籠の中の鳥は学園に入学する。10
帝と僕は相変わらずの日々を過ごしている。帝はいつも僕の傍にいて、僕のことを盗聴している。僕は誰かが何かを言ってきたとしてもそれでも僕たちの関係は、きっと一生こんな感じなんだろうなとは思っている。
この前の転入生の件があって、余計に僕と帝の関係に口を出すのはやめた方が良いというのが周りはよく分かったらしい。前よりも周りは僕達に少しだけよそよそしい。彼らは帝の事を慕ってはいるけれども帝がどういう人間なのかというのを正確には分かっていないのだなと思った。
――帝は、僕たちの関係をおかしいと言ったから。だからこそあれだけ怒っただけで、それ以外では帝は寛容だ。帝――というその名の通り、帝は帝王みたいなそんな風に権力を持っている。性格だって人を惹きつける何かを沢山持っていて。うん。だからこそそんな帝が僕に執着しているのは不思議だなとそうも思う。
それでまぁ、帝と僕のことに関わらないでいようとしている周りにはちょっと寂しいけれど、結局の所僕も帝さえいればそれでいいと思っているのだ。帝さえいれば他の誰かが僕の傍にいなくても――僕は結局のところ納得するのだろうと思う。
帝だけがただ僕にとって失いたくないたった一つのもので、それ以外はどうでもいいのだ。それはきっと帝も一緒だろう。
「ねー。君はさ、それでいいの?」
僕にそんなことを言ってきたのは、生徒会の会計である。名前は三国さんだったか。少しチャラいイメージのある先輩である。帝は僕がこの人に近づくのを嫌がっているのか、そんなに話したことはない。会計さんも僕に近づくと帝に怒られるからかあまり近づいてこなかった。
だけど、なぜかこのタイミングで会計さんが近づいてきて僕は驚いている。
今、僕は生徒会室にいる。帝はちょっと教師に呼ばれて席を外している。たまたま僕と会計さんしかいないタイミングで会計さんが話しかけてくることに驚きでいっぱいだ。
「――何がですか?」
「何がって、会長とのことだよ。君は会長にとらわれっぱなしでいいわけー? たった一人だけなんてつまらなくない?」
何を言い始めているのだろうか――とそう思っていたのだけど、どうやら僕と帝の関係に対して質問らしい。楽しそうな笑みを浮かべている会計さんは、僕と帝の関係に関して不思議で仕方がないようだ。
「今のままがいいですよ」
僕がそれを望んでいるから。
ただ帝が居ればいいと。学園に入学したとしても結局のところ、僕の心は籠の中の鳥のままなのかもしれない。僕は帝にとらわれていることをずっと望んでいて、このまま帝という鳥籠の中にずっと居たいと思っているのだと思う。……うん、やっぱり客観的に考えてみて、僕のそんな考えは人によっては理解されないことなのかもしれない。
――自由を望む人々は、きっと僕のそういう思考はきっと分からない。
目の前の会計さんは、自由を好むのだと思う。多くの人たちと関係を持っていて、たった一人の存在なんていないといったそういう存在たちだからこそ僕達の関係が理解出来ないのだろう。
「本心から?」
そう問いかけた会計さんは、なぜか僕に近づいてくる。
「――本心からですけど」
「それは会長だけしか知らないからじゃない? 会長がそれだけはまっているなら俺は興味あるんだけどなー」
……帝が僕に執着しているから会計さんは僕のことを気にしているようだ。
僕が頷けば今にでももっと近づいてきそうな雰囲気。うん、なんというか、こういう所にひかれる人たちがこの人と遊んでいるんだろうなと思う。なんというか軽薄な雰囲気なんだけれど、人を惹きつける何かが確かに会計さんにはあるから。
だけど、僕は――。
「僕が帝しか知らなかったからそうだとしても、僕は帝だけでいいです」
僕はやっぱり、帝だけでいいなと思う。
僕に執着していて、僕を監禁するぐらい愛してくれていて、僕がちょっと外に出た途端心配していて――そういう帝だけで僕は十分なのだ。帝の作った屋敷という名の籠――そこから抜け出して外を知って、多くの人たちと関わっているけれど――それでも僕はやっぱり帝だけで十分だなと思っている。
「ふぅん。そっか。面白いね」
「面白いですか?」
「うん。会長と君の関係って面白い。俺が想像出来ない関係だから」
そう言う会計さんは、多くの人たちと関係を持っているけれど――本当はたった一人の存在が欲しいのかもしれないとそんな風に考えた。
僕が何か口を開こうとした時、生徒会室の扉が開いた。
「緋色!!」
あ、帝だ。
……うん、帝、僕のことを盗聴しているから会計さんとの会話も聞いていたのだろう。少し息切れしていることから急いでやってきたのが分かる。
帝は僕のことを勢いよく抱きしめて、会計さんのことを睨みつける。
「うわ、会長、ちょっと話しただけじゃん! そんなに睨まないでよ」
「失せろ」
「うわ、ガチギレじゃん!! ごめんってば。一旦退散する!」
会計さんが去っていった後、僕はまだ思いっきり抱きしめられたままだ。
「帝さ、僕はいなくならないよ?」
「……ああ」
僕が居なくならないといっても帝は僕のことをぎゅっと抱きしめたままだ。
僕もそんな帝の背中に手を回すのだった。
――籠の中の鳥は学園に入学する。10
(籠の中の鳥は、外に出てもやはりこのままの関係を望む)