籠の中の鳥は学園に入学する。9
「よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるのは、噂であった転入生だ。
その転入生は黒髪のかわいらしい見た目をした男の子で、女の子かと見間違うような少年だった。
何だか学園の生徒たちが盛り上がっていた。僕は帝以外の人にはそこまで興味を抱けないので、可愛い子だなとしか思わなかった。というか、例えば僕が帝以外の人に対して何かしらの意識を持っていったのならば帝は僕をまた監禁することだろうなと思った。
帝はそれだけ僕の事を大切にしていて、僕に執着しているから。ああ、でも余裕がない帝をちょっと見て見たいという気持ちもある。
僕の世界には今まで帝しかいなくて、帝がそういう風に余裕がない姿を僕はあまりみていない。そして僕自身も、余裕がない状況というのはないと思う。……僕は籠の中から飛び出た。そのことがどういう影響を与えるのかは分からない。
僕が余裕をなくしてしまうことがあるのだろうか。そんなことが起こった時、僕はどんな風に動くだろうか。
……帝が例えば、僕以外を欲して、僕以外に興味を抱いたら、そんなことがあったら僕は本当にどうなるんだろうか。
「どうした、緋色。あの転入生が気になるのか?」
「皆があの子のことで盛り上がっているなって」
僕がそう言えば、帝は面白くなさそうな顔をして僕を抱きしめる。僕の視界一杯に帝が映る。ああ、僕が誰かを見ていたのが嫌だったのだろう。帝は相変わらずだと、僕はその相変わらずな帝を見ると胸が温かい気持ちになった。
「じゃあ、帝だけ見てる」
「そうしろ」
帝が笑う。
僕が帝を見つめれば、蕩けるような笑みを浮かべて、僕に口づけを落とした。
……学園内なので周りからの視線も感じるけれど、まぁ、いいやと受け入れた。
さて、正直な話を言うと転入生には興味があるけれど、帝は僕に転入生と関わってほしくなさそうだから、放っておくことにしていたのだ。
なのだけど、転入生の方は帝と僕に興味津々のようだ。
僕達がこの学園で目立っているからのようっだ。その転入生は副会長さんたちとも結構仲良くなっているみたいで、その結果、僕と帝の元にもやってきた。
彼は僕と帝の関係を聞いて、
「おかしいと思うんだ。そんな関係」
などとのたまっていた。
正直言えば、何を言っているんだという感じになる。確かに僕と帝の関係は一般的に見ておかしいのかもしれない。僕は監禁されていたわけだし。でもまぁ、僕は外の世界を知ってもやっぱり帝とずっと一緒に居たくて、その事実はかわらない。
帝も「あ?」って顔している。というか、きれかかってる? 帝がキレるのと僕は見たことはないのだけど、帝って、こんな風に嫌そうな顔するんだなって不思議な気持ちだ。
「緋色、行くぞ」
「うん」
僕は帝に手を引かれて、そのまま転入生の前を後にした。転入生――照之という名前のその子には、中々僕たちの意見は通じない。なんというか、僕と帝の関係をはなっから否定している。
というか、学園の一部では、その子に影響されて僕と帝の関係をむなしいだとか、おかしいだとかいう人もいる。まぁ、そういう人ばかりではないけど。
でもなんというか、そんな人たちがいるとややこしい。僕はただ帝とのんびり過ごせればいいのだけど。折角の学園生活に水を差された気分でなんとも言えない気持ちにはなる。
そんなことを考えながら、僕はそのまま過ごした。
帝がどうにかするだろうと思っていたから。それに僕は何だかんだで、周りがどう動こうが、帝がいるなら世界は変わらないと思っているから。
だけど思ったより、彼の影響力は強かった。
彼は僕と帝の周りをうろうろして、帝と僕のためを思ってと行動を起こす。僕に男を紹介したり、帝には自分が近づいていたり、まぁ、帝と僕はずっと一緒にいるし、帝は僕を盗聴しているから面倒なことにはならないけど。
あと僕らのことを応援してくれている学園の生徒たちは僕のことを助けてくれているけれど。
というか、帝がそれなりに仲よくしていた生徒も向こうの影響を受けているのは何だかなと思ったけど。
というか、帝はかなり怒っているっぽいけど、思ったより動こうとしていない。何でかなと思って居たら、しばらくしたら何でか分かった。
……転入生とか、あの照之って子が仲よくしてた人たちの家が一斉に大打撃を受けたらしい。
帝は本当に容赦ないなと思った。人は平等とは言うけど、そんなことない。帝は凄い力を持っている。とはいえ、帝ってそこまでそういう力を使うことはないんだけど、多分、よっぽど嫌だったんだと思う。
次にこういう迷惑行動をするなら許さないと行動で示した。……そんなわけで彼らは大人しくなった。
――籠の中の鳥は学園に入学する 9
(籠の中の鳥は、転入生に絡まれる)