in 図書室
図書館の姫とその子に恋する子の話。
ちなみに今日も~とは関係ない。ただ呼び名が一緒なだけ。
「……今日も、いる」
俺には好きな人が居る。
どうしようもなく、好きな人。
話した事はない。でも、ずっと、一年の時から見ていた。
話しかける勇気もなければ、俺みたいな平凡が釣り合うとも思っていない。
彼、東雲和紗は、図書室の姫と呼ばれていて、親衛隊もある。
いつも図書室にやってきて、彼は本を読んでいる。
ずっと見てるだけでいいんだって思ってた。
それだけで、幸せだから、満足だからってそうおもってた。
だけど、ある日転入生が来た。
その転入生は生徒会役員や、その他の美形と呼ばれるこの学園のアイドル達を惚れさせてしまった。
それで親衛隊の子達は凄く荒れている。俺の知り合いも親衛隊に入っていて怒っていた。
……どうやら、転入生は美形が好きらしい。驚くほどに周りは美形ばかりだ。
そうして、その魔の手はあの人にまでのびてきている、と噂に聞いた。
転入生に付きまとわれているらしい、あの人はなかなか図書室に来なくなった。
ああ、あの人を見るだけでよかったのに。
あの人が、来ない。
ああ、と転入生にいら立ちを感じる。
あの人の親衛隊もあわただしいらしい。
そんな日が続いたある日、図書館にあわただしくあの人が入ってきた。
「…いい加減にしてってば!」
あの人が、声をあげるのをはじめて聞いて驚いた。
「何でだよっ、俺達友達だろ!? 何でそんな事言うんだよ」
そして、図書室でバカみたいに声をあげる、ボサボサの黒髪の男。
うわ、あれが転入生か。というか、東雲から離れろ。嫌がってんだろうが。それを思いながら苛々してしまう。
「だから、友達じゃないっていってるでしょ。
僕は読書したいんだから、ついてこないでよ」
東雲が怒ったように声をあげる。だけど転入生はそんな意見なんて聞いていない。
「読書なんて後でいいだろ! 皆で何かする方が楽しいぞ。あ、読書してるのも親衛隊のせいで友達作れないから一人でいるんだろ!」
「ちが、皆の事悪く言わないでよ!」
東雲は新衛隊と仲良いって聞いてるのに、この毬藻は何をいってるんだ。
大体東雲に近づくな。
つか、嫌がってんじゃないか。本当、苛々苛々して仕方がない。
「なぁなぁ、遊ぼうぜっ、一緒に」
「いたぃ!! はなしてってばっ」
ぎゅっと東雲の手を掴む、転入生。東雲の悲鳴が上がった。
それを見た瞬間、カッとなった。
「離してってば!!」
「何でそんな事言うんだよ!!」
「―――その手を離せ」
俺はズカズカと彼ら二人に近づいてそう言い放った。
東雲も転入生も、俺の方を見た。二人も驚いた顔をしている。ぽかんとした顔の東雲は可愛かった。
「何だよ、お前、あ、俺と仲良くなりたいのか!?」
「誰がお前と仲良くなりたいんだ。それより、東雲が嫌がってるだろ。その手を離せよ」
「何でそんな――」
「それと、図書室は騒ぐ奴はお断りだ。純粋に読書をしたい奴もいるし、俺も静かな方が断然好きだ」
「何で、そんな――」
「いいから、さっさと出ていけ」
俺は無理やり転入生の腕をつかんで、そのまま、図書室の外へと追い出す。そして、ガシャンっ、と鍵を閉める。
「なにすんだよ!!」
ガンガンガンッ、とドアをたたきながら喚く転入生。あきらめて帰れ。
「何だよ、俺が友達になろうとしてやってるのに!!」
ガンガンガンッ。
五分近くずっと喚き、叩き続けたが、転入生は諦めたのか、喚き声は徐々に聞こえなくなった。
――ようやく帰ったかとそこまで経過して、俺はふぅと息を吐いた。
「あ、あの…」
……可愛らしい声が聞こえて、ちょっと体が緊張に固まった。
お、俺思わず東雲の事助けちゃった!!
ちらりと、東雲の方を見る。
……え、ちょ、ずっと好きだった存在が近くに居るとか死ぬほどてんぱるんだけど!! 東雲が俺を見てる!? …駄目だ緊張する、俺どうしよう、え、ちょ…。
俺は困っていた。
「ありがとう。助けてくれて」
東雲が俺に笑顔向けてくれるとか、何、これ、夢!? と錯乱してしまう。
「あ、い、いや気にしなくて、い、いいです!!
し、東雲が困ってた、から、お、思わず、俺が勝手にや、やっただけ、だし」
絶対俺挙動不審だ。ど、どうしよう、東雲に俺変な奴だって思われてるかもっ!! でもこんな笑顔向けられて、お礼言われて俺はどうしようもなく混乱している。
「そう、でもありがとう。
君は、僕の事知ってるみたいだね? 君は何て名前なの?」
「は、林川孝で、す」
「そっかぁ、何年?」
「二、二年B組です!」
「同じ年なんだから、敬語じゃなくていいよ?」
「は、はい、いや、あ、ああ」
笑っている東雲と、ひたすら挙動不審な俺。え、ちょ、何で東雲俺の名前とクラス聞いてるんだろう…。
え、夢!? これ、やっぱり夢か!! あの可愛い東雲が俺に笑いかけ、名前を聞くって。
夢としか思えないけれど、現実で東雲の声が確かに響いている。
「図書委員なの?」
「あ、ああ」
「ふぅん、そっか。じゃあどんな本が好き?」
「え、基本的にラノベしか読まないけど色々と……」
「ああ、ラノベか。ラノベも面白いよね。僕は純文学もラノベも結構見るからねぇ。
ね、今度時間ある?」
「え、は、はい。というか、結構図書室に俺、いるから…」
「うん、じゃあ、図書室に居るなら一緒にたまに本について語ろうよ」
「あ、ああ」
ええ、え!? 一緒に本に語ろうって俺でいいの!? 俺みたいな平凡が東雲と本について語ってていいの!? え、本当にこれ、現実!? 夢!? いや、頬つねっても痛いし現実だよな、これ。
何て言いながら、挙動不審なうちに、俺は結局東雲と一緒に図書室で語る約束をしてしまった。
……やべぇ、東雲を見れるだけで幸せだったのに、一緒に語れるとか、俺、幸せすぎる!
…とりあえず、東雲を前にしても挙動不審にならないように頑張ろう。
end
孝
割と平凡な図書委員。
しかし、結構手際がよく、アンチ王道君とかもさっさと追い出す。
東雲が好き。
東雲和紗
図書室の姫と呼ばれる可愛い子。
アンチ王道に付きまとわれてうんざりしてた。