GAME.4
「最近ご機嫌らしいんだよな」
「あの転入生の前では不機嫌らしいけど」
「どうなさったのだろうか」
学園では『紅龍』――留衣がご機嫌だと噂されている。留衣は俺との約束を守っていて、学園で俺に接触してくることはない。割と自分勝手な性格で、我が道を行き、自分のやりたいことを貫き通すような留衣が俺の言った事はちゃんと守ろうとするのだ。
それを思うとゾクゾクした。
なんか可愛いなと。やっぱり、恥ずかしいから本人には中々素直には言えないが、俺は留衣のことがちゃんと好きなんだなと自覚する。……だから、俺も留衣がちゃんと俺を見つけたことが嬉しいと思ってる。
かわりに留衣は滅茶苦茶俺に連絡を入れてくる。Lineだったり、電話だったり。それで偶然を装って俺が昼食を食堂で食べてる日は食堂を通ったり、食堂で食べようとしたり……一緒に食べれなくても姿を見ようとするとか!!
俺の心は高ぶる。
配下の連中には、留衣と恋人になったことも伝えた。留衣とのゲームが終わったのならば、転入生の事をどうにかすればと言われたのだが、ぶっちゃけ生徒会のメンバーが転入生と俺を勘違いしていることはどうでもいい。ただ俺にとって面白いことではあるが、もう少し泳がせておきたいのだ。
っていうか、俺は留衣と遊んだり話したりするので忙しいし。
そのうち転入生はどうにかするけどな。留衣に俺を名乗って近寄ろうとウザいから。でも留衣はそれぐらいどうにでも対処できるし、とりあえず今のところは現状維持。
そんなことを考えていたら転入生とその取り巻きと化している連中を見た。転入生が騒いでいて、それに周りは同調している感じだ。この転入生、自分に都合が悪いことを言われると泣きわめいたり、不機嫌になるらしい。だから多分周りの連中も転入生の機嫌を悪くしたくないとか思っているみたいだ。
っていうか、ぶっちゃけそれって対等な関係ではないし、本当に好きな相手ならばこう……イエスマンになんかなることはなく、対等でありたいと思うのではないかって思う。
そう考えるとあいつらって、『月華』と対等でありたいというより、ただ『月華』に嫌われたくないと思っているのかもしれない。多分、あの転入生が何をしようともはいはいとあいつらは頷いて、そのままやらかすのではないかって。
留衣だったら、俺が何か起こそうとしたらちゃんと対等に受け入れるだろう。っていうか、あんなのと俺を間違えているってすげーよなって思う。これ、他に俺が『月華』だって名乗る奴出てきたらどうなるんだろうか。俺は名乗る気ないから、配下の連中とかに『月華』を思わせるような態度させて遊んでみるのもいいかもしれない。そうなったらどうなるかは分からないが。
――なんて、考えてたらそれは現実になった。
俺は『月華』だと名乗る奴第二弾。しかも俺の仕込みじゃない。なんか転入生その1とはまた違った感じの転入生その2だった。見た目は平凡な感じだが、中々豪胆な性格をしているようだ。
普通に平凡な性格をしていれば、わざわざ他人のふりなんてしないだろうしな。それにしてもその1もその2も何を考えて俺を名乗っているんだろうか。
その2が現れて取り巻きたちは大混乱していた。どっちが本物だろうか、と。ちなみに生徒たちの間ではその1よりその2のほうがましだからそちらが本物ではないかって意見の方が多いようだ。どちらも本物ではないけどな。
留衣はその2が現れても俺が楽しそうにしているので、何もする気はないらしい。その2は留衣にまだ接触していない。その1だけじゃなくその2まで現れ、留衣は絡まれたら面倒だと逃げ回っているのだ。あと、俺に会いにきたり、俺と電話したりで留衣は忙しいからな。偽物に絡む暇はないのだろう。
「何で二人も俺を名乗るんだろうな。あいつら騙されるし」
「悠斗がそれだけ人気だからだろ。あんなのと悠斗を同一視するとか、あいつら頭おかしい」
「怒らない怒らない。留衣はよく俺に気づいたよな」
「俺が悠斗を間違えるわけがない」
「はは、そうか」
俺と留衣は、その2が来ようと穏やかにいつも通りの日々を過ごすのだった。
end