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あいつのために俺ができること 2

 「杏がさ――」

 「今日、杏が――」

 「杏の奴――」

 信吾は日に日に斎藤にはまっていく。

 話題はいつも、斎藤の事ばかり。

 協力するっていったのは俺で、信吾に幸せになってほしいって思ったのは俺で。

 でも、それでも、胸が苦しくなった。

 そんな風に斎藤の事が大好きだって全身で表して、俺に向かって楽しそうに話してくる。

 信吾の笑顔が、好きだ。

 でも、苦しい、と思う。胸が痛い。

 「本当に、斎藤の事、好きなんだ、な」

 「ああ!」

 迷いもなく好きだと言う。

 迷いもなくきっと信吾は斎藤が一番大切だってそう言うんだろう。

 嫉妬なんてしたくない。

 斎藤が現れなきゃ、一番の親友の俺が、信吾の一番だったのにとか、そんな、黒い感情なんて感じたくない。

 ――でも、そういう感情が溢れ出て、泣きそうになってくる。

 幸せになってほしい。

 ―――でも、俺の方を見てほしい。

 笑っていてほしい。

 ―――でも、その笑みを浮かべさせるのが俺だったらいいのに。

 斎藤の事をずっと見つめてる信吾。

 ―――俺の事、好きになってくれたらいいのに。

 好きだって、自身満々に言う信吾。

 ―――信吾の事、好きだなんて、言えない。

 「………頑張れよ、信吾」

 ああ、俺は今ちゃんと笑えてるんだろうか?

 笑って、応援出来てるんだろうか。









 *




 純粋な、斎藤と、黒い感情ばかりの、俺。

 正反対で、それが一層望みはないんだって俺に知らしめて、どうしようもなく、泣きたくなる。

 一人で、誰もあんまり来ないような裏庭のベンチに座って、ただ空を見上げた。

 一人になりたかった。

 信吾が好きで、好きで、だからそばに親友としていれるだけでも幸せで。

 親友として一番で、満足してるんだって言い聞かせてるくせに、みにくい嫉妬心が、俺を襲う。

 ――信吾、好きだよ、信吾。

 それを言ったらきっと、あいつは困るだろう、そうおもう。

 そうしていれば、その場に一つの声が響いた。

 「あんたなんかが―――」

 「何で、生徒会の皆さまにっ」

 そちらを見つめれば、

 「そ、そんな事言われても…」

 親衛隊に囲まれている斎藤がいた。

 ………誰からも好かれるとはいっても、やっぱり人気者に近づく斎藤をよく思わない人間は沢山居る。

 生徒会といっていたから多分、生徒会の誰かの親衛隊何だろうあれは。

 信吾が、悲しむ。

 それだけを思って俺はそいつらへと近づく。

 「何をやってるんだ?」

 そんな風に声をかければ、一斉にこちらを見る親衛隊達と斎藤。

 「…悟先輩!」

 「木田様!?」

 「何で此処に?」

 「制裁だよな?斎藤、とりあえず、こいつら俺が話しつけるから帰っていいよ」

 信吾のためにも、斎藤が制裁にあうのをどうにかしなきゃいけない。

 こいつらも今回は忠告だけだけど、もし暴走したら暴行や強姦に走るかもしれない。そうしたら信吾が、困る。悲しむ。

 斎藤は戸惑ったような視線を向けて、だけど俺が大丈夫だと言えば、お礼を告げて去っていった。

 「それで、斎藤を何で囲んでたの?」

 わかりきってるけれど、ちゃんと話つけなきゃ、信吾が悲しむ事に繋がる。

 そうおもって、問いかける。

 「だ、だって、皆様をたぶらかして――」

 「会長様が、捨てて……」

 「ぼ、僕たちの事もう、いらないって!!」

 ……どうやら会長の所らしい。

 あの俺様会長、親衛隊をセフレにしていたのだが、斎藤がきてきっぱりやめたのだ。

 それはいいけど、ちゃんと親衛隊に納得させてやめさせたらよかったのに、一方的にどうやら切ったみたいだ。

 「お前たち、会長の事好きなんだ、本当に」

 そういって、落ち着かせたくて頭をなでる。

 一途な人間に嫌悪感なんてわかない。好きだけど届かないってそういう気持ちよくわかるし。

 「……でも、会長様、僕らが斎藤にちょっかいだすしもう必要ないって」

 「解散しろっていってきて…」

 「僕たち会長様が好きなだけなのに……」

 悲痛そうな顔をする、親衛隊達。好きな人にそういうことを言われたら暴走してしまう気持ちもわかる。

 はぁ、会長もっと考えて行動しろよ、と思わずにいられない。

 「会長の、セフレとかの切り方が悪いし、だから君たちも納得してないんだと思うけど…。

 でも、会長は多分斎藤に本気だ」

 会長の事も、会長の親衛隊の事も、正直どうでもいい。

 でも俺は信吾が、傷つくのは嫌だ。好きだから、信吾には笑っててほしい。

 「納得がいかないなら、会長にさ、斎藤の事どうこういうんじゃなくて、言ってみなよ。気持ちをさ。

 納得できないんだって、会長の事自分たちは好きなんだって。そっちの方が絶対、スッキリするからさ」

 納得できない気持ちとか、どうしようもないようなうな嫉妬とか、理解できる。

 でも斎藤にあたっても結局悪循環なだけだ。

 「木田様は……、僕たちが斎藤を責めても、せめないんですね…」

 驚いたように、そう言う、親衛隊の子。

 きっと、他の奴らはせめてたんだろうな。

 恋は盲目。とはいっても、ちゃんと親衛隊の気持ちも考えればいいのに。

 「…噂でどういわれてるか知らないけど、俺は別に、斎藤に恋愛感情持ってるわけじゃない。寧ろ、斎藤は苦手だ」

 綺麗で純粋すぎるから、一緒に居ると自分が汚く感じて。

 黒い感情とかばっかの自分と全然違う事に、どうしようもなく、悲しくなる。

 信吾が好きになったのは、俺と正反対なんだってそんな事考えると苦しいから。

 「え?」

 「じゃあ、何で…、庇ってるんですか?」

 「……斎藤に何かあったら、信吾が悲しむから」

 そういったら、益々驚いたような顔になる、親衛隊の子達。

 「…木田様…越前様の事…」

 「信吾とか斎藤には内緒な」

 苦笑いを浮かべて、そう言う。そう告げれば、親衛隊の子たちはなんとも言えない表情を浮かべた。

 「……越前様が、好きなら、斎藤の事邪魔なんじゃないですか?」

 「…信吾が、本気で好きになってるなら、俺は邪魔出来ない。

 それに信吾は俺の事親友としか思ってないんだ。そんな事言えないだろ?」

 困らせたくない。そばに居たいからこそ、言わない。好きだなんていったらきっと俺は一番の親友でさえもいられなくなってしまう。

 「斎藤が悲しむとか、制裁とかあると、信吾が笑ってくれないんだ。

 俺は、信吾に笑っててほしいから、だからさ、なるべく斎藤への制裁は、やめてほしい」

 そういって、俺は頭を下げる。

 こんな風に自分の気持ちを言ったのは、親衛隊が少し暴走気味になってるって噂を聞いたからだ。

 親衛隊の子達も悪い子達ばかりじゃない。話せばわかってくれる子も沢山居る。

 だから、斎藤の事認められない人間に頭下げて、頼もうって決めた。

 「そんな…頭上げてください、木田様!!」

 「そうですよ! 木田様の気持ちは十分わかりましたから……」

 「斎藤の、事気に食わないけど……会長様と、話してみます」

 そういってくれる親衛隊の子達。

 話してみれば結構普通の子ばかりなんだ、親衛隊って。

 中には過激な人もいるけど、それは恋心が暴走しているだけだから。

 ちゃんと話せば、皆わかってくれる。

 「よかった、ありがとう」

 ――斎藤への制裁がなくなれば、信吾が笑ってくれる。

 ――信吾が、悲しまないですむ。

 ――だから、俺はあいつが笑ってくれるように、悲しまないように、信吾にばれないように裏で色々やろうって、思ったんだ。

 決して、信吾が俺の事好きにならなかったとしても。

 それでも俺は信吾が好きだから。



end



オマケ(親衛隊の子side)



 「斎藤、僕らあんたへの制裁やめるから。色々してごめんって一応謝ってあげる」

 「え、えっと……」

 突然、そんな事を言う僕たちに驚いたような目でこっちを見てくる斎藤。なんだかそのぽかんとした顔にイラッとする。やっぱりこいつは嫌いだ。

 「いっとくけど、あんたの事認めたわけじゃないんだから!!

 あの人のためにやめるんだからね!」

 「あの人…?」

 不思議そうな顔をする斎藤を見ていら立ちが募る。

 その隣で驚いたように、だけど何を考えてるんだとでも言う風にこっちをにらんでる越前様にも。

 僕は、いら立ちを隠せないで木田様の事をいってしまいそうになる。

 でもそれは木田様が望んでないから、僕はその場を後にする。

 ―――木田様にお願いされた後、僕はもしかしてと思って突然斎藤への制裁をやめた一般生徒も含めた人達の所にいったんだ。

 …そしたら、皆木田様が、制裁やめてくれって、頭下げて頼んだって、そういってた。

 木田様が越前様の事好きだなんて知らなかった。

 元々ノーマルだって言われてて、でも斎藤のそばにいるから斎藤が好きなんだって噂だった。

 ―――でも、それは違った。

 木田様は僕らと同じように好きな人をとられてしまったようなものなんだ。

 でも、木田様は僕らと違った。

 斎藤を苦手だったとしても、斎藤が邪魔だからって制裁もせずに、悪口も言わずに、そんな事せずに、斎藤を守ってた。

 ……越前様が、悲しむからって。

 皆には頭下げてる事内緒な、っていって笑った木田様…。

 何も知らずに越前様は斎藤の隣にいて、斎藤は木田様に守られてる事も知らずに笑ってる…。

 会長様も、越前様達も、全員、僕らを睨むように見てくる。

 斎藤に制裁するからって。邪魔だとでも言う風に。

 本気で斎藤が好きなんだろうけれども、それでも僕らは納得できなくて、いら立ちを斎藤に向けていた。

 木田様だけなのだ。斎藤の近くにいながら、僕らを責めもせずに、越前様のためにって頭を下げたのは。

 僕も含めた木田様に頭を下げられた面々は、斎藤の親衛隊に、僕らも斎藤を守るっていったんだ。

 提案したのは、僕と一緒に木田様に頭を下げられた子で、「あんな風に越前様を思って頭を下げる姿見て、心が動かないわけない」ってそういって。

 僕もそれは一緒で。もちろん、斎藤の親衛隊からは疑うような目で見られたけれど、

 『あの人のために、斎藤を守るんだ』

 って、僕らは言った。

 …それに、木田様は越前様を悲しませないようにって、斎藤を守ってる。

 僕らも会長様に悲しんでほしくないからって、気持ちもある。

 斎藤の事納得できないし、どうしてって、思う。

 会長様は僕らをいらないって言うのに、後から出てきたあいつばかりを求める会長様に、どうしてって、思う。

 でも、それでも、木田様を見て胸が苦しくなったから。

 越前様が好きなのに、斎藤を守る木田様に……、どうしようもなく切ない気持ちになったから。

 寧ろ越前様にいら立ちを感じてしまう。木田様の気持ちに気付きもせずに、木田様が斎藤を守ってる事にも気付きもせずに、斎藤の隣で笑ってる事に。

 「木田様のためにも、斎藤への制裁なくそうね」

 「うん…」

 そうして、僕らは、木田様のために動こうと思った。

 会長様にも納得してないって言いにいくために親衛隊内で色々話しあいも始まっている。

 ――僕は、願う。

 ―――どうか、木田様が、一途なあの人が、幸せになってくれればいいと。





end


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