無口書記は動物がお好き 2
狼side
「ろ…ぅ、おは、……よ」
目が覚めると、隣に瑞希が座りこんでいて、こちらを見ていた。
どうやら、俺は瑞希が来たのにも全く気付かずに寝ていたらしい。
「いつきたんだ、瑞希」
「ん……、さ…っき!
せいと、かい、仕事……終わったか、ら」
生徒会の仕事が終わってからこっちに来たらしい。
「そうか」
「ん……」
俺の言葉に、瑞希は頷く。
瑞希は生徒会の書記だ。
正直生徒会って、噂だけ聞いていたら仲良く出来そうにないなと思っていたが、瑞希の隣に居るのは何だか心地よい。
あんまり他人って好きではないが、瑞希はなんつーか、犬みたいだから純粋に可愛いと思う。
「ろ、ぅ。
きょ、かいちょーが、てんにゅー、せい、来る、……い、ってた」
「転入生? この学園にか?」
「……ん。
かい、ちょー、てんにゅ、せい、かわい、かった……ら、襲うと、か、アホ……な、事、いってた」
……生徒会長は噂通りヤリチン野郎らしい。
俺も性欲たまったら、たまに街にいって、適当に遊ぶけど(学園内でヤったら色々面倒だから基本ヤらない)、生徒会長って、毎日のように色々ヤりまくってるらしい。
猿だよな、本当。
そういうやつらとはあまり仲良くしたいとは思わない。幾ら優秀でもそういうやつらはあまり好きでもない。
「瑞希、生徒会の奴らの事好きじゃないのか?」
「ん、あんま、り…。
で、も、補佐の…子、いい子、名前……おぼえ、ないけど」
「名前ぐらい覚えてやれよ」
「…あんま、きょ、み、ない」
瑞希と話していて、瑞希も俺と一緒であんまり人が好きじゃないんだって、それが凄くわかる。
……瑞希は人間より動物が好きらしいし。
「おれ、人……あん、ま、好き、じゃない。
で…も、お、れ、ろ、う好き」
そう言って寝転がったままの俺にすり寄ってくる瑞希。
……そういう意味でいってないのはわかるが、本当、他の奴にいったら勘違いされるぞ、と少し心配になる。
この学園の生徒会は抱きたい、抱かれたいランキングで決まる。
俺も抱かれたいランキング上位に入ってた。
で、瑞希は抱きたいランキング第三位で、抱かれたいランキングにも確か入ってた。
瑞希の親衛隊は穏健派らしい。
たまに、瑞希はお菓子とかを親衛隊隊長から受け取ってる(というか、瑞希への贈り物は全部親衛隊が媚薬とか入ってるかチェックして瑞希に渡される、と瑞希に聞いた)。
瑞希の頭を撫でれば、瑞希は嬉しそうに頬を緩める。
瑞希は下心ないし、一緒に居るのが楽だ。
それに、なんつーか、瑞希と居ると癒される気分になる。
「ろぅ…、森、で、こ、犬見つけた、だから、あと、で……いっしょ、見にいこ…?」
「ああ、いいぞ」
そうして、その後は、瑞希とのんびりと過ごした。
――――それは、転入生がやってくる、二日前の話だ。
*
「………」
俺は苛立っていた。いつものように、いつもの場所でサボっているわけだが、此処一週間、瑞希が来ない。
――瑞希の連絡先は知っているが、俺も瑞希も電話とかメールとかするほうでもないし、出会ってから瑞希は毎日のように此処に来ていたから特に必要なかった。
最近、よくわからないが、学校の奴らが騒いでるし、だからあんまり教室にもいっていない。
瑞希と同じクラスならまだいってもいいが、生憎俺は不良クラスのFで、瑞希はSクラスだ。
…連絡、してみるか。
そんな思いで、電話をかける。
――が、電話に瑞希は出ない。
お腹が減ってきた。
基本的に俺は自炊をしているけど、もしかしたら食堂にいけば、瑞希が居るかもしれない、そんな思いで、俺は食堂に向かった。
「きゃーーーっ」
「宮城様!?」
「え、何で此処にっ」
…煩い。
あー、だから食堂は嫌い。瑞希がいるかもしれないとかじゃなければ絶対にこんなところ来ないのに。
瑞希は、居るとすれば生徒会役員席。そう思って視線を向ける。
…でも、居ない。
生徒会役員席に居るのは、会長と副会長と、双子な会計と、チャラい感じのもう一人の書記。
……と、よくわからない、真っ黒な物体。
あれ、人か?
つか、瑞希と瑞希のいってた生徒会補佐以外全員此処に揃ってるって、何だ?
そんな事をおもいながら開いてる席に座ろうと、歩いていけば、
「なぁ、俺様のものになれよ」
「いや、私のモノです」
「「えー僕らのが大好きだもんね」」
「いや、俺のものでしょ」
…よく見れば、一般生徒であろう、Sクラスの不良(頭はいいらしくSクラス)と、いかにもスポーツ少年的な奴と、美形集団の中で場違いな、平凡そうな奴が居る。
不良とスポーツ少年な奴は生徒会をにらんでいて、平凡は何だか居心地悪そうに震えていた。
……あんな黒い物体の争奪戦してんのか?
いつから、生徒会はそんな風に趣味が悪くなったんだろう。
「ぎゃーーっ、会長様が穢れる」
「近づくな毬藻!!」
「平凡も毬藻も邪魔」
……あぁ、なんか会長達がやってるせいで、いつも以上に食堂は煩いらしい。
あいてる席に座って、カレーライスを注文する。
不本意ながら、生徒会役員席の近くだった。
あー、瑞希がいねぇなら、自炊すればよかった。
瑞希はいつも食堂でご飯食べてるらしいから、居るかなって思ったのに。
カレーライスが届いて、そのまま食べていたら、
「親衛隊なんて最低なんだぞ!!」
なんか、良く分からない声が響いた。
この学園親衛隊多いのに、それいったら敵増えるぞ、なんて思いながらもそちらを見れば、毬藻と一人の少年が対峙していた。
「だから、僕は会長様達に仕事をしてほしいといってるだけです。瑞希様と補佐様だけで仕事をやるには生徒会の仕事は多すぎます。
そして、転入生君は一般生徒です、生徒会室に入ったり、役員席で食事をとるのはどうかと思います、といっただけです」
”瑞希”という名前に、俺は、そちらを凝視する。
「俺とこいつらは友達なんだ!! それに、こいつらは仕事してるっていってるんだ、俺に。親衛隊だからって、俺がこいつらに近づくの駄目とか言うな!!」
「違います。僕は書記である叶瑞希様親衛隊隊長として、瑞希様のためを思って行動しているだけです。
別に転入生君が会長様達に近づこうが、どうでもいいのです。しかし、会長様達は仕事をせず、転入生君は瑞希様にご迷惑をかけています。なので、言わせてもらっただけです」
あれが、瑞希の親衛隊隊長?
それに、会長達が仕事してないって、もしかして、瑞希はそれで、俺ん所に来なかったのか?
…噂とか疎いし、興味ないから全然知らなかった。
「何でそんな事言うんだよ」
転入生が拳を振り上げるのがわかる。
…瑞希の親衛隊隊長なら、瑞希がお世話になってる奴なら、そうおもって、俺は親衛隊隊長の手を引いた。
それで、空振りする、転入生らしき毬藻の拳。
「…み、宮城様?」
不思議そうな顔をする、瑞希の親衛隊隊長。
「宮城様が、動いた!?」
「無関心なのに!? まさか、書記の隊長の事」
…変な勘違いはやめてほしい。
「瑞希…大変なのか?」
俺が気になるのは、瑞希の事だけだ。
「…宮城様が、書記様のお名前を!?」
「え、宮城様と書記様って…」
俺が瑞希、と呼び捨てにした事に、周りが騒ぎだすのにうんざりする。
「宮城様は、瑞希さ――」
瑞希の親衛隊隊長が、口を開こうとする。
それなのに、
「なぁなぁ、お前名前は? 俺は木下優太って言うんだ!」
なんか毬藻に話しかけられた。
「は? てめぇに教える名前はねぇ」
煩い奴は元々嫌いだし、こいつらが瑞希に迷惑かけてるってなら仲良くしたくない。
「あぁ? 優太が名前聞いてんのになんだよ、その態度」
「これだから、不良は…」
「「ゆうちゃん、こいつなんか放っておこうよ」」
「てか、瑞希の名前出してたけど、なにぃ?セフレ?」
「優太にそんな態度やめろよ」
「…優太、この人はね…」
一気に口を開く、生徒会面々+不良とスポーツ野郎。
平凡だけが震えてそこにいる。
なんだ、平凡以外全員あれか、こんな毬藻に夢中なのか。神経疑うぞ、俺。
「何でそんな事言うんだよ!? あ、お前も親衛隊とか居るからって友達居ないんだろ!? 俺が友達になってやるから!!」
「いらねぇ」
意味わからない事を言う毬藻に言い放つ。面倒だから、人とあんまり関わりたくもないし。
「なぁ、瑞希ん所の隊長、瑞希大丈夫なわけ?」
毬藻を放置して、瑞希の所の親衛隊隊長に問いかける。
「え、えっと、宮城様と瑞希さまはどういう…?」
「あー、友人だ。俺のサボり場にあいつよくくるんだよ。
あいつ、最近こねぇからさ。で、瑞希が忙しいの、この毬藻のせい?」
瑞希と一緒に居るのは心地よい。
だから、その時間を毬藻に何かに邪魔されるのは嫌だ。
「瑞希様とご友人ですか…。はい、瑞希様がお忙しいのは、この転入生君のせいです」
「…そうか。瑞希今何処に居るかわかるか?」
「はい、生徒会室で仕事をしていると思います」
「じゃ、連れてってもらえるか?」
心配だし、久しぶりに瑞希に会いたかった。
「お前何で俺を無視するんだっ」
「……」
俺は絡んでくる毬藻を無視する。
瑞希ん所の隊長も無視して、そのまま、俺と隊長は食堂を後にした。後ろから煩い声が聞こえてくるけれど、完全に無視だ。
そうして、俺は今、生徒会室の前に居る。
瑞希の所の隊長が、生徒会室をノックして、そのまま中に入る。
俺も促されて中に入った。
「――え、宮城狼が何でここに!?」
「…………ろ、ぅ?」
補佐らしき人の驚く声と、久しぶりに聞いた瑞希の声。
「瑞希」
俺が瑞希の名前を呼べば、瑞希は嬉しそうな顔をして近づいてくる。
あーもう、本当可愛いな、こいつ。
「ろ…ぅ!」
瑞希は近づいてきてそのまま俺に抱きついてきた。
抱きつかれるとは予想外で、体勢を崩しそうになるが、支える。
「……ひさ、し、ぶり!」
ぎゅーと俺に抱きついて嬉しそうにこちらを見上げてくる、瑞希。
何か、嬉しそうで、犬の尻尾とか耳とか見える気がする。
「久しぶり、瑞希。なんか毬藻が来て大変だったみたいだな」
「ん!
……あい、つ…、うる、さい!
お……れ、嫌、い!」
瑞希、基本的に人嫌いだしな…。あいつ煩いからますます嫌いなんだろう。俺も嫌いだ。
「ろ、うに……会い、いきたか……った、けど…、かいちょ………、しご、と、しない、から」
「え、叶君…宮城狼と知り合い?」
補佐の驚いたような声が響く。
確かに俺はあんまり人とはつるまないけど、別に誰ともつるまない、とかそういうわけではない。
「ん…! ろぅ…と、は、おとも……だち!」
嬉しそうに、瑞希は補佐に向かって笑った。
俺と友達なのが、嬉しいってのが見てとれて、そのくらいで喜んでいて、本当可愛いよなぁと思う。
「瑞希様は宮城様の事大好きなのですね。とりあえず、お茶をつぎますので、瑞希様も宮城様もお座りください」
親衛隊隊長が、そういうので、俺と瑞希はソファに座った。
「瑞希、俺あんまり噂とか気にしないし、学校いってなかったんだが、あの毬藻何?」
「…よく、わかん…い。
で、も……かい、ちょー、た…ち、きに、いった、って。うる……さ、だけ、…なのに」
気にいったねぇ?
理解不能だな、本当。
「瑞希と補佐だけで仕事してたのか?」
「…ん。めん、ど……だけ、ど……お、れ…や…くい、ん、だか、ら」
「そうか。それで忙しくてこなかったんだな?」
「ん。おれ、いきた、か、た…け、ど。
いそ、が、し…く、て。それ…、に」
瑞希はそういって、言葉をきって、俺の方を真っすぐ見据えていう。
「ろ、う……、てん、にゅ、せ……、きら、い…おも、って……、かか、わら、せ、た……く、なく、て」
「そうか、まぁ、もう会ってしまったし、んなの気にしなくていいぞ。
つか、俺も瑞希に会えないの嫌だし、生徒会の仕事手伝おうか?」
「ろ、ぅ、お、れ、と会えない……や、だった?」
「そうだなぁ、なんか瑞希こねぇのは嫌だな」
「ん、お、れ、も、あい、……た、かった!」
嬉しそうに笑う、瑞希を純粋に可愛いと思う。
…やっぱ、こいつ癒し効果あると思う。久しぶりにあえて、嬉しくて笑みがこぼれる。
「叶君…、宮城狼の事、大好きなんだね」
「ん…! お、れ、ろ、ぅ……す、き!」
喋るのが苦手だからか、瑞希は結構思ってる事を素直に言う。
だから、好きとかも平気で言うんだけど、本気でそのうち瑞希が襲われないか、心配になってきた。
しばらく話していると、
「お待たせしました」
瑞希の所の親衛隊隊長がそういって、お茶を差し出してきた。
「瑞希様には、コーヒー牛乳をお持ちしました」
「ん、あり、が……と」
「ところで、瑞希様、僕は今回転入生と生徒会の皆さまに仕事をするようにいったのですが、あの方たちは全くやる気がないようですが…」
「……ん。
かい、ちょ、どう……で、も、い、けど…。いそ、……が、し…く、て、ろ、ぅに、あ、……えな、い、嫌」
そういって、俺の制服の裾をつかんでくる瑞希。
それを見て、親衛隊隊長は優しく笑っていう。
「瑞希様と宮城様は仲良しなのですね。瑞希様は今まで誰ともつるまれていなかったので、心配でしたが、僕は安心しました」
親衛隊隊長は心底ほっそとしように優しく笑っていた。本当に瑞希の事を大切に思ってるらしい。
「―――瑞希様。実は、風紀から会長達のリコールのお話が出ているようですが、瑞希様はどう思われますか」
「…り、こー、る?
かい、ちょ、達、り、こー、る……さ、れ、ても……ど、でも、よい」
「瑞希様ならそうおっしゃると思いました。
風紀の方々が動いているとはいっても、会長達のリコールにはもうしばらく時間がかかるでしょう」
そこで言葉をきって、親衛隊隊長はこちらを見つめて笑った。
「なので、宮城様、瑞希様が無理をなさらないように、一緒に居てもらえますか?」
「…ああ」
そういうわけで、俺は生徒会室に出入りする事になった。
……そういえば、食堂での一件で、俺と瑞希が仲が良いという事実は噂になってるらしい。
会長達がリコールされるまでの間、瑞希の生徒会の仕事の手伝いをする事になった。
―――忙しいのが終わったら、瑞希とまたのんびりと二人で昼寝でもしたいなぁ、なんて、ただそんな事をおもった。
end
瑞希の所の親衛隊隊長。
恋愛感情というより、純粋に庇護欲でも瑞希に持ってるらしく、結構面倒見てたりする。
補佐君。
真面目な補佐。瑞希と一緒に仕事してた子です。名前決まってません。
優太
王道君です。この後結構狼に絡んでくる予定。