無口会長は動物がお好き 3
「ろ、う」
狼が傍にいてくれることが俺は嬉しいと思う。
この感情がなんであるか、それは俺には分からない。でも狼が大好きで、狼の傍にいたいと俺は思っている。
だから、ずっと狼の傍にずっといる。いられるだけ傍にいたいと思って、べたっとくっついていたいと思う。狼が俺のことを受け入れてくれることが嬉しい。くっつくことを狼が許してくれることが嬉しい。
狼が優しくて、俺をどこまでも甘やかしてくれるから俺も狼に甘えてしまう。
……俺って、あんまり人にこんなにべったりするタイプじゃないのに。やっぱり狼が動物みたいで野性的でかっこいいからだろうか。動物みたいな狼だからだろうか。
ああ、でもきっかけはそうだったかもしれないけれど、きっと狼が狼だから俺も狼のことが大好きで、狼の傍に居たいと思っているのだろう。
うん、その気持ちだけで十分。
俺が狼が好きで、甘えたくて、ずっと一緒に居たくて。そのことを狼が許してくれて、傍に居る。
その優しくて、温かい関係が続いているだけでも俺にとっては本当に十分だったんだ。
この時間が、狼とずっと一緒にいる時間がずっとずっと続けばいいって思った。
――それで十分だったはずなんだ。
だけど、ある時、狼が女の人と一緒に居るのを見た。休みの日、学園の外に出て街に下りたら狼がいた。嬉しくて俺は狼に話しかけようと思ったのに、狼の傍に女の人がいた。何だか仲よさそうだった。
それで学園に戻ってから俺はずっともやもやしていた。
副会長君と廊下ですれ違ったら心配された。俺の様子が変なんだって。
俺は「だい、じょうぶ」と答えて一人で部屋に戻った。そこで狼のことをかんがえていた。
俺は狼の傍に、誰か親しい人がいるのが嫌なのかもしれない。この学園では狼と親しくしている人なんて俺だけだったから気づかなかっただけで、俺は狼の特別で居たいのかもしれない。
狼に恋人がいるなら――、あの女性が狼の恋人なら――、それを考えただけで泣き出しそうになる。もやもやして、どうしようもない気持ちになる。嫌だなって思う。
狼が傍において、甘やかして、べったりするのを許してくれるのが俺だけならいいのにって……。
なんだろう、そこまで考えて……俺って分からない分からないっていいながらも、俺は狼のこと、その……恋愛的な意味で好きなんだなって思った。
だって狼のことを友達だって思ってたなら、友達に恋人が出来て幸せそうにしているのならばおめでとうっていうべきだし、こんな嫉妬みたいな感情、きっとわかないから。
ああ、でもどうしたらいいんだろう。
狼が俺にそういう感情を抱いていないなら、きっとこういう感情は狼のことを悲しませてしまう。この学園では同性愛者が多いけれど、外では違う。狼が女の人が好きなら、俺の気持ちはきっと気持ち悪いと言えるものだ。
俺はどうしたらいいんだろう。狼とずっと一緒に居たい。学園を卒業したとしても狼の傍にいたい。そう思うならどうするべきなんだろうか。
学生同士の友情だと、卒業したら狼とのつながりも薄くなるかもしれない。ああ、でもそれはやだな。狼の傍にいたいなら、告白しなきゃだろう。ああ、でもどうしよう。狼に好きになってもらえるようにもっと行動してからがいい? どれが一番正しいんだろうか。恋って難しい。
そんな思いにかられていれば、チャイムがなった。
誰だろうと思って扉を開けたら狼がいた。
「ろ、う」
「瑞希、様子が変だって聞いたから来たぞ。やっぱ、変だな」
狼は玄関で、俺の様子を見ていつもと様子が違うとすぐにわかってしまう。狼が俺のことを見つめてくれている証で、それが嬉しかった。
俺は先ほどの光景を思い出して、何だか悲しい。
「どうしたんだ、瑞希」
「……ろ、う。女の人と、いた。こい、びと?」
俺はそんなこと言うつもりなんてなかったのに、狼を見るとそんな言葉を言い放ってしまった。
ああ、俺の口はとまらない。さっきまでどうしようってばかり思っていたのに、俺の気持ちはとまらない。狼が何かを言う前に俺は口を開いていた。
「俺、やだ」
やだって口にして立ったままの狼に抱き着いてしまった。狼は驚きながら俺を受け止めてくれる。
「俺、やだ、ろうに、こい、びといるの」
やだやだって子供みたいに、俺は口にする。狼を見ていたら止まらなかった。
「俺、さっき、気づいた。狼、好き。ろ、うがだい、好き。れん、あいの意味で、すきだから、やだ」
ああ、もうかっこ悪い。何で涙を流しながら、狼に抱き着いて俺はこんなことを言っているんだろうか。子供みたいなことを。でも俺は自覚して狼に会ったら、好きって気持ちが止まらなかった。
俺は泣きながらやだやだと口にして、頭を狼に押し付けて顔をあげもしない。ああ、もう絶対狼は呆れている。
そう思ったけど、狼は俺の頭を撫でた。驚いて上を見上げれば、狼は優しい顔をしてた。なんでそんな顔をしているんだろうと、不思議に思う。それと同時にそんな優しい笑みにドキリッとする。好きだと気づいたからそんな風にドキドキするのだろうか。
「……瑞希、泣かないでいい」
「……ろ、う?」
「一緒に居たのは姉貴だ。恋人とかじゃない」
「あ、ね?」
俺はそれを聞いて恥ずかしくなる。勝手に勘違いして、勝手に狼に抱き着いて、勝手に告白して……うわああ、って顔が赤くなるのが分かった。
「うぅ……」
ああ、もう恥ずかしいと離れようとしたけど、狼は離してくれない。
「瑞希、俺のこと好きなんだな」
「……うぅ」
「そんな顔をしなくていい、俺も瑞希のこと、好きだから」
「え?」
声にならない声をあげている俺に狼が言った言葉に俺は驚いた。狼は優しい顔をしている。
「だから、俺も瑞希の事好きだから、瑞希が好きっていってくれるのは嬉しい」
「ほん、と?」
信じられなくて狼を見れば、狼は優しく笑ってる。
「ああ、本当だよ、瑞希」
「じゃあ、ろ、うと一緒、いれる?」
「ああ。ずっと一緒だ」
狼がそう言って笑ってくれたから、俺も嬉しくて笑みを浮かべるのだった。
――そして俺と狼は恋人同士になった。
学園で色々騒がれたけど、俺は気にせずに狼にずっとべったりしているのだった。
俺はずっと、これからも狼と一緒に居る。
end
一応これで終わりのつもりです。
瑞希と狼は元々くっつける予定でしたが、時間かかってしまいました。
楽しんでもらえたら嬉しいです。