そうして、君を捨てた。
『世界は俺に優しかった』の生徒会長side
『なぁ、名前何ていうんだ?』
真っすぐに、こちらを見つめるその瞳がこの俺様を惹きつけた。
学園内で俺様に逆らう奴何ていなくて、面白かった。
だから、手を出した。
その後ぶん殴られて、慌てふためくそいつ――壱に興味を持った。親衛隊は危険だった。だから、壱にも注意するようにいった。
『最低だな。そのせいで友達が出来ない何て! 俺は親衛隊が何ていっても離れない!』
そういって、笑う壱を可愛いと思った。
『こいつ、親友なんだ』
そういって、連れてきた同室者にいら立ちを感じて、殴るぐらいに俺は壱に惚れていた。
『生徒会って、忙しくないのか? いつも俺の所に居るけど』
困ったような顔を浮かべる壱を見て、優しい奴だなと思った。
『そっか、一郎の事も守ってくれるんだ、ありがとう』
同室者も守ってやるって口だけでいった。だって、壱に嫌われたくなかったから。
『一郎が、怪我してるみたいなんだ…。親友の俺に何もいわないなんて、何かあったのかな?』
心配そうに壱はある日同室者の事で相談を持ちかけてきた。俺様達がやったものだったから、バレたら壱に嫌われると思って言わなかった。
『な、何すんだよっ』
キスをすれば、顔を真っ赤にする壱が可愛くて仕方なかった。
ライバルがいっぱいで、その頃にはもう、生徒会の仕事なんて放り出していた。
――そんな時に、壱から少しずつ人が離れていっていた。
『何で、皆居なくなるんだ…? 友達なのに――』
好意を示しても気付かない壱は、離れていった奴らを友達と思っていた。そして、離れていった事に悲しんでいた。
ああ、あいつらは何でこんな可愛い壱から離れていけるんだとそうバカにしてた。
だけど、
『会長、仕事をしなくていいんですか? 一般生徒にまで迷惑かけて――』
説教をされた。
あのムカついて暴力をふるった同室者の男に。
ああ、壱と同じでこいつも俺様を家柄とかで見ていないんだと思った。
そうして、あんなに壱に熱を上げていたのに、その気持ちが冷めていった。
――俺様は、生徒会長だというのに、何をしていた?
――仕事何て、最後にいつしていた?
――壱は、仕事をしていない俺様らに何もいわなかった。
――同室者はこのままじゃリコール間近だといっていた。
―――リコール間近なのは、全校生徒に広まってるといった。知らなかったのは、俺様達だけ。
――壱を綺麗だと思ったけれど、壱は……、同室者の奴みたいに親衛隊と話しあおうとかしていなかった。
―――ああ、本当に綺麗なのはこいつなんだ。
そう、思った。
そうして、俺様も、壱から離れた。
同室者である一郎は言った。
”あいつはお気に入りのおもちゃをとられた子供みたいにきっと喚くんでしょう…”って冷めた目で。
実際その通りだった。
『何で、何で――』と、そればかり口にしていた。
『何で、友達なのに……、そんな事――』
喚いて喚いて、そうして挙句の果て暴れたアイツに、もう何の感情もわかなかった。
ああ、自己中な人間なんだと理解した。
だから、風紀達が壱を潰しにかかるのを手伝った。
『貴様は最低だ』
『役員の方々の好意に返事も返さないで――!!』
そういって、責め立てる周りに、アイツは泣いていた。
泣きわめいて、『どうして、どうして――』と呟く姿は無様で、こいつは、自分の周りから人がいなくなるのがいやなただの自己中な人間だったのだと思った。
こいつが、俺様達を惑わせた。ああ、何て最低なんだ。
一郎を生贄にさしだして、自分だけが楽をしていただなんて……。
一郎がこいつのせいで今まで大変だったんだ、と思うと許せなくて、その思いは他の奴らも一緒で、家族との縁も切らせることにした。
『あの子が、あなた方を怒らせた――!?』
『ああ、何て厄病神なんだ。あんな子を可愛がってたなんて』
あいつの父親と叔父である理事長はそういって青ざめていた。そして縁を切ることに同意した。
だけど、
『あの、あの子を許してあげられませんか!?』
あいつの母親だけはそういって縋ってた。
あんな最低な奴を庇おうとするなんて母親ってのは凄いなと思った。
だけれども、許す気はない。あいつのせいで学園が無茶苦茶になったのだ。
アイツに惑わされて、被害を受けた生徒が沢山居る――。現に一郎だって大変だったのだ。アイツのせいで。
『お前、この子が悪いんだ。この子のせいで学園が――』
『理事長から降ろされたらどうする!? それに会社も潰されるなんて』
『でも私は、あの子の―』
だけど結果として、その母親は気絶させられて、アイツの父親と叔父がアイツに直接縁を切ると言った。
その時のアイツの絶望に満ちた顔といったら傑作だった。
散々人を絶望に追いやっておいて、自分がなったらそうなるのかと呆れた。
『何で、何で――、皆、離れていくんだ?』
自分が悪い事を理解しないそいつに呆れて、そのまま学園から放りだした。
どうなろうが、どうでもよかった。
俺様達には、一郎がいるのだ――!! それだけで十分だった。
*
そうして、三年ほどたって俺様達は一郎と一緒に学園の大学に進級していた。
大学も大して変わらない。
媚びた奴は多いけれど、一郎さえいればよかった。
一郎はあの後学園で”救世主”と言われていた。まぎれもない俺様達を目覚めさせたのは一郎だったから。
そうして、久しぶりに町に出かけた。一郎と二人が良かったけど他の奴らも一緒がいいと一郎が言うから皆ででかけた。
一郎はアイツを追い出した時に”皆様達の事そういう目で見れません。俺元々ノンケなんで。だから答えが出るまで待っててください”といった。
いまだに一郎は何もいわない。きっと、まだ答えが出てないのだろう。
それか、振る奴の事を思って言いだせないのかもしれない。
だって、一郎はアイツと違って優しい奴だから。
そんな中で――
「―――お前は!!」
アイツに再会した。
俺様達の前に突如としてあらわれたアイツ。
のうのうと生きてる様子のアイツにいら立った。一郎は未だにトラウマを抱えているというのに―――!! とそんな思いにかられた。
「てめぇ、何だ俺らが此処に居ることしってきたってのか?」
「学園には来れないですからね。それでわざわざ?」
「また、こいつに何かしようってのか!?」
俺様と周りも同じ意見のようで、一斉にアイツに向かって声を上げる。
もちろん、一郎を囲むようにしてだ。
アイツは俺様達を知覚すると、何とも言えないような表情を浮かべて頭をかいてそして、言い放つ。
「……わざわざそんな事しない」
は、そんな興味なさげな態度してようと腹の底で何を考えてるかわからないのがアイツだ。
在学中も、俺様みたいな権力持ちにばかり近づいていたのでそれが証明できる。
わざわざ一郎を生贄にして、自分だけ楽してるような最低な奴だからな。
「皆さん、やめてください。俺は大丈夫だから」
一郎はアイツが怖いのか、弱弱しく笑ってそういった。
ああ、可愛いと心が癒されていく。アイツと違ってなんて可愛いんだろうか。
「本当か?」
「でも、あいつだぞ?」
「「何をするかわからないよねー」」
「皆さん、心配してくれてありがとう」
目の前に居る存在と違って、何て可愛いんだろう。
アイツは一郎と違い、学園を滅茶苦茶にした癖に謝らなかった。自分本位な人間なのだ。
本当に俺様達はこんな奴に惚れてしまったことを恥じているのだ。
「壱に言いがかりつけないでくれる? あたしと一緒に大学の帰りなだけよ。あなたたちに壱は会うつもりもないのよ?」
一郎の笑顔に思わず頬を緩ませていたら、女の声が響いた。
そこには黒髪の、美しい女性がいる。
どうやらこいつの知り合いらしい。
何だ、こいつは顔がいい女を連れていけばこの俺様達を絆せるとでも思ってたのだろうか。
そういえば、こいつも初めは鬘を何故か被ってたのに突然はずして可愛らしい顔をあらわにしていたなぁと思う。
ふん、どうせ俺様達に取り入るための策略だったのだろう。
「あぁ? 何だ女」
「何でこんな奴と一緒にいるんです?」
「こいつがどんな奴か知らないのー?」
「てか、男なら無理だから女にって事? やっぱ、最低」
「どんな奴? そんなの知ってるわよ? あなたたち、壱の高校時代の知り合いでしょ? でも安心していいわよ。
壱はあなたたちをたらしこむつもりもないわよ。あたしと付き合ってるんだもの」
女はそういって、不敵に笑った。
こんな奴と付き合っている!? しかも高校時代を知っていてだなんて正気ではない。
アイツと付き合っているなんて狂ってるんだきっと。
アイツに狂わされたのか、元から狂ってたのかわからないけれども。
そうとしか考えられなかった。
「こんな奴と付き合ってる?」
「「信じられない! 別れた方がいいよー。だってそいつ最低だもん」」
「え、えっとやめた方がいいと思いますよ?」
「顔目当てか。はっ、俺様達にも近づく気か、淫乱」
どうせ、こいつと付き合ってるような女だ淫乱なんだろうとバカにしたように零せば、しばらく黙っていたアイツが突然声をあげた。
「会長、ふざけんな。菖蒲さんは淫乱なんかじゃねぇし。菖蒲さんの事何もしらねぇくせにそんなバカなこといってんじゃねぇよ」
そんな言葉に正直驚かなかったといえば嘘だ。
真っすぐにその”菖蒲”と呼ばれる女を慕っている目を向けるアイツが、昔と重なった。重なってなんだか胸がざわついた。
『お前らは、俺の大事な親友だ』
そういって、笑ったアイツ。
その時の瞳と、今俺に迎えられるアイツの瞳は違う。
「「君こそ、ふざけてる?」」
「俺様達にそんな口聞いていいと思ってんのか?そもそも淫乱相手に本気ってのか? はっ、どうせ、何股もしてんだろ」
「最低だな」
動揺はした。だけれども、これが学園をあれだけみだしたアイツだと思うと、これもきっとアイツの作戦なのだろうと思った。
俺様達の気を引くための。
だから、言葉を放つ。
「あんたたちって本当に会社の跡取りなの? 何だか低脳なのね…」
そうすれば、女が呆れたようにいった。
「な、俺様達に――」
「第一俺様俺様って本気で一人称俺様とか、引くわ。何、会社のトップになっても自分を俺様と呼ぶつもり? ギャグなの?
大体、会うつもりもなかったっていってるでしょう?あたしたちは帰りたいの。邪魔だから、帰してくれないかしら?」
そんな言葉にいら立ちを感じた。
この俺様達をバカにするなんてと。
流石、こいつの彼女だ。礼儀がなってない。
『俺様俺様って、本気で一人称俺様な奴居るんだなー。ああ、でも似合ってると思うよ』
女の言葉にそういって、笑った昔のアイツを思い出す。
屈託のない笑顔を浮かべていたアイツは、今顔を手で押さえて、頭を必死に振っていた。
「くろ、歴史だ。いや、マジで黒歴史……あああ」
ボソリッと何かを呟いていたが聞こえなかった。
きっとこいつの事だから、何で、何でとでも思ってるのだろう。
そう、思う。
だけれども、少しずつ頭の中を昔のアイツがちらついて、動揺した。
「貴様、ただで済むと思うなよ! 俺様にそんな――」
「「大体、そいつと付き合ってる時点でまともじゃないしー」」
そんな事をいっていたら、アイツが、女を連れて、隣を通り過ぎていった。
都合が悪いからって逃げるか喚くしかできない所は変わってないらしい。本当に最低だ。
――だけど、久しぶりに会ったアイツに、少しは何かを感じたのは事実だった。
「本当に、あんなのと付き合っているだなんて――」
「「逃げるのー?」」
―――本当に、アイツだけが悪かった?
今更、少しだけその感情がちらついたのは何故だろう。
あの女の言葉に、アイツが昔いった言葉を思い出したからかもしれない。
あいつのせいで、俺、俺――と泣いていた一郎を見た時俺様は…、アイツを最低だと本当に思った。
―――でも、アイツは学園の頃、一郎を気にかけていた。
―――俺様達が一郎も含めてアイツを守るといった時、安心したように笑ってた。
―――心からの笑顔を浮かべていた。
「どうしたんですか?」
黙ったままの俺様を一郎が下からのぞきこむ。
――俺様は、今何を思ってた?
こんなに可愛い一郎が、アイツのせいで傷ついてたのに、アイツが悪くなかったかもしれないなんて。
『友達になるって決めたのは俺だから親衛隊何かに負けない!!』
そういって、過剰防衛をしてしまったアイツ。
―――でも、最初に親衛隊の悪いところをアイツに言い聞かせたのは……。
そこまで考えて首を振った。
いや、アイツが最悪じゃないはずがない。
アイツが全て悪かったんだ。
心の奥底で何処か気付いてしまった思いに蓋をする。
だって、気付いてしまったら、目の前の一郎や今の俺様達の充実した日々が色あせてしまうから。
――――そう、悪いのはアイツ。
――最悪だったのは、アイツ。
――――俺様達は何も悪くない。
「何でもねぇよ、一郎。それより、あんな奴に会ってしまって胸糞わりぃよな。一郎に何もなくてよかった」
――気付きかけた思いに蓋をして、俺様は今の日常のために一郎に笑いかけた。
end
会長side。気づきかけていながら、気づかないふりをしています。自分に都合の悪い事に蓋をしてしまうのも、人間だと思うので。
壱の母親は壱を捨てたくなかったんですよね。だけど、家のためにと父親とかに気絶させられちゃってて、もう連絡がつかない状況で。
壱の事溺愛してた予定なので、その後精神的に病みます。
子供を守れなかった事に、狂っているという、そういう感じです。
ちなみにこのお話に関しては壱だけが悪いわけではないのです。
壱はただ単に頭はいいけど、ちょっと頭が働かない子だったんです、要するに。
友達が嘘つくはずないと全部信じ込みます。単純で元ヤンなのもあって、手を出されそうになると逆上してしまう節もあるのです。
親衛隊の囲まれた時は、アイツらを苦しめてる奴なんだ、と頭に血が上ったバカな壱なのです。
会長の心情で謝罪がなかったと書いてありますが、ぶっちゃけ、壱はその時周りから人がいなくなる事実にいっぱいいっぱいだったのです。冷静な判断下せないほどに。
周りからどんどん離れていく友人に、好きになりかけた人に、家族――。
何が何だかわからなかったのです。一郎の事も本気で友達と思ってた、生徒会の連中も友達と思ってた、親衛隊は悪いって思ってた、物事が単純に片付くものなんだっておもってた。
あと思いこみも少し激しくて、いつも周りに人が溢れてて自分が正しいとは思ってのです。
間違ってた事をしてたつもりなんて一切なかったし、仕事もしてないけどいいのかとは思ってました。でも、生徒会は”仕事はやってる”と言い張るからそれを純粋に信じ切ってただけです。
最後に周りに責められて追い出される時も、頭がいっぱいいっぱいで、謝罪どころではなかったのです。
大好きだった友人が、家族が、自分を一斉に否定するのです。大勢の前で。
もう頭ん中グチャグチャです、心もグチャグチャです。
そんなこんなで、追い出された壱は普通に彼女と幸せになってるわけです。
会長がバカな思考にいってる間も「黒歴史ぃいいい」と後悔しまくるわけです(笑)
そして、一郎は”救世主”扱いされてます。
壱にとって、学園時代は”忘れたい黒歴史”であり、
会長達にとっては”学園崩壊の最悪のアイツがいた時期”なのです。