GAME.5
「俺が『月華』だ!!」
「僕が『月華』だよ。何で君はそんな嘘をつくんだい?」
さてさて、現在、俺の前では中々面白い展開が繰り広げられている。
俺を名乗っている偽物その1とその2が揃って、互いに自分が『月華』だと言い張っている。というか、何故そんなに堂々と嘘をつけるのかと俺は不思議な気持ちになってならない。普通に考えてこんなに堂々と嘘ばかりつくとかやばくね? とそんな気持ちになってならない。
俺ならこんなに堂々と嘘をつくのってできねーわ。
ちなみに『紅龍』――留依以外の連中はなぜかその1とその2の後ろにそれぞれ控えているし。つい最近までその1だけを『月華』として、追い回していたのになんともまぁ、心変わりがはやすぎる奴だろうか。などと俺は思ってならない。
そもそも、俺に求愛しといて偽物追い回している時点で失笑しかないけど。
それに比べて俺の留衣は俺がちゃんと『月華』だってわかっているし、俺のことを分かっているし。一途で可愛い奴、とそんな気持ちになってならない。
……うん、嬉しくて俺は思わずにやけそうになっている。
「――嘘をつくんじゃない。心優しい『月華』は貴方が謝れば許すといっている」
「何を言う!! そっちが偽物だろうが!!」
取り巻きたちがそんな風に声をあげているのを見ながら、あー、おもしろと思って仕方ない。うんうん、事実を知っている俺の身からしてみるとなんて馬鹿らしい喜劇だろうか。そんな気分になる。
一般生徒たちもどっちが本物の『月華』だろうかって考察しあっているし。それで一部では賭けになっているらしいよ。大穴で二人とも『月華』ではないというのに賭けている人もいるらしくて、正解って思いながら俺も二人とも『月華』ではないに賭けておいた。
「こうなったらどちらが本物の『月華』なのか勝負です!!」
「望むところだ!! こちらの『月華』こそ本物だ!!」
なんか取り巻きたち盛り上がってんなー、しかも本物の『月華』ってわかるための勝負って何? 何をもって知って本物って思う気なんだろ? 色々意味わかんねー馬鹿なことしているなーって思う。
まぁ、面白いからその勝負を俺も見に行こうと思っている。なんて愉快なのだろうか。
ちなみに勝負と聞いてその2の方の顔色はちょっと悪くなった。ふーん、本物じゃないから勝負をして上手く行くだろうかとか不安なのかね? まぁ、それで失望されたとしても本人の自業自得だし、俺は放置しておこう。
何だか勝負をやるぞと盛り上がっているのを横目に俺はその場を後にした。
それにしても本当に、この学園は愉快なことになっているな。
俺の配下みたいな連中は俺の偽物に怒っているし、留衣は「なんだあいつら」と怒り気味だし、本物よりも周りが怒っていて俺って愛されるなーっと俺はそれはそれで喜んでいる。
「留衣、あいつらの勝負一緒に見ないか? 中庭でやるらしいからさ。教室の中からでも何やっているかは見えるだろ?」
「見る」
留衣は俺と一緒に居たいのだろう、即答していた。ちなみに最初は近くで見ようかと思っていたけれど、留衣と一緒に見たいから教室から覗くことにしたのだ。
留衣は俺と一緒に入れれば何でもいいのか嬉しそうに笑っている。
正直、こんな留衣が俺の恋人だと見せびらかしたい気持ちはあるけれど、まだまだ面白い遊びをやっている最中だから、すぐには『月華』だとばらす気はない。
最高に面白くて、最高に楽しめる段階で、俺が『月華』だとばらしたらあいつらどんな顔をするだろう?
偽物たちはどんなふうな表情をするだろうか。
そんな風にわくわくしながらその勝負の当日を迎えた。一番最初の勝負は喧嘩だった。『月華』って喧嘩強いって有名だしな。この勝負はその1の方が勝利した。その2は喧嘩はそこまでできなかったのかもしれない。
取り巻きたちに見放されたその2が哀れだったので手を伸ばしてみることにした。
end