GAME.3
『紅龍』が誰かを探している。
最近学園内を騒がしている事実はそれである。クラスメイト達が誰を探しているのだろうかと騒いでいる。もしかしたら本物の『月華』様がいるのではないかとか騒いでる。
俺はここにいるけれど。
それにしても、あいつ凄いよな。一瞬しか目が合ってないのに俺がいるっていうのに気付くとか。でもまだ俺がこの学園に居ることに気づいただけで、俺の事を見つけられているわけではないだろうけど。
俺の事を見つけるっていうのは、俺を『月華』だと名指しでいうってこと。
うん、あいつが俺を見つける事を俺は本当に楽しみにしている。
「そんなに楽しみならさっさと名乗り出ればいいじゃないですか」
「それじゃあつまんないだろ?」
配下の連中に電話でそういえば呆れたような声をされた。
だってこちらから名乗り出るなんて面白くない。折角のゲームをしているんだからあいつが俺を見つけないと。配下の連中にも電話で連絡とってこき使っているけれど、俺が誰であるかを配下の連中にも折角悟らせないようにしているわけだし。
でもあれか、『紅龍』が俺を見つけたら流石に俺の事も露見するか。まぁ、いいや。
それにしても愉快なのは、生徒会や風紀の連中が『月華』だと思い込んでいる転入生とあのアホな奴らだよな。
『紅龍』が否定しているのに、転入生は『月華』と間違えられている事を否定せずに、あいつらは転入生を『月華』だと信じ切っている。なんて愉快な話だろうか。というか、あの転入生と俺なんてあんまり似てないだろう? まぁ、確かに背格好は似ているかもしれないけれども……俺、あんな男のハーレム作って喜ぶ趣味はねぇよ。あの転入生、男のハーレム作ってご満悦な様子だし。まぁ、見ている分には面白いんだけど。
『紅龍』以外の奴らとのゲームはおまけだったから、あいつが俺を間違えなかった事が俺は嬉しい。それを思うと、やっぱり俺は『紅龍』の事を好きなんだろうなと自分で実感する。あいつが俺を見つけたら、あいつはどんな態度をするだろうか。そして俺はあいつになんて答えようか。
――そんな未来を想像して、思わず俺は機嫌がよくなってしまった。
まぁ、ひとまず『紅龍』になるべく見つからないようにこそこそしながら過ごす俺。俺を見たらすぐに悟りそうだから、俺は『紅龍』のいると噂される場所には顔を出さないように気にかけていた。
だって、それじゃあつまらないだろう。まぁ、『紅龍』の事を見たいとは時々思うんだけど、でもこう……じらした方が駆け引きとして面白いだろ?
一瞬見かけた俺の事が見つからないと焦っている『紅龍』の話を聞くのが嬉しかった。『紅龍』が俺に会いたがっている。もうそれだけで俺の心は躍っていた。
配下の奴らには「うわー」と引かれたけれど、まぁ、うん、いいんだよ。こんな俺の事好き好きいって、俺の事を追いかけてんのはあいつなんだから。俺の性格が悪かろうが、こういう状況を楽しんでいる俺を『紅龍』は好いてくれている……だろうから。というか、俺の事、好きだからこそ一瞬で気づいたんだろうし。いや、そう思って喜んでいる俺も中々アレなんだけどさ。
さて、今日の昼休みは俺のお気に入りスポットに行くことにした。昼寝が結構俺は好きだ。誰にも邪魔されない空間でのんびりと過ごす事が好きだ。だから人気のない場所に顔を出したりする。木の上に登って、風を感じる。
高い所が俺は好きだ。
高い木の上に登って風を感じながら眠るのは気持ちが良い。
眠っていたら、下が騒がしくなってきた。
木の上にいる俺は気づかれてない。けど……、近くにいるのの『紅龍』と、あの俺と勘違いされている転入生じゃないか。あとは生徒会と風紀と、うわ、ばれたらめんどくさそう。俺空気になっておこう。
「なんでそんなことを言うんだよ、『紅龍』は俺が好きなんだろ!」
「……はぁ」
「『月華』が求めているというのになんという……」
『紅龍』はとてもめんどくさそうな顔をしていた。あいつ、どんな顔をしていても様になっている。流石、美形は得だと思った。
それにしてもこんな近くで『紅龍』を見たのは久しぶりだ。何だか嬉しいものだ。
あいつが俺を間違えていない事、あいつが俺を探している事。……それが俺は嬉しいのだから。
しばらくして『月華』を名乗る転入生は泣きわめきながら去って行った。生徒会や風紀の連中はそれについていった。ちなみに『紅龍』を睨みつけていた。
うわー、マジ全然気づいてなくて寧ろ笑う。
『紅龍』もこのまま去っていくかなと思ってみてたら、あまりにも見つめすぎたのか、
「おい、誰かいるのか、降りて来い」
と冷たい声を発せられた。
俺っては気づいていないか。さて、どうするべきか。返事したら俺だって気づかれるか、などと思っていたら苛立ったような足取りの『紅龍』が木のすぐ下まで来た。そして、俺と目が遭う。『紅龍』が目を見開いた。
「『月華』?」
「おー、久しぶり、『紅龍』」
速攻気づくとか、本当に嬉しくなる。俺は笑みを零していると思う。
「『月華』!!」
「ちょっと、待てよ、降りるから」
こんな至近距離だし、もっと遊びたかったけどもう見つかったってことでいいか。うん、というか、こいつ俺が下りるまで絶対離れないだろうし。俺の言葉に、先ほどの冷たい目が嘘のように嬉しそうな顔をしている『紅龍』。
木から降りて、『紅龍』を見る。
「……『月華』!」
「すげぇ、嬉しそうな顔しているな、『紅龍』」
「当たり前だ。夜にお前を見なくなったと思ったら、学園に居るし、でも誰か分からないしで、俺は会いたかった……」
「ふぅん」
ふぅんと興味なさ気に応えながら俺は正直ニヤニヤしそうになってた。だってなぁ、何か素直な『紅龍
』っていいなと思ったから。
「で、『月華』」
「ん?」
「俺が見つけたら、考えるって言ってただろ」
真っ直ぐに『紅龍』が俺の事を見ている。ギラついた獣のような目。ああ、見つめられるとどこかゾクゾクする。
「お前に求愛された時の事? ちゃんと覚えてるよ。まぁ、俺の事を見つけたわけだし、俺も『紅龍』の事嫌いじゃないから、付き合ってやっていいよ」
本当はさ、『紅龍』に見つけられて凄く嬉しいし、俺は『紅龍』の事を好きだと思うけど、こう恥ずかしいからそれだけ言った。うん、なんだかんだでこういうの恥ずかしいよな。
『紅龍』は俺のそっけない言葉にも笑ってる。……ああ、もう普通に嬉しい。言わないけどな。恥ずかしいから!
「『月華』!」
「……あーっと、名前で呼べ。教えるから」
嬉しそうな声をあげた『紅龍』に言う。
「俺の名前は、滝野悠斗だから」
「悠斗……」
「そう、俺も、『紅龍』の事は留衣って呼ぶから」
俺の名前を知れて嬉しそうな顔をしている『紅龍』――留衣ににやけそうになるけど、一先ず抑える。
「で、俺は今から真面目に授業を受けるから、一先ずラインだけ交換するぞ。あと、俺は一般生徒としてのんびり過ごしてんだから、いいというまで近寄るなよ」
「え」
「……ああ、もうそんな顔するな。ちゃんと会ってはやるから」
転入生の事とか、生徒会や風紀の連中の事もあるし、現状俺が『月華』だとばれるのは面白くない。そんなわけで言った言葉だけど、悲しそうな顔をされた。思わず慌てて会う事は口にすれば、すぐに表情が変わる。
それからラインを交換して、俺は教室に戻った。クラスメイトに「何かいい事あったのか?」と聞かれるぐらいにはにやけていたのはあいつには内緒の話だ。
end