籠の中の鳥は学園に入学する。11
僕らの日常は、平和に過ぎている。
学園生活というものは、実際に生活をしてみると色んな発見がある。僕の隣には常に帝がいて、帝は僕の話を常に聞いている。――屋敷とは変わらないそんな状況でも、僕の世界は確かに広がっている。
誰一人僕と帝のおかしな関係に何も言わない日々。それは心地よい。――でもああ、いつか、僕と帝の関係を誰かがおかしいといって、そのおかしいと告げた人が帝よりも力を持った人だったならばまた違う結果になるのだろうか。
でもそういうことがあったとしても、僕はきっと帝と一緒にいる道だけをずっと選び続けるんだろう。帝以上に魅力的な存在はいないしなぁ。
「――緋色、何考えている?」
「んー。僕は何があっても帝の傍にいるだろうなぁってそれだけ思ってただけだよ」
僕が素直にその言葉を口にすれば、帝は嬉しそうに微笑んだ。
――こういう笑みを向けられるのも僕だけだと思うと何だか嬉しい気持ちになってしまう。
「帝はさ、もし帝よりも権力を持っている相手が僕と帝の関係がおかしいと言ったらどうする?」
「どうするって、そもそもそうならないように力をつけるだけだけど。でもまぁ、そうなったら逃げるかな。緋色がいれば俺はそれでいいから、逃げて緋色と誰もいない場所で過ごすのもありだと思うけど」
帝は、そんなことを簡単に告げる。
帝は……、やっぱり何があったとしても僕を手放す気はないのである。僕も帝の側を離れる気はないけれど、本当に例えば何かあったとしてもただ二人で入れればそれでいいのだと思う。
……僕は帝に甘やかされて生きているから、きっとそういうことになったら僕は生活出来るか分からないけれど。一人でたった一人で生活していけって言われても何となく生活は出来るかもしれないけれど、それでも僕にはやっぱり帝は必要だ。
帝がいるのといないのとでは生活が結構異なる。
「ねぇ、帝はさ。将来的にどうしたいとかある? 僕は帝といればいいって思っているけど」
「そうだなぁ……。緋色がこうして学園に通うようになって思ったけれど、俺はやっぱり緋色が誰かと喋っているのは嫌だと思ってる。だから、緋色、また籠の中の鳥に戻していいか? まぁ、緋色が望むなら少しぐらいは外に出るのもいいけど……でも出来れば緋色はずっと籠の中の鳥にしておきたい」
「いいよ。僕は興味本位でこうして外に出ることにして、帝と学園生活を送ることにしていたけれど、僕は今、満足しているから。こうして外に出てもやっぱり僕は帝と一緒に居たいって実感できたし。このまま、籠の中の鳥に戻っても後悔はないからね。帝が嫌だって言うなら外には出なくてもいいかなって」
僕の世界は、学園に入るまで本当に限られていた。でも世界が広がっても僕の世界は変わらない。
僕はただ帝の傍にいるだけなのだから。
「じゃあ、どこか人がいない場所にでも住むか。インターネットを引いとけば、仕事なんてどうにでもなるし、本格的に最低限の人間だけで過ごすのがいいかもなぁ。土地でも買うか。ただ緋色を養うためにも仕事はしてた方がいいしな」
「……帝、今もお金かなり稼いでない?」
「でもなにがあるか分からないだろう。俺は緋色を苦労させる気は全くないから」
帝はなんというか、僕のことが本当に好きだよなぁと思う。
僕のことを大切に思ってくれていて、だからこそ、こういうことを言っているのだ。
「帝って本当に僕のことが好きだよね。卒業したら本当にそういう暮らしになるだろうね。でも僕はその暮らしを楽しみにしているよ。卒業した後、また僕は籠の鳥に戻る。それまで二年、籠の外の生活を僕は楽しむよ」
「……ほどほどにな。緋色があまり他の連中と仲よくしていると俺はすぐに閉じ込めたくなるから」
「心配性だなぁ、帝は。何も心配する必要なんていらないのにさ。たった二年だからさ」
――でも卒業してまた籠の中の鳥に戻るのならば、僕を閉じ込める鳥籠は完全に完成すると言えるかもしれない。外を知った上で、他の人と接した上で、それでもまた鳥籠の中に戻ろうとする僕はやっぱり周りからしてみれば理解されないものなのかもしれない。
でもまぁ、帝は僕が望むなら少しぐらいなら外に出てもいいって言ったけれど、僕って結局帝がいれば他はいいって思っているんだよなぁ。興味本位で学園に通うことは決めて、外の帝を知りたいなって思って外には出たけれど、結局僕の知っている帝と外の帝は変わらなかったし。
ああ、でも時々は外にいる帝を知りたかったら覗き見ぐらいはするかもしれないけれど。
でも帝が人里離れた場所で最低限の人たちだけの場所で仕事をしながら暮らすなら、帝はずっと僕の視界にいるわけで、それなら外を僕は一切気にしないかもしれない。
……うん。客観的に見て、僕の思考も中々おかしいことを僕はちゃんと理解している。
僕は僕が完全な籠の中の鳥になることを――望んでいる。
卒業後が楽しみだなと僕は帝の隣で笑ってしまう。帝も、その日をきっと楽しみにしているだろう。