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GAME.6

「なぁ、『月華』の偽物さん」

「……っ」

 俺がそう言って声をかければ、その2は驚いた顔をした。顔色が悪い。というか、何個か勝負をすることになっていたのだけど、その2があまりにも喧嘩が弱かったから、その1の方が『月華』だろうと思われているのだ。

 というか、俺喧嘩強いだけって思われてんの? ってちょっと何とも言えない気持ちになったけどな。

 俺ってもっと魅力あるよなー? って留衣に行ったらめっちゃ頷かれた。何とも言えない気持ちだよな。

「なにしにきたんだっ」

 怯えるような、驚いたような表情――その2は『月華』を騙ったからということで、この学園内で立場がよくない。それをいうならその1もだけどな。俺が本物なんだがなという気持ちでいっぱいである。

「面白そうだなと思ってさ。なぁ、このまま偽物として終わりたいか? それとももっと見返したいか?」

「え」

 何を言っているんだという目がこちらを見る。どっちかっていうと俺のことを恐れているような目だ。

 いい感じに俺への畏怖があっていいんじゃないかな? 俺は凄く楽しい。というか、あれだな。いっそのことその1が偽物だと盛大にばらしたい気もする。まぁ、俺は自分が『月華』だって進んでばらす気はないけど。

「何を、言って……。もうこれだけ、僕が偽物だって知られたのに……」

「どうとでもなるさ。だって人の人生なんて過去より未来が作るんだから」

 過去がどんな人物であるか――というのはその人にまとわりつくものではあるけれども、それよりも大事なのは、未来で何を成すかである。未来で何かを成したなら案外過去でなしたことなんて人の記憶からはなくなっていく。

 そもそも俺が『月華』とか呼ばれていたのも、留衣たちとGAMEをしていたのも全部さ、俺にとって黒歴史になるようなことかもしれないし。まぁ、今、楽しいから全然良いが。

「……でも」

「お前、何で『月華』になりたかったんだ」

「何で……って。『月華』は有名で、かっこよくて――皆の中心になっていて……。僕は、そんな『月華』に憧れてて……、でもあの子が、『月華』を名乗って……。僕は最初あの子が『月華』本人だと思ったんだ」

 このその2は『月華』に憧れていたらしい。うん、見る目があるな。

 そう思いながらその2の言葉を聞く。ちなみに留衣も隠れているけれど近くにいる。

「……でも見かけたあの子は、僕が前に見た事ある『月華』とは違うと思った。僕の憧れている『月華』が汚されている気持ちになって……、そんなの許せないって、どうしたらいいかなって思って……」

 俺に憧れ、そのために『月華』が違うと思って――だからその1に対抗するために俺を名乗ったのだろうか。

「それで何かしなきゃって名乗ったんだ。……それに二人も『月華』を名乗れば、本当の『月華』が此処に現れるんじゃないかって……そうも思ったから」

 その言葉を聞いて、俺は思わず笑ってしまう。

 正解というべきか。その狙いはあっている。——現に、俺という本物が此処で釣れたんだから。

「あははははっ」

「……っ」

 驚いた顔をして、俺を見る。俺の態度が急に変わったように見えたのだろうか。まぁ、俺も大分楽しいなと素が出てるしな。

「なぁ、お前名前なんだっけ」

「え。三口明也みくちあきやだけど」

 俺の問いかけにその2――明也は答えた。

「なぁ、明也、お前正解」

「え」

「ちゃーんと、本物釣れてるぜ?」

「はい?」

「な、留衣」

 俺はそう言って留衣を呼べば、留衣が出てくる。明也は驚いたような表情を浮かべて、信じられないような顔をする。

「え………『月華』様……?」

「おう、俺が『月華』だぞ。な、留衣」

「悠斗が『月華』だ」

 『紅龍』――留依が断言したことで、明也は信じたようだ。

「『月華』様!! ごめんなさい。僕は『月華』様を名乗りました」

「別にそれはいいよ。面白かったし。俺は気にしてないし」

 俺がそう答えれば明也はほっとしたような表情を浮かべた。

「そ、それで『月華』様は」

「悠斗でいい」

「悠斗様は」

「同じ生徒で様付けはおかしいだろう」

「じゃ、じゃあ、悠斗さんは……、これからどうするんですか」

 真っ直ぐに俺のことを見据えて、そう問いかけてくる。

 明也は覚悟を決めたような瞳を向けてくる。うん、良い目だ。

「俺はね、ただ遊びたいんだ。楽しく過ごしたいんだ。ただそれだけだ。正直言って、まぁ、『月華』を探すGAMEは既に留衣が勝利しているしさ、それ以外はどうでもいいんだよ。ただ、俺の偽物を名乗っている奴がいるっていう状況を俺は楽しんでいるだけだから。まぁ、留衣には迷惑だろうけど」

「迷惑だ。『月華』の偽物はいらない。『月華』を間違える奴もいらない。悠斗を本物だと分からない奴なんて、邪魔」

 留衣は本当に俺が大好きだなと思う。でもまぁ、俺も留衣にもっと害があるようなことがあれば流石にこんな風に静観は出来ないかもしれないけれど。

「だからさ、明也は俺と一緒に遊ぼうぜ。偽物と言われ、周りから拒否られたお前がさ、こうして本物の『月華』である俺と行動を過ごせるって面白い選択だろ?」

「はい!!」

 明也は最初に俺が声を掛けた時とは、がらりと雰囲気を変えた。キラキラした目で俺を見て、楽しそうに笑う。その目は希望で満ちている。



 これからもっと、楽しくなればいい。俺はそう思ってならない。




 end




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