無口書記は動物がお好き
無口書記と一匹狼の話
「……」
目を覚ますと、あたりは少しうす暗くなっていた。
……昼休みに中庭にきて、ちょっと昼寝しようと寝てしまったら、放課後になってたみたい。
俺生徒会特権あるっていっても、あんまサボりしたくないのにと思いながらも眠ってしまっていたものは仕方がないから体を起して、寮へと向かおうと歩き出す。
静かな場所は好き。
だから、あんまり人の来ない、俺のお昼寝場所はこの中庭なのだ。
歩く、歩く、歩く―――、そうしている中で、喧騒が、響いた。
誰かが喧嘩をしているのかもしれない。
この学園は金持ちが多いけれども、何故か不良の数もかなりのものだ。
打撃音が響き渡る。
―――寮へと向かおうとする中で、その喧騒は徐々に大きくなってくる。
どうやら、帰り道の途中で喧嘩をしてるらしい。
迷惑だな、って思いながらも、足を進めた。
そうしていれば、その喧嘩の現場が目に映る。
「―――――っ」
その、中心を見た瞬間、何かが体を走って行くような、そんな衝撃を受けた。
赤い髪の男が、中心で獰猛に動きを繰り出す。
ぎらついた瞳が、喧嘩の相手をとらえ、次々とその拳は相手をとらえてくる。
そこにあるのは、芸術的な、技術的な美しさではない。
野生的な圧倒的な、強さと美しさが、そこにあるような気がした。
「……お……かみ、みたい」
狼みたいだ、そう、何故かおもった。
何処までも野生的に、男は圧倒的に相手をのしてしまった。
―――そうして、俺は見惚れるかのようにその喧嘩をじっと見据えてしまっていたのだった。
*
「あ……」
あの、野生的な喧嘩を見た二日後。
俺はのんびりと学園内にある森の中を歩いていれば、あの狼のような人を見つけた。
森は小鳥とか居るし、動物好きな俺は自然とか結構好きで、森にはきていたけど、その人を此処で見るのははじめてだった。
―――眠ってる、そうおもいながらその顔をまじまじと見つめる。
仲良くなりたいなぁ、とそうおもってしまう。
そうやって、マジマジ見つめていたら、男の目が開いた。
そうして俺の事を見て、驚いたように目を見開く。
「……書記が何で此処に居る?」
―――そんな言葉に生徒会に入っててよかったと思った。今まで生徒会に入って面倒だなって思ってたけれど、良かったって思えた。
生徒会に入ってたからこそ、この人は俺を知っているのだ。
何でこんなに嬉しいのかわからないけど、何だか嬉しい。
俺は、その人を見つめて、口を開く。
「……なま…え」
「名前?」
「…おし、え…て?」
正直俺は喋るのは苦手だ。
だから喋るのも遅いし、聞き取りにくかったりする。
……遅いし聞き取りにくいし、うざがられたらどうしようと、少し不安に思った。この狼のような人に嫌われるのは嫌だと思った。
「…宮城狼だけど」
「ろ、う、よんで……い?」
「…別にいいけど」
そういいながら、狼は困惑したような瞳をこっちに向けてくる。
「ど、した…?」
「何で書記が俺の名前何か聞いてくんのかなと」
「…おと、とい、喧嘩、してた」
「一昨日? あー、二年の奴に絡まれたけど…」
「……俺、どー、ぶつ、好き。…ろぅ、……おおか、み……みた、いだった」
野生的で、本能のままに喧嘩してるみたいで、何だか、狼みたいだって、本当に思った。
だから正直にいったら、不思議そうな顔された。
「普通、怖がるぞ?」
「ん? ろぅ……こわ……い、より……、きれ、い……だ、った」
怖いというより、綺麗だと思った。
狼の、喧嘩が。
怖いとは不思議と思わなくて、寧ろ綺麗で、何だろう、見惚れたのは本当の事。
あんまり他人になんか興味ないけど、なんか、綺麗な狼に近づきたいって思った。
「俺が、綺麗ねぇ…。お前のが綺麗な顔してんじゃねぇか」
「……ろぅ…、のが、きれ…ぃ。
ね、……おと、…もだち、……なって?」
お友達になってくれたら、嬉しいなぁ、なんて思いながら口を開く。
折角見つけた綺麗な、野生的な狼。
見つけたのに仲良くできないとか、嫌だもんね。
「ダチ…? まぁ、いいけど」
「ほん……とっ!?」
嬉しくて頬が緩むのがわかる。
ああ、この美しい狼に近づけるんだ。俺は。それを思うだけで、笑みがこぼれた。
「…ろぅ、隣、座って、い?」
狼の隣を指さしながら言えば、狼は頷いてくれて、俺はそこに腰掛ける。
「書記さ」
右に座る狼はそう言って俺に話しかけてくる。
それに対して俺は、狼の制服を引っ張っていった。
「…みず…き」
「ん?」
「俺、みず…き。
なま…え、が、いいっ」
書記、書記って呼ばれるより、名前で呼ばれたくてそうして俺が言えば、狼は笑った。
―――綺麗だな、って思う。
野生的な美しさを持っていて、笑顔は綺麗で、本当に、なんか、見惚れる。
「お前、可愛いなぁ、瑞希」
そのまま、頭をなでられた。
何だか気持ち良い。
「本当、なんか犬みたい」
「いぬ……す、き?」
「まぁ、実家に二匹かってるからな」
「俺…ちも、いるっ」
「動物好きってさっき、いってたもんな」
「ん……す、きっ」
昔、喋るのが苦手だからってちょっと苛め受けた事があったんだよね。俺。いまだに喋るの苦手なのは治らないけど。
………それからは俺は人間より動物のが好きっ。
「ろ、ぅ、おおか、み……みたい、で、おれ、す、き」
「…瑞希、んなこといってたら勘違いされんぞ?」
「…かん、ち、がい?」
なんの事かわからなくて首をかしげる。
俺は狼の事好きだから好きっていっただけなのに。勘違いって何だろう。そういったら狼は、呆れたように俺を見る。
「あー、わかってねぇなら、別にいい」
「そ…っか。
ろぅ……俺、昼寝、するっ。
ろぅも、一緒!」
制服の裾を引っ張って、一緒にお昼寝しようと誘う。
狼とお昼寝をするのは楽しそうだ。
俺の誘いに狼は笑ってくれた。
それから、俺と狼はぐっすりと眠ってしまっていた。
起きたら、密着するようにくっついていて、狼の顔が目の前にあって、びっくりした。
狼は目覚める気配がない。
でも、俺そろそろ生徒会室行かなきゃだ、と思いながらポケットからメモ帳とシャーペンを取り出す。
自分のメアドと、『生徒会の仕事してくる』と書いて、狼の手に握らせた。
それにしても、寝顔綺麗だなぁ。
なんて、その寝顔を見ながら思ってしまう。
―――綺麗な、綺麗な狼がこんな至近距離に居るんだなぁ。
俺の、お友達になってくれたんだよなぁ。
――嬉しいなぁ。
――――明日は、もっと仲良くなれるかな。もっと、仲良くなりたいな。
そんな事を思いながらも俺は、そのまま生徒会室に向かうのであった。
―end―
瑞希。
一年生。書記。
成績は結構優秀だけど、結構サボって昼寝してる。
人間より犬とかのが好き。
昔苛めてきた人間に仕返ししようと武術習ってたから以外に強かったりする。
喋るのは苦手。心の声は普通です。
狼
赤髪。一年。何十人相手でも勝っちゃうほど喧嘩なれしてる。
人間とか瑞希と同じくあんま好きくないけど、無害に思えるし犬っぽい瑞希には嫌悪感はないらしい。