籠の中の鳥は学園に転入する 4
帝はずっと、僕にべったりだ。クラスメイト達や教師が煩いけれど、僕も帝も周りの様子を特に気にしない。それにしても、僕に話しかけようとしたクラスメイトにまで威嚇しないで欲しい。僕が喋るといったら不機嫌そうになりながらも、許していた。何だかんだで帝って僕に甘い。そういう僕に対する甘さが、心地よいと僕は思っている。
「緋色様は……」
「緋色って呼ぶな」
「ええっと、お嫁様は……」
僕は緋色って呼ばれても全然問題はないのだけど、帝って本当に嫉妬深い。ぎりぎり親しくしている帝の家の人とかが僕の事名前で呼ぶのは許してくれているけれど、あまり僕の名前を呼ぶ人が多いと嫌なんだって。
というか、クラスメイトなんだから僕は様付いらないんだけど。というか、お嫁様って…と思うけど、帝は嫁扱いを僕がされているのに満足なのか、何か頷いているし。
「帝様とは、いつ出会いになったのですか?」
「いつだっけ、帝」
「11年と213日前」
……帝、そこまで覚えているのか。僕なんてそんな細かい日付は考えれば出てくるけど、即答は出来ない。
帝と出会った日の事は今でも覚えている。帝にとらわれている生活は、確かに籠の中の鳥ではあったけれども、それでも帝と出会う前に比べれば、全然自由はあった。寧ろあの頃は、何も分からなくて、生命の危機さえあったと思う。帝は籠の中で僕の事を本当に驚くぐらい大切にしてくれていた。僕を壊れ物を扱うように、優しくしてくれた。―――大切にされる、ということを帝に出会うまで僕は知らなかった。帝と出会って、僕の世界は変わった。
家族から監禁されて、虐待されていた僕を、帝は見つけてくれた。監禁されているのが当たり前で、大切にされないのが当たり前だった僕を、帝は屋敷から出しはしなかったけれど本当に大切にしてくれた。最初は僕が色々と外に出るのに問題があったから屋敷にとどまっていたけれど、途中から帝が僕に執着して外に出すことを拒んで、僕も外の世界に出たいという思いがそこまでなかったのもあってつい最近まで屋敷から全然でなかった。
僕と、帝の関係。
他の人の目からしてみれば歪な関係かもしれない。だけど、それが僕と帝だ。
「お付き合いが長いのですね……」
「帝様が……この学園で誰も相手にしなかったのって」
「緋色がいればいいから」
帝は、僕が帝の物であるということを示したくて仕方がないらしくて、僕への思いを隠しもせずにクラスメイト達に告げる。
それで教室内がまた騒がしくなった。
そんな会話をしていたら、休憩時間が終わって、また授業が再開された。
その授業が終われば昼休みだ。
今日は僕と帝は食堂に向かうことにした。この学園の食堂は広いと調べてわかったし、そもそも食堂なんて場所に行くのが初めてな僕は楽しみで仕方がなかった。帝は僕が一緒に居るからか、わかりやすいぐらいにご機嫌だ。
嬉しそうにほほ笑んでいる帝は、何度も生徒や教師たちに凝視されている。
食堂についたらまたうるさかった。僕と帝のつながれた手を見ながらざわざわしていた。絶叫のようなものを上げている人たちもいて、本当に帝は人気者だなと思った。
帝に連れられたのは、特等席のような食堂の二階の方にある席だった。
「帝……ここって、役職つきの席なんだよね? 僕座っていいの?」
帝から役職つき専用の席があると聞いたことがあった。人気者たちが一般生徒と同じ席だと色々と混乱が起こるかもしれないからということでわけられているらしい。まだこの場には僕と帝しかいない。この学園、流石お金持ちの学園というべきか、オーダーを頼めば届けてくれる感じの食堂だ。
「問題ない。俺がいいっていってるからな。それに緋色は俺の嫁だから、十分関係者だろ。緋色も生徒会いれる予定だし」
「いれる予定って、帝、勝手に決めていいの?」
「ああ。俺がルールだからな」
帝、不遜だなぁと思った。でもそれがまかり通るぐらい、帝はカリスマ性を発揮してこの学園に君臨しているのだろう。
「つか、折角緋色が学園にいるのに、緋色が居ないのに生徒会の仕事なんてしてられない。緋色が生徒会入ってくれないなら俺は喜んで生徒会長なんてやめてやる」
帝の中では、生徒会の地位<僕らしい。帝は僕のこと、いつも優先するからなぁと僕は笑ってしまう。
「そっか。僕は帝と一緒なら入らなくても入ってもいいよ」
「緋色、可愛い」
なんか引き寄せられてキスされた。こちらを注目していた生徒たちの叫び声が聞こえてきたけど、僕は目を瞑ってそのキスを受け入れるのだった。
――――籠の中の鳥は学園に転入する 4
(閉じられた世界の外でも彼らはマイペースにいつも通りである)