわね。
もっさり君に惚れて生徒会の仕事をサボっていたのだとか。
仕事をしていたのが、成績優秀者から選ばれる補佐だけだなんて学園の恥ですわね。
私はもっさり君の言葉を無視して美形集団の中にもう一人居る黒髪の顔の見えない少年に視線を向けた。
そして、私は声をかける。
「銀河お兄様。その身なりをどうにかしてくださいませ。
幾らやる気がないからと言って…!」
そう、もう一人の場違いな根暗のような人こそ、私のお兄様だったりする。
「…ん? 麗菜?」
「ん? ではありませんわ! あまりにも銀河お兄様がこうだから、紫苑さんが離れたというのに…。
自立しようという気も起こさないだなんて、馬鹿ですの!」
「…だって、紫苑居ないもん」
思わずしょんぼりとした効果音がしてしまいそうなほど、『紫苑』という人が居ない事に落ち込む銀河お兄様。
周りは何だか突然話し始めた私達にざわめいております。
「あいつが、喋ったのはじめて見た」
「銀河、お前、喋れたのか! なら何で俺と喋らないんだよ!」
美形達の一人ともっさり君の言葉に思わず私は銀河お兄様を呆れてみました。
確か銀河お兄様はもっさり君に連れまわされて、長時間彼らと一緒に居たはずですが、声さえ発していないなんて…。
「銀河お兄様。まさか、喋る事もやる気でなくてしなかったんですの! 馬鹿ですか? 馬鹿ですわよね」
「紫苑が、足らないんだよ」
「…あー、もう銀河お兄様。銀河お兄様にとって嬉しい情報を持って来ましたわ」
その言葉にしょんぼりしていた銀河お兄様が顔を上げる。
前髪ですっかり隠れて顔は見えない。
…本当どんだけやる気ないんですの、この銀河お兄様は。
「紫苑さんが銀河お兄様の現状に嘆いておられまして、戻ってくるとおっしゃいましたわ」
「本当か!?」
流石、紫苑さんの事にだけは異常に反応が速く、テンションが高い。
周りなんて驚きすぎてるのか、あんまり言葉を発していない。
その方が話を進めやすいからいいですけれども。
「ええ。本当ですわよ。この学園に転入予定ですの。それもSクラスに。今は銀河お兄様はFクラスですわ。やるべき事はわかりますわよね?」
「じゃ、今度のテストでSクラス入るように全部解く」
銀河お兄様の言葉に思わず苦笑してしまう。
銀河お兄様は調査によるとこの学園に入ってから何にもやる気を出さなかった。
やる気を出せば何でも出来るだけの才能があるというのにテスト問題も解かずに学年最下位を叩き出し、Fクラスに在籍していた。
でもやろうと思えば満点なんてものを叩き出せる事を私は知ってますわ。
「ええ、それでよろしいですわ。それとその外見では、紫苑さんに嫌われますわよ?
紫苑さんは銀河お兄様の顔が好きですのに、すっかり隠してしまわれて…」
「今すぐ切る!」
「そう言うと思ってましたわ。散髪の心得のある護衛も連れてきましたから、今から切ってもらってくださいませ」
そういって私は一人の護衛に銀河お兄様を差し出し、ぽかんとしている生徒会ともっさり君に向かい合った。
そこで、もっさり君が声をあげた。
「なんだよ。お前、銀河の妹なのか!」
煩い声ですわ。もう少し声を小さく出来ない事でしょうか。
生徒の中にも顔をしかめている人間も居らっしゃいます。
「ええ。私はあの不肖の銀河お兄様の妹である神宮麗菜と言いますわ」
私は扇子を口元にやりながらも、自己紹介をする。
此処は良家の御子息が通っている学園だ。神宮の名を語っているのだからよほどのバカではない限り気付くはずだ。
だが、彼らは馬鹿だったようですわ。
「女が俺様達に何の用だ」
「あの根暗の妹ですか。私達に媚びを売る気ですか」
「ごめんねー、俺らが興味あるの。この子だけだしー」
「「あんなのの妹とか、高が知れてるよねー」」
ふふふ、喧嘩を売っているんですわよね?買ってさしあげますわ。
「お前ら、確かに銀河は暗いし何も出来ないけどそんな事いってやるなよ!」
元から決めておりましたが、もっさり君は必ず潰して差し上げますわ。
本来の予定よりも酷い仕打ちにするべきですわよね。
銀河お兄様を馬鹿に…いえ、神宮家を馬鹿にしたのですから。
「貴方程度が、銀河お兄様を馬鹿にする何て滑稽ですわ」
笑って告げた言葉におバカさん達は固まりました。
そして次の瞬間暴言を吐きます。
「なっ、俺様達があんな根暗に負けるわけないだろ!」
「そうです。あなた、調子に乗ってるんですの」
そういって彼らが暴言を吐く中で、私の視界には『神宮』の意味に気付いて顔を真っ青にしている人間も居る。
全くもって不愉快ですわ。このような愚かな方々が跡取りだなんて。
状況把握も出来ない、自分が一番偉いと思っている物言いはイラッときますわ。
「負けますわよ。銀河お兄様は天才ですもの。ただし、欠陥していますが」
扇子を口元にやったまま、私はふふと笑う。
それにしてもあまりに彼らが私や銀河お兄様に暴言を吐くものだから、護衛の方々や政一が怒っているわ。
今此処に居る護衛の方々は昔から仕えている方々ですし、恐ろしい顔つきをしておバカさん達を睨んでいますわ。
「天才は何処かしら性格に難があるものですわ。銀河お兄様の欠陥は、たった一人の方が居ないとやる気を一向に出さず、身だしなみも気にしなくなるという駄目っぷりですわ」
そう、この学園でテストで最下位をとって居ようとも、銀河お兄様は天才だ。
努力する事なしに、何事も苦労せずこなせるだけの素質がある。
でも銀河お兄様はたった一人の人間――銀河お兄様の恋人である紫苑さんが居ないと駄目人間になり果てる。
「銀河お兄様にとって、学園のテストも自分の身だしなみも喋る事も、全部そのたった一人の方が居ないのなら、やらなくていい面倒な事になり果てるのですわ」
何でもこなせる天才だからこそ、銀河お兄様は何も楽しいと思わなかった。
人に驚くほどに無関心で、銀河お兄様は紫苑さんが居てようやく人間らしくなる。
「あまりにもあの人が居ないと銀河お兄様が駄目で、自立させようと学園にいれましたのに…。
あの不肖の銀河お兄様ときたら悪化しているんですもの」
紫苑さんは銀河お兄様のためにしばらく離れていたのだ。
銀河お兄様が少しは紫苑さんが居なくても人間らしくなるように。
でも二年間も離れていても銀河お兄様は銀河お兄様のまま。
紫苑さんが居ないと何もやる気を出さない。
だから紫苑さんは帰ってくるって。二年も離れてて紫苑さんも限界だったようでありますし。
銀河お兄様と紫苑さんは同性でありますが、本当に思い合っておりますから。
「銀河お兄様が本気を出せば貴方達なんてその辺に群がる蝿と同じほどの小物になりさがりますもの」
銀河お兄様は完璧だった。本当に紫苑さんが居ないとやる気を出さないという欠陥さえないならば――…。
「なっ――、俺様達を馬鹿にして、潰されたいのか」
「あら、いつから広瀬家はそんなに強く出れるようになりましたの?
先ほどの自己紹介、もしかして聞いておられなかったんですの?
私の家を潰すなどといっておりますが、私は神宮麗菜よ。貴方のお父様方が媚を売って関わってこようとする神宮家の長女ですわよ?」
権力なんて使ってこられても、私の家には関係ない。
権力を向こうが使ってくるなら、もてる権力を持って跳ね返して差し上げますわ。
そもそも私の誇りである家は、彼らの家と格が違うのだ。
第一、生徒会の両親は私たちの親に媚びてくる。
実は目の前の生徒会長も私の婚約者候補だった。
でも調査した結果、いかにも小物臭がにじみ出ていると身内間で満場一致したため却下された。
まぁ、小物ですものね。
「神宮家、長女!?」
ようやく気付いたように声を上げるなんて何て愚かで馬鹿なのでしょうか。
ちなみにこのような会話中、銀河お兄様は脇の方で散髪中ですわ。
ふふ、銀河お兄様の素顔が明らかになったのか周りがざわめいておりますわ。
「そうですわ。そして、あちらにおられますのが、中森銀河改め、神宮銀河。
神宮家次男にして、私の不肖の兄ですわ」
そんな言葉と共に生徒会ともっさり君が銀河お兄様の方に視線を向け、固まった。
「銀河お兄様、ようやく見れる顔になりましたわね」
私はそういって銀河お兄様に声をかける。
銀河お兄様は、本当に欠陥している駄目な部分以外は完璧で、天才だ。
その完璧な部分には顔立ちも含まれている。
顔も見えないほどの前髪の下に隠れているのは、美しい顔だ。
中性的で神秘的な美しさを持つ銀河お兄様を見て、生徒達が見惚れているのがわかる。
全く、身だしなみとやる気のない銀河お兄様を見て馬鹿にしていたというのに今では手の平を返して馬鹿らしいですわ。
「これで紫苑に会っていいよな」
「ええ。それならばいいですわ。
それより銀河お兄様はしばらく護衛の方々と紫苑さんについてでも話しておいてくださいませ」
銀河お兄様は天才ですけれども、こういう場では邪魔なのですもの。
私は銀河お兄様を追いやって、青ざめる生徒会と喚く転入生に向かい合います。
「何だよ、こいつらを家の権力で脅す気か!」
「ちょ、待って。光ちゃん!!」
「ふふふ、脅しですって? 何を言っていらっしゃるのですの。
私がこの場にやってきたのは、不肖の銀河お兄様に会うのも一つの目的ですが、愚かな方々を排除しに来ましたの」
脅しなんて生ぬるいものをしに来たわけではない。
この神宮家の所持する学園を荒らす愚かなおバカさん達を排除しに来たのだ。
「なっ、排除って、何でそんな酷い事いうんだよ! 叔父さんに言いつけてやる」
「ああ、あなたの叔父さんは理事長代理のあの愚かな男でしたっけ。
でしたら言いつけた所で何も出来ませんわよ? 今回、神宮家当主であるお父様の言葉により、あの方は理事長代理を解任なさる事が決まっています」
「横暴だ!!」
「横暴? あなたを裏口入学させ、学園が荒れているにも関わらず何もしない代理などいりませんわ。権力を誇示する愚か者から地位を無くすのは当然でしょう?
新しい理事長は、此処に居る稲森政一が勤めますの。元々理事長は政一がやるものでしたからね」
そう、政一が本当の理事長になる予定だった。
若すぎるからとただ代理が立った。実際経験して、学んでから理事長を務める方が断然いいからだ。
でもこの代理は愚かだった。だから排除して本来の理事長の政一が予定よりは速いが理事長をやる事になっている。
「そんな、叔父さんに――」
「それと裏口入学の貴方はもちろん退学ですわ。理事長代理と貴方は家の庇護がなくなる事にもなってますわ。
ふふ、本家である神宮家と縁を切るか貴方達と縁を切るかを迫ったら喜んで貴方と理事長代理を切り捨てましたの」
笑いながら告げた言葉に、もっさり君はいきなり喚きだした。
横暴だとか、嘘だとか。
まさか、私が嘘をつく必要性もありませんもの。
本当、もっさり君を可愛がっていたと聞いておりましたのに、簡単に切り捨てるだなんて浅い愛情ですわ。
「瑞希さん、この方を連れていきなさい」
「了解しました、お嬢様」
護衛の一人を呼びつけて、さっさと命令を下す。
もっさり君を黙らせて、そのまま連れていく瑞希は使える護衛だと思う。
私有能な人は好きですわ。無能な方は嫌いですけれども。
「さて、生徒会の皆様方。先ほど私や銀河お兄様に暴言を吐いたのは神宮に喧嘩を売っていると見てもよろしいですわよね?」
「そ、それは――」
「言い訳は結構ですわ。きっちり各家に報告させていただきます。
生徒会の仕事もきっちりこなしもせずに、特権だけを使い、同性愛に夢中になる愚かっぷりをしっかり報告しますわ」
私だってこの学園が同性愛に満ちている事は知ってますわ。
外からすればおかしくてもこの学園の在り方ならばそれを否定する気はありません。
そもそも身内の銀河お兄様が同性愛者ですからね。
とはいっても、生徒会が顔だけの愚か者だというのは理解出来ますわ。
「生徒会の皆様方は、跡取り息子なのですわよね? 婚約者の居らっしゃる方も居るでしょう?
仕事もせず、権力を乱用していらっしゃったと聞きましたが、まさかあの転入生と一生を共にするおつもりだったのですの?」
扇子を片手に笑いながら、彼らを見る。
びくつく姿が情けない。
権力をひけらかす人間は本当に権力に弱いものですわよね。
ふふ、馬鹿らしいですわ。
「名家の跡取りが後継ぎを作る気がないなんて滑稽ですわね。そもそもこの学園ではともかく外では同性愛は世間に簡単に受けいられているものではありませんわ。
しっかり家族の方とお話をして認められていて、跡取りじゃないならまだ問題は少ないでしょうが…。
そんなに生徒会の仕事を放棄するほど同性愛を貫きたいのならば、その名を背負う事をやめたらいかがですの?」
全く、青ざめて震えるぐらいなら最初からやらなければいいんですわ。
このような愚か者が銀河お兄様を馬鹿にしていたなんて…。
それに慌てて、謝られてももう遅いのですわ。
「本当に、もう少し貴方達に価値があったならちょっと問題を起こしたからと名を捨てなければならない事はなかったでしょうに」
ふふ、実はもう決定事項なのですの。
神宮の次男に対する自分の息子のしでかした事を知って、慌てて勘当を自分から言い出しましたわ。
もう少し彼らに価値があったなら、そこまではしなかったでしょうに。
最も愚かな真似をするからこそ、価値がないと判断されたんでしょうが。
「先ほど貴方達は銀河お兄様を馬鹿になさりましたが、銀河お兄様は貴方達と違って価値がありますわ。
銀河お兄様は貴方達と同じ同性愛者ですし、見ての通りあの人がいなければ駄目人間ですが銀河お兄様は天才ですもの。
やる気を出した銀河お兄様は神宮にとって価値のある、手放すには惜しい人材ですわ」
銀河お兄様は『神宮』の名に執着はしていない。
他の家がどれだけ同性愛に寛容かは知らないが、神宮はそこまで甘くはない。
神宮家に生まれたからには利益のある繋がりを作るために、そういう結婚をさせられるものだ。
私と政一の結婚は、分家が裏切らないように繋がりを強くするためにという理由もある。
まだ同性愛でも価値のある相手ならば寛容されるかもしれないが、紫苑さんは一般家庭の生まれだ。
もし銀河お兄様が天才ではなければ、とっくに家から銀河お兄様は切り離されている。
温情で金だけを払う勘当になっていたはずだ。
銀河お兄様は神宮と縁が切れても何も思わない。
だから神宮家の次男として生きようとも勘当でもどちらでも紫苑さんが居るならいいと思っている。
それでも神宮の方から手放すには惜しいと思われるのが神宮銀河、その人だ。
「庶民として立派に生きてくださいませ」
馬鹿にしたように私は笑って、もう用事は終えたとばかりに今度は銀河お兄様の方を向く。
全く、銀河お兄様は全然もっさり君や生徒会には興味がないようですわ。
護衛の方々と楽しそうに紫苑さんについて話しておりましたもの。
「銀河お兄様」
「何」
「紫苑さんがこの学園に来られるにあたって、銀河お兄様にもう一つしてもらいたい事がありますの」
「紫苑のためになる?」
「ええ。銀河お兄様には生徒会をしていただきたいのです。紫苑さんが健やかな学園生活を送るために学園をよりよくするのです」
「…紫苑のためなら。でも紫苑と一緒にいれないの嫌」
「そこら辺は安心してください。紫苑さんには編入次第、生徒会に入っていただきますわ。
生徒会でもクラスでも一緒に居る事が出来ますわよ」
銀河お兄様のやる気を出すために、紫苑さんの事を一々掛け合いにだす。
だって紫苑さんのためになるとでも言わないと銀河お兄様は絶対にやらない。
私の言葉に銀河お兄様は嬉しそうに笑いました。
銀河お兄様が笑みを見せるのはいつも紫苑さんの事だけなのですわ。
その笑顔に周りがまたざわめきますわ。
本当に顔と家柄優先の学園ですわね、此処は。
「では、銀河お兄様。私は今から理事長室に行かなければならないのですわ。銀河お兄様は今すぐ生徒会室に向かい、仕事を片付けてくださいませ」
「生徒会室何処?」
「……案内してもらってください」
本当に銀河お兄様は! と思わず言いたくなりましたわ。
情報によるとあのもっさり君に連れられて銀河お兄様は生徒会室に行っていたはずなのですが…。
その後はさっさと理事長代理に退任の事を伝えておきましたわ。
あの理事長代理は私に縋ってきたんですの。気持ち悪いですわね、大の男が。
護衛の方々に追い出してもらって、しばらく私は理事長室で政一の手伝いをしておりましたわ。
政一は新たな理事長として仕事をする必要がありますもの。
その後の事を話しますと、銀河お兄様は生徒会長として驚きべきほどに働きだし人望を集めたようですわ。
親衛隊というものも出来たという報告を聞きました。
生徒会の仕事なんて銀河お兄様にかかれば簡単に終わりますし、補佐の方々も最初は銀河お兄様に不信感があったようですが信頼してくださっているようです。
それで、銀河お兄様の大好きな恋人の紫苑さんも転入してきて見事なバカップルになり果てているそうですの。
銀河お兄様ときたら本当に…、天才なのに欠陥しているのですから。
最もあの駄目人間ぶりは不肖だと思いますけれども、真面目な銀河お兄様は有能ですから嫌いではありませんけど。
ええ、嫌いではないだけで決して好きなのではありませんわ。
…全く、政一はどうして私が銀河お兄様が大好きなように言うのでしょうか!
あの不肖の銀河お兄様を大好きだと思うわけがありませんわ!
end
神宮麗菜。
神宮家長女。黒髪で綺麗な美人さん。
ツンデレを目指そうと書いた。
麗菜の嫌いじゃない=大好きととってもらって構いません。
学園を駄目にしたのも恥さらしだと怒ってましたが、兄を馬鹿にされて一番怒ってました。
政一の事も凄く好きだけど素直に好きとは言いません。
歳は高校一年生。お嬢様の多く通う女子高に通ってます。
神宮銀河。
神宮家次男。努力なしに何でもこなす完璧人間。見た目も人の目を惹くような美形。
幼なじみで恋人の紫苑がいないと何もやる気を出さないのが欠点。
テスト問題はこんな簡単な問題とくのつまらない。紫苑が居ないのに。って事で名前だけ書いて提出。
何でも簡単に出来るため、あんまりそれらを楽しいと思った事はない。
紫苑が居ない時は人間味のない、感情の起伏のないロボットみたいな人。
普通なら一般庶民との同性愛の時点で神宮家では勘当だけど、天才で手放すには惜しいと思われており次男としてそのまま居る。
やる気がある時に論文書いたりするから科学者とかの間で有名。銀河のやることは結構神宮に利益を与えている。
やる気のない時は頭を使わないため、生徒会や転入生の名前を覚えてない。
紫苑。
銀河の恋人。銀河を人間らしく出来る唯一の人。
落ち着いた雰囲気の美人さん。一般家庭の出の庶民。
家庭的で、頭はいいが運動は苦手。
稲森政一。
麗菜の従兄で婚約者。大学卒業したばかりでまだ若い。
麗菜の事は昔から恋愛感情で好き。だから婚約話には喜んで応じた
銀河とは友人関係。(最も銀河が他人に興味がないから友人というだけで凄い)
名前も出てきてないけど、麗菜と銀河の上には一人兄がいます。
努力家で、天才な弟を妬みもせずにブラコン&シスコンです。弟と妹を可愛がってます。
天才ではありませんが、ある程度の事は出来て婚約者と既に結婚していて、時期当主として仕事を学んでる最中なのです。